Semua Bab 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです: Bab 181 - Bab 190

202 Bab

180:パパのお嫁さん

 湊さんと私が結婚し、娘の帆波(ほなみ)が生まれて、二年が過ぎた。 よちよちと歩き始めた娘は、すっかり「パパ大好きっ子」に成長していた。私が仕事でアトリエにいる間、湊さんがつきっきりで世話をしてくれているせいかもしれない。 夕方になると、帆波はそわそわと落ち着かなくなる。湊さんが仕事から帰ってくる時間だからだ。 玄関のドアが開く、ごく小さな電子音を聞きつけた瞬間。帆波は遊んでいた積み木を放り出して、小さい足で駆け出した。「ぱーぱ! おかえりー!」 まだおぼつかない足取りで、転びそうになりながら玄関へと駆けていく。「ただいま、帆波ちゃん!」 湊さんは上質な革の鞄を床に無造作に放り出して、スーツ姿のまま両腕を広げて娘を待ち構える。 帆波がその胸に飛び込むと、彼は娘の体を軽々と抱え上げる。帆波の鈴を転がすような笑い声が、広いリビングに響いた。 彼はそんな娘の体を宝物のようにぎゅっと抱きしめて、その柔らかい頬に、何度も顔をうずめるようにして頬ずりしていた。「あははっ! パパ、くすぐったーい!」 帆波はきゃっきゃとはしゃいでいる。 まったく、「溺愛」という言葉がぴったりだ。 いつも甘やかしてばかりなので、私は時々、親子二人をまとめて叱る羽目になっている。 つい先日も、ご飯の前のおやつの量を守らず、二人でこっそり食べていた。私は腰に手を当てて、バツの悪そうな顔をした夫と娘の前に立ったのだ。「湊さん、帆波。おやつのクッキーは、一枚だけって言ったでしょう」「だって帆波ちゃんが、もう一枚ほしいと言うから……」「パパもいっしょに、たべたもん」 しょんぼりとする二人の同じ顔を見ていると、私は思わず笑ってしまう。私たちの家には、いつも幸せな笑い声が響いていた。◇ ある日の午後。リビングの床で、帆波がお絵かきをしていた。「できた!」 クレヨンを置いた彼女は、その絵を得意げに私に見せに来た。画用紙には男性と、その隣
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181:きらきらの心臓

 ある週末の午後。私たち家族は、リビングで穏やかな時間を過ごしていた。床では娘の帆波が、お気に入りの積み木で遊んでいる。湊さんはソファに座って、そんな娘の姿を微笑ましく眺めている。 彼はふと思いついたように言った。「ねえ、夏帆さん。今夜久しぶりに、あそこに泊まりに行かないか」 あそことしか言わなくても、すぐに分かる。私たちの大事な思い出の場所であるスイートルームだ。「いいわね。帆波もきっと喜ぶわ」 その言葉を聞きつけたのか、帆波がぱっと顔を上げた。「おとまり? きらきらのおへや、いくの?」「うん、行こうね」 二歳になった娘にとっても、あのスイートルームはすっかりお気に入りの場所になっている。湊さんは嬉しそうに頷いて、コンシェルジュに電話を入れた。「今夜、オーナーズスイートを使う」と。 それから一時間後。私たちは、インペリアル・クラウン・ホテルの最上階にいた。 支配人が恭しくドアを開ける。その隙間から、帆波が小さい足を動かして一番に部屋に駆け込んでいった。「おへや、きたー!」 二歳になった娘の嬉しそうな声が、高い天井に響く。 私はそんな娘の姿を、隣に立つ湊さんと一緒に微笑みながら見守っていた。 私の全てを賭けて戦い、作り上げたこの場所。それが今では、娘の笑顔があふれる温かい「帰る場所」の一つになっている。その事実が私の胸を静かな感慨で満たした。◇ 部屋が西日で金色に染まる、魔法のような時間が訪れた。 蜂蜜色の光が壁一面の大きな窓から差し込んで、部屋の隅々までを満たしていく。 帆波はその光に導かれるように、部屋の中央に立った。天井できらめく私の『光の心臓』を、キラキラと目を輝かせながら夢中で見上げている。 湊さんがソファに座る私の隣に腰を下ろした。私たちは言葉もなく、光の中に佇む小さな娘の姿を眺めていた。◇ 湊さんはソファから立ち上がると、娘のそばまで歩み寄った。光に見入っている小さな背中の隣に、そっと
