倫也のチームのメンバーは、倫也の反応をうかがっていた。ヤクモヘルス側としては、気取らない形でもてなそうとしているのだろう。とはいえ、倫也がこういう店で食事をするかどうかは別問題だ。それに、彼が極度の潔癖症だということを、ヤクモヘルス側は知らないはずだ。――このような居酒屋なんて、普段なら絶対来ないだろう。そう思って、チームの一人が口を開こうとした。ところが、倫也はあっさりと言った。「ここで大丈夫です」「では、どうぞこちらへ」部署の幹部が笑顔で椅子を引く。倫也が腰を下ろしてから、ほかのメンバーも次々と席についた。店員がおしぼりを差し出す。倫也は受け取ると、黙々と手を拭き始めた。それからふと顔を上げ、少し離れたところにいる一団へ目を向ける。紬と目が合った。彼女は反射的に視線を逸らす。「ねえ、あの人って医薬総合研究所の白石さんじゃない?」「そうそう。やっぱかっこいいよね。恋人がいるのかな」何人かの女性社員が、すっかり浮き足立っている。紬はすかさず口を挟んだ。「婚約者がいるらしいよ」その一言で、女性陣の夢はあっけなく砕け散った。とはいえ、憧れが消えるわけではない。「いいなあ、婚約者さん。羨ましい」「分かる。毎朝こんな顔を見ながら目覚められたら、それだけで幸せだね」紬は平然を装っていたが、内心はすっかりかき乱されていた。ちらちらと、向こうの倫也へ視線を送る。――毎朝、あの顔を目の前にして目覚めるって、どんな感じなんだろう。そんなことを想像しているうちに、妙な気分になってきた。普段あれだけ隙のない男が、ベッドの上ではどんな顔をするのだろう。考えれば考えるほど、なぜか胸が騒ぐ。そして――ついには、くすっと笑い声まで漏れてしまった。「……?」上司や同僚たちの視線が、一斉に紬へ集まる。もちろん、倫也たちのテーブルからも視線が向けられていた。周囲が急に静まり返り、皆が自分を見ていることに気づいて、紬はようやく我に返る。慌てて口元を拭い、俯いた。「……失礼しました」倫也は指先で、テーブルをとん、とん、と間を置きながら叩いていた。やがて料理が運ばれてくる。周りに勧められると、倫也はやんわり断った。「皆さんは先に食べてください。私はまだお腹が空いていないので」倫
Read more