「違う……!そういうわけじゃ……」奈々美は慌てて首を振った。みるみる顔色が青ざめていく。祐一は容赦なく言葉を重ねた。「奈々美。自分の胸に手を当てて考えてみろ。もし今みたいに何もかも失うところまで追い詰められていなかったら、君はこうして俺に全てを話していたか?」奈々美は言葉を失った。唇が震え、ぽたり、ぽたりと涙が服に落ちて、小さな染みを広げていく。祐一の言葉は、氷で研がれた刃のように、彼女が心の奥底に隠していた弱さを正確に突き刺した。――その通りだった。彼女は怖くなったのだ。すべての責任を背負うことも、家族たちが離れていくことも、最後の体面さえ失うことも。こうして泣きながら訴えているのも、結局は少しでも同情を得て、自分が助かる道を探しているだけだった。「奈々美。俺は昔、本気で君を家族だと思っていた。たとえあのような両親の元で育ったとしてもな。君はわがままで、甘やかされてきた。でも俺の許容できる範囲なら、何をされても、見て見ぬふりをしてきた」「じゃあどうして由奈なんかのために、私を海外へ追い出そうとしたの?」奈々美はついに胸の奥に溜め込んでいた感情を爆発させた。「祐一さんが私を海外へ行かせようとしたからだよ!だからお母さんの言葉を信じた!おばあちゃんは私を大事に思ってないとか、祐一さんは最初から私を見下してるとか……!」祐一の表情に一瞬だけ翳りが差した。だが次の瞬間には、それも消えていた。「どうやら、もう話すことはなさそうだな。これから先は、自分でなんとかしろ」そう言って立ち上がる。「待って!」奈々美は慌てて叫んだ。「お母さんが死ぬ前、誰と連絡を取っていたか知りたくないの?」祐一の足が止まる。奈々美は椅子から立ち上がり、すがるように言った。「祐一さん、もし私を助けてくれるなら――」「全ては裁判次第だ」祐一は振り返りもしなかった。「俺にできることはない」そのまま面会室を後にする。奈々美は呆然と立ち尽くした。数秒遅れて現実を理解すると、ガラスを必死に叩いた。「祐一さん、待って!そんなのひどいよ!行かないで――!」騒ぎを聞きつけた女性警察官が駆け込み、暴れる奈々美を取り押さえる。泣き叫びながら抵抗する彼女は、そのまま部屋の外へ連れて行かれた。……警察署を出ると、麗子がすぐに歩み寄ってきた。
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