All Chapters of ポンコツ悪役令嬢の観察記録 ~腹黒執事は、最高のショーを所望する~: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話 私はあなたを見ないと気分が悪くなる(後半)

「でね、ベアトリーチェ様ー! 聞いてくださいよー! 今日の歴史学の講義でですね、先生が!」 それから、何日経っても……変わらない。 すっかり友達だと言う顔をして。今日も、わたくしの隣に座ると、楽しそうにおしゃべりを始めるルチア。「へえ、それで?」「それでですね! ツェツィちゃんが、うとうと……なんと居眠りしてて! 先生にはバレなかったけど、指摘したらすっごく可愛い顔で、むくれてたんですよ!」 口から語られるのは、宰相令嬢ツェツィーリア様の、可愛らしい日常。本当に仲がいいのだわ。 わたくしには、決して見せない。……ツェツィーリア様の色んな一面。「ルチアは……」「はい?」「わたくしと一緒にいても、よろしいの? ツェツィーリア様が、怒らないかしら」「うーん、怒る、というか、すねちゃいますね」 すねる。あの、ツェツィーリア様が……。想像がつかないわね。「でも、ほら。ツェツィちゃんには、お友だちがいっぱいいますから。大丈夫です!」「……わたくしを、ナチュラルに“ぼっち”扱いするんじゃありませんことよ!」 本当に、この子は、デリカシーというものを、どこかに忘れてきてしまったのかしら!「でも、好きな人同士の仲が良くないからって、わたしまで喧嘩する必要は……ないじゃないですか」「理屈は、正しいと思うけれど。人の気持ちというものは、そう簡単にはいきませんのよ。……それぞれ、立場というものもありますし」「うーん。でも、わたしにとっては、どっちも大事な友達だから」 難しいことを、簡単に言ってのけるのね、あなたは。 でも、一度、こじれちゃったら、なかなか元には戻らないわ。そう、わたくしみたいに、ね。「あ、もしかして! ……わたしと、ツェツ
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第52話 その、歩み寄るような速さが、嫌い

「時間はとらせない。少しだけでいい。話を聞かせてくれ」「既に、飽きるほどお答えしました。……もう、たくさんだわ」「図書館での件ではない。その前の……エイデンの森。『化けウサギ事件』の件だ」 まだ、調べているのね、このしつこい御方は。 でも、殿下の資料は、もう灰になってしまったはず。それに――。「そもそも。あなた様に、事件を捜査する権利がおありになるのかしら?」 すると、バージル殿下は、痛いところを突かれた、という顔をした。「調査は、陛下の名の下で、専門家が合同調査委員会を立ち上げ、厳正に行っているはずですわ。王太子とて、法を無視して、一介の学生を取り調べることができようはずもありませ「そのような、つもりは……」「『図書館事件』当夜は、緊急時につき、特別にご協力いたしましたけれど。今は、その必要はございませんわね。これ以上は、父を通してくださいますこと?」「……ずいぶんと、口が回るではないか。あの夜とは、大違いだな」「ええ。まだ日も高く、わたくしの頭も冴えておりますので。おほほほ」 皮肉の応酬。火花が散る。やはり、仲良くなれる気がしないわ。 本当に、この御方は時間を、“少しだけ借りる”程度のつもりでいる。自分の都合やタイミングだけで。 これが許される立場だと、微塵も疑っていない。その、傲慢なほどの無邪気さが、無性に、癇に障るのよ。 「今は、お友だちと、お茶を楽しんでいるところですのよ。紳士の自負があるならば、無粋な真似はおよしになってくださいますか」 「お友だちってわたしのことですか!」とルチアが喜びの声を上げる。お願いだから、今は黙ってて! すると、バージル殿下は、どこか気まずそうに視線を彷徨わせた。「……君のあの、指揮能力について。どのような意図があったのか、それを尋ねたかったのだがな」「さあ、何の話でしょう。いずれにせよ、お答えしかねます。
last updateLast Updated : 2025-11-15
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第53話 貴族のコラール、畏怖と威風(前半)

