すべての証拠は、その男を指していた。逮捕された当初、男は犯行を頑なに否認していた。だが、ほどなくして耐えきれなくなり、自白した。彼の供述によれば、当時彼は健司に必死で見逃してほしいと懇願した。しかし健司は応じず、そのせいで逆恨みするようになった。出所後はずっと、健司への復讐を企てていたという。そして、奈穂は健司が最も大切にしている一人娘。だから彼女を狙ったのだ、と。警察はすでに男を拘留している。一見すると、事件は解決したように見えた。だが警察も、正修も、奈穂も、誰もが違和感を抱いていた。あまりにも順調すぎる。どの手がかりも簡単に見つかり、しかもそのすべてが、不自然なほど露骨に男を指していた。まるで誰かが意図的に、その男を彼らの前に差し出し、「こいつこそ真犯人だ」と全員に思わせようとしているかのようだった。疑念はあった。だが誰一人、それを口にはしない。まるで本当に犯人が確定し、この事件への関心を失ったかのように振る舞っていた。……深夜。若菜のもとに、音凛から電話がかかってくる。「全部片付いたわ。用意していた身代わりも逮捕された。もう心配する必要はない」もちろん、音凛が親切心から若菜を安心させようとしているわけではない。ただ、若菜がずっと怯え続け、どこかでボロを出すのを警戒していただけだ。「本当に?それならよかった……」若菜は安堵の息を漏らした。「もうこれ以上、捜査は続かないですよね?」「黒幕まで捕まってるのに、何を調べる必要があるの?」音凛はやや苛立った声で言う。「もう少し肝を据えなさいよ」若菜は目の前のパソコン画面に視線を向けた。そこでは、いくつものファイルが転送中になっている。若菜は心の中で冷笑する。――自分が臆病なら、こんなことできるわけがない。だが、そんな本音を音凛に明かすつもりはない。だから反論せず、静かに尋ねた。「次の計画はありますか?」「あの人」から指示されていた仕事は、もうすぐ終わる。つまり、これからは自由に動ける時間が増えるということだ。もし音凛が今後も奈穂を陥れるつもりなら、若菜としては喜んで協力する気だった。「次があるならまた連絡するわ。でも川岸市の件が起きたばかりだし、九条正修も水戸奈穂も今はかなり警戒してるはず。少し待ちましょう
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