奈穂も母の写真へと視線を向けた。写真の中の母は、相変わらずやさしく微笑んでいる。その姿を見ていると、母が生きていた頃、二人で一緒に踊った日の情景がふと蘇ってきた。……母に会いたい。「お父さん、時間ができたら、正修を連れてお母さんのお墓参りに行きたいの」奈穂は目を伏せ、目を赤くしながら言った。母の墓は京市にはない。母の故郷である清越市にある。亡くなった後、健司は奈穂の母の遺志に従い、清越市の実家へ送り、そこに埋葬した。それ以来、母の誕生日や命日になると、奈穂は必ず清越市を訪れている。だが健司が行くことは、ほとんどなかった。それは京市と清越市が遠いからでもなければ、父が母を想っていないからでもない。むしろ、想いが強すぎるからだ。墓の前に立ち、あの冷たい墓石を見るたびに、愛する人が冷たい土の下で眠っているという現実を突きつけられる。その感覚は、あまりにもつらい。「いいよ」健司は奈穂の頭を軽く撫で、微笑んだ。「正修は君の婚約者だ。母さんにも会わせてやるべきだな」父娘はしばらく思い出に浸っていたが、やがて気持ちを落ち着かせた。「そうだ、お父さん。帰ってきたら書斎に来いって言ってたけど、何か話があったの?」奈穂が尋ねた。「ああ、ちょっとな」健司の目がわずかに沈む。「今夜、秦烈生に食事に誘われてな」「秦烈生?」奈穂は首をかしげた。「急にどうしてお父さんを食事に?」「あいつがな……」健司はため息をついた。「水戸家と九条家の縁談を取り消してほしいと言ってきた」奈穂の眉がきゅっと寄り、胸の奥に怒りが込み上げた。数日前、あの訳の分からない電話をかけてきただけでも十分だったのに。今度は父にまで連絡して、縁談を取り消せだなんて――正気なの?これまで奈穂は、烈生を紳士的で、正直で、信念のある人間だと思っていた。だが今となっては、自分の見る目がなかっただけだ。「怒るな」健司はなだめるように言った。「もちろん断ったし、断るに決まっている」「お父さんが断るのは分かってる。でも、ああいうやり方は本当に気分が悪い」「奈穂、これを話したのはな、君に心の準備をしておいてほしかったからだ」健司は続けた。「今日ははっきり断ったし、もう固執するなとも言っておいた。だが、あいつの様子を見るに、簡単に諦めるとは思えん」まさ
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