All Chapters of 異世界に子供の姿で転生し初期設定でチートを手に入れて: Chapter 1 - Chapter 10

52 Chapters

1話 異世界で初期設定をしたらチートを手に入れた

  深夜近く、二十代半ばの青年は、ようやく仕事を終えた。全身から力が抜け落ちたような疲労感が体を支配し、アパートへ向かう足取りは重い。まぶたは鉛のように重く、こじ開ける気力すら湧かないまま、寝室へ直行する。ベッドに身を投げ出すと、うつ伏せのまま、意識は急速に遠のいていった──まるで深い水底へと沈み込むかのように。 しかし、次に彼が目を開けたとき、そこは馴染みのアパートではなかった。視界に飛び込んできたのは、木造の小屋と見紛うばかりの広々とした部屋だ。壁は重厚な石のブロックで築かれ、見慣れたものは何一つ存在しない。「……今、寝たばかりだったよな……もう目覚めたのか? もう……朝なのか? はぁ……仕事に、行かないと……。ツラいが……起きないと……」 まだ夢の続きを見ているのだろうか。そう思いながら、彼はゆっくりと周囲を見回す。部屋全体から漂うのは、中世を思わせる古めかしい雰囲気。埃っぽい匂いが鼻腔をくすぐり、湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。ベッドの他には、空っぽの棚がぽつんと置かれているだけだった。 困惑が胸に広がる中、ベッドから降りようと足を床に伸ばす──だが、足は届かない。「……え?」 視線を下げると、そこには見慣れない小さな手が二つ。腕も、体全体も……まるで幼い子供のようだ。驚きと混乱が入り混じった感情が、胸の奥で渦巻く。「なんだこれ……夢なのか? ……夢、だよな? 寝たばかりのハズだし……」 半信半疑のまま外へ出てみると、そこは深い山の中だった。見渡す限り、果てしなく広がる鬱蒼とした森林と、威容を誇る大きな山々。鳥の声だけが木々の間で響き渡り、人の気配は、どこを探しても見当たらない。 頬を撫でる穏やかな風は、春か秋のような心地よさをもたらす。寒すぎず、暑すぎず、まさしく過ごしやすい気候だ。木々の葉擦れの音が耳に心地よく響き、土の匂いがふわりと香る。ふと近くを見ると、ちょうど腰を下ろすのに都合の良さそうな倒木が目に留まった。 そよ風が頬を撫でるように触れ、土と草の香りと降り注ぐ太陽の日差しの眩しさに温かさを五感に感じる、この感覚が妙に現実味を帯びて生々しい。 深い溜息を一つ吐き、彼はそこに腰を下ろす。混乱しきった頭で、状況を整理しようと試みた。 まず、ここは一体どこなのだろうか。 薄汚れた鏡で自分の姿を確認したときから薄々気づいてい
last updateLast Updated : 2025-09-24
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2話 魔法の実験と、隠された力

──ん?「っていうか、魔力って何だ?まさか、魔法が使えるのか?」 ただの数値ではなく、実際に魔法が行使できるというのか? 設定で決められるということは……これはさらにチートが確定したということではないか! 彼の胸中に、興奮と困惑が入り混じった感情が湧き上がった。「他の人も、初期設定で決められるのか?」 疑問が次々と頭をよぎるが、次の瞬間、さらに驚愕の項目を発見する。「……え!? 所持金も設定で決められるの?」 ここまできたならば、もう迷う必要はない。もちろん、これも最大で設定するに決まっている。とうぜん、無いよりあった方が良いだろ。 だが、もしこの世界のルールが本当にそうなら……この世界、一体どうなっているのだろうか? 自由にステータスを決められるのであれば、世界全体のバランスはどう保たれているのか? ひょっとしたら、自分以外にも強大な力を持つ存在がいるのかもしれない。「……まぁ、普通に考えれば、こんな能力を持つのは自分しかいないと思うが、念のため警戒はしておこう」《初期設定が受理され、設定が適用されました》 目の前のスクリーンに、設定が適用されたと明確な通知が来た。(え? あの……馬鹿げたチート設定が、本当に認められてしまったのか!? まさかなぁ……) しかし、この現実感が、彼に疑念を抱かせた。背筋にひやりとしたものが走る。 ♢魔法の威力と新たな狩りの手段「それで、魔法って……本当に使えるのか?」 使い方も何も分からない。しかし、試してみるしかないだろう。まずは、害のなさそうな水や風からだ。「水……水……」と、彼は心の中で強くイメージする。 手のひらに意識を集中させ、頭の中で水の存在をより鮮明に描き出す。手のひらがじんわりと熱を帯びるような感覚があった。 その瞬間──彼の手のひらの上に、ぷるんとした水球が姿を現した。透明で、光を反射してきらきらと輝いている。「へぇ……こんなに簡単に魔法って、できるものなんだな……。さすがは能力最大値!」 驚きを隠せないまま、彼は次にこの水球を近くの木に当ててみることにした。 今度は、水球が木に命中するイメージを強く思い浮かべる──すると、 ぽんっ。 水球はふわりと山なりに飛び、木にばしゃりと当たった。水滴が飛び散り、葉の表面を濡らす。「お、なんとか成功……。でも、これじゃ攻撃にはな
last updateLast Updated : 2025-09-24
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3話 彼の好奇心と、魔法の実験