 ローラント殿が「バージル殿下! だから、そのような言い方はっ!」と、悲鳴に近い声で窘めているが、もう遅い。そう、もう、何もかもが、遅すぎるのですわ。 吐いた唾は戻らぬと、言うでしょう?「あら、そうですの。では、こうお答え差し上げますわね。わたくしも“あなたのことが好きだ”とは、最初から、ただの一度も、申し上げたことはございませんわ」 サアッっと、温度が下がった気がした。 誰も、声を発しせない。ええ、わたくし以外は、ね。「今まで不可解でしたけれど、そういうことでしたのね。でも、おあいにく様。……わたくし、殿方のエスコートを得るために、頭を下げるような女じゃございませんの」 歩み寄ってやるから、都合の良い理解者になって、縋りなさい。そんな、傲慢な慈悲なら、こちらから願い下げですわ! パチン、と扇を閉じると、踵を返す。「あっ」とルチアが声を上げたが、もう、取り合うことはできなかった。「お話は、よくわかりましたわ。夜会のエスコート役が必要だ、と。ならば、わたくし自身で、素敵な殿方を、探すことにいたします」「ま、待つのだっ!」 公衆の面前での、不敬。多くの生徒がいる中で……明らかな反抗。 でも、もう止まらない。止まりたくも、ない!「――どうぞ、お・か・ま・い・な・くっ!」 もう、“穏便に”だなんて、甘ったれた考えは、綺麗さっぱり、消え失せてしまったのだからっ!*** そんな王立アカデミーでの、大舌戦の後……。 わたくしは、父の書斎に呼び出された。おそるおそる扉をノック。(うう……アカデミーでの公然たる不敬。さすがに、今回はパパも、本気で激怒。雷が落ちるに違いないわ……) 勘当……は、流石にないと思いたいけれど。 少なくとも、謹慎。いえ、どこか人里離れた修道院
last updateLast Updated : 2025-11-16
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第54話 貴族のコラール、畏怖と威風(後半)

「よいか。ベアトリーチェ、心に刻め。我ら貴族にとって、何より重いのは“格”だ。己が死しても、これだけは守らねばならぬ」「格、ですか?」「そうだ。相手が王太子であれ、果ては王であれ。公衆の面前で、我が家の――シャーデフロイの格式を、貶められたなら。決して、一歩たりとも退いてはならん」 含まれるのは、わたくしへの……期待。思わず、ごくりと喉を鳴らす。「貴族が時に、苛烈な毒で報復するのはなぜか? それは“この一線を越えれば、貴様を噛み殺す”と、己が鱗に刻むためよ。むやみに牙を剥くは下策。だが、牙のない蛇は生きられぬ。家族、領地、臣民を守るための武器と鎧。それこそが『|畏怖と威風《Furcht und Macht》』」「|畏怖《いふ》と|威風《いふう》……」 初めて聞く、壮絶な音色のフレーズ。 普段の、わたくしを甘やかすパパからは、想像もつかない。「そうだ。これこそが何世代にも渡り、我らが流してきた“血の重み”によって築き上げた、目には見えぬ、最大の“資産”――即ち、“格”なのだ」「え、えっと……じゃ、わたくしは、謝ったりしては、いけなかったのでしょうか?」「頭を下げる、という行為はな。無論、必要な時もある。だが、それは“格”のある者が行うからこそ、千鈞の重みを持つ。“格”を持たぬ人間の謝意など、政治においては、道端の塵と何ら変わらん」 あまりにも。そう、あまりにも厳しく、そして、血塗られた薫陶。「ですが、わたくしは殿下に、不敬な態度を……」「不敬と紙一重の決断も、時に選択肢となりうるのだ。我らが頭を下げるのは、責任を取る時。あるいは、意図的に譲歩する時だけだ。……決して、嘗められて、頭を垂れるのではない」「なら……お父様も、必要な時は頭をお下げにな
last updateLast Updated : 2025-11-17
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第55話 カメラ・オブ・スクラは心臓捕らふ(前半)