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182:旅立ちの空

 気持ちのいい秋晴れが続く、休日の午後のこと。 私はソファでデザイン誌をめくっている。床では娘の帆波が、お気に入りの積み木で遊んでいる。湊さんは少し離れた場所から、そんな私たちの様子を愛おしそうに眺めていた。 彼は私の隣に腰を下ろすと、語りかけた。「帆波ちゃんも大きくなったし、そろそろ海外旅行に行ってみようか」 思いがけない提案に、私は驚いて顔を上げる。 海外旅行。元夫と新婚旅行でグアムに行って以来だ。その後は仕事が忙しく、また、元夫との関係が冷え切っていたせいで旅行なんて夢のまた夢だった。 海外、いいな。どこへ行こうか。今だったらどこへでも行ける。 わくわくした気持ちで、つい微笑んでしまう。 私の頭の中で、世界中の観光地と有名な建築物が流れていく。その中でも憧れだった場所を思い出して、私は頷いた。「いいわね。私、スペインに行きたいわ。本物のサグラダファミリアを見てみたいの。湊さんは行きたいところ、ある?」 私の言葉に、湊さんは優しく微笑む。私の髪をそっと撫でた。「君が行きたいところが、僕の行きたいところだよ」 まったく、これだからこの人は。何年経っても過保護で少し困る。 でも、彼の愛情は疑いようもない。私は素直に受け取っておくことにした。◇「サグラダファミリアか。いいな。君に本物を見せてあげたかったんだ」 湊さんは私の提案を心から喜んでくれた。次に彼の視線が床で遊ぶ帆波へと注がれる。その目に父親らしい、優しい色が浮かんだ。「だけど、帆波ちゃんはまだ二歳だ。長いフライトの後、すぐにまた飛行機や列車を乗り継いで移動するのは、さすがに疲れるだろうね」「そうね」 彼の懸念はもっともだった。 帆波は最近、元気いっぱいに歩いたり走ったりするようになったけれど、まだまだ小さい。お昼寝も必要だし、日程は気を配ってやらないといけない。「それにせっかくヨーロッパまで行くのに、スペインだけで帰ってくるのは、少しもったいない気もする」「
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「クルーズ船、というのはどうだろう。船が僕たちのホテルの代わりになるんだ。一度荷物を降ろせば、あとは船が次の街まで運んでくれる。帆波ちゃんは移動中も船の中で自由に遊べるし、僕たちも毎晩違うホテルの寝心地を気にする必要がなくなる」 彼は悪戯っぽく笑みを深めた。「それに君と僕が、しばらく仕事のことを完全に忘れられる」「……いいわね!」 船ならば移動の心配がなくなる。 ずっと仕事漬けだったから、たまにはホテルのことを忘れるのもいいだろう。私は心からの笑顔で頷いた。 こうして私たちの初めての家族海外旅行は、ヨーロッパ――地中海を巡るクルーズに決まった。◇ 数週間後、私たちはローマへ向かう飛行機の中にいた。 空港の喧騒とは無縁の、静かで広々としたファーストクラスラウンジ。帆波はガラスの向こうに見える巨大な飛行機に、「ひこーき、おっきいねぇ!」と、大はしゃぎだった。 搭乗の時間になると、私たちは専属のスタッフに導かれて、他の乗客とは違うルートで機内へと進む。 案内されたのは、ドアで仕切られた完全な個室空間だった。柔らかな革張りのシートが二つと、小さなソファ。まるで空に浮かぶホテの一室のようだ。 湊さんと結婚してから、セレブな世界に触れる機会は増えた。 とはいえ、私は根が庶民である。 今回も初めての国際路線ファーストクラスで、豪華さにちょっと気後れしている。私の知るエコノミークラスは、前のシートに膝がくっつきそうなくらい狭いものなのに。 湊さんと帆波は堂々としたもので、出迎える客室乗務員に笑顔を返していた。「黒瀬様、奥様、帆波お嬢様、ようこそお越しくださいました」 担当の客室乗務員が、にこやかな笑みで私たちを迎える。帆波には、可愛らしいクマのぬいぐるみが手渡された。「くまちゃん!」 帆波はぬいぐるみが気に入ったようで、ご満悦だ。 出発のアナウンスが入り、機体が静かに動き始めた。離陸の時。「パパ、うごいた!」
