All Chapters of 旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます: Chapter 71 - Chapter 80

92 Chapters

第71話 ど修羅場

 現れたのは見たこともない少年だった。栗毛色のくるくるとカールした髪に大きな瞳……。ホセだ! きっとホセに違いない!「……誰ですかね? あの美少年は」ボソリとウィンターが呟く。ウィンターの口から美少年……何故か鳥肌が立ってしまった。「きっと彼はホセよ。ベロニカの愛人」「ええええ! むご!」大声を出すウィンターの口をおもいきり押さえつけた。「バカッ! あの少年に気付かれたらどうするの!? バレたら何もかも水の泡じゃないの!」口元を押さえつけられたウィンターはコクコクと無言で頷く。「いい? 絶対に何があっても大きな声を出したら駄目よ? 分かった?」ウィンターの口を押さえつけながら念押しすると、ようやく私は彼を解放し、ホセの姿に注目した。ホセはバルコニーへ静かに近づき、黄色いスカーフがくくりつけてあるのを見ると、嬉しそうに笑みを浮かべて手すりを乗り越え、バルコニーに降り立った。「どうやら部屋の中に入ろうとしているようですね」ウィンターが話しかけてくる。「ええ、そのようね……」イライラしながらホセの様子を伺う。それにしても肝心のラファエルが姿を見せない。一体どうしたというのだろう?「ゲルダ様。何苛ついているんですか? ひょっとしてカルシウム不足ですか?」喧嘩を打っているようにしか聞こえないウィンターに、私の苛立ちは更に募ってくる。「ラファエルがまだ来ないのよ。一体どうしたのかしら……」ホセはついに窓を開けて部屋の中へ入ってしまった。「あ! 部屋に入っていきましたぜ!」「うるさいわね! そんなの分かってるわよ!」その時――ガサガサガサッ!!足音を立てながら何者かがこちらに向かって走ってくる。ひょっとすると……。期待に胸を膨らませ、木の陰に隠れながら足音の方向を振り返ると、バルコニーへ向かって一目散に駆けてくるラファエルの姿が目に飛び込んできた。やった! ラファエルッ! 来てくれたのね!?ラファエルは隠れている私達には気付かず、バルコニーへ駆け寄り、そのままためらうこと無く手すりを乗り越えて、窓を開けて部屋の中へ飛び込んでいき……。「イヤアアアアッ!!」「うわあああっ!!」男女の叫び声が部屋の中から聞こえてきた。よし! ついに始まった!「行くわよ! ウィンターッ!!」私は茂みから立ち上がった。「はい、ゲルダ様!」
last updateLast Updated : 2025-12-01
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第72話 阿鼻叫喚の騒ぎ

 室内はまさに阿鼻叫喚地獄状態で大変な事態になっていた。「おい! ベロニカ説明しろ! この間男達はお前の娼館時代の客なのか!?」ウェルナー侯爵は真っ白に肥え太った裸の身体にタオルケット巻き付けてベロニカを叱責している。「し、知らない! こ、こんな人達私は知らないのよぉ~! お願いです! 信じて下さい!」ベロニカは半裸状態で大事なところを隠しつつ、女優顔負けの演技力でウェルナー侯爵に懇願している。一方ラファエルとホセは激しく睨み合っていた。「おい! この若造……! ベロニカの愛人になるなんて5年早いわ!」「そう言うあんたは何だよ! 今やすっかり落ちぶれて名ばかりの貧乏貴族になり下がったくせに!」おお! ホセッ! いいところをついてくるじゃないの。中々見どころがある少年かもしれない。彼等は激しい口論を続け、誰一人私とウィンターの存在に気付いていない。「ねぇ、ウィンター。ある程度修羅場になるとは思っていたけど……ここまでのど修羅場になるなんて驚きね」彼等の騒ぎの様子を見ながら隣に立つウィンターに話しかけるも、何故か無反応である。「ねぇ、ちょっと……人の話聞いてるの?」そして何気なくウィンターを振り向き……私は言葉を失ってしまった。何とウィンターはだらしなく鼻の下を伸ばし、半裸状態のベロニカを食い入るように見つめているのである。「この……ウィンターッ! 変態男!」グイッとウィンターの耳を思い切り引っ張ってやる。「イタイイタイッ!!」ウィンターが悲鳴を上げた、その時――それまでベロニカを責めたてていたウェルナー侯爵がようやく私達の存在に気付いた。「何だ! お前、先程のメイドではないか! お前まで一体何だ!」八つ当たりの如く、怒鳴りつけてくるウェルナー侯爵。そしてホセと激しく言い争いをしていたラファエルも私とウィンターの存在に気付き、指をさしてきた。「あっ! お前は……ベロニカのメイドじゃないか! どうしてウィンターと一緒にいるんだ!?」「ヒッ……! ラ、ラファエル様……!」ラファエルに指さされて、震えあがるウィンター。全く図体ばかりでかくて情けない男だ。一方ホセは不思議そうな顔で私とウィンターを見ている。「ラファエル……まだ私の正体に気付かないのかしら?」腰に両手を当てて私はラファエルを見た。「正体……? 一体どういうこと
last updateLast Updated : 2025-12-02
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第73話 後は任せます

