律side「律くん……今のって。」「瑠理香さん……」改札を抜けていった凜の背中を見て呆然といてると、柱の影から瑠理香さんが驚いた顔で口を少し開いたまま俺の顔をじっと見ている。「ごめん、聞いちゃった。凜ちゃんが言っていた"契約"のこと。律くんが結婚したのって、本当に家のためだったの?」「それは……」「香澄には言わないから心配しないで。それと、私が律くんの相手になるわ。律くんの心配事がなくなるなら私、協力するから」瑠理香さんは、俺の手を両手でギュッと握りしめて上目づかいで俺を見つめている。切れ長でクールな瞳が潤んでいてとてもセクシーだった。「いや、それは……瑠理香さんを巻き込むことはできません」「それなら気にしないで。私は巻き込まれたなんて思わないから。だから、もう迷うこともないわ」改札前にいる俺たちを通りすがりの人たちが興味本位の視線を投げかけながら通り過ぎていく。(こんなところを誰か知り合いにでも会って誤解されたら、俺は終わる……とりあえず人目がつく場所は避けよう)「瑠理香さん、家まで送ります。駐車場に戻りましょう」瑠理香さんは、小さく微笑み俺の後ろを静かに着いてくる。しばらくすると隣を歩く瑠理香さんはいつもより高めのヒールを履いているようで俺の肩よりも上に顔があった。歩くペースも早く、髪になびく瑠理香さんのシャンプーの爽やかな香りが俺の鼻をくすぐった。(凜は小さいから、こんな高いヒールを履いても俺の胸元くらいなんだろうな……)凜のことを思い浮かべ小さく微笑んでいると、隣にいる瑠理香さんが微笑み返してくる。瑠理香さんの大人の色香漂う笑顔が視界にあるというのに、頭の中にいるのは唇を突き出して拗ねる凜の姿だった。俺の心は、瑠理香さんの誘惑とは裏腹に、凜への後悔と愛情で満たされていた。
Terakhir Diperbarui : 2025-11-25 Baca selengkapnya