All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 241 - Chapter 250

273 Chapters

241話

今日も、面会時間いっぱいまでお祖父様の病室に居たけれど、結局お祖父様は目を覚まさなかった。 だけど、途中で病室にやってきてくれた主治医の先生の話によれば、お祖父様の容態はようやく安定してきたらしく、もう数日もすれば、完全に安定して転院も可能になるだろう、と優しい笑みを浮かべて教えてくれた。 「良かった……!良かったですっ、先生、お祖父様をよろしくお願いします」 「ええ、もちろんです」 主治医の話も終わり、面会時間も終わってしまった私たちは、手を繋いだままお祖父様の病室を出る。 病室を出た所で、逞しい体格のボディーガードが2人、病室の扉の両側に立っている。 彼らに視線を向けた苓さんは、すうっと真剣な表情に変わる。 「──頼んだぞ。見知らぬ奴が近づいて来たら構わず拘束してくれて構わない。俺たちが帰った後は、病室内で警備してくれ」 「かしこまりました」 苓さんは彼らに軽く頷いた後、私の手を引いて微笑む。 「茉莉花さん、俺たちはホテルに戻りましょう」 「ええ、そうですね」 苓さんに手を引かれつつ、私もボディーガードの男性2人に体を向けると、頭を下げて口を開く。 「どうぞ、よろしくお願いします……!」 私の声に、ボディーガードの2人は深々と頭を下げてくれた。 ボディーガードは、苓さんが手配してくれたのだ。 警察関係者のご友人に、信頼出来るボディーガード会社を紹介してもらった苓さんは、そのままボディーガードを手配してくれた。 そして、私たち個人にもボディーガードを手配してくれている。 これで、一足先に帰ったお父様にもボディーガードが付いているので一安心だ。 私と苓さんが病院を出て駐車場に向かって歩いていると、見慣れた車が目に入った。 その車は、苓さんも見覚えがあったのだろう。 一瞬で苓さんの雰囲気が刺々しい物に変わる。 「──彼は一体どう言うつもりなんだ……」 「そう、ですね」 苓さんの呟きに、私も苦笑いを浮かべてしまう。 私と苓さんが歩いて来ているのが向こうからも見えたのだろう。 車から降りて来るのが見えた。 「──どうしてっ」 「茉莉花さん、顔に出しちゃ駄目です。あちら側に、俺たちが不審がっているのを悟られちゃいけません」 「そ、そうですね……。分かりました、苓さん……」 私は、車から降りてきた御影さん──。
last updateLast Updated : 2026-02-11
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242話

涼子は、私たちを見るといつも通り御影さんの影に隠れつつ、私に話しかけてくる。 「と、藤堂さん……何と言葉をかければいいのか……」 「……お祖父様の状態を知り、わざわざここに?」 私は表情を消し、御影さんを見る。 どうして無関係の人間に、お祖父様が入院している病院を知らせたりしたの──。 その気持ちが含まれた、御影さんを責めるような視線を送る。 親しい間柄でも無いのに、入院している病院を教える事は私たちの世界ではご法度だ。 どこからどう情報が漏れてしまうか分からない。 だから、私は御影さんや涼子にお祖父様が入院している病院の場所を知られたくなんてなかったのに。 私の責める視線を受け、御影さんは気まずそうにさっと目を逸らした。 彼も、涼子に知られるのは想定外だったようなそんな態度だ。 「……悪い、茉莉花。1人で来るつもりだったんだが……涼子がどうしても、と」 「と、藤堂さん……酷いです。藤堂さんのお祖父様がお怪我をされたのですもの……お見舞いさせていただきたいと思うのは、普通でしょう……?怒らないで……怖いです……」 ガタガタ、と震える涼子。 だけど、今まではいの一番に涼子を庇い、私を責めるように見つめていた御影さんは、涼子を庇いはしたけれど私を責めるようには見ない。 「涼子、だから言っただろう?無理に訪問するのは良く無いんだ。茉莉花だって会長が大怪我をして、辛い時期なんだから……」 「ひっ、酷いわ直寛……っ!私を責めるの!?」 「──はぁ。違う。そういう事を言っているんじゃない……」 御影さんは呆れたように自分の額を押さえ、溜息をつく。 「だから言っただろう、涼子。こうした場にはお前の訪問は喜ばれない。だから大人しくホテルで待っていろ、と言ったんだ」 「で、でも……っ、直寛がお見舞いに行くのに……私もあなたの婚約者になるんだから……行かないと変だわ……」 「まだ、俺と涼子は正式に婚約していない。……こう言う軽率な行動はこれからは控えてくれ」 御影さんと涼子の会話を聞いていた私と苓さんは、驚いてしまう。 まだ御影さんと涼子は正式に婚約をしていないの……? あんな熱愛報道が出たのに、まだ正式に婚約を発表しないとなると、御影さんの印象も悪くなると言うのに──。 だけど、それは御影さんと涼子の問題で、私と苓さんには関係の無
last updateLast Updated : 2026-02-11
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243話

