婚約者は私にプロポーズをしたその口で、初恋の幼馴染に愛してると宣う のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

107 チャプター

31話

◇ 「加納さん、お待ちしておりました」 「持田さん。お久しぶりです」 私が滝川さんに連れられ、彼の家に入るなり、秘書の持田さんが私と滝川さんを出迎えてくれた。 廊下の先にはリビングがあるのだろう。広い廊下が続き、奥のリビングも相当広い空間である事が伝わってきて、私は滝川さんに支えられながらリビングに足を踏み入れた。 すると、リビングにはもう1人スーツを着た男性が立っていて、私は目を丸くした。 「加納さん、紹介するよ。彼はもう1人の秘書で、間宮俊治(まみや としはる)」 「初めまして。間宮と申します」 「彼には、持田さんと同様加納さんの身の回りを。買い物とかに行きたくなったら、彼に頼んで。車を出させるよ」 にこやかに滝川さんから言われ、私はきょとんとしてしまう。 「え、あ…、よろしくお願いします、加納心です…。えっと、滝川さん」 「ん?なに?」 「その、私は今日だけ、こちらにお邪魔するのでは…?買い物って…?」 滝川さんの口ぶりだと、まるで私がここでしばらく過ごすようだ。 家を探すのに、少し時間がかかってしまうだろうけど、私はここで話を終えた後、都内にホテルを取ってしばらくホテルに滞在しようと思っていた。 私の質問に、今度は滝川さんがきょとんとした。 私たちの間で、何か話が噛み合っていない。 そんな雰囲気を感じ取ったのだろう。 持田さんが滝川さんに向かって話しかけた。 「社長、もしかして加納さんに何もお話されていないのでは……?」 「え……いや、だが……家に行こう、と」 滝川さんはそこまで言うとハッとした顔をして、勢いよく私に振り返る。 「しまった…!加納さん、すまない。大事な事を伝えてなかった…!」 「え、大事な事、ですか?」 「加納さんを早くあの家から連れ出さなくては、と考えていたせいで」 「すまない」と前置きをしつつ、滝川さんは続ける。 「言い忘れていたんだが…加納さん、新しい家が見つかるまで、俺の家に住めばいい。客室が複数あるし、加納さんがここにいる間、持田さんと間宮も同居する。怪我をゆっくり治して、焦らず家を探せばいいよ」 思ってもみなかった滝川さんの言葉に、私は言葉を失ってしまう。 滝
last update最終更新日 : 2025-10-17
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32話

「分かりました。滝川さん、色々と助けていただき、ありがとうございます。家が見つかるまでの間、よろしくお願いします」 ぺこり、と私が頭を下げてそう言うと、滝川さんが慌てて止めに入る。 「頭を下げるなんて、やめてくれ…!むしろ、俺の我儘に付き合わせてしまったね。ひとまず腹ごしらえをしないか?そのあと、必要な物を買いに行こう」 滝川さんに止められ、そう言われる。 そしてそのままリビングのダイニングテーブルに案内され、私が席に着くと持田さんや間宮さんがテキパキと動き、用意されていたであろう食事を出してくれた。 滝川さんは、飲み物の入ったグラスを口元に運びつつ「そうだ」と何かを思い出したかのように声を上げた。 「加納さん。移動に不便だろうから、足の骨折が完治するまでの間、病院から車椅子をレンタルしようと思うけどいい?」 「と、とても助かります…!ありがとうございます!」 「良かった。それじゃあ手配しておくよ。今日中に届くはずだから。家の中は車椅子で移動して構わないし、階段は俺が抱き上げて移動するから声をかけて。俺がいなかった時は、間宮に声をかけてもらえれば大丈夫」 間宮さんがキリッとした顔で「お任せください!」と滝川さんの後に続ける。 本当に、こんなに良くしてもらって申し訳なさと、優しさに触れてじん、と胸が暖かくなる。 私は改めて滝川さんにお礼を言って、和やかに食事の時間は過ぎた。 食事の後。 食後の休憩のため、私は滝川さんに案内された客室にやってきていた。 滝川さんは、片付けなければいけないお仕事があるとの事で、書斎に。 持田さんと間宮さんは他のお仕事があるらしく、時間になったら私に声をかけに来てくれるらしい。 私は、室内でベッドに腰掛け、ぼうっと今日の出来事を反芻していた。 「……瞬と、婚約解消するのは辛いかと思っていたけど…皆のお陰かな…」 打ちのめされる程、胸が苦しくはなっていない。 それより、これ以上瞬と麗奈の事で傷付く事はもう2度となくなるんだ、という安心感の方が強い。 瞬の辛さや寂しさを知って、彼の傍にいたい、私が彼を幸せにしたい。 そう思って、沢山の時間が過ぎた。 結局、瞬とは結ばれる事はないけど、私はその時間を無駄にしたとは思わない。 辛い日々もあったけど、確かに
last update最終更新日 : 2025-10-17
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33話

