アレクの記憶を覗いた時に見えた、黒いローブの闇魔術師の姿が脳裏に浮かぶ。 魂喰いの呪いの恐ろしい作用を思い出して、彼女は慎重に呪いの種類を見極めた。(魂喰いではない。もっと単純な闇魔術によるもの) ほっと息を吐く。 ならば、と彼女は魔力を練り上げる。両手に緑金の魔力光が灯った。「生命魔法で呪いを祓う!」 けれどその光をシルフィに向けた途端、赤子の魂にピシリと亀裂が入るのが視えた。 呪いは深く巧妙に、娘の霊と絡み合っている。そして赤子の魂は小さく繊細すぎるために、魔法の大きな力に耐えられないのだ。 彼女の魔女としての力は、愛する娘を救うには強大すぎる「劇薬」だった。無理に魔法を行使すれば、呪いと一緒にシルフィの魂そのものが砕け散ってしまうだろう。 救えるはずの「力」はあるのに、使えない。 魔女としての力が、完全に封じられてしまった。(どうしたらいい? シルフィ、あなたを助けるためには) エリアーリアは必死で考えを巡らせた。 今、シルフィは呪いと病の双方に蝕まれている。 呪いは魔法で解けるが、魂の強度が足りないために使えない。 では病を先に癒して、シルフィの健康を少しでも取り戻せばどうだろうか。そうすれば魂も強くなり、魔法に耐えられるだけの力を持つのではないだろうか。(魔女の魔法では、この子を助けられない。ならば知恵で、救ってみせる!) エリアーリアはかつて、深緑の魔女だった。魔女として過ごした百年は、森の植物たちとの対話の時間だった。 彼女は誰よりも薬草に詳しい。治療そのものは魔法を使うことが多かったけれど、アレクの呪いを一時的に抑えたように、薬草を用いるのも得意なのだ。「待っていて、シルフィ。お母さまがすぐに、治してあげるから」 魔女としての力で魂を探り、薬草師としての知識で肉体を診る。そうしてエリアーリアは娘の病を診断した。 診断の結果は「陽熱病」。人間の子どもがかかりやすい、高熱を伴う病気だ。しばしば命を落とす危険性の高い病でもある。 なるべく素早く、
Last Updated : 2025-10-16 Read more