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 それから一時間ほど経った頃だろうか。 帆波は初めての空の旅に大興奮だった。客室乗務員がサーブしてくれた、可愛らしいお子様ランチを夢中で食べる。 一通りはしゃいだ後は、疲れてしまったのだろう。こくりこくりと船を漕ぎ始めた。 その様子を見た湊さんが、客室乗務員に目配せをする。すぐに帆波の席が、フルフラットの小さなベッドへと作り変えられた。 湊さんは、眠ってしまった娘をベッドに寝かせた。柔らかなブランケットをかけてやる。世界的なホテルグループを率いる彼の大きな手が、今はただ愛する娘のためにこの上なく優しく動いている。 私はその光景を見つめていた。これ以上ないほどの幸福感に包まれながら。◇ 湊さんは眠っている帆波にブランケットをかけ直して、私の隣に座り直した。私の肩を引き寄せて、彼の肩に頭を預けさせてくれる。 私たちは言葉もなく、窓の外を眺めた。 さえぎるもののない漆黒の闇の中。手が届きそうなほど近くに、無数の星が鮮明な光を放って瞬いている。眼下には、光の川のようにどこまでも続く街の灯り。あれはどこの都市だろうか。 湊さんが私の耳元でささやいた。「きれいだね。君と一緒に、こんな景色が見られるなんて」 私は彼の肩に、より深く頭を預けた。彼の体温が、じんわりと伝わってくる。「ええ。夢みたい」「もう夢じゃないよ」 湊さんはそう言うと、私の指に自分の指を絡めた。私たちは握り合った手の温かさを確かめるように、夜の空を見つめていた。 しばらくして湊さんが、私の手を握る指に力を込めた。「眠れないのかい?」 ささやくような声に、私は窓の外の星空から彼へと視線を移す。「うん。なんだか、子供の頃の遠足の前みたいで、わくわくして落ち着かないの」 私が小さく笑うと、彼も愛おしそうに目を細めた。「僕もだよ」 彼は眠っている帆波の顔を、優しい眼差しで見つめる。「これまでは旅行といえば、仕事の延長でしかなかった。でも今回は違う。君と帆波ち
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185:永遠の都と船出

 長いフライトを終えて私たちが降り立ったローマの空気は、秋の日本とは違う乾いた日差しに満ちていた。 ターミナルビルに足を踏み入れた瞬間、耳に飛び込んできたのは、音楽のように流れるイタリア語の響きだった。天井のスピーカーから流れるアナウンスも行き交う人々の話し声も、全てが知らない言葉のシャワーとなって私たちに降り注ぐ。『Benvenuti a Roma(ローマへようこそ)』 通路に掲げられた歓迎の文字が、私たちが今本当にローマにいるのだと教えてくれた。 少し眠そうに目をこすっていた帆波も、初めて見る外国の風景に目をぱちくりさせている。私の足にぎゅっとしがみつきながら、大きな瞳で物珍しそうに周りを見渡していた。 空港を少し進む。その先には『Mr. Kurose』と書かれたプレートを持った空港のVIPサービスのスタッフが、にこやかに立っていた。 普通なら、ここから入国審査の長い列に並ばなければならないはずだ。だが私たちは、一般の乗客とは違う専用通路へと案内された。そこには私たちのための専用カウンターが設けられている。(ええっ。こんなに簡単でいいの?) 湊さんが差し出した三人のパスポートは、すぐにスタンプが押されて返却された。「荷物は、先に車へ運んであります」(えっ。手荷物受け取りの、あのレーンに並ばなくていいの?) スタッフのその言葉に、私はもう驚くことさえ忘れていた。 湊さんはその全てをごく自然に受け入れている。帆波の手を引きながら、彼は私にだけ聞こえる声で尋ねた。「疲れたかい?」「いいえ。だって、飛行機はファーストクラスで横になれたし、空港についてからも人混みを歩いたり、重いスーツケースを持ったりしていないもの。疲れるはずないわ」 私は苦笑した。「むしろ湊さんのエスコートが完璧すぎて、ちょっと気後れしちゃうくらい」「あはは。夏帆さんはいつも遠慮深いなあ」 湊さんは朗らかに笑う。 空港の出口では、黒いセダンが私たちを待っていた。私たちはその車に乗り込んだ。 専用車が、ロ