 ぽん、と大きな手が、わたくしの頭の上に置かれる。 ゴツゴツの手のひら、この温かさ。……なんだか、涙が出てきてしまいそう。「うう……わたくし、パパの、娘で、よかったですわ……」「大げさな奴だ。ひとまず、及第点にしても――家門の“誇り”をよく守った」「はいっ!」 ああ、パパの目には、シャーデフロイの令嬢として“誇り”を守り抜いた振る舞いに、きちんと映っていたのね。「……たまには、息抜きも必要だろう。明日、アカデミーは休め。せいぜい、羽を伸ばすがいい」 ぶっきらぼうな優しさが、なんだか無性に嬉しくて。 その後、「だが、もっとやり方は考えろ」「あと、ママに心配をかけるな。いいな! くれぐれもな!?」とか、色々、こまごま注意もされちゃったけれど。 思ったよりも、ずっとずっと、あっさりと書斎から解放されたの。(やったぁあああっ、屋敷のみんなと離れなくていいんだわっ!) 実感とともに、喜びがこみあげて来て。わたくしは溢れんばかりの笑顔で、場をあとにする。 ただ……去り際に、パパがなにかを吐き捨てた。「にしても。せっかく、あの夜。あえて貸しを作ってやったと言うのに。……なにも生かせぬとは、あの青二才めが」 でも、よく聞こえなかったし、気にすることでもないと思うわ。たぶんね。***「――というわけでしてよ、イヅル! お父様ったら、わたくしのこと、大絶賛だったわ!」「左様でございますか。それはそれは、何よりでしたね」 自室に戻ったわたくしは得意満面、我が忠実なる執事に報告。 気分は、すっかり上々! なんだか、ずっと胸につかえていたものが、すっと取れたみたい。「ええ、そうですわ! なんだかね、今夜は空が綺麗に見えるの!」 くるりと一回転して見せる
last updateLast Updated : 2025-11-18
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第56話 カメラ・オブ・スクラは心臓捕らふ(後半)

 なのに、イヅルは優雅に、寝具やカーテンの乱れを直し、寝所を守るための、結界石の点検まで事務的に始めている。「じゃあ、もう……いいですわ」 わたくしは、ドレッサーの前に座り、乱れた髪を梳かすことにした。つい、ぶっきらぼうになってしまうブラシングの手つき。 すると、ふっと、わたくしの背後に影が落ちる。「おやおや、お嬢様」「なによ」「お手伝い、いたしましょうか?」「結構ですわ。わたくし、自分で髪くらい梳かせるもの」「ええ、それはもちろん存じております。ですが、あまり力を入れすぎると、せっかくの美しい御髪が、傷んでしまいますよ」「……むぅ」 ママ譲りの髪……わたくしの自慢。結局、何も言い返せずに、手にした紫檀のブラシを、差し出した。 さらり、さらり。 長くて、少しだけ骨張った、男の人の指が、わたくしの髪を、梳いていく。竪琴を扱うかのように、どこまでも繊細に、丁寧に。 鏡向こうには、真剣な眼差しで、わたくしの髪だけを見つめるイヅルが映っている。 でも、これじゃ、飼い主に毛繕いされる、気まぐれな猫にでもなった気分だったわ。「もうっ! いいから、はっきりおっしゃいなさいな! ……それとも。わたくしのしたこと、そんなに、ダメだった?」 鏡に映るイヅルに、やっぱり聞いてしまう。いつもなら皮肉混じりでも、褒めてくれるでしょう? わたくしは……あなたの期待には、応えられていないのかしら? あなたの“主”には、相応しくなかった?「いいえ。旦那様と、この私めの“判断基準”は、まるで異なると言うだけです」「なんですって?」 鏡越しに、視線が交わる。 銀縁眼鏡の奥。イヅルの瞳は、どんな光も捕らえて決して逃がさない。まるでカメラ・オブスクラ。「旦那様は、お嬢様を『シャーデフロイ家の後継者』として、評価なさい
last updateLast Updated : 2025-11-19
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第57話 幕間劇 ~ 所有印は瞳のなかに

