บททั้งหมดของ 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです: บทที่ 11 - บทที่ 20

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11:王子様の孤独

【湊視点】 きらびやかなシャンデリアが、磨き上げられた大理石の床を照らし出す。 大手銀行主催の懇親パーティーが開かれているのは、自社であるインペリアル・クラウン・ホテルの大宴会場「鳳凰の間」だ。 耳に心地よいはずのクラシックの生演奏も、目の前で繰り広げられる社交辞令の応酬の前では、ただの騒音にしか聞こえなかった。「黒瀬副社長、こんばんは。いつも雑誌で拝見しておりますわ」 甲高い声と共に、ふわりと甘い香りが鼻をかすめる。 振り向くと、大手建設会社の社長令嬢が笑みを浮かべて立っていた。 計算され尽くした上目遣いと、ドレスから覗く華奢な鎖骨。「ありがとうございます」 僕もまた、完璧な「王子様」の笑みを顔に貼り付ける。 彼女が差し出すグラスを、指先が触れないように細心の注意を払って受け取った。「インペリアル・クラウン、一度でいいから泊まってみたいですぅ。今度、ご招待してくださらない?」(また、同じか……) この甘ったるい瞳は、僕個人を見ているんじゃない。 僕の背景にある金と権力と、ホテルのスイートルームの鍵を見ているだけだ。 うんざりするほど繰り返されてきた光景に、僕は内心で深くため息をついた。 当たり障りのない返事を二、三交わしてその場を離れると、僕は逃げるようにホテルの最上階にあるバーへ向かった。 ここなら、少しは静かに過ごせる。 いつもの席でバーボンを傾けていると、カウンターの隅で一人、自暴自棄に酒をあおる女性が目に入った。(また、傷心のご令嬢か……面倒だな) 最初はそう思った。 この場所には時折、親の決めた婚約に絶望しただの恋人に裏切られただのと、お決まりの悲劇を演じる女たちが現れる。 僕のお気に入りの場所であると知っていて、わざわざ姿を見せるのだ。 自意識過剰かもしれないが、彼女もその一人だろうと思った。 でも、何かが違った。 彼女の横顔に浮かぶ絶望の色は、これ
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 彼女……夏帆さんがぽつりぽつりと語る言葉は、不器用でまとまりがない。 だがその一つ一つに、彼女の純粋さがにじんでいた。 深く傷つきながらも、相手をなじる言葉はほとんどない。ただ自分の信じていたものが崩れ去ってしまった悲しみを、一人で受け入れようとしている。 彼女は僕の肩書きを知らない。 ただの一人の男として、その柔らかな心の内を無防備にさらけ出してくれる。 その事実に、これまで感じたことのない不思議な安らぎと解放感を覚えた。 だからだろうか。 僕も思わず本音を漏らしてしまった。今まで誰にも言わなかった本心を。「僕も時々、人の真心というものが分からなくなるんです」 僕の孤独を打ち明けた時、彼女が見せたのは憐れみや同情ではなかった。 それは同じ痛みを分かち合う者だけが持つ、深くて澄んだ共感の眼差しだった。(ああ、この人だ) 心が震えた。 僕がずっと探し続けていたのは、この瞳を持つ人だったんだ。 彼女の瞳から涙がこぼれ落ちたのを見た瞬間、激しい衝動に駆られた。(この人を、守りたい) 打算も計算もない、魂からの叫びだった。 この人を守りたい。離したくない。 卑怯なやり口だと分かっていたが、自分を抑えられなかった。「――落ち着ける場所に行こうか。ここは少し騒がしいから」「ん……」 彼女はかなり酔っていたけれど、僕を見上げる視線にはどこかすがるような色があった。 その切ない瞳に、胸が締め付けられる。 スイートルームを確保して、部屋に行く。二人きりの空間で深く抱きしめれば、彼女の体温と鼓動が伝わってくる。 壊れてしまいそうなほど儚い彼女の温もりが、僕の凍り付いた孤独をゆっくりと溶かしていくのを感じていた。 深まる口づけが、絡まる吐息が理性を壊していく。 こんなやり方で彼女に手を出していいのか? という思いと、ここで必ず手に入れて、二度と手放さないという決意