「この……! バカラファエルッ!」私は思い切りラファエルを怒鳴りつけた。その剣幕に誰もがシンと静まり返る。「お、お、お前……! よ、よりにもよってこの俺を……ば、馬鹿呼ばわりしたな!?」生意気なことにラファエルが言い返してきた。「ええ、そうよ! 馬鹿を馬鹿と呼んで何が悪いの!? この馬鹿男!」「お前! 良くも言うに事欠いて、3回も馬鹿を連呼したな!?」「そうよ! 言ったわよっ! 御望みとあれば100回だって言ってあげるわ! 大体、貴方にはベロニカを責める資格など一切無いのが分からないの!? ベロニカという本来の愛人の存在を隠すため、身寄りのない気の毒な幼馴染のアネットを自分の恋人に仕立て上げ、私を騙して結婚したなんて許せないわ! そしてブルーム家のお金を湯水の様に使い続け、さらにお金を請求してくるノイマン家の連中はまさに寄生虫よ! 寄生虫!」「な、な、何だって!? 寄生虫だと!?」するとそこへウェルナー侯爵が口を挟んできた。「何!? そこの男はノイマン家の人間だったのか!?」「ええ、そうですよ。この男はノイマン伯爵家のたった1人の後継者……ただし、どうしようもないクズ男ですけどね? 何しろ貴方の妻の愛人だったのですから」私はベロニカをビシッと指さした。「ちょっと! 私は愛人なんか知らないってば!」未だに否定するベロニカ。「誰がクズだ!」ラファエルが喚く。「うるさい! 貴様……それよりもノイマン家の人間と言ったな? よくも図々しくも私の目の前に現れおったな……? しかも我が妻の愛人だと!? しかし、ここで会えたのも何かの縁だ。おい! そこの若造! さっさと借金を返すのだ! 一刻も早く借金を返さなければ……いや、どのみち、もうノイマン家はもう終わりだ。何しろ我が妻に手を出していたのだからな。借金まみれにして監獄に送ってやろう」不敵な笑みを浮かべながらウェルナー侯爵はさらにホセを睨みつけた。「小僧! 貴様も同様だ! 見たところまだ未成年だが、貴族の妻に手を出したのだ。貴様もノイマン家同様、監獄に送ってやる!」「やめて! ホセだけは手を出さないで下さい!」ベロニカは涙声で訴える。どうやらホセはベロニカにとって特別な存在だったようだ。「ベロニカ! 僕のことは特別じゃないのか!?」ラファエルはベロニカに訴えるが、視線すら合わせて貰え
last updateLast Updated : 2025-12-03
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第74話 みんな、ただいま

