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36話

Autor: 籘裏美馬
last update Última actualización: 2025-10-19 19:02:08

私たちはショッピングモールを後にして、滝川さんの家に戻った。

持田さんや間宮さんに私が購入した荷物を部屋に運び入れてもらっていると、滝川さんが私に話しかけた。

「加納さん。リビングで一息つかない?長い時間買い物をしたから疲れただろう?」

「そう、ですね……ぜひ!」

滝川さんが優しい笑みを浮かべて聞いてくれる。

私はその提案に頷き、滝川さんがリビングのソファに私を運んでくれた。

「加納さん、紅茶とお茶、コーヒーにココアがあるけど、どれがいい?」

滝川さんは、私をリビングのソファに座らせると滝川さん自らキッチンに向かい、手ずから飲み物を用意してくれるつもりらしい。

ひょい、とカウンターキッチンから顔を覗かせた滝川さんが、何を飲むか聞いてくれる。

「そんなに沢山飲み物があるんですか?」

「あー…、はは。実は、今日から人数が増えるから飲み物の種類を増やしたんだ」

「えっ!そんな、お手間を増やしてしまってすみません!」

私が慌てて謝ると、滝川さんは首を横に振る。

「そんな事ないよ。実はどんな種類を増やそうか、と考えるのが楽しかったんだ」

滝川さんは、食器棚からカップを取り出しながら続ける。

「今まで、家は寝に帰ってくるだけの場所だったんだ。けど、こうして今回…人が増えるだろ?…今まで広いだけで静かだったこの家が、一気に人の温もりと賑やかさが増えた…。それが、嬉しくて」

「滝川さん…」

「加納さんは辛い思いをしているのに、不謹慎だって分かってるけど…帰ってくる家に人の形跡が増えるのが嬉しいんだ」

どこか寂しそうに笑う滝川さんに、胸がつきり、と痛む。

滝川さんの気持ちは、私にも分かる。

昔は、私と瞬の家も2人きりだったけど温かくて優しさの溢れる、寂しさとは無縁の家だった。

けど。

瞬からの態度が冷えていくのと比例するように、家の中は温かみが消えていき、物悲しい空気が漂うようになった。

たった数年。

数年間だけだけど、私は胸が引き裂かれるように辛い期間だった。

けど、滝川さんはきっと。ずっとそんな寂しい思いを経験してきたのかもしれない。

「いいえ、いいえ…そんな事思わないでください。きっと、これからは賑やかになると思いますよ。滝川さんがうるさいって思っちゃうかもしれません」

私の言葉に、滝川さんが笑う。

笑い声まで、上げて。

「──ははっ。俺がうるさいって
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