 新たな試みが始まる。剣の刃全体に魔力をコーティングし、切れ味を劇的に向上させる──さらに刃が欠けないよう強化する。 そうイメージし、試しに切ってみると── スッ…… あまりにもスムーズに、まるで豆腐を切るかのように木が裂けた。木を切る時の抵抗がほとんど感じられない。「うおぉ……す、すげぇ! 簡単に切れた……!」 手応えすら感じないほど、あっさりと断ち切れる。これならば、薪には当分困らないだろう。「あ、剣に魔力のコーティングができるなら……石にもできる?」 もし石を強化できれば、もっと強力な遠距離攻撃が可能かもしれない。 試しに、砕けないよう魔力をコーティングし──撃つ! ターゲットは近くの大きな岩だ。 ズガァン!! 石弾は岩を貫通し、そのまま砕け散って遠くへ飛んでいった。岩には穴がぽっかりと開き、その向こうには青い空が見える。「おぉ……!」 威力は申し分ない。しかし、ここに来てわずか数時間で強くなりすぎた気がする……。「……まぁ、この世界に来て数時間で、ここまで強くなれるなら……他にも同じ能力の人がいるなら普通なのかもな?」 考えても答えが出ないことを悩んでも仕方がない。「それなら今は、面白いから色々と試してみよう!」 彼はそう思い立ち、遠距離射撃を試みる。山の方に見える大きな木を的にしよう。 先ほどの強化した石のイメージで──撃つ!(……あ、外れた。ちょっと、遠すぎたか……) 悔しさがにじむ。距離の問題か……弾の安定か?「……命中精度を上げるなら、ライフリングとか?」 弾を回転させることで、まっすぐ飛ばす役割を果たすはずだ。確か、ライフリングの溝が弾を回転させ、弾道を安定させるんだったか?「ライフリングがなくても、弾自体を回転させればいいのか……」 新たなアイデアが浮かび、次の実験へと彼の気持ちが高まる──!「ライフルの弾の形状を……イメージする」 次の瞬間、彼の手のひらに現れたのは、ただの石ではなく──鉄っぽい金属の素材だ。しかも、しっかりとライフルの弾の形状になっている。表面は冷たく、ずしりと重い。 重さがあれば威力も上がり、弾自体も風邪などの影響を受けにくくなるか。普通なら弾を飛ばすエネルギーの問題が出てくるが、魔法だし問題ないだろ。「おぉ……これは期待できる!」 魔力を込め、狙いを定めて──撃つ
last updateLast Updated : 2025-09-24
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4話 最強の魔法と、伝説の存在の目覚め

