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Cyberlimit のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 5

5 チャプター

1話 実験とその成果

周囲は炎に包まれ、その中心で一人の少女が佇《たたず》んでいる。仲間だった彼女の名前はメアリー。 彼女は僕達の作り上げた一つのウィルスーカムニバルによって自我を失っている。カムニバルは人に使う事は出来ない、通常ならば。 ウィスルは全ての機械を支配する効力を持つ、一つの電脳によって、暴走をしてしまった機械達を元に戻す為に作られたものだった。 そのウィルスを人に与えてしまうとどうなるのか、その疑問を解消する為に、周囲を騙してメアリーに嘘を伝えた。 「この薬は君と君の旦那さんを救う特効薬になる。望めばこの世界から自由になれるんだ」 「……doctor姫柊《ひめらぎ》。その話は本当なの?」 「ああ。これは私の研究が結んだ大きな奇跡だ。事実を知っているのは僕と君だけ。皆にはまだ言っていない」 電脳を持つ人間になら体制があるのは研究成果が出ている。しかし純粋な人の肉体のみで作られた体に、どんな作用があるかは未知数だ。今回の実験が一つの可能性を作る、そう感じていた。 「……分かったわ。姫柊の事を信じる。被験者になるわ」 「よく決断したね。絶対に君達を僕が救うから」 彼女の信頼を得る事が出来るのは、今までこの世界を共に歩んできたからだろう。医者と患者と言う立場ではあるが、今となっては関係ない。 僕は彼女の決意が揺らぐ前に注射針にウィルスを注入していく。自分には影響がいかないように防護服を着ていた。簡単に防げるとは思っていない、それでも一つの物質が混ざり合う事で別のものに変貌する。このウィルスの特徴を把握しているから、何の迷いもない。 「ふっ……く」 「大丈夫だ、時期慣れてくる」 速攻性が高いウィルスに改変した事で、メアリーにも何らかの影響を与えているようだ。時間が経つに連れ、顔が青ざめていくのが分かる。 「どうだい?」 僕は彼女に問いかけると、反応するようにプルプルと震え出す。その動きは痙攣のようで、違った。彼女の瞳からは大量のち塩が流れ出ると、グタリと項垂れてしまった。 電脳を縛《しば》る為、支配する為のものを人体で使うのは無理だったのだろうか。落胆してしまう僕がいる。人体で実験を試みたのは今回が初めてだった。彼女以外に被検体として拉致している人物はいるが、彼の場合深刻な心臓病を持っている。 正直、難しいだろうーー 表
last update最終更新日 : 2025-10-02
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2話 かなめは菜園

状況を把握《はあく》出来ないと動こうとも動きようがない。話だけでは明確《めいかく》な情報を手に入れる事は不可能だ。姫柊《ひめらぎ》は思った以上に精神的に追い詰められている。覚悟はしていたようだが、いざ現実を見てしまうと耐えられない様子。 銘刀《めいとう》は彼が引き金を引いた事を知ると、自分の研究支援者に連絡をしていく。資金繰りに関しては力を貸してくれても、この状況を打破《だは》する考えを提示《ていじ》してくれるかは、分からない。 まだこの街には影響が及《およ》んでいない、だが時間が過ぎれば過ぎてゆく程、深刻《しんこく》な自体に変貌していくだろう。 安全だった場所が危険地帯に代わり、電脳システムとリンクさせてしまったチップが原因で体を乗っ取られてしまった被験者《ひけんしゃ》が動き出すのも時間の問題だった。 防《ふせ》げるのなら、どんな手段でも使おう。そう心の中で決意表明《けついひょうめい》をしながら、今の自分に出来る最低限の行動を歩み初めていく。 研究施設に戻れない以上、別の機関《きかん》で対策を立てる必要がある。正直、姫柊《ひめらぎ》が研究に不可欠な機材を守っていたとしても、今更向かっても、手遅れになるだけだ。 「忙しいお時間にすみません。急遽《きゅうきょ》お願いしたい事があるのですがーー」 今は彼女だけが頼りだ。今分かっている状況と情報を簡易的《かんいてき》に伝えると、菜園《さいえん》は「後は任せて」と言い切った。それが何を意味するのか知りたくない銘刀《めいとう》は、無言で電話を切るしか出来ない。「あの機材さえあれば、止めれるかもしれない。しかし……」 模造品《もぞうひん》として埋め込んでしまったチップがどれくらいの効力《こうりょく》を発揮《はっき》するのかが不安だった。 世界を救うなんて大それた事は出来ない。それでも何かしら食い止める事は出来るはずだ。 その為に今までの研究資料が必要になる。ある程度は頭の中に入っているが、完璧《かんぺき》ではない。 銘刀《めいとう》はもう一箇所に連絡を入れる。異常がある時にメッセージを送るようにルールを決めていた。それを今使う事になるとはーー 「……これでいいだろう」 自分の現在地を付点《ふてん》すると、カバンにしまい込み、代わりにタバコを取り出す。近くにある喫煙所まで歩いて一分程度。迎《むか》え
last update最終更新日 : 2025-10-02
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3話 各々が背負う罪