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 帆波はぽかんと大きく口を開けて、窓の外を見入っている。 ローマのピラミッドは、エジプトのものよりもずっと小さい。二階建ての民家と同じくらいだ。それでも存在感があって、帆波はずっとその三角錐の遺跡を眺めていた。 私はそんな二人の横顔を見つめていた。湊さんがこうして私たちの娘に、世界の広さと歴史を教えていく。その光景がどうしようもなく幸せだった。◇ その日の昼下がり、私たちは石畳の道が続くローマの古い市街地を歩いていた。 道の両脇には、テラコッタや黄土色の歴史を重ねた美しい建物が、陽気に立ち並んでいる。世界中から集まった観光客の話し声や笑い声、カフェのテラス席でエスプレッソをすする地元の人々の会話、遠くで聞こえるアコーディオンの音色。その全てが混じり合い、街全体が一つの生命体のように活気に満ちていた。 帆波は最初こそ賑やかさに目を輝かせていたが、大人たちの足に視界をさえぎられて、私の手を強く握りしめてきた。「ママ、みえないよう」 小さな呟きを聞き逃さなかった湊さんが、立ち止まる。彼はにこりと笑うと、帆波の前に屈みこんだ。「よし、帆波ちゃん。パパがもっといい景色が見える、魔法をかけてあげよう」 彼は娘の体を軽々と持ち上げて、自分の肩の上に乗せた。「わー! ぱーぱ、たかーい!」 世界で一番の特等席を手に入れた帆波は、きゃっきゃと嬉しそうな声を上げた。湊さんの頭の上で、小さな足が楽しそうに揺れている。 やがて私たちの目の前に、壮麗なトレビの泉が現れる。泉の大きさと勢いよく流れる水の音に、帆波は目を丸くしていた。 湊さんはポケットからコインを三枚取り出すと、私と帆波に一枚ずつ渡した。「泉に背を向けてコインを投げると、またローマに戻ってこられる、という言い伝えがあるんだ」 彼は私の手を握って、帆波をしっかりと抱きかかえた。三人で一緒に、コインを泉へと投げ入れる。チャポンという小さな音が、水しぶきの音に紛れて消える。湊さんは私の耳元でささやいた。「また三人で必ずここへ戻ってくる、という約束だよ」
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 その様子を見て、湊さんがくすくすと笑い声を漏らす。「帆波ちゃん、お口の周りが、大変なことになってるよ」 彼は帆波の前に膝をつく。きれいにアイロンのかかったハンカチで、小さな口元を拭ってやる。 私はそんな微笑ましい父と娘の姿から、目が離せなかった。 ローマの強い日差しの下、娘を見下ろす彼の眼差し。父親の顔をした、私の愛する人。 そして私たちの娘である、誰よりも大事な帆波。 私はその一瞬を永遠に残しておきたくて、スマートフォンのカメラを向けて夢中でシャッターを切った。◇ ローマから車で移動し、チビタベッキアの港が近づく。港の建物の向こうに、信じられないほど巨大な真っ白な壁が見え始めた。 それは壁ではなかった。何層にも、何十層にも重なった客室のバルコニー。空へと伸びる巨大な船体。停泊しているというのに、今にも動き出しそうな流線形の美しい船首。 車が港の埠頭に完全に着いた時、私たちはその船のあまりにも巨大な真下にいた。「ママ? おっきい、おうち……」 隣では帆波が、口をぽかんと開けたままその光景に釘付けになっている。「そうね、すごく大きいわね……」 私も頷くしかなかった。ビルというよりは、一つの街がそのまま海に浮かんでいるような印象を受ける。圧倒的なスケールと機能美の集合体である姿に、私はデザイナーとしてではなく、ただ純粋に心を奪われていた。 ここでも湊さんが手配してくれた優先乗船で、私たちは長い列に並ぶことなくスムーズに船内へと進む。専属のバトラーだという品の良い初老の男性が、恭しく私たちを出迎えてくれた。 案内されたのは、最上階にある、特等客室。ドアが開いた瞬間、私は息をのんだ。 広々としたリビングと、独立したベッドルーム。さらには夕日に染まる地中海を見渡せる、プライベートバルコニー。洗練された空間は、まるで海に浮かぶスイートルームそのもの。 リビングのテーブルには、ウェルカムシャンパンと帆波のためのおもちゃが用意されている。バルコ