 目を瞑り、魔力を広げて周囲を探る──すると、魔力の感触を通じて、微かな生命の気配を感じ取った。まるで空間に魔力を展開し、索敵するレーダーのようだ。微細な振動が脳に直接伝わるような感覚に、彼は驚きを隠せない。「おっ……いた!!」 気配の源は、向かいの山の奥。もっと詳細に確認しようと意識を集中すると──彼の目に魔力がこもり、視界が一気に拡張された。遠く離れた場所でもはっきりと見えるようになり、獲物の姿が鮮明に浮かび上がる。「……ウサギか」 狩りには最適な獲物だ。ライフル弾をイメージし、小さめの弾を作り出す。 狙いを定め──撃つ!! バスッ!! 弾は見事にウサギの頭に命中した。遠くからでもその衝撃が伝わってくるようだ。「……完璧だな」 しかし、遠距離射撃は楽しいが、問題は回収だ。「取りに行かないと……でも、かなり距離があるよな。山を下って向かいの山に登って……獲れた獲物の捜索とか面倒すぎるだろ。時間と労力がかかりすぎるな……」 そこで新たな発想が彼の脳裏をよぎる。「飛行……できるんじゃないか?」 この世界なら、何でもありな気がする。試しに──重力をカットし、風魔法で移動するイメージを強く持つ……。 すると、彼の体がふわっと宙に浮いた──地面から足が離れる感覚に、思わず息を呑む。「おおぉ!!」 本当に飛べた。驚きながらも、彼は周囲を警戒しつつ、目的の獲物を回収に向かった。風が顔を撫でる感覚が、現実に起こっていることだと物語っている。「……でも、これ目立つから、早めに戻ろう」 探索魔法で周囲を探る──すると、魔力の流れの中に、微かな、しかし明確な不穏な反応が引っかかった。それはまるで、静かな水面に突然、巨大な石が投げ込まれたかのような波紋
last updateLast Updated : 2025-09-25
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5話 最強の力と、最強のドラゴン

「……偶然、魔物や魔獣に出会わなかっただけです」 ドラゴンが目を細める。その瞳には、明確な不信感が宿っていた。低いうなり声が、彼の足元から響く。「そんなわけがないだろう!」 強く言い返されても、どうしようもない。実際本当に、偶然出会わなかっただけなのだから。彼はただ、小さく肩をすくめることしかできなかった。 しばしの沈黙が流れた後、ドラゴンはふっと鼻を鳴らした。その仕草は、どこか諦めにも似ていた。「まぁよい。久しぶりの客人だ。遊んでやるとしよう」「……え?」 その言葉を聞くや否や── 強烈な尻尾の一撃が、彼の体を襲った。風を切る音が耳元を掠め、一瞬で視界が反転する。 吹き飛ばされ、彼は洞窟の壁に激突する。大きな衝撃音とともに、壁には穴が開くほどの威力だった──が、 ……かすり傷ひとつない。 彼は立ち上がりながら、自身の状態を確認する。服に土がついている程度で、痛みも全くない。全身に満ちる力が、彼を安堵させた。「ふぅ~ん……さすが能力値すべて最大だな。あの攻撃を受けても無傷か……」 ドラゴンの瞳が、驚きと共に鋭く光る。その漆黒の目の深紅色の瞳孔が、僅かに収縮した。「多少は手加減したが……無傷とはな。貴様、本当に人間なのか?」 彼は少し困惑しながら、肩をすくめる。この状況で、どう答えるのが正解なのか。「……人間のはずですが?」(なんか面倒になってきたな……) そう思いながらも、ふと、もっと根本的なことに気づく。「……って、ドラゴンが言葉を話すのか!?」 今更ながら、その事実に驚愕する。自分に翻訳スキルがあるのか、それともドラゴンが本当に人間の言葉を話しているのかは分からない。だが、不思議と恐怖心はない。
last updateLast Updated : 2025-09-25
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6話 彼の日常と、新たな出会い

 今日は、先ほど仕留めたウサギのような獣を捌き、串に刺して焼くだけのシンプルな食事だ。塩もない。コショウもない。肉が焼ける香ばしい匂いが漂うが、どこか物足りない。 味は、悪くはない。だが、美味いというほどでもなく、どこか物足りなさが残る。アイテムボックスを確認すると、保存されたパンがあったので、それを食べて食事は終了した。 他にやることもない。外は徐々に闇に包まれていく。遠くでフクロウの鳴き声が聞こえる。「……寝るか」 ベッドに横になり、ゆっくりと目を閉じた。一日の疲れが、重い瞼の奥で意識を沈めていく。 翌朝、彼は魔法でブロックを作り出し、それを運びながら積み上げていく。しかし、壁が高くなるにつれて、想像以上に体力を消耗することに気づいた。額に汗が滲む。「……これ、思ったより大変だな」 そこで、ふと考える。「魔法で物体を移動できるなら……もっと効率よくできるんじゃ?」 試しに、イメージの力だけでブロックを移動させてみる。すると──簡単に成功した。ブロックは彼の意のままに宙を舞い、所定の位置に収まっていく。物理的な重みが一切感じられない。「これならラクだ……って、待てよ? ……部屋そのものをイメージで作れるんじゃ?」 昨日の時間と労力を無駄にした気もするが、物体の瞬間移動が自在にできるようになったのだから、良しとしよう。彼は少し自嘲気味に笑った。 ついでに浴室も作った。湯気が立ち上るような浴室と浴槽の前世のイメージが、彼の頭の中に浮かぶ。 二階の高さに給水タンクを設置し、魔法で水を満たす。貯水式にすれば、わざわざ水を汲みに行かなくても済む。さらに配管を通し、キッチンと風呂場、そして外にも繋げる。外の水は、獲物の解体時に使うかもしれないので、念のため用意しておいた。 作業はスムーズに進み──「ふぅ……1時間で完成か」 想像以上に早く、快
last updateLast Updated : 2025-09-25
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7話 悪党の討伐と、三人の少女の救出