「──いっ」 ぎちり、と御影さんの手が、私の手首をぎちり、と強く掴む。 その力の強さに私が小さく声を漏らすと、苓さんが素早く御影さんの手を掴み、私から引き剥がした。 「茉莉花さんから離れてください、御影専務。……これ以上、彼女に付き纏わないでください」 「──付き纏とう……?俺が……?」 苓さんの言葉に、御影さんははっと鼻で笑う。 「俺が、どうして茉莉花に──……!」 「今のあなたは、嫌がる茉莉花さんに付き纏っているようにしか見えません。嫌がっている女性に付き纏うなんて、成人男性のやる事ではありません。ましてや、あなたには恋人──いえ、もうすぐ婚約を結ぶ女性がいるでしょう?その女性の目の前で、他の女性に縋るなんて真似はやめてあげてください」 「──っ」 苓さんの言葉に、御影さんがカッと顔を赤くする。 侮辱された──。 もしかしたら、そう感じたのかもしれない。 だけど、苓さんの言葉の通りだ。 御影さんに反論する余地は無い。 どこからどう見ても、その通りだから。 私は、御影さんにしっかりと向き直り告げる。 「苓さんの言う通りです。御影さん、あなたは藤堂と関係の無い人です。ですから、お祖父様への心配は無用です。……もう、これ以上私たちに関わろうとせず、あなたはご自分の婚約者を大事にしてください」 それだけを言うと、今度こそ私と苓さんは自分の車に向かって歩く。 今度は、御影さんに手を掴まれる事は無かった。 ◇ 車に乗って、ホテルに戻ってきた私と苓さん。 あれから驚く程御影さんはしん、と静かになって私と苓さんが車に乗り込む時も。 そして、車に乗ってからも。 彼が追ってくるような素振りは無かった。 ──これで、完全に諦めてくれたのだろうか。 そもそも、どうして最近は御影さんがこうしてしょっちゅう私の前に現れるのかが、分からない。 お祖父様のお見舞いに、と彼は言っていたけど。 私との婚約関係が解消した今、藤堂と御影にはもう何の関係も無いのだ。 御影家の当主がやってくるならまだ分かる。 お祖父様に恩がある御影家の祖父がやってくるなら、まだ分かるけど彼の体調も今はあまり良くなく、入院生活を送っていると聞く。 けど、彼は当主でもなんでもない。ただの御影ホールディングスの専務取締役。 それなのに、これ程までに私に接触してく
last updateLast Updated : 2026-02-12
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244話