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-25
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 翌朝、僕が目を覚ました時、隣に彼女の姿はなかった。 シーツに残る温もりだけが、昨夜の出来事が夢ではなかったと告げている。 テーブルの上には小さなメモと、数枚の紙幣。 そして一枚のシルクのスカーフだけが、ぽつんと置かれていた。『ごめんなさい。昨夜のことは、全て私の責任です。あなたを傷つけるつもりはありませんでした。どうか忘れてください』(忘れる……?) その文字を見た瞬間、心の中に激しい拒絶と静かな怒りが込み上げてきた。(冗談じゃない。あなたこそ、僕を忘れるなんて許さない) 無造作に置かれた現金を見る。一万円札だけでなく、千円札まで数枚交じっていた。財布の現金を全て出したのだと思われた。 彼女は金銭目当てなどではない。分かっていたことだ。(わざわざお金を置いていくなんて……) その潔癖なまでのプライドの高さに、さらに強く惹きつけられた。 残されたスカーフを手に取り、そっと顔を埋める。 ほのかに残る彼女の甘い香りが、僕の独占欲を激しく掻き立てた。「必ず、あなたを見つけ出す」◇ この数日、僕はあらゆる手段を使って彼女を探した。 だが手がかりは何もない。焦りだけが募っていく。 そして今日。 新規プロジェクトの打ち合わせで訪れたデザイン事務所で、僕は運命と再会した。 応接室に入った瞬間、そこに立つ彼女の姿を認めて、僕は驚きと――それから爆発するような歓喜で、息をのんだ。 相沢夏帆さん。 そうか、彼女は夏帆さんというのか。 名前を知った喜びに、思わず顔がほころぶ。 しかし僕の顔を見た彼女の表情は、怯えと絶望に染まっていた。(そうか……金目当てだと思われた、と) 彼女がそう誤解していると、瞬時に悟る。 僕は即座に、内面の激情を完璧に隠した。いつもの穏やかな「王子様」の仮面をかぶ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-26
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14:仕組まれた視察

【夏帆視点】 圭介との一件から1週間ほどが過ぎた。 湊さんとは、仕事の場で顔を合わせる日々が続いている。(仕事相手としては、これ以上ないくらい最高の人) 打ち合わせでの彼は、的確で協力的で、何より私のデザインを心の底から信じてくれているのが伝わってくる。 だからこそ苦しかった。 あの夜のことがなければ、もっと素直にこの人を尊敬できたのに。 彼は大勢の前では、完璧なクライアントとして振る舞う。 でもふとした瞬間に二人きりになると、私の心の壁を試すように距離を詰めてくる。 その日も、現場での打ち合わせが終わった後のことだった。「今後の参考のため、使用するテキスタイルの工房を視察したい。専門家である相沢さんに、ぜひ同行してほしい」 テキスタイルとは、生地や布地のこと。布張りのソファや壁紙もインテリアの領分だから、もちろん仕事だ。 所長や他のスタッフも一緒だろう、と私が思っていると、彼は続けた。「深い話もしたいので、2人だけで行かせてもらえませんか」 クライアントからのほとんど「業務命令」に近い響きだった。 私に断る選択肢はなかった。◇ 湊さんが運転するフランス製高級車で、私たちはテキスタイル工房へ向かった。 緊張のあまり、ハンドルの上で組まれた彼の手を見つめることしかできない。 助手席の空気がとても重い。 車中、彼はあの夜のことには一切触れずに、私のデザイン哲学やインスピレーションの源について、巧みに質問を重ねてきた。 彼の審美眼は鋭く、洞察力も深い。 話しているうちに、私はクライアントと話しているという緊張感を忘れて、一人のデザイナーとして彼との会話に夢中になっていた。 工房は緑豊かな山間の、静かな場所に佇んでいた。 湊さんの車を降りると、目の前には古民家を改装したような趣のある建物が現れる。 木の扉を軋ませて中に入れば、私は思わずその先の光景に見入ってしまった。 高い天井は