「後で面倒事にならないかな……?」 彼は拠点の状況を見ながら、冷静に考える。 この世界の法律や常識は分からない。元の世界であれば、子供を拘束し監禁する行為は明らかに違法だ。 だが、もしこれが合法で、奴隷商の活動だったとしたら──商品を略奪した自分が悪者になってしまう可能性もある。「助けるにしても……俺は捕縛魔法はまだ使えないしなぁ……」 今のところ、習得している魔法は殺傷力が非常に高いものばかりだ。子供を捕らえている状況を見る限り、相手は悪者だろう。「討伐しちゃってもいいかな? それに、俺が許せないし……」 バレなければ問題ないか。周囲には誰もいないし、見られているわけでもない。 だが、人を弾丸で撃つことには抵抗がある。人助けのためとはいえ、人を殺してしまったら、この世界でどう扱われるか分からない。「助けた子供に、自分が殺したと報告されても困るしな……」 さらに、狙撃して外した場合、騒ぎになれば状況が悪化する可能性もある。確実に、そして誰が殺したのか分からない方法を考える必要がある。 そこで、ふと思いつく。「探索魔法を人体にかけて、心臓を転移させれば確実だけど……」 一気に5人の心臓が消える。あり得ない状況だが、確実に仕留められる。「でも……検死とかあったらヤバいよな……?」 知らないことを考えても仕方がない。だが、心臓を取るのはやめておこう。「それに……取った心臓をどうするよ? ……気味が悪いし、止めておこう」 だったら……代わりに、心臓の中に小石を転移させる方法を思いつく。これなら確実に仕留められる。「よし、これにしよう!」 彼はしゃがみ込み、足元の土に埋もれた小さな石を一つ拾い上げた。手のひらに乗るほど小さなその石をじっと見つめ、悪党たちの心臓を思い浮かべる。 「よし……」 彼は静かにそう呟くと、魔法を発動させた。 その瞬間、小屋の中と外にいた男たちの胸が、まるで何かに突き上げられたかのように、同時に一瞬だけ
last updateLast Updated : 2025-09-25
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8話 三人の少女と、新たな日常へ

 金髪のショートヘアに金色の瞳を持つ少女はエル。セミロングの茶色い髪と瞳の少女はステフ。そして、淡い紫色のセミロングヘアに透き通るような紫色の瞳をした少女はブロッサム。 ここでゆっくりしていると、悪党の仲間が来る可能性がある。それに、死体のある場所に長居をしたくはない。(……家に連れて帰るか。徒歩だと2、3時間の距離だし、歩くしかないな) 彼はそう心の中でつぶやくと、念のため探索魔法で周囲に人がいないか確認する。異常なし。ただ鳥のさえずりが、静かな森に響いているだけだった。「ボクは近くの町や村を知らないから、送り届けるのはムリなんだけど……ボクの家に来る? それともここでお別れする?」 少女たちは、ほぼ即答した。その瞳には、期待と不安が入り混じっている。「「「家に行きたいです!!」」」 その声に、彼は小さく微笑んだ。そしてアイテムボックスから水袋を取り出し、一人ひとりに手渡して水分補給をさせた。冷たい水が、子供たちの喉を潤していく。「2、3時間歩くけど大丈夫? 途中で休憩してもいいけど」「「「大丈夫です!」」」 問題なさそうだ。 歩きながら、ふと気になったことを聞いてみる。「ちょっと遅くなったけど、ボクは”そら”だよ。山の中に住んでて人と会うことがなくて気になるんだけど……魔法って使える?」 エルは元気よく答える。瞳を輝かせ、自信ありげな表情だ。「うん。魔法は少しなら使えるよっ!」 ステフは少し控えめな様子で、視線を泳がせる。「魔法は、ある程度なら……使えます……」 ブロッサムは落ち着いた口調で、穏やかな表情を見せる。「わたしも、ある程度は使えますわ」 彼はさらに聞いてみる。「どの程度、魔法を使えるのかな?」 エルが答える。「えっとねぇ、学校のクラスでは
last updateLast Updated : 2025-09-25
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9話 少女たちの決断と、家族の誕生