 ――久しぶりに、懐かしい夢を見た。 遥か山脈に囲まれた、堅牢な領地のお城に住んでいた頃ね。 陽光が降り注ぐ、ガラス張りのサンルーム。ひざ丈くらいの、真っ白なレースドレス。ママが淹れてくれた、蜂蜜が入りのミルクティーは甘い香り。「まあ、ビーチェ。そんなに走っては、お転婆さんだと思われますわよ?」「だって、ママ! あの蝶々、とっても綺麗なんですもの!」 ふふっ、と、ママが穏やかに笑う。 世界は、みんなが優しくて、キラキラしてて。わたくしのためだけに、存在していると、本気で信じていた頃。 嘘つきなんて、この世のどこにもいないのだと、疑うことすらしなかった頃。 周りには、いつも、たくさんの大人がいたけれど。 わたくしを「お嬢様」と呼ぶメイドも、「姫さん」と呼ぶお庭師さんも。誰も、わたくしの、本当の“お友だち”では、なかったから。 だから、あの日のことを。わたくしは、今でもはっきりと覚えている。「ビーチェ、来なさい」 パパの、いつもより硬い声。 ママに手を引かれて応接室に入れば、そこに直立不動で立つ男の子。 濡羽色の、艶やかな髪。瞳も光を吸い込む、深い漆黒。驚くほど、綺麗な顔立ちだったけれど、人形みたいに、感情をなにも写さない瞳だった。(……なんだか、カラスの子みたいね) どこか遠い空から、うっかり迷い込んできてしまったのかしら。「“コレ”が、今日からお前の世話役になる」 それから、パパが……なにか小難しいことを言っていた。 「我が傘下勢力の一つ、東方より来た鴉天狗衆が一派……」「本来の名は……」「なかでも、最も才に秀でた優秀な……」なんて、長々と。 でも、そんなことには興味が持てなくて。わたくしは、この男の子の瞳から、目が離せなかった。(どうして、こんなに綺麗な“黒&rdqu
last updateLast Updated : 2025-11-20
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第58話 夏に浮かされたアサイド

 窓の外。王都の空は、雲一つない真っ青。良い夏日ね、絶好のお出かけ日和じゃないの。「ねえ、イヅル。ずっと屋敷に籠っているのも、退屈ですわよね?」「ふふ、そうですか。ええ、そうかもしれませんね」「なら、仕方がありませんわねぇ。荷物持ち、させてあげてもよくってよ?」 ちょっと試すような流し目で、見てあげると。「なんと、光栄の極み。このイヅル、ぜひ、お供したく存じます」 イヅルは、待ってましたと頷いてくれる。 こんな気まぐれな我儘を許してくれる。そんな誰かが隣にいるって、本当に、幸せなことだと思ったわ。 だって、もし一歩違っていたら、今頃、僻地の修道院で懺悔の日々だったかもしれないんですもの!「して、本日は、どちらへお出かけに?」「うん! お買い物に行きましょう! ええ、そうよ! 新しいドレスを仕立てに行きたいわ! 夜会用の!」 そう、忌々しい祝いの夜会とやら! 全然、行きたくないけれど、どうせ参加しなければならないなら、誰よりゴージャスなドレスで臨んで……バージル殿下の度肝を抜いてやるんだから!「おや。いつものように、仕立て屋を屋敷に呼べばよろしいのでは?」「気分転換よ、気分転換! こんなに晴れやかな日に、薄暗い部屋で、採寸なんかしていられないじゃない! そ・れ・に、街を見なければ、流行りにも疎くなるのよ?」「そういうものですか。……では御意に、早速お支度へと移りましょう」 わたくしをドレッサーの前へと、いざなうイヅル。 そして、こう付け加えた。「そういえば、先日。東方から“火蚕綿”が入ったと、行きつけの店から知らせが来ておりましたね」「まあ! なんですって!? それを、早く言いなさいよ!」 わたくしは、ぱあっと顔を輝かせる。火山の炎を食べる“火蚕”から、吐き出された希少な繭玉!? 『緋玉の天蚕糸』とも称されるあの!?「もう~、そんなの、わたくしのドレスのために仕入れられ
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第59話 またいつかに、おあずけ