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 仕事だといことも忘れて、私はつい棚に駆け寄っていた。  指先でそっと布地に触れる。  リネンのさらりと乾いた感触、ベルベットの滑らかな毛足、それから繊細な模様が織り込まれたシルクのひんやりとした滑らかさ。  本物にしか出せない、確かな手触りがそこにあった。「このシルクは、光の当たり方で表情がまったく変わるんです。朝の光なら爽やかに、夜の照明なら艶やかに……」 仕事モードに入った私は、夢中で布地の魅力を彼に説明していた。  彼はにこやかな微笑みで私の話に耳を傾けてくれる。  途中ではっと我に返った。仕事の話とはいえ、つい一方的に喋ってしまった。急に恥ずかしくなる。「すみません。一人で喋り過ぎました」「いいえ。そんなに夢中になれるものがあるのは、素敵なことですよ」 彼は愛おしいものを見るような眼差しで、私を見つめていた。 湊さんはそう言うと、私が手に取っていたシルクに指を伸ばした。  私の手の上に、彼の手が不意に重なる。「……っ」 驚いて固まる私に、彼は低い声で囁いた。艷やかな低音が私の耳に流れ込んでくる。「このシルクのように、滑らかな肌ですね」 その言葉と熱を帯びた視線に、心臓が大きく跳ね上がる。  脳裏に蘇るのは、あの夜の記憶。失った半身を埋めるように肌を重ねた、あの夜の――。 間近で見上げれば、彼の美しくもたくましい首からあごの線が見える。 繊細で王子様のような美貌と、確かに男性であると感じられる喉仏の造形。 一瞬だけその美しさに見とれてしまって、すぐに正気に戻った。(何考えているの、私!) 私が弾かれたように手を引くと、彼は「すみません、あまりに綺麗だったので」と、いつもの王子様の笑顔に戻っていた。(この人、わざとやってる!) 計算され尽くした揺さぶりに、私は翻弄されるしかなかった。 ◇  視察を終えて、湊さんが予約してくれていた料亭で昼食をとっていた時だった。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-27
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「いえ、私は……」 突然のことに、私は狼狽して言葉を失ってしまった。  佐藤専務が私のそこまでの価値を見出しているとは思えない。彼はライバルであるインペリアル・クラウン・ホテルを追い落とそうと、プロジェクトの妨害を試みているのだ。(こんなことじゃだめだ。毅然として断らないと) 私がそう決意した時、不意に肩に温かい重みが乗った。  見れば湊さんが穏やかな笑みを浮かべたまま、私の肩を抱き寄せている。「残念ですが、佐藤さん」 彼の声は静かだった。  だが、反論を許さない迫力がこもっている。「彼女は、我々のプロジェクトの『心臓』なんです。他人に譲る気は、毛頭ありませんので」 その瞳。  以前、圭介に向けていたものと同じものだ。  ――強い独占欲の光。 佐藤専務は、湊さんの本気に気づいたのだろう。作り笑いを浮かべて、そそくさとその場を立ち去っていった。 ◇  帰り道、車内には重い沈黙が続いていた。  湊さんのあの瞳が脳裏に焼き付いて離れない。「あの……、先ほどは、ご迷惑をおかけしてしまって」 私がかろうじてそう言うと、湊さんは静かに車を路肩に停めた。  初めて見るような真剣な表情で、私に向き直る。「なぜ、あなたが謝るんですか」 彼の声は低く静かだった。「僕が言った通りでしょう。あなたはそれだけ、魅力的なデザイナーだということだ。他の男に、あなたの価値を気づかせたくなかったんですが」「え?」「圭介という男も、今日の佐藤という男も。もう二度と、あなたに近づけさせない」 彼は私の戸惑いなど意にも介さず、続けた。「あなたはもう、僕のものです。あの夜、僕たちは確かに愛し合った。誰にも渡しはしない」 それは愛の告白のように見えて、私にはそう思えない。  優しい口調に包まれた、有無を言わせぬ所有の宣言ではないか? そこに私の意志はあるの?  愛し
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17:光の心臓

