◇ 「加納さん、お待ちしておりました」 「持田さん。お久しぶりです」 私が滝川さんに連れられ、彼の家に入るなり、秘書の持田さんが私と滝川さんを出迎えてくれた。 廊下の先にはリビングがあるのだろう。広い廊下が続き、奥のリビングも相当広い空間である事が伝わってきて、私は滝川さんに支えられながらリビングに足を踏み入れた。 すると、リビングにはもう1人スーツを着た男性が立っていて、私は目を丸くした。 「加納さん、紹介するよ。彼はもう1人の秘書で、間宮俊治(まみや としはる)」 「初めまして。間宮と申します」 「彼には、持田さんと同様加納さんの身の回りを。買い物とかに行きたくなったら、彼に頼んで。車を出させるよ」 にこやかに滝川さんから言われ、私はきょとんとしてしまう。 「え、あ…、よろしくお願いします、加納心です…。えっと、滝川さん」 「ん?なに?」 「その、私は今日だけ、こちらにお邪魔するのでは…?買い物って…?」 滝川さんの口ぶりだと、まるで私がここでしばらく過ごすようだ。 家を探すのに、少し時間がかかってしまうだろうけど、私はここで話を終えた後、都内にホテルを取ってしばらくホテルに滞在しようと思っていた。 私の質問に、今度は滝川さんがきょとんとした。 私たちの間で、何か話が噛み合っていない。 そんな雰囲気を感じ取ったのだろう。 持田さんが滝川さんに向かって話しかけた。 「社長、もしかして加納さんに何もお話されていないのでは……?」 「え……いや、だが……家に行こう、と」 滝川さんはそこまで言うとハッとした顔をして、勢いよく私に振り返る。 「しまった…!加納さん、すまない。大事な事を伝えてなかった…!」 「え、大事な事、ですか?」 「加納さんを早くあの家から連れ出さなくては、と考えていたせいで」 「すまない」と前置きをしつつ、滝川さんは続ける。 「言い忘れていたんだが…加納さん、新しい家が見つかるまで、俺の家に住めばいい。客室が複数あるし、加納さんがここにいる間、持田さんと間宮も同居する。怪我をゆっくり治して、焦らず家を探せばいいよ」 思ってもみなかった滝川さんの言葉に、私は言葉を失ってしまう。 滝
最終更新日 : 2025-10-17 続きを読む