椅子に腰を下ろした祐一は、まだ血色が戻っていない母の顔を見つめた。喉が何度も上下し、ようやくかすれた声を絞り出す。「母さん……ごめん」かつて母に対してわだかまりを抱いたこともあった。だが、母が昏睡状態に陥っていたこの長い日々の中で、その感情はもう消えていた。自分は母の期待を裏切ったし、傷つけもした。それでも、母の望む人生をそのまま生きることはできなかった。だからこそ、謝ることしかできない。そんな言葉を聞けば、母は少なからず感情を揺さぶられるのではないかと祐一は思ったが、違った。彼女はただ静かに首を横に振る。そして力を振り絞るように腕を持ち上げ、震える手を祐一へ伸ばした。続いて傍らに立つ将平へ視線を移し、親子二人の顔を何度も見比べる。やがて視線は再び祐一の顔に戻り、その目にゆっくりと涙が滲んでいった。祐一は身を乗り出し、点滴のせいで少し冷たくなった母の手を包み込む。「俺も父さんも、しばらく病院で母さんに付き添うから」千代はまぶたをぱちぱちと動かした。――違う、そうじゃない。だが祐一たちはどうやら自分の言いたいことを理解していないらしい。千代は諦めたように目を閉じた。もういい。今は無理に伝えようとする気力もなかった。……栄東市。青ヶ丘。由奈が玄関の扉を開けた瞬間――パンッ!クラッカーが弾け、色とりどりの紙テープが頭上から降り注いだ。思わぬ歓迎に、由奈はその場で固まる。まだ状況を飲み込めないでいると、澪と、クラッカーを鳴らした少年が満面の笑みで迎えていた。改めて室内を見回すと、両親と兄だけではない。秀雄一家に加え、澪まで顔を揃えている。そして由奈は、このとき初めて秀雄の息子――光俊と対面した。秀明は得意満面で秀雄たちを振り返る。「ほら見ろ。うちのお姫様はちゃんと帰ってくるって言っただろ?」秀雄は苦笑した。「分かった分かった。今回はお前の勝ちだ。今夜の酒、俺の奢りだ」「今日何かイベントでもあるんですか?ずいぶん盛大ですね」由奈は肩や髪についた紙テープを取りながら尋ねた。澪も近寄り、髪に絡んだテープを外してやる。「だって由奈お姉ちゃんが今日帰ってくるって秀明さんが言ってたから。盛大にお迎えしないと」その間に光俊は母親の茜のもとへ戻った。茜は由奈に柔らかな笑みを向ける
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