朝の大聖堂は石の匂いが濃かった。磨かれた床はまだ冷たく、陽の筋が祭壇の縁を白く切っている。皇子は巻物の筒を抱え、王子は半歩うしろで肩に手を置いた。合図。ここでは皇子が前に立つ。「式次第を決める」 皇子が簡潔に言った。声はわずかに震え、けれど前に落ちず水平だった。「順路、誓い、誰が何を言うか。市民の席も」 王子は促しに終始し、視線だけで背中を押す。合図はふたつ。軽く押すのは「続けていい」、親指で撫でるのは「間を置け」。近い距離が、彼らの二重統治の骨組みだ。巻物は三本。条約婚の本契約と、共治戴冠の式次第、それから彼らだけの私契。皇子は一本ずつ並べ、まっすぐに指を置いた。「まず、条約婚の成立を午の鐘で公示。誓句は短くする。民にも届くように」 「鐘は三打。合唱は地下街の子らに。高い音が届く」 王子がさらりと付け足すと、皇子の口元がほどけた。「市民を入れる。階段の下に広場を解放。地下街からも上がる道を一本、露店は左右、火は風避けの魔紋で囲う」 「煙が聖油に混じらないよう、風幕は二重に」 階段下で腕を組んで聞いていた地下街の頭が鼻を鳴らした。「風幕の魔術師は手配しよう。ついでに串焼きの試食も……」 「試食は後」 皇子が短く制す。王子の親指が軽く動いた。「よく言えた」の合図。大聖堂の奥、柱陰から大神官が僅かに咳をした。「神前の手順は守っていただく。祭壇での祝福の言葉は我らが……」 王子が一歩も出ずに笑う。「祝福はあなたが。誓いは彼が。順番は変えない。静寂は一拍、長く」 「一拍、ですか」 大神官は不満を頬に留めたまま、頷くという礼を形だけ返した。納骨堂の守り手は、黙って骨の紐を指先で弄んでいた。「白骨鍵の開封は人目を避けねばならぬ。血筋の誓いだ」 皇子はその目をまっすぐに受け、短く言った。 「扉の前は無音にする。民には音声の幻で伝える。中のものは出さない。私が鍵を受ける」
Terakhir Diperbarui : 2025-12-23 Baca selengkapnya