[ショッピングモール] 私たちは、間宮さんの運転のもと、大型のショッピングモールに来ていた。 滝川さんがすぐに手配してくれたお陰か、車椅子も届き、私は滝川さんに車椅子を押してもらいながら4人でショッピングモールの中を見て回っていた。 「平日なのに結構人が多いんだな……」 「そうですね。私も大型のショッピングモールに来たのは凄く久しぶりですが、こんなに人がたくさんいるんですね」 私と滝川さんの少し後ろから、持田さんと間宮さんがついてきてくれている。 ショッピングモール内はとても人が多い。 けれど、通路も広く私たちはゆったりと沢山のお店を見て回った。 不足していた洋服を買って、自分で使う私物も購入する。 消耗品なども購入しようとしたのだが、そういった物は滝川さんがまとめて購入しているみたいで。 決まったメーカーや、こだわりが特に何もない私は、滝川さんの厚意に甘えさせて頂く事になった。 「少しカフェで休憩しようか、加納さん。ずっと買い物ばかりで、疲れたんじゃないか?」 私の車椅子を押してくれていた滝川さんが、ひょいと背後から覗き込んでそう聞いてくれる。 私は、車椅子に座っていたから正直そんなに疲れてはいない。 けれど、ずっと歩きっぱなし、立ちっぱなしの滝川さんや、持田さん間宮さんは疲れているかもしれない。 彼らに休憩してもらいたい、と思った私は滝川さんの提案に頷いた。 「よし、じゃあ……。あそこのカフェに入ろうか」 「分かりました」
last update最終更新日 : 2025-10-18
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34話

「しゅ、瞬──?」 どうして、ここに。 私が言葉を続ける前に、瞬は目の前の椅子を引き、どかりと乱暴に腰を下ろした。 「俺にあんな事を言ったくせに、自分は他の男の家に転がり込む、か。随分俺を非難したくせに、心お前も結局同じような事をしてるじゃないか」 「──なっ」 私が、瞬と同じ事を?冗談じゃない。 瞬のような下品な行動と、私を心配してくれて手を差し伸べてくれた滝川さんの厚意を受けた私の行動を、一緒にされたくない。 「ふざけないで……。滝川さんは、善意で私の当面の住居を提供してくれたの。瞬とは違う──」 「どこが違う?男の部屋に転がり込んで、ただで済むと思っているのか?」 「低俗な事を言わないで!それに、滝川さんは私だけじゃなくって──」 「とんだアバズレだな。まだ俺と婚約している状態にも関わらず、こんな事をするなんて」 瞬は私を軽蔑するような、冷たい視線で見つめたあと、椅子を引いて立ち上がる。 「やはり、子供も俺との子だったのかどうか疑わしい。お前のようなアバズレと結婚していたかもしれないと思うと、ゾッとする」 「な──っ」 「やっぱり、俺には麗奈しかいない。お前みたいなアバズレにも、麗奈は優しく心を砕いていた」 「ふ、ふざけないで瞬!これ以上の侮辱は──」 「侮辱?それはこちらの台詞だ。俺をこれ以上侮辱するな。婚約解消なんて生ぬるい。今日、この時を持って、俺とお前の婚約は破棄だ。二度と俺の前に姿を現すなよ」 瞬は、私に言いたい事を言い終えると、そのままくるりと背を向けて歩いていく。 私がどれだけ瞬を呼び止めても、一切振り向く事はない。 そうして、次第に瞬の背中が小さくなり、見えなくなった。 足の骨折さえ、なければ。
last update最終更新日 : 2025-10-18
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35話

