湊さんの問いかけに、私は息をのんだ。 デザイナーとしての私の魂に、まっすぐに届く言葉。 この人は私の心の奥底まで、すべて見透かしている。「私が望むのは、お客様が部屋の扉を開けた瞬間に、ほっと心の強張りが解けるような。一日の終わりに、ただいま、と帰りたくなるような……。そんな、温かい光です」 絞り出すように答えると、彼は深く頷いた。「分かりました」 彼は私の手から、ずっしりと重いカバンをこともなげに受け取る。「行きましょう、相沢さん。その笑顔を、実現するために」「えっ。でも……」「僕もクライアントです。最高のものを求める権利と、それに協力する義務がある」 彼は有無を言わせぬ口調で言うと、車の助手席のドアを開けた。「それに、あなた一人の情熱ですべてを解決しようとするのは、感心しませんね。僕は、あなたのパートナーでしょう?」 パートナー。 その言葉の響きに、胸の奥がきゅっと締め付けられた。 ◇ 深夜の高速道路を、湊さんの車は滑るように走っていく。 行き先は羽田空港だ。 彼がすぐに手配してくれた、北海道行きの早朝のプライベートジェットに乗るのだ。「あの。本当に、よかったんでしょうか」 フランス製高級車のシートに落ち着かなく座りながら、私は尋ねる。「何がです?」「湊さんのお時間を、こんな……私のわがままのために使ってしまって」「わがままではありません。最高の仕事をするための、当然の探求心です」 湊さんはきっぱりと言った。「それに夏帆さんの情熱に触れる時間は、僕にとっても何より価値のあるものですから」 横顔に浮かぶ穏やかな笑みは、いつもの王子様のものだった。 でも、もう私には分かっていた。 その仮面の下にある、決して他者には見せない熱い心の存在を。 ◇ 搭乗口で案内されたのは、
Last Updated : 2025-09-30 Read more