二度目の熱い夜以来、私たちは「放課後ゼミナール」が終わると奥の座敷で深く繋がり合った。そんな私は金曜日の朝、厳夫さんの遺影をそっと裏返した。胸に空いた穴には隙間風が吹き、それは雨宮右京の熱情だけでは埋められなかった。 葉桜が色付き、鮮やかな赤や黄色の絨毯が煉瓦道を埋め尽くす頃、美術工芸大学恒例の学園祭が催される。学園祭の幕開けは、仮装行列。繁華街のメインストリートを仮装で練り歩くパレードは、沿道の声援に笑顔で応え戯けて見せる。この日ばかりは生真面目な教授もたこ焼きのマスクを被って手を振った。その隣で妖怪やリオのカーニバルの衣装に身を包んだ男子学生のグループがサンバのリズムで踊り狂う。日々の鬱憤を晴らす学生たちは車道にはみ出し警察官に引き止められた。赤い棒を振り誘導する警察官の気苦労を考えると、お疲れ様である。 「今年も賑やかね…」 このパレードは強制参加ではないが、雨宮右京もこの群集の波に揉まれ右往左往していた。「佐々木ゼミナール」の女子学生が、長身の彼のために黒いスーツに黒いマント、赤い蝶ネクタイを鼻息も荒く特注で準備した。それを否が応もなく着せられた彼は色白で薄茶の巻き毛、整った顔立ち……実に見目麗しいドラキュラ伯へと変身した。人との交流が希薄な彼は戸惑っていたが、その姿をカメラに収めようと行き交う人はスマートフォンをカバンから取り出した。 広坂通
Last Updated : 2025-10-11 Read more