「ただいま〜」ウィンターと二人で私達の屋敷に到着したときには既に深夜0時を回っていた。「もうヘトヘトですよ……」ウィンターは情けないことを言う。二人でエントランスに足を踏み入れた時……。バタバタバタバタ!沢山の足音がこちらへ向かって駆けつけてくる。そして……。「「「「「ゲルダ様(母さん)!!!!!」」」」」なんと、とっくに休んでいると思っていた全員がエントランスに集まってきたのだ。「え? え? どうしたの? 皆?」「どうしたのでは無いですよ! ゲルダさん! 帰りがあまりにも遅いから皆心配で待っていたんですよっ!?」アネットが酷く怒っている。「全くですよ……朝出かけたきりなのですから」「我々がどれだけ心配していたか分かりますか?」ジェフとジャンが交互に言う。「それにやはりタクシー会社の方が3名いらっしゃいましたよ? 皆さんゲルダ様がおいでにならなくて残念そうでした」ブランカの口調もどこか責めているように聞こえる。一方の俊也……ではなく、ルイスだけは神妙そうな顔つきでじっと私を見つめている。……あの顔は相当私のことを心配していたのだろうな……。「ごめんなさい、皆に心配かけさせてしまって。でも、聞いてちょうだい。素晴らしい収穫があったのだから。今夜ラファエルは……いえ、ノイマン家はついに完全破滅したのよ!」「え? どういうことですか?」尋ねてきたのはアネットだ。「聞いてちょうだい。実はベロニカにはラファエル以外に本命の若い愛人がいたのよ。二人の夜の密会の合図はバルコニーの手すりに黄色いスカーフを巻きつけることだったの。それでお誂え向きに今日は侯爵が屋敷に帰ってくる日だったのよ。だから夜に合図である黄色いスカーフを使って年若い愛人と、ついでにラファエルをおびき寄せて、ベロニカが夫とベッドでまぐわっている部屋に侵入させたのよ」「何ですって!? あまりにも簡潔なまとめ方ではありますが……要は夫婦の営みの真っ最中に二人の愛人を部屋の中におびき寄せたということですか?」ジャンが綺麗にまとめてくれた。「ええ、そういうことね」「な、なんとエグい真似を……流石はゲルダ様です」ジェフが唸るように言う。「成程……それではもう完全にノイマン家は終わりですね。よりにもよって侯爵家の妻に手を出したのですから」ブランカは頷いた。「そうよ。つい
last updateLast Updated : 2025-12-04
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第75話 思い浮かんだ顔は

 翌朝――鳥のさえずり声で私はふと目が覚めた。カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいる。「う〜ん……よく寝た……」ベッドから体を起こし、おもいきり伸びをしながら部屋の壁時計を見ると時刻は6時半を指していた。「どれ、ウィンターは厨房で仕事をしているかしらね?」昨夜は遅くまで彼を付き合わせてしまった。恐らくまだ疲れが残っているだろうから私も厨房の仕事を手伝ってあげよう。そしてベッドから下りると着替えを始めた―。「な、何で俊也が料理を作っているのよっ?!」厨房へやってきた私はそこに俊也の姿を見て驚いてしまった。本来ならウィンターが厨房担当のはずなのに、ここ、シェアハウスの入居者である俊也が料理を作っているなんて……!「あ、おはよう。母さん」俊也は鍋の中にお玉を入れて、ぐるぐる混ぜながら私を見て笑顔を向けてきた。「ええ。おはよう……じゃなくて! ど、どうしてここにいるのよ? 貴方はこれから郵便局で仕事でしょう? ウィンターはどうしたの!?」「ああ、彼なら昨夜の疲れが相当たまっていたのかな? いくらドアをノックしても起きてこないから、今朝は俺が料理を作ることにしたんだよ。スープとパン、ゆで卵にハムでいいかな?」「え、ええ……それで構わないど……。俊也、後は私がやるから休んでいなさい。郵便局の仕事は大変なんでしょう?」無理やり俊也の背中を押して椅子に座らせると厨房に立ち、料理の続きを始めた。「うん、まぁ確かに郵便局の仕事は大変といえば大変かなぁ……手紙の仕分けなら軽くていいけど、荷物の仕分けと配達は重労働だからね」「しかも自分で馬車に乗って配達しなければならないのでしょう? 御者台に屋根すら無いような馬車で……。でもね……ひょっとするとこれからの郵便業界は変わっていくかもしれないわよ?」「え? 変わる……?」俊也が首を傾げる。「ええ、そうよ。これは私の勘だけどね」そして私はスープの味見をした――**** シェアハウスの朝食時間は7時からと決めてある。そしてこの時間に起きてこなければ朝食は抜き、と言う決まりがあった。そして当然彼らはその決まりを集まるために食卓に集まっていたのだが……。「おはよう、皆。……1人、でも足りないわね」空いている席を見つめる。「ええ、そうです。ウィンターがいません。この部屋へ向かう時、ウィンターの部屋の
last updateLast Updated : 2025-12-05
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第76話 偶然……?