 インペリアル・クラウン・ホテルのスイートルーム改装プロジェクトは、本格的に軌道に乗り始めた。  週に一度の定例会議があり、現場での打ち合わせを行う。メールのやり取りは数え切れないほどだ。  湊さんと顔を合わせる時間は、必然的に増えていった。 私たちの間には何とも言えない空気が流れていた。  仕事上のパートナーとしては、完璧な関係。  彼は私のデザインを深く理解して、私が求めるクオリティを実現するためなら、どんな協力も惜しまなかった。  その信頼は、デザイナーとして働く上で何よりの喜びだった。 でも心のどこかが、ずっと軋んでいる。  2人きりになった瞬間に彼が見せる、あの夜を思い出させるような、甘く……独占欲をにじませた眼差し。  それに気づくたびに、私は慌てて心のシャッターを下ろす。 これは仕事。それ以上でもそれ以下でもない。  そう自分に言い聞かせて、私たちはプロフェッショナルな関係を綱渡りのように続けていた。どこかで気を抜けばあっという間にバランスを崩す、そんな緊張感が常にあった。 ◇  その日のプレゼンテーションは、プロジェクトの成否を分ける最も重要なものだった。「これからご提案するのは、このスイートルーム全体の雰囲気を決定づける、最も重要な要素です」 会議室の静寂の中、私はスクリーンに一枚のスケッチを映し出した。  それは天井から吊り下げる、一つのペンダントライトのデザイン画だった。  複雑で有機的な曲線が絡み合った、芸術品のような照明。「コンセプトは、『光の心臓』です」 私の声がわずかに熱を帯びる。「私たちが目指すのは、単に部屋を明るくするための道具ではありません。空間全体を優しく包み込むような、温かい光そのものをデザインします。この照明から放たれる光が、まるで部屋の心臓の鼓動のように、お客様の心に安らぎと幸福感を届ける。そんな存在になってほしいのです」 私は一度言葉を切り、リモコンを操作して、スクリーンに照明の構造図と素材の写真を映し出した。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-28
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 続けて、光源と金属パーツの説明に移る。「光源には、色温度2700ケルビンという、リラックス効果が最も高いとされる、ろうそくの炎のような色合いの特注LEDモジュールを採用します。もちろん調光機能も。お客様がその時の気分に合わせて、明るいお出迎えの光から、月明かりのような柔らかな光まで、自在に調整できるように」 光の強さと色合いのモデルを、スクリーンに映し出す。「そして、これらのガラスと光を支える金属パーツ。コンセプトでお話しした通り、素材は真鍮です。これも既製品ではなく、一つ一つ職人の手作業によるヘアライン加工を施し、光を柔らかく反射する、落ち着いた輝きを持つパーツを作り上げます」 最後に、私は再び湊さんたちのいるテーブルへ視線を向けた。「最高の職人たちの手によって生み出される、世界にただ一つの灯り。それはもはや工業製品ではなく、アート作品に近い存在となります。各部屋に、本物の『光の心臓』を宿らせること。それが、私の目指す空間です」 これだけのものを実現する以上、当然コストは跳ね上がり、製作期間もかかる。  普通なら、クライアントが最初に顔をしかめる提案だ。 プレゼンを終えて、私は息を押し殺すようにして湊さんの反応を待った。  彼は、じっとスクリーンに映し出された私のデザインを見つめていた。  その瞳は値踏みするようなビジネスマンのものではなく、純粋に美しいものに見入っている芸術家のようだった。 やがて彼はゆっくりと顔を上げた。そして一切の迷いなく言ったのだ。「素晴らしい。これで行きましょう」 その場にいた所長やホテルの他のメンバーから、小さなどよめきが起こる。  しかし湊さんはそれに構うことなく、私にだけまっすぐな視線を向けた。「最高の『心臓』を作ってください。相沢さん」 最高の仕事ができる。喜びに心が震えた。  でも、それと同時に。  私のデザイン、私という人間を丸ごと肯定するような、彼のどこまでも強い信頼。  それに触れた瞬間、心地よさと共に背筋が凍るような、言いようのない恐ろしさを感じていた。
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19:小さな違和感

