白粥を口に流し込み、虚ろなキッチンに座っていると、ポストに投函音が響いた。桜色の封筒が一枚。「何だろう?」と手に取り、裏返すと、不妊検査を受けたマタニティクリニックからの検査結果だった。数字の羅列に首を傾げ、書類を開くと、驚くべき文字が並ぶ。冷徹な笑みが口元に浮かび、桜色の封筒をそっとショルダーバッグに滑り込ませた。この結果は復讐の切り札となる。義母の「孫はまだか」、その言葉が離婚への決意を固めた。キッチンの冷たい光が桜色の封筒を照らし、右京を追い詰める準備が整う。冷蔵庫のミルフィーユが虚しく残り、夫婦の偽りが崩れる音が聞こえるようだった。 風邪が治り、久しぶりに出勤した私はデスクの前に佇み、呆然とした。たまりに溜まった書類の山に辟易する。眼鏡をかけ、眉間にシワを刻みながらパソコンに入力していると、孫の手でチョイチョイと肩を叩かれた。社長の叔父・政宗だ。幼い頃から知る彼は、私の微妙な変化に即座に反応する。「おい、真昼、顔が死んでるぞ」と、達磨やコケシが乱雑な机の向こうでニヤリと笑う。右京の裏切りと離婚の決意が胸を締め付ける。書類の山は、虚しい夫婦生活の重さと重なる。「叔父さん…ちょっと疲れてるだけ」と誤魔化すが、政宗の目は見抜いている。 「ちょっと二階に来い」と、叔父さんに肩を叩かれ、会議室に呼び出された。白く光る蛍光灯の下、長机にコーヒーの香りが漂う。叔父さんは腕を組み、私の顔を凝視する。「おい、どうした。最近、お前なんかおかしいぞ?」。書類の入力ミスが増え、顔つきも暗く冴えないと見抜かれている。白檀の香りが染みついた結納のスーツ、2018号室の逢瀬、向坂橙子の存在、桜色の封筒の検査結果……右京の裏切
Last Updated : 2025-11-09 Read more