(用心しておいてよかった。このまま見つからずに、隠し通さないと……)「シルフィ! シルフィも、騎士ごっこやろうぜ。女騎士もかっこいいじゃん!」 アルトが元気よく叫んで、エリアーリアは物思いから現実に引き戻される。 シルフィはちらりと双子の兄を見た、ぷいと横を向いた。「えー、いいよ。アルトは乱暴だから、嫌。わたし、こ゚本読んでる」「ちぇ。つまんないの!」 穏やかな日々は、エリアーリアの心を幸福で満たしてくれた。 けれど夜、眠る子どもたちの寝顔にアレクの面影を見出すたび、胸にぽっかりと穴の空いたような、甘く切ない寂しさを感じていた。(あなたに会いたい。でもそれは叶わない望み。せめてこの幸せが、なるべく長く続きますように) 内心の寂しさを表に出すことなく、エリアーリアはいつも微笑んでいるのだった。 ◇ エリアーリアと双子たちの穏やかな時間と時を同じくして、王都の地下。 五年前、盗賊ギルドのアジトだった場所は、今では革命軍の地下要塞と化していた。 作戦司令室にはアストレア王国全土の地図が貼られて、各地からの報告を示すピンが刺されている。 アレクは司令室で、右腕として活躍する騎士ヨハンの報告書を読んでいた。『東の領主たちとの交渉は、無事に締結できました。東は魔獣が跋扈する、迷いの山脈があります。魔獣討伐のため、彼らは古くから軍人を多く輩出する家系。南の砦を本拠としていた我が一族と交流がありましたので、好意的に迎えてもらえました。我が父が討ち死にし、一族が皆殺しにされた件で同情を集めており、有利に働いた点も大きいかと』 アレクはしばし目を閉じた。彼をかばって死んだ老将軍と、ガーランド王の命令で皆殺しにされた一族。ヨハンの血族でもある彼らのことは、忘れた日は一日もなかった。 だが、罪悪感はもうアレクの歩みを止めない。罪の意識は責任に変わって、彼を強く支えていた。 アレクは目を開いて、報告書の続きを読む。『反面、北の
Last Updated : 2025-10-21 Read more