あれから。滝川さんは、私が落ち着くのを待ち、私の話を聞いてくれた。持田さんと間宮さんがカフェに戻ってくる間に、私からあらかたの事を聞いた滝川さんは、私以上に怒ってくれた。滝川さんの、瞬に対するイメージは最悪だろう。カフェでゆっくりお茶をする、という空気じゃなくなってしまい、滝川さんが帰宅を提案してくれて、私はそれに頷いた。滝川さんが車椅子を押してくれて、私は滝川さんが買ってきてくれた飲み物を両手で持ちながら、瞬から言われた言葉を悶々と思い出していた。瞬はあんなに酷い事をどうして平気で言うのだろうか。麗奈の、一方の話だけを聞いて、私への事実確認もなにもなく、下品な想像で私を侮辱した。昔の瞬は、双方の話を聞いてくれる人だったのに、何が彼をこんな風に変えてしまったのだろう。私が考えこんでいると、駐車場に着き、車に移動する際に滝川さんが私の顔を覗き込んだ。「加納さん。考えすぎてしまうのは良くない。彼の言葉に翻弄されないように。今は、足の怪我を治す事だけを考えていたほうがいい」「──すみません。そう、ですよね。…考えても無駄なのに、ついつい……」「分かるよ。一緒に過ごした時間も長かったんだ。けれど、彼は加納さんを侮辱して、酷い態度を取ったんだ。彼の事は1度忘れて、ゆっくり穏やかに過ごして欲しい」「滝川さん……。本当に、いつもありがとうございます」私の言葉に、滝川さんは笑顔で「どういたしまして」と言い、私を車に乗せてくれる。車のドアを閉めてもらい、私は車の背もたれに深く背を預ける。しばらく待っても、滝川さんが車に乗り込んでこないことに不思議に思い、外を見てみると、外で滝川さんと持田さんが何やら話をしているようだった。真剣な表情で、話し込んでいる。もしかしたら、お仕事に関する話し合いかもしれない。私が入院してからというもの、退院したあともこうして滝川さんは自分の時間を割き、私を手助けしてくれている。本当に早く新しい家を見
last update最終更新日 : 2025-10-19
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36話

私たちはショッピングモールを後にして、滝川さんの家に戻った。持田さんや間宮さんに私が購入した荷物を部屋に運び入れてもらっていると、滝川さんが私に話しかけた。「加納さん。リビングで一息つかない?長い時間買い物をしたから疲れただろう?」「そう、ですね……ぜひ!」滝川さんが優しい笑みを浮かべて聞いてくれる。私はその提案に頷き、滝川さんがリビングのソファに私を運んでくれた。「加納さん、紅茶とお茶、コーヒーにココアがあるけど、どれがいい?」滝川さんは、私をリビングのソファに座らせると滝川さん自らキッチンに向かい、手ずから飲み物を用意してくれるつもりらしい。ひょい、とカウンターキッチンから顔を覗かせた滝川さんが、何を飲むか聞いてくれる。「そんなに沢山飲み物があるんですか?」「あー…、はは。実は、今日から人数が増えるから飲み物の種類を増やしたんだ」「えっ!そんな、お手間を増やしてしまってすみません!」私が慌てて謝ると、滝川さんは首を横に振る。「そんな事ないよ。実はどんな種類を増やそうか、と考えるのが楽しかったんだ」滝川さんは、食器棚からカップを取り出しながら続ける。「今まで、家は寝に帰ってくるだけの場所だったんだ。けど、こうして今回…人が増えるだろ?…今まで広いだけで静かだったこの家が、一気に人の温もりと賑やかさが増えた…。それが、嬉しくて」「滝川さん…」「加納さんは辛い思いをしているのに、不謹慎だって分かってるけど…帰ってくる家に人の形跡が増えるのが嬉しいんだ」どこか寂しそうに笑う滝川さんに、胸がつきり、と痛む。滝川さんの気持ちは、私にも分かる。昔は、私と瞬の家も2人きりだったけど温かくて優しさの溢れる、寂しさとは無縁の家だった。けど。瞬からの態度が冷えていくのと比例するように、家の中は温かみが消えていき、物悲しい空気が漂うようになった。たった数年。数年間だけだけど、私は胸が引き裂かれるように辛い期間だった。けど、滝川さんはきっと。ずっとそんな寂しい思いを経験してきたのかもしれない。「いいえ、いいえ…そんな事思わないでください。きっと、これからは賑やかになると思いますよ。滝川さんがうるさいって思っちゃうかもしれません」私の言葉に、滝川さんが笑う。笑い声まで、上げて。「──ははっ。俺がうるさいって
last update最終更新日 : 2025-10-19
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37話

