奈穂は電話に出た。受話口の向こうから、逸斗のかすれた声が響いた。「水戸さん……ニュース、見たよ」奈穂はわずかに眉を上げた。「それで?まさか水紀のために情状酌量を頼むつもり?」彼女の第一反応は、それだった。かつて逸斗と水紀の間に、多少の関係があったからだ。「まさか!」逸斗はすぐに否定した。「ただ……聞きたいんだ。当時のあの事故、本当に彼女が仕組んだものなのか?」「どう思う?」奈穂は逆に問い返す。「私が証拠を捏造してまで彼女を陥れるとでも?」その言葉を聞いた瞬間、電話の向こうで、逸斗の呼吸が一気に荒くなった。「……それだけなら、答えたわ。じゃあ切るわね」「待って!」逸斗は焦ったように呼び止める。「水戸さん、俺は……」「まだ何か?」「……謝りたくて」その一言を口にした瞬間、逸斗の胸には、針で刺されるような痛みが走った。――水紀はなんと、あの事故の首謀者だった。水紀が奈穂を事故に遭わせ、命を奪いかけ、右脚を奪い、二度と踊れない体にした。それなのに自分は水紀をオーロラ舞踊団に入れ、舞台まで用意してやった。想像するだけで、背筋が凍る。その間、水紀が「踊る」という行為で、どれほど奈穂を傷つけていたのか。奈穂は、自分の命の恩人だったのに。それなのに、自分はこんなことをしてしまった。――許されるはずがない。「本当に……知らなかったんだ。水紀が水戸さんを事故に遭わせた張本人だなんて。もし知っていたら、絶対に彼女をオーロラ舞踊団に入れたりしなかったし、舞台に立たせることもなかった」「……ああ、その件ね」だが、奈穂の声はあまりにも平静だった。「別に、どうでもいいわ」「……え?」逸斗は言葉を失う。「俺を……責めないのか?」「責めるも何もないでしょ」奈穂は淡々と言う。「あなたと水紀には元々縁があった。私とは何の関係もない。だからあなたが彼女を助けたのも自然なことよ。オーロラ舞踊団に入れたことも、舞台を与えたことも、私は気にしてない。だから責めるつもりもない。でも――もし今後も彼女を庇うつもりなら、その時はごめんなさい。私たちは敵になるだけ」彼女は「気にしていない」と言った。だが、逸斗はまるで氷の底へ突き落とされたかのようだった。――彼女の中で、自分は最初から、何の関係もな
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