 8時になってもウィンターが起きてくる気配は全く無かった。厨房の片付けは既に終わっているし、ジャンとジェフはそれぞれの持ち場へ行って仕事を始めている。「それじゃ、ゲルダさん。ブランカさんとお洗濯してきますね」洗った食器を片付け終えたアネットが声をかけてきた。「ええ、よろしくね。後で私は出かけるからウィターが起きてきたら畑仕事をやるように伝えてくれる?もし今日中に畑を耕しておかないと追い出すわよと付け加えておいてね?」「はい、了解です!」元気よくアネットは返事をすると、ブランカの手伝いをする為に厨房を出て行った。 出掛ける準備を終えてエントランスに行くと、ちょうど俊也が出勤するところだった。「あら? 今から仕事に行くのね?」「うん、そうだよ」俊也はキョロキョロ辺りを見渡し、その場に私達しかいないのを確認すると尋ねてきた。「母さんもこれから出かけるの?」「ええ、そうよ。また一緒に出掛けましょうか?」「うん、いいね」そして私達は今日も再び一緒に屋敷を出た――**** 「こんにちは」不動産会社の扉を開けて店の中へ入ると、前回シェアハウスの話を交わした店員がすぐに現れた。「あ! お待ちしておりましたよ、ブルーム様! 実はあれからシェアハウスについての案内を店舗に張り出したらすぐに反響があって、10名程の入居希望者が現れたのです。一応、入居希望者達の情報書類を作成したのですが……ご覧になりますか?」「そうですね。私達と一緒に住むわけだから、あまり変な人とは暮らしたくないですしね」「ええ。勿論その通りだと思います。ではお席にご案内いたしますので、ゆっくりご覧下さい」「はい。ありがとうございます」私はメガネ男性店員に案内されて別室へと案内された。「ではどうぞご覧ください。12名分の入居希望者がおりましたよ」「では早速拝見させていただきますね」そして私は書類を手に取った。「え……と、この男性は年齢35歳、自称画家……駄目ね。却下だわ。この人は女性ね? 年齢は15歳……? 駄目じゃない未成年なんて! 親御さんは何してるのかしら……。次は男性……年齢は72歳……? 老後の面倒を見てくれる人募集……駄目ね、老人ホームと間違えているのかしら……」ざっと書類を見る限り、まともな入居希望者がいない。「ほんとにもう少し、まともな入居希望者は
last updateLast Updated : 2025-12-06
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第77話 新しい出会い

「この方との連絡方法なら簡単ですからお任せください。何しろ、この不動産会社の目と鼻の先にある画商でお店を構えているのですから」「え? 何ですって?」彼がこの近くにいる?「はい。ここより斜め向かい側に古美術を扱うお店があるのですが、そこのオーナーがこの方ですよ」「その話、本当なのですね? だとしたら私が直接このお店に行って話をしてきます」「え? 私共を仲介しなくてよろしいのですか?」「ええ、勿論です。それで、お店の名前は何というのですか?」「ウォール・ショップと言う名前ですね」「ウォール・ショップ……ありがとうございます! ではこれで失礼いたします!」私は立ち上がると、すぐに不動産会社を後にした――**** 不動産店員が教えてくれた『ウォール・ショップ』は本当に目と鼻の先にあった。「へぇ~こんな近くに骨董品店があったなんて……」早速私は扉を押して店の中へと入った。――カランカランガラス張りの扉を開けると、ベルが鳴った。店内は静かでお客の姿は無かった。店の中には所狭しと、様々な美術品が並べられている。絵画や壺、彫刻品等々……。「へぇ~この品物は中々の物ね……」木彫りの薔薇模様を象ったレリーフ。素人の私から見ても優れモノに思えた。するとそこへ……。「いらっしゃいませ」何処かで聞覚えのある声が店の奥から聞こえた。思わず振り向くと、カウンター越しから笑顔でこちらを見ているスーツ姿の男性がいる。その男性はやはりノイマン家で会ったジョシュアさんだった。「なにかお探しですか?」ジョシュアさんはにこやかに笑顔を向けてくるが、私のことは見覚えが無いようであった。……まぁ、あの時は変装していたから知るはずもないけれども、少しだけがっかりしている自分がいた。「どうかされましたか?」私が返事をしないからなのか、ジョシュアさんが再度尋ねてきた。「あ、申し訳ございません。実は私はシェアハウスのオーナーのゲルダ・ブルームと申します。今回、貴方がシェアハウスに入居希望者であることを不動産屋で聞いてきたので直接お話を伺いに参りました」するとジョシュアさんが目を見開いて私を見た。「なんと……貴女があのモンド伯爵家の屋敷をシェアハウスという新たな形で賃貸住居のオーナーになられた方ですか? いや〜驚きですね。これほど若くて美しい方だとは思いませんでし
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第78話 恋バナ?