心と涼真が笑顔で会話をしている光景を、持田は信じられないものを見るかのように目を見開き、ぽかんと見つめていた。そんな持田の隣で、間宮も持田ほどではないが、驚いたように2人を──特に、涼真を唖然と見つめていた。信じられない、と言うように間宮は隣の持田に話しかける。「せ、先輩……持田先輩。俺、社長があんな風に笑ってるところ、初めて見たかもしれません」「え、ええ…。私もよ…。長年社長にお仕えしているけど…あんな風に屈託なく笑われている社長、初めてお目にしたかも…」信じられない、と持田は呟く。今まで「社長」としての笑みは幾度も見てきた。相手に威圧感を与えないよう、涼真は常に柔らかな笑みを浮かべていた。けど、それは「作った笑顔」である事も持田も、間宮も理解していた。涼真は、仕事人間だ。最早中毒と言ってもいい程。仕事を円滑に回すため、涼真は自分の仕草に細心の注意を払っている。相手に威圧感を与えず、するりと懐に入り込む。全て計算し尽くされた表情だ。だからこそ、持田も間宮も今自分の目で見ている光景が信じられなかった。心と会話をしている涼真が、屈託なく笑顔を浮かべている。声を出して笑っている姿だって、1度も見た事がない。心に対してだって、病院ではいつも見慣れた微笑みを浮かべていた。それなのに、今では心から楽しそうに笑顔を見せ、声を出して笑い、心との会話に興じている。まるで天変地異でも起きるのではないか、と持田と間宮が考えている事など、涼真との会話に夢中になっていた心は、全く気づいていなかった。「──ああ、もう…笑いすぎてお腹が痛いです」「それは失礼を。加納さんがこれだけ笑い上戸だったとは知らなかったんだ。これからは気をつけるよ」「ふっ、ふふふ。ぜひそうして下さい」私が笑いすぎて滲んだ涙を指先で拭っていると、突き刺さる視線を感じて、
last update最終更新日 : 2025-10-20
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38話

リビングでの楽しいひと時が終わり、私たちは自分の部屋に戻っていた。持田さんと間宮さんが部屋に入れてくれた購入品などを袋から出し、近くのボックスに保管していく。ベッド脇にあるローチェストにボックスをしまい、私は一息つく。今日は、買い物に行った事と、瞬と出会ってしまった事で、とても疲れた。私はベッドにころり、と転がると目を閉じた。気づかなかったけれど、疲労は溜まっていたのだろう。目を閉じてからすぐに眠気がやってきて、私は眠ってしまった。コンコン、と扉をノックする音に、ふっと意識が浮上する。目を開け、室内の窓に目をやると窓の外は夕日が沈み始めていて、大分昼寝をしてしまったいた事に気づき、私は慌てて起き上がった。「加納さん……?寝ていらっしゃいますか?」ドアの外から、持田さんの声が聞こえ、私は慌てて返事をした。「お、起きました!すみません持田さん、どうぞ!」「失礼しますね」持田さんがドアを開け、中に入ってくる。何やら片手に雑誌を数冊持っていて、私は首を傾げた。「すみません、加納さん。私の荷物に加納さんの購入した雑誌が紛れておりました」「本当ですか、わざわざすみません」「いいえ。こちらこそ、お戻しするのが遅れてすみません」私は持田さんから差し出された雑誌を受け取る。雑誌の表紙を見て、確かに私が昼間ショッピングモールの本屋さんで購入した雑誌だと分かった。雑誌の表紙には「求人情報」と「賃貸」の文字が書かれている。持田さんは私に雑誌を届けると、頭を下げて部屋を出ていった。「──そうだ。部屋と、仕事を探さなくちゃ……」この家は、滝川さんのお家だ。行く宛てがない私のため、滝川さんが厚意で部屋を貸してくれているだけ。貯金はある程度あるけれど、仕事を早急に見つけなければならない。それも、家には一切頼らずに。「……よし、探さなきゃ」私は、持田さんが届けてくれた雑誌をベッドに広げ、ページを捲り真剣に内容を確認する。私の部屋を出た持田さんが、眉を下げて何か物言いたげな表情で私の部屋のドアをじっと見つめていた事は、私には分からなかった。◇「ねえ、瞬。心と婚約破棄をしたんでしょう?」「──ああ。しっかり心に伝えて来た」「なら、瞬はもう自由の身なのよね?私との関係をいつ発表してくれるの?」瞬の部屋。
last update最終更新日 : 2025-10-20
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39話