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188:シチリアの砂、マルタの蜜

 翌朝、私が目を覚ましたのは、ごくわずかな、ゆりかごのような揺れのせいだった。 一瞬、まだ夢の中にいるのかと思う。だが穏やかでどこまでも続くリズムは、紛れもない現実のもの。都会の喧騒も、車の音も聞こえない。静かな波の音と、船が水を切る微かな音だけが部屋を満たしていた。(そうだった。昨日から、クルーズ船に乗っているんだった) 私はベッドから身を起こして、厚手のカーテンへと歩み寄った。一気に引き開ける。 目に飛び込んできたのは、昨日までのローマとは全く違う鮮やかな光景だった。 突き抜けるような青空。目の前に広がる、深い深い紺碧の海。その海の向こうには、緑豊かな丘の斜面にテラコッタや黄色、白といったカラフルな家々が、まるで宝石箱をひっくり返したように密集して立ち並んでいた。シチリア島、メッシーナの港だ。 眠っている間に私たちは海を渡ったのだ。昨夜見たローマの夜景が、もう遠い昔のことのように思える。全く違う港町で、こうして新しい朝を迎える。船旅ならではの魔法のような体験だった。「ママ、パパ、うみー!」 帆波も目を覚まして、パジャマのままバルコニーへと駆け出していく。「帆波ちゃん、夏帆さん。おはよう」 湊さんはそんな娘を優しく抱き上げると、その小さな頬に朝のキスをした。◇ メッシーナの港に入った日の午前中。湊さんが手配してくれた専用車は、メッシーナの市街地を抜けて海岸沿いの道を走っていた。車窓からはレモンやオリーブの木が茂る丘と、キラキラと輝くイオニア海が見える。 私たちは観光客の喧騒から離れた、小さな入り江に面した砂浜にたどり着いた。 どこまでも続く青い空と、エメラルドグリーンから深い藍色へとグラデーションを描く透き通った海。寄せては返すさざ波の音だけが、静かに響いている。「わあ……! きれいな海」 湊さんと私は靴を脱いで、きめ細かい砂の感触を楽しんだ。秋とはいえ、南国シチリアの気温は高い。砂は温かく、海の水も心地よい。 だが帆波は違った。「ママ。おすな
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「見てごらん、帆波ちゃん。お砂はね、こうやって遊ぶんだ。サラサラ……って、ほら、お山ができた」 湊さんは小さな砂の山を作る。帆波は彼の足の後ろから、おそるおそる覗き込んでいた。「おやま?」「そうだよ。帆波ちゃんも、触ってみるかい? ほんのちょっとだけ。パパの手の上で、どうかな?」 湊さんが手のひらに乗せた砂を、娘の目の前に差し出す。 帆波はしばらく迷っていたが、小さな人差し指をそろりと伸ばした。ちょんと砂に触れる。自分の指先を不思議そうに見つめた。「あったかい」「うん、少し温かいね。気持ちいいだろう?」 今度は帆波自身の小さな手で、砂を掴んでみる。指の間から砂がこぼれ落ちていく。その感触が面白かったのだろう。帆波の顔にぱあっと、花が咲くような笑顔が広がった。「きゃっきゃっ」 楽しそうな笑い声が、静かな入り江に響いていった。 砂遊びに飽きた帆波が、今度は海を指差した。「パパ、ママ、あっちいこ!」 私たちは三人で手をつなぎ、波打ち際へと歩いていった。 寄せては返す、穏やかなさざ波。白いレースのような波の縁が、私たちの足元までやってきては、また遠ざかっていく。「きゃっ!」 波が足に触れるたびに、帆波は驚きと喜びが混じった高い声を上げた。「ほら、帆波ちゃん、波が逃げていくぞ。追いかけよう」「まてまてー!」 帆波はと叫びながら、小さい足を一生懸命に動かして引いていく波を追いかける。「おっと、転ばないようにね」 私と湊さんも、小さな体に引っぱられるようにして一緒に砂浜を走った。 太陽の光が湊さんの髪をきらきらと輝かせて、帆波の弾けるような笑顔を照らし出している。 私の右手には、この世で何よりも大切な娘の小さな手の感触。この子の向こう側には、愛する夫がいる。 寄せては返す波の音と、みんなの笑い声。 幸せな一瞬を、私は強く心に焼き付けた。◇
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