 彼は塩の味、そしてその白い粒々とした形状を強く思い描く。口の中に広がるしょっぱさ、指で触れたときのザラザラとした感触まで、鮮明にイメージした。 次の瞬間── テーブルの上にバサッと白い塊が出現した。それは紛れもない塩だった。触れるとひんやりと冷たく、指先で砕くとサラサラと心地よい音がする。「よし! これでだいぶ食事が美味しくなる!」 すぐに塩を保存するための箱もイメージして作り出し、塩を仕舞っておく。木製の小さな箱は、湿気から塩を守るため、蓋もしっかりと閉まるようにした。(あとは……野菜がないな)「明日にでも採集に行こうか……って、山には野菜はないか。あるとしたら山菜、山芋、サツマイモ、里芋……芋ばっかり思いつくな。久しぶりにジャガイモとか食べたいなぁ」 元の世界で食べていたジャガイモのホクホクとした食感を思い出し、一瞬、懐かしさに浸る。この世界でも、いつかそんな食事ができるだろうか。 すると、ステフが静かに口を開いた。その声は控えめながらも確かな意志を宿している。「わたしが調理をしてスープを作ります」 彼女の申し出に、そらは顔をほころばせる。「ありがとう! 頼むね! ステフ」 彼の言葉にステフが嬉しそうに頷き、恥ずかしそうに視線を逸らした。 キッチンを作っておいて正解だった。これならもっと美味しいものができそうだ。必要そうな物の準備を済ませ、ふと周囲を見渡す。 子供たちがカマドで料理を手伝ったり、薪拾いをしたり──それぞれが懸命に働く姿は、まるで小学校の自然教室のようだ。たった一日前までは見知らぬ同士だったのに、まるで家族のように自然に溶け込んでいる。「こうして見ると、ちょっと微笑ましいな……」 そんな中、料理に参加していなかったエルが外から戻ってきた。頬を紅潮させ、息を切らしている。「山菜を採ってきたよっ! にひひぃ~♪」 彼女の手には、いくつかの青々とした山菜
last updateLast Updated : 2025-09-26
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10話 最強のペットと、少女たちの困惑

 ブロッサムが目を丸くして叫んだ。その声には、信じられないという感情がにじみ出ている。「お風呂があるの?! 普通、お風呂なんて貴族の屋敷くらいにしかないわよ!」 その反応に、そらは軽く肩をすくめた。この世界の常識とはかけ離れた設備なのだろう。「まぁ、うちのは手作りだから!」 屋敷のお風呂は職人が作り、豪華なものだろう。だが、ここで作った風呂は魔法で組み立てただけの簡素なものだ。しかし、この簡素さも、異世界では贅沢なのだろう。「お湯はどうしたのよ?」 驚きを隠せないブロッサムが、前のめりになり尋ねる。大量の湯をどう確保したのか、気になっているようだった。「魔法で水を出して、魔法で温めただけだよ」 ここで変に誤魔化しても、今後一緒に過ごす可能性がある。そらは正直に説明することにした。「……魔力が普通は持たないと思うけれど?」 ブロッサムは頭の回転が速く、気になることはすぐ聞くタイプらしい。じっとこちらを疑うような視線を向けてくる。彼女の瞳には、理論的な思考が透けて見えた。(えっ、そんなことで魔力が枯渇するのか……そりゃ不便だな) そらの魔力量は膨大で、まだまだ余裕がある。しかし、それを悟られると面倒なことになりそうだ。彼の能力は、この世界の常識をはるかに逸脱している。「今日は特別だよ。頑張ってくれたみんなの為に、ボクも頑張りました!」 あえて曖昧な言い方でごまかす。 そのとき、エルが嬉しそうに微笑みながら言った。その素直な感謝の言葉が、そらの心に温かさを灯す。「ありがとね、そらくん!」「うん。ちょうど遠くに狩りに行く予定もあったし、風呂の準備もしておいたんだー」 そらも微笑みを返し、続けて言う。「着替えも用意しておいたから、よかったら着てね」 ブロッサムは気になったような表情をしたが、言葉にはしなかった。彼女の瞳は、まるで何かを推し量るように、そらの手元や顔を、一瞬見つめていた。
last updateLast Updated : 2025-09-26
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