 王都の中央広場に面した、堂々たる大通り。そこは、シュタウフェン王国の流行最先端。「イヅルー! わたくし、馬車を降りて、ここから歩いていきたいの!」 あまりの良い天気、窓の外のきらめき。もう、じっとしているのが、もう我慢できなくなってしまったわ。 今日のわたくしは、ペリドットのような若草色のサマードレス。日差し除けの、レースパラソルを開きくるりと回す。「やれやれ。お嬢様の溢れんばかりの行動力には、いつも感心させられますね。ですが、あまりご勝手をなさると、護衛がままなりませんよ」「平気平気。だって、イヅルがいるんですもの!」「……先日、図書館での無断行動で、大変な目に遭われたのはどこのお嬢様でしたかね」 我が腹黒執事の皮肉なんて、うららかな陽気の前では、柳に風。気分はもう、ふわふわ綿毛のたんぽぽよ! 歩けば、道行く殿方もご婦人も、皆、はっと振り返っては、ため息をついているわ。うふふ、快感。わたくしってば、美しすぎる!?「ああ、やっぱり街に出てきてよかったですわ! 見て、イヅル! あの帽子の羽根飾り、最新の|ガリア風《ガリエーヌ》のデザインね!」「おや、左様でございますね」「ねえっ! もうちょっと、興味ありげに返答してくださらない?」「気の利いたことを言えず、申し訳ございません。されど、西から来た流り物だ、としか。もし、お嬢様がお被りになるなら、褒め言葉の一つや二つは口にしますとも」「明らかに、義務的な発言よね?! ……ちなみに、このサマードレスは?」「ええ。大変よくお似合いですよ。まるで、芽吹いたばかりの若葉が妖精となって歩かれているのかと。あまりの愛らしさに、目が眩みそうですとも」「褒め方が、いちいち大仰で薄っぺらいのよっ!」 本当に、お洒落に興味がないのかしら、この男は。「ほら、見て見なさい!この通りを!」  行き交う貴族たちの、磨き上げられた立派な馬車。テラス席で扇をひらめかせ、グラスを傾ける、着飾ったご婦人たち。ショーウィンドウに飾られた、眩いばか
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第60話 大喝采、知らない私へのアンコール

 それから、歩いていると、時たま声が上がった。「おい、見ろよ……あれ、シャーデフロイの、英雄令嬢じゃないか?」「おおっ。本当に、噂通りのお美しい方だな」「でも、恐ろしい魔女だっていう話もあるらしいぞ?」「静かに! それが聞こえたら、何をされるかわからんぞ!」 うう、新聞記事のせいで、すっかり有名人ですものね。でも……。「うーん。でも、王立アカデミーの、あの息が詰まるような空気より、まだ、こちらの皆さんの方が好意的ね」「それはおそらく、アレが原因かと」 イヅルが、顎で、くい、と指し示した先。 広場の噴水のそばで、大きな人だかりができていた。中心で、一人の若い男が、リュートを奏でながら、高らかに歌っている。 身なりは良いから、どこかの貴族の三男坊かしら。吟遊詩人というよりは、流行りの歌い手という感じね。 そして、その歌の内容は――。『♪――暗き森に、一条の光は差して。悪しき“黒鷲”、翼広げんとする時』 軽やかな指使いとともに。『若き“獅子”は、いまだ動けず』『されど、気高き“蛇の乙女”は、ただ一人。我が身を盾に、敢然と立ち向かいぬ~♪』 どこか知っている、内容に聞こえた。(…………は?) 思わず、その場で凍り付いてしまったわ。 黒鷲? 獅子? 蛇の乙女? それって、どう考えても――っ!?「……イヅル。あれは、なんですの」「さあ? ご覧の通り、どこぞの辻歌人による、新作の歌ではないでしょうか。今、王都で一番の流行り歌だそうで。あの歌い手は、夜は酒場でも大人気の寵児だとか」 平然と答える、この執事! 絶対、知っていたわね!? 歌は、さらにヒートアップ!『♪おおっ、ベアトリーチェっ! 汝が投げし“黒き
last updateLast Updated : 2025-11-23
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