 新しいシェアハウスの住人も決まり、私は意気揚々とモンド伯爵邸へ戻ってきた。すると庭の畑でブランカの監視の下、ウィンターが鍬を振るっている姿が目に入った。「あ、お帰りなさいませ。ゲルダ様」ブランカが挨拶してきた。「ゲルダ様! お帰りを待っていましたよ! まさか俺1人で畑仕事をさせるつもりじゃないでしょうね?」ウィンターが情けない声をあげる。「ただいま、2人とも。ええ、畑仕事と厨房はウィンター。貴方の仕事よ」「何故ですか!? 厨房だけで精一杯ですよ!」「お黙りなさい!」叱責したのは私ではなく、ブランカだ。その迫力に私もウィンターも言葉を無くす。「いいですか? 貴方の役目は厨房の仕事だったはず。なのについさっきまで惰眠を貪り、朝食の準備をシェアハウスの住人のルイスさんとゲルダ様にやらせるなんて言語道断。ルイスさんは外でお仕事をされているし、ゲルダ様は色々忙しい方なのですよ? 大体これぐらいのことで音を上げるということは、今迄のウィンターは楽な仕事ばかりしてきた証拠です!」まるで親の仇のような目でウィンターを睨みつけるブランカ。「は、はい……す、すみませんでした…」震えがっているウィンターは小さい声で返事をすると、再び鍬を振るって畑仕事を始めた。その様子をじっと見ながらブランカが声を尋ねてきた。「ところでゲルダ様。今までどちらへ行かれていたのですか?」「ここのシェアハウスに入居希望者が現れたかどうか、仲介してもらっている不動産会社を訪ねたのよ。そうしたら12名の入居希望者がいたのだけど、どれもこれも、ちゃんと家賃を払えるか不安だったのだけど、でも1人いたのよ。とってもいい人が」するとその話にブランカが食いついてきた。「え? もしかするとその人物は男性ですか?」「ええ、男性よ。とても素敵な人だったわ。お店のオーナーだったし、仕事はバリバリ出来そうなタイプだったし……」「ゲルダ様にそこまで言わせるとは……顔も相当良いのでしょうね?」いつの間にやら恋バナの様になっていた。「顔がいい男ならここにもいますぜ?」鍬を振るいながらウィンターが口を挟んできたが、その部分は聞こえないふりをした。「そうよ、とても顔もハンサムだったわ」「それで? いくつぐらいの男性でしたか?」ますます話に食いついてくるブランカ。「よく聞いてくれたわ、ブランカ
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第79話 御馳走の理由