私が、滝川さんのお家にお邪魔するようになって、数日。 この数日の間、通院や買い物へは間宮さんか持田さんが付き添ってくれた。 車椅子だと、自分で歩く事もできない。 だから私は先生に相談して松葉杖をレンタルさせてもらった。 松葉杖があれば、お家の中だけでも1人で行動できる範囲が広がる。 それに、時間が経てばちょっとした近所の散歩もできるようになる。 私はしばらく入院していた事と、滝川さんのお家であまり動かない生活をしていたせいか、お腹周りが気になり始めていた。 ご飯も毎食美味しいものを持田さんや間宮さんが用意してくれるから、ついつい食が進んでしまっている。 体重計に乗るのが今はとても怖い。 だから私は、滝川さんの家では出来るだけ松葉杖を使い、動くようにした。 「加納さん。少しいい?」 「滝川さん?はい、大丈夫ですよ。どうぞ」 滝川さんの声が聞こえ、私は松葉杖を使い部屋の扉を開ける。 私が松葉杖を使う姿を、心配そうに見つめる滝川さんに私は笑って見せた。 「大分慣れてきたんです。板に付いてきたと思いませんか?」 「……だけど、やっぱり危ないんじゃないか?腕の筋肉だって使うし…加納さんは退院したばかりなんだから、もうしばらくは車椅子の方が…」 「外出する時は車椅子を使わせてもらいますね。お医者様も言ってました。筋力が落ちているから、ちょっとずつ戻して行こうって。松葉杖は、ちょうどいいトレーニングになるんです」 「加納さんがそう言うなら…。けど、本当に無理だけはしないでくれ」 「ええ、分かりました。それで、どうしました?」 何か用事でもあったのでは、と思い滝川さんに尋ねると、滝川さんは「そうだった」と言葉を発しながら、持っていた雑誌を私に渡してくる。 「友人がしばらく海外に出張に行くらしくて。その間、ペットの世話を頼みたいと言われたんだ。ペットは、犬なんだけど…加納さんは、アレルギーとか大丈夫?」 「わんちゃんですか!?」 滝川さんの言葉に、私は目を輝かせて食いつく。 私の食いつき方に滝川さんは驚いたようだったけど、すぐに笑顔を浮かべて「犬好きなの?」と聞いてくれた。 「動物は好きです。昔、実家でゴールデンを飼っていたんです。滝川さんのお友達のわんちゃんの犬種ってなんですか?」
last update最終更新日 : 2025-10-21
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40話

滝川さんから犬に関する雑誌を渡された日から、私は必死にお世話の仕方や、躾。病気に関する事などを調べた。 実家では、昔ゴールデンレトリバーを飼っていた。 毎朝、毎晩散歩に連れていき、沢山一緒に遊んだ。 けど。 数年前。 実家から私が出てしまい、瞬と付き合うようになってから、一度も実家には行っていない。 あの子は、元気だろうか。 そう考えるが、実家の敷居をまたがせてくれないかもしれない、と考えると怖くて。 私は無意識に家の事を考える事を避けていた。 それに、瞬は犬が嫌いだ。 小動物全般が嫌いなため、瞬にペットを飼いたいと言い出す事はできなかった。 けれど。 今回、滝川さんのご友人が海外出張に行く関係で、しばらくの間、わんちゃんと触れ合える。 「ご友人が帰ってくるまで、しっかり病気もさせず元気に過ごしてもらわないと……!」 早く怪我も治して、散歩も一緒に行きたい。 沢山遊んで、ご主人がいない寂しさを感じないようにしてあげたい。 私は日々、わんちゃんを迎える準備を進める事に必死になって、家探しや職探しが後回しになっている事に、その時は全く気づかなかった。 そんな日をどれくらい、過ごしていただろうか。 ある日、突然知らないアカウントからDMが届いた。 「……SNS?」 今は殆ど利用する事がなくなってしまった、インスタ。 その私のアカウント宛に、一通のDMが届いた。 差出人は見知らぬ人。 見た事のない画像のアカウントだった。 ウイルス感染でもしたら大変だ。と、思い私はその通知を無視してスマホを閉
last update最終更新日 : 2025-10-22
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