年配の人って、子どもをふっくらさせたがるものだ。拓海は良子の手のひらに頬をすり寄せ、涙に濡れた瞳はいっそう潤み、灰がかった唇がかすかに震えた。「……うん」「言うこと、ちゃんと聞くんだよ」良子は改まった口調で拓海に言い聞かせた。「お医者さんの言うことも、アナの言うことも、それからばあちゃんの言うこともね!」「うん」拓海はこくこくとうなずいた。それでようやく良子は知佳と一緒に病室を出た。知佳の気のせいかもしれないが、このときの良子もアナも、どこかいつもと違って見えた。良子の目には何かしらの強い決意の色が宿っていて、一方のアナは、さっき廊下ですれ違ったとき、泣いたあとのような跡が顔に残っていた気がした。病室を出るとき、知佳は振り返って一度だけ中を見た。目に入ったのはアナの後ろ姿だけで、彼女は拓海のベッドのそばに立っていて、肝心の拓海の姿はもう見えなかった。「おばあちゃん」病院の廊下で、知佳は尋ねた。「さっきアナと、何か話したの?」良子はうなずいた。「ああ」「何を?」知佳は少し焦ったように続けた。「拓海のケガのこと?ひどいの?」そうでもなければ、どうしてアナが泣いたりするだろう。「大丈夫だよ。もう集中治療室は出てるんだから、良くなってきてるって証拠さ。それに、これからきっともっと良くなるって、お医者さんも言ってたじゃないか」と良子は言った。そうだった。さっき自分でも医者に確かめたばかりだった……「おばあちゃん、本当にご飯を作って、拓海に持っていくつもりなの?」良子はふうっとため息をついた。「今回はね、あの子は私たちをかばってケガしたんだよ。医療費は聖ちゃんが払うって言ってるし、付き添いの人だって頼んである。でもね、拓海と私たちの家の間には、今まで積もり積もった恩も恨みも多すぎるんだ。もういいさ、ここまで来たら、全部なかったことにしてしまおうって思ってる。知佳ちゃん、これはおばあちゃんの考えだから、あなたは気にしなくていい。知佳ちゃんは知佳ちゃんで、自分の考えのとおりにしなさい。それにね、おばあちゃんは、あなたが拓海とあまり近づきすぎないでほしい。あの子にはもうアナがいるんだから」「うん……」知佳はそう返事をしたものの、胸の奥には言いようのない不安がじわりと広がっていた。その日は節分の日だった。知佳と良子
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