「ウィンター。今夜は御馳走を作るわよ! 買い物についてらっしゃい」畑仕事を終え、厨房でお茶を飲んでいるウィンターの元へ行くと声をかけた。「ええええ〜!? またこき使う気ですか? ようやく畑仕事が一段落したというのに……」「何言ってるの? 給料貰うんだから働くのは当然でしょう? 大体今日の昼だって食事を作ったのは私よ? 今夜だって私が食事を作ってあげようと思っていたのに」「え? その話は本当ですかい?」ウィンターの目の色が変わる。「ええ、ウィンターの畑仕事が一段落するまではね。畑以外にハーブだって育てるつもりよ? やっぱりお料理には香辛料は欠かせないものね」「そんな! まだ畑仕事が続くんですか? 勘弁してくださいよ。肉体労働は割にあいませんって」こいつ……最近私が甘い顔をしているからとつけあがっているのではないだろうか?「ウィンター。あんまり我儘ばっかり言ってると……追い出すわよ」「ヒッ!」「大体、雨風しのげる屋根の下で暮らせて、働いて給料まで貰えるっていうのに……それの何が不満なのかしら? 文句があるならいつでも出ていってくれて構わないのよ? その代わり、私は真面目に働く者は優遇するわ。給料だって上げるし、ボーナスだって支給するつもりなんだからね」ウィンターの前で熱弁を振るう。「ほ、本当ですか? その話」「ええ、どう? それでもまだ働きたくないって言うのかしら?」「いえ、頑張って働きます! では早速行きましょうか?」ウィンターは残りのお茶をグイッと飲み込むと満面の笑みを浮かべて立ち上がった。**** 2時間後――「ただいま〜」大量の荷物を抱えて私とウィンターは屋敷に帰ってきた。「お帰りなさい、ゲルダさん。どうしたんですか? すごい買い物の量ですね?」ダイニングテーブルの上に大量の洗濯物を広げて畳んでいたアネットが目を丸くした。「ええ、今夜は御馳走にするつもりだからね。あ、ほら早く厨房に食材をおいてきて」「は、はい。分かりました」ウィンターは大量の食材を抱え、ふらつきながら厨房へと姿を消す。その後姿を見つめるアネット。「ふ〜ん、ウィンター。少しは真面目に働くようにうなってきたようですね?」「そうよ。見ていてちょうだい。今に飼いならされた犬のように教育していくつもりだから」アネットと話をする為に私は持っていた荷物
last updateLast Updated : 2025-12-09
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第80話 前祝い

 19時―― テーブルの上には所狭しと料理が並べられていた。メインディッシュは七面鳥の丸焼き。トマトが乗ったブルスケッタ、エビとアボガドのサラダにローストビーフ。そしデザートにはプディングを用意した。そして皆の前にはグラスに注がれたワインが置かれている。「みんな、グラスは行き渡っているかしら?」テーブルについている全員を見渡す。「ありまーす」代表してウィンターが返事をする。「では、グラスを持ってちょうだい」私の言葉に全員がグラスを持つ。「それではかんぱーい」「「「「「かんぱーい!!」」」」」****「凄い……豪華な料理ですね。一体、何のお祝いなんですか?」俊也……もとい、ルイスが感心している。「フフフ……新しいシェアハウスの住人が決まったので、その前祝いなんですよ」アネットが嬉しそうに笑う。「ゲルダ様の好みのタイプの男性なんですよね?」ブランカがワインを飲みながら答えた。「しかも相手は40過ぎのロマンスグレーの男性らしいですぜ?」「え!?」ウィンターの言葉に目を見開いて私を見る俊也。その目はこう語っている。『母さん、嘘だよね!? まさか結婚するつもり!?』そこで私もアイコンタクトで語る。『大丈夫、安心してちょうだい。ちょっと、かっこいいかな〜って思っただけだから』『本当だろうね?』『ええ、本当よ』嘘みたいな本当の話。私と俊也は以心伝心の仲だったのだ。その後も皆で飲んだり、食べたり、喋ったり……前祝いは大いに盛り上がり、幕を閉じた――**** 前祝いから2日後――今日はジョシュアさんがこのシェアハウスに入居して来る日で、私達は朝から大忙しだった。「ゲルダ様、ベッドを運んできました」ジャンとジェフが2人がかりでベッドを運んできた。「ああ、ご苦労さま。それじゃ窓際の方に置いてくれる?」窓拭きをしながら返事をする。「はい」「分かりました」「ゲルダさん、シャワールームの掃除、終わりましたよ」アネットがシャワールームから出て来た。「ご苦労さま。これでジョシュアさんが気持ちよくシャワーを浴びることが出来るわね」ジョシュアさんの部屋は日当たりの良い2階中央の部屋に決めてある。窓から外を眺めると、そこにはウィンターが畑仕事をしている。ここ数日、私の指導の賜物か、大分真面目に働くようになってきていた。その
last updateLast Updated : 2025-12-10
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