風間《かざま》の声が聞こえた気がした。銘刀《めいとう》は昔の事を思い出しながら、到着するのを待っている。一息つける時間を堪能《たんのう》し終わった。癒しの時間はあっと言う間に過ぎていく。「銘《めい》ちゃん、ずっと一緒だよ」ミナミの声が鮮明《せんめああ》に聞こえてくる。自分が研究者としての道を歩み始めた時に、彼女は彼を支えてくれた。銘刀《めいとう》にとって彼女は誰よりも特別だ。ミナミの代わりは要らない、例え他の人物が名乗りを上げたとしても、彼の心には響かないだろう。「ミナミ、俺は……」言葉に出来ない気持ちを飲み込むと、グッと涙腺《るいせん》が緩《ゆる》んでいく。目の前に現れた最悪なシナリオが待ち受けているのに、今の銘刀《めいとう》には届かない。分かっている。彼女はもういない。電脳を植え付ける為の機器《きき》テストを受けた彼女は、その重圧に耐えきれず、副作用を発症してしまった。一度現れた症状を改善出来る見込みはない。それは今でも同じーー彼女と共に永遠に生きれる命を作る事が出来る。そう信じていたのに、現実は彼の願いを打ち砕《くだ》いた。「どうして俺が成功して、彼女が」こんな銘刀《めいとう》の姿を見る人はいないだろう。なにもない日々の中で過去の鎖《くさり》に囚《とら》われている彼を救える存在などいない。風間とはそれ以来会う事はなかった。あの事故が原因で妹を失ってしまった風間は銘刀を恨んでいる。昔のように親友に戻る事はないだろう。ミナミの犠牲を経験し、彼は全ての電脳に携わる研究を破壊する為に刑事になった。こうやって移動手段を与えてくれる。今はそれだけで充分だった。ブロロロロとエンジンを吹かす音が聞こえてくる。銘刀は自分の存在を彼に見せる為に右手を上げた。徐々に減速していくと、銘刀の前に止まる。窓を開
last update最終更新日 : 2025-10-11
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4話 使い方次第

ミーシャが仕込んだもう一つの悪魔に気づく事が出来ない姫柊《ひめらぎ》は微量《びりょう》な音波により、思考がぐちゃぐちゃと混ざりあっていく。 今の状況を把握《はあく》していたはずなのに、全てが崩れていく。歪《ゆが》んでいく思考を止める方法も分からない。当たり前の感覚を手にしていたはずなのに、人間らしさを手放していった。 「があああ」 両手で頭を抱え込み、呻《うめ》きをあげる姿は人間とは呼べない。メアリーは大きく口を開くと聞いた事のない言葉を口にしていく。何て言っているのか聞き取る事が出来ない。それもそうだろう、彼女の呟きは超音波によって作られた新しい言語なのだからーー ガタガタと全身の骨が砕《くだ》け始める。姫柊《ひめらぎ》は痛みを感じる様子もない。両足が反対方向に折れ曲がっている。自分で屈折《くっせつ》させているように見えた。 口からは涎《よだれ》を垂《た》れ流し、瞳からは大量の血が涙のように溢《あふ》れている。ここまで人の精神と肉体に作用《さよう》を起こす事が明らかになる。その光景をモニター越しで確認する事が出来たミーシャは悦楽《えつらく》の表情を綻《ほころ》ばせ、全身に流れる快楽に身を任せた。 「凄い! こんな効力《こうりょく》があるなんて。なんて……素晴らしいの。想像以上の結果だわ」 はぁはぁと呼吸を乱しながら、興奮が頂点に達する。思う存分楽しむ事が出来た彼女は、嬉しそうに舌なめずりをした。 人間の言葉さえも、自分が人だった事も忘れてしまった姫柊《ひめらぎ》は、モンスターにしか見えない。両足の次は両手が明後日の方向に折れ曲がり始める。獣のように吠え続ける彼を絞《し》める為に、首がぐりんと後ろに折れ曲がった。 元々宗教を広める為に昔作られた脳内チップを参考にしただけ。それが別の方向でも役に立つ事が分かった。それだけで彼女にとっては大きな収穫《しゅうかく》。 「あっ
last update最終更新日 : 2025-10-12
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5話 表面化されていく現実

過去の研究データーを参照していくと、変な動きを確認した。本来の内容を隠すためのダミーが崩《くず》されている事に気づいた。 姫柊《ひめらぎ》は内容を把握《はあく》している。だからこんなコソコソと調べたりしないはず。そうなると関係者ではないのが分かる。彼とは同じ研究室を分けて使用していた。 もしかしたら姫柊《ひめらぎ》に関係する人物の仕業《しわざ》かもしれないーー 「どうした?」 銘刀《めいとう》の様子に異変を感じた風間は何が起きているのかを理解出来ていない。どう説明すれば部外者の彼に分かりやすく伝える事が出来るだろう。 変に作った言葉は必要ない。ただ単純で明確《めいかく》に事実を伝えるのがベストだろう。 銘刀は真剣な表情を見せながら、振り向いた。 「どうやら俺達の邪魔をしようとしている人物がいるみたいだ」 「邪魔?」 「ああ……風間には詳しい内容は言っていなかったな。姫柊《ひめらぎ》から急に電話が掛かってきたんだ、どうやら何らかしらのトラブルに巻き込まれているようだ」 詳《くわ》しい内容までは把握《はあく》出来ていない。あの時の姫柊の様子は異常だ。話し方からして何かがあったのは明白《めいはく》だった。 銘刀は一呼吸置くと、続きの言葉を口にしていく。 「姫柊と俺は同じ研究室を使用している。何度か彼からの要望《ようぼう》で開示《かいじ》されている研究データーを共有《きょうゆう》した事があった。把握している内容を隠れて調べる必要はないだろう。研究者がデーターを閲覧《えつらん》すると、ログが残るようになっているんだ」 「聞き忘れていただけじゃないのか?」 「いや、それはない」 銘刀《めいとう》はそう言い切ると、それ以上
last update最終更新日 : 2025-10-13
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