 照明についてプレゼンした日から、少しの時間が流れた。  事務所に大きな荷物が届く。送り主は、小樽に工房を構えるガラス職人の高村氏。  中身は言うまでもなく、あの『光の心臓』の試作品だった。「ついに来たわね!」「わー、すごい! 本物だ!」 所長や同僚たちが、固唾をのんで箱の開封を見守っている。  最後の一枚の緩衝材が取り払われると、美しい品物が姿を見せた。 そこに現れたのは、まるで一つの生命体だった。  朝露が今まさにこぼれれ落ちんとする瞬間を切り取ったような、滑らかでどこか不均衡な曲線。その不均衡さが有機的な印象を与えて、温かみを加えている。  3層に重なったガラスはすりガラスのような柔らかな質感なのに、その奥に真珠のような複雑な光沢を秘めている。  指示した通りに練り込まれた金粉が、部屋の照明を受けて乳白色のガラスの中で淡く、静かにまたたいていた。 それ自体が穏やかな呼吸を繰り返しているような、温かく心が安らぐかたち。(きれい……) 私のデザイン画から抜け出してきた、いや、それ以上の存在感。  まずは成功だ。心の底から安堵のため息が漏れた。 問題はここからだった。  事務所の一角に設けたテストルームで、天井から照明を吊るして電気を繋ぐ。  部屋を暗くして、私がスイッチを入れた瞬間。「おお……!」「なんてきれいなの……」 同僚たちから感嘆の声が漏れた。 それは単なる光ではなかった。  溶かした蜂蜜を空間にそっと流し込んだような、とろりとした密度の高い光。  その金色の光は部屋の隅々まで行き渡り、壁紙の織り目や床の木目を、一つ一つ優しく浮かび上がらせていく。  鋭い影はどこにもなく、すべての輪郭がふわりと柔らかくにじんでいた。  そこにいるだけで全身が温かいものに包まれるような、不思議な安心感。 誰もが見惚れるほど美しく、完璧な光に見えた。  ……そう、見えたのだ。他の誰の目にも。(違う……)
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-29
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「とにかく、私は認めませんよ!」 所長は強い口調で言って、部屋に戻ってしまった。  所長室のドアが閉まった後も、私はテストルームから動けずにいた。  美しくも冷たい光を放つ『光の心臓』が、私の頑固さを責めているように思える。(所長の言う通りかもしれない) 会社員として、これはあまりにも独りよがりな行動だ。  誰も気づかない瑕疵(かし)にこだわって、プロジェクト全体を危険に晒すなんて。  デザイナー失格である以前に、社会人として失格だ。  社会人である以上、会社の方針――予算や納期の問題――は、必ず避けて通れないもの。完璧主義にこだわって、我を通してはいけない。現実的なラインで妥協しなければならない。 頭では分かっている。  でも、心がどうしても頷いてくれない。  あの冷たい光を「完成品」として世に出すことは、私にとって自分の魂の一部を殺すことと同じだった。  お客様があの部屋で過ごす大切な時間。  その心に寄り添うはずの光が、偽物であっていいはずがない。 私はどうしたらいいんだろう?  答えの出ない問いに、胸が押し潰されそうだった。 ◇  その夜、事務所の明かりがほとんど消えて、最後の同僚が帰っていくのを見送った後も、私はデスクの前で一人途方に暮れていた。  諦めるしかないのか。  デザイナーとしてのプライドを、ここで手放すべきなのか。 ふと顔を上げる。壁に貼られたスイートルームのデザイン画が見える。  その中心で私の『光の心臓』が、理想通りの温かい光を放っていた。(……行こう。明日の始発の飛行機で、北海道へ。小樽へ) 気づけば私は立ち上がっていた。考えれば考えるほど、諦めきれない。  このまま何もしなければ、私はきっと一生後悔する。 会社に内緒で、一人であの工房へ行こう。  職人の高村さんにもう一度だけ、頭を下げてお願いしてみよう。  それでだめなら、その時は。その時はもう打つ手がない。きっぱりと諦めよう。
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