「もしご満足いただけるようでしたら、契約当日にでも部屋を空けます。いつでも入居していただいて構いません」そう言う大家の女性は笑みを浮かべていたが、その表情にはどこか切迫した色もにじんでいた。由奈にも、本気でこの家を貸したがっていることが伝わってくる。ただ――「一つ気になることがあるんです。借金があるとおっしゃっていましたよね。この家を私たちに貸したら、ご自身はどちらに住まわれるんですか?」資金繰りが苦しい状況なら、なおさら住む場所の確保を考えるはずだ。家を貸し出す以上、本人にも新しい住まいが必要になる。後々のトラブルを避けるためにも、そのあたりは最初にはっきりさせておきたかった。「あ、その点なら大丈夫です。私は学生寮に移る予定なんです。寮なら家賃はかかりませんし。それに、お二人も長期で住まれるわけではないですよね?その間に借金を返済できれば十分なので」女性は少し照れくさそうに笑い、それから真剣な表情で続けた。「安心してください。あとから理由をつけて敷金を差し引いたりなんて絶対にしません。同じ海外で暮らす者同士、言ってみれば同郷みたいなものですから」話しぶりは筋が通っていて、隠し立てもない。由奈の気持ちはかなり傾いていた。この広さなら、家賃としても決して高くはない。由奈は智宏を振り返った。「お兄さんはどう思います?」しかし智宏は返事をしない。不思議に思った由奈が、彼の視線をたどってさりげなく女性を見ると、女性もまた事情がわからない様子で二人を見比べていた。「……?」「私、この家に決めたいな」由奈は少し声を張ってそう言い、一歩下がって智宏の隣へ移ると、意味ありげな笑みを浮かべた。「お兄さんは反対しませんよね?」「いや、反対だ」智宏はゆっくりと口を開いた。女性を見つめていた視線を由奈へ戻し、落ち着いた口調で続ける。「短期契約とはいえ、この方には債務がある。差し押さえではないと言われても、この家に抵当権が設定されていない保証はない。少なくとも信用情報や所有状況を確認できる資料は見せてもらわないと」由奈は言葉を失った。――てっきり、別のことを気にしているのかと思ったのに。だが智宏の指摘はもっともだった。家が抵当に入っていて、あとから債権者が現れでもしたら、とんだ巻き添えになってしまう。女性も二人が
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