お祖父様が事故に遭って。 しかも、事件性がある、とお父様に言われて。 私たちの身にも危険が迫るかもしれない。 だから、危険を少しでも遠ざけたい。対策したい、とその時は思った。 だから、お父様の提案にその時は少しも恥ずかしさとかは感じなかったし、危険が迫っているなら、と苓さんと同じ部屋に泊まる事に何も感じず、頷いた。 だけど、冷静になった今──。 「は、早まったのかしら……」 日中は、お祖父様の病院へお見舞いに行くから、それは良い。 だけど、ホテルに戻ってからは。 苓さんと、2人きりだ。 しかも──。 「ど、どうしよう……。苓さんとのお付き合いは、お父様にもお祖父様にも認められてる……」 以前、苓さんが言っていた言葉が頭の中で蘇る。 私たちの仲を、付き合いをお父様とお祖父様に認めてもらうまでは、苓さんは私に恋人同士のような深い接触はしない、と言っていた。 だけど、今は──? 「──〜っ」 落ち着いていた顔の熱が、再びぶり返す。 「お、落ち着いて……っ、お祖父様が大変な状況だもの……」 そうだ。 お祖父様の容態が、安定してきたとは言え、大怪我をしている事には変わりない。 お祖父様が問題なく、安全に転院できたら。 そうしたら、やっと一息つくことが出来る。 それまでは、きっと──。 「よ、よしっ!早く着替えないと苓さんが待ってるわ……!」 私はぺしん、と自分の頬を叩き気持ちを入れ替えると、急いで着替えをした。 着替え終えた私が、ホテルのリビングに向かうと、ふわりとコーヒーの良い匂いが鼻腔を擽る。 「──わっ!良い匂いですね!」 「茉莉花さん。ええ、コーヒーは挽きたてが美味しいですからね」 「わざわざ挽いてくれたんですか!?ありがとうございます!」 「どういたしまして。もうすぐできますから、ソファに座って待っていて下さい」 にっこりと笑みを浮かべ、苓さんがそう言ってくれる。 私はその言葉に甘えつつ、ソファに座った。 そして、テレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。 ここ2、3日は登山もしていたし、お祖父様の事故の件でニュースを確認出来ていなかった。 テレビの電源を入れると、ちょうどニュース番組が流れた。 国内で起きた事件や事故。 株価や海外の出来事などが放送される。 苓さんも私の分のコーヒーを持っ
last updateLast Updated : 2026-02-12
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245話

「──えっ、どうして」 「もうニュースに……?」 私と苓さんは、驚き固まってしまった。 確かに、事故が起きてしまった以上、関係各所への報告は必須。 そのため、お父様はあの事故の日から忙しくしていた。 関係各所への報告は済み、今はどうして事故が起きたのか──。 その捜査を、警察がしているはず。 だから、数日の間は表に出さないように、と言われているらしい。 それなのに。 どうして、報道機関が──。 ニュースになっているのか──。 ニュース番組では、富士山が映され、当日の登山の映像まで流れている。 個人提供、とあるため誰かが報道機関に動画を提供したのだろう。 登山の状況を動画に撮って登っている人は、確かに沢山いた。 だけど、これだけ沢山の映像をどこで──。 私が唖然としていると、ふと社用スマホが通知を知らせる。 後から後から通知が来て、私は慌てて社用スマホを確認した。 すると、そこには。 私と同じチームのメンバーから次々と心配するような連絡が来ていた。 皆、ニュースを見ていたのだろう。 そして、これだけ大々的に報道され、大事になっている事に驚いている。 「──茉莉花さん。まずいです」 「──えっ?」 私の意識が社用スマホに集中していると、ニュースを見ていた苓さんがトーンを落として呟く。 苓さんの声に私が慌ててテレビに視線を戻す。 すると。 【これだけの事故が起きてしまうと、この企業がどのように安全管理をしていたのか……そこが気になるところですね】 【どうやら、負傷者は多数いる、との情報もあります】 【長年チャリティー登山を行っているため、準備がなあなあになっていた、との情報も】 【当日は救助隊も手配しておらず、との情報も──】 そんな、勝手な事が次々とニュースで報じられてしまう。 「ちょ、ちょっと待って……!何でこんな嘘の情報が……っ!」 さも、真実のように報道されているのか──。 私が慌てていると、苓さんが苦しそうに呟いた。 「こんな事が報道されてしまえば……藤堂グループの株価は暴落する……。もしかしたら、これが目的だった……?」 「──っ、そんな!偽の情報なのに!」 「偽だろうと、構わないんです。1度暴落してしまえば、後から真実が分かったとしても……回復には時間がかかります」 「……っ」
last updateLast Updated : 2026-02-13
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246話

