夜が更け、宿の中は明かりが煌々と灯っていた。風呂を終えた倫也が寝室へ戻り、ドアを開ける。ベッドでは紬が布団にすっぽりくるまっていた。黒い髪のてっぺんだけが覗いている。寝息も穏やかで、すっかり眠りに落ちているように見えた。ところが、倫也がベッドの端に腰を下ろした途端、布団の塊がわずかに動いた。その隙間から片目だけがひょこっと覗き、倫也をちらりと盗み見る。そしてすぐに閉じた。いかにも「寝ています」と言わんばかりに。倫也は気づかないふりをした。ほどなくベッドへ横になると、いつものように背筋を伸ばし、眠る姿勢を取る。しばらくして、紬がそっと目を開けた。布団の端を指先でつまみ、何度も瞬きをする。唇を噛みながら、しばらく迷っていた。やがて、背後から落ち着いた声がした。「寝てないのは分かっていますよ」「……やっぱりバレてた?」紬は気まず言う。「あのね……看護師さんの鈴木さんに、もう調べないでって言われたの。私、まだ調べていいのかな。これ以上続けたら、本当にあの人が死んじゃったらどうしよう……」今の紬にとっては、同僚に失望されることも、笑われることも二の次だった。それより、人ひとりの命を危険にさらすことのほうが怖い。倫也は紬を見た。相変わらず、感情を読み取らせない淡々とした声だった。「だったら、まずはなぜ彼女が態度を変えたのかを突き止めましょう。自分の命を投げ出してまで、ヤクモヘルスの調査を止めようとしたんです。きっと何か大きな理由があるはずです」「……確かに!」紬は一度嬉しそうに頷いた。けれど、すぐに別の疑問が浮かんだらしい。ごろんと寝返りを打ち、倫也のほうを向く。「でも、今は会ってくれないよ。どうやって調べればいいの?」倫也も身体を横向きにして、彼女と向き合った。「本人が会ってくれないなら、周りの人間に聞けばいいじゃないですか?」一瞬、空気が止まった。紬の口元が引きつる。視線もふっと泳いだ。――自分が頭悪いと思われたりしてないだろうか。そんな不安がよぎる。けれど、すぐに何事もなかったような顔を作った。「そ、そうだった。分かった。明日、聞いてみるよ」そう言って目を伏せる。布団に半分顔を埋め、覗いているのはくるくる動く瞳だけ。何も言わなくても、彼女が考えていることまで倫也には手に取るように分
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