どうして──。 一体、誰がこんな事を……。 そう考えるが、思い浮かぶのは1人しかいない。 速水 涼子、その人だけだ。 だけど、どうしても涼子1人だけじゃ不可能だ。 絶対に涼子を手助けしている人が居る。 前までだったら、もしかしたら御影さんが──。そう、考えていたかもしれない。 だけど、ここ最近の御影さんの涼子への態度を見るに、彼も涼子から距離を取ろうと考えているんじゃないか、と思う。 御影家が手助けをしているなら。 速水と御影が手を組めば、うちにだって対抗出来るだろう。 だけど、お祖父様の事故に御影さんは驚いていた。 あの態度は嘘ではないように思える。 だったら、答えは1つだ。 涼子を手助けしているのは──速水 朱美。涼子の母親で間違いないだろう。 速水家の1人娘だった彼女は、今や速水家当主夫人。 それに、夫は婿だ。 速水の娘である朱美にかなり権力が集中している可能性がある。 「──きっと、速水 朱美ですよね……」 私が考えていた事は、もちろん苓さんも考えついていたのだろう。 私の言葉に、苓さんは驚く事なく頷いた。 「ええ、恐らく。……茉莉花さんのお父様……藤堂 馨熾さんに昔振られた事を、恨んでいるのでしょう。……だからこそ、お父様の大事な奥様……藤堂 羽累さんを狙ったのかもしれません」 証拠もなく、ただの憶測だけど。 だけど、どうもしっくりときてしまう。 もし、お母様も……お祖父様も本当に速水の家のせいであんなにお辛い思いをしているならば。 「──私、絶対に許せません」 「茉莉花さん……?」 ぐっと拳を握り、私は苓さんを真っ直ぐ見つめる。 「許せるはずがありません。今は何も証拠がなくて……、どうしようもないですけど……。だけど、絶対に証拠を見つけて、速水 朱美も……!速水 涼子にも……!罪を償わせます!」 きっぱりと私が言い切ると、隣に座っていた苓さんが、強く握りこんだ私の拳に優しく手を重ねてくれる。 「ええ、俺も許せないです。……だから茉莉花さん。一緒に証拠を探しましょう?まずは、関東に戻って、茉莉花さんのお父様と合流して……今後の詳細を話し合いましょう。俺も……、警察関係の友人に話をして……あいつを連れて来ます」 「──ご友人を!?」 「ええ。そいつは、警察関係の家なので……家族が全員あちらに顔
last updateLast Updated : 2026-02-14
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247話

どうしよう。 嬉しがっちゃいけない場面だと言うのに、私の表情はだらしなく緩んでしまう。 「──茉莉花さん、どうしてそんなに嬉しそうな顔してるんですか?」 にまにまとしているのが苓さんに見えてしまったのだろう。 苓さんがじとっとした目で私を見つめている。 「……ご、ごめんなさい」 「茉莉花さん、顔が嬉しそうなままです。……くそっ、こんな嫉妬なんて真似……格好悪いっ」 「ふっ、ふふっ。格好悪くなんて無いですよ。苓さんの気持ちがとても嬉しいです」 私がそう言うと、苓さんはちらり、と私を横目で見て「本当に?」と聞いてくる。 苓さんはしっかりしていて、とても頼もしい男性なのに。 だけど、時折こうして可愛らしい面が見えて。 そう言えば、苓さんの方が私よりひとつだけ年下なんだったっけ、と思い出す。 「ええ、本当です。苓さんはいつも格好よくて、頼りになる素敵な男性です」 「──〜っ、茉莉花さんの言葉は嬉しいですけど、今の状況で嬉しがるのはちょっと不謹慎ですね」 困ったように笑う苓さんに、私も苦笑を浮かべる。 「──でも、お祖父様の容態も安定しましたし、少しだけ苓さんとくっつきたい、です……。会社はこれから大変ですけど……大変だからこそ、頑張らないと」 「──……っ、本気ですか?」 たじろぐ苓さんに、私は苓さんの手をぎゅっと握り返した。 その瞬間、苓さんの体がびくっと跳ねる。 「ええ。こうして苓さんと手を繋いでいると、元気が出ますから!これから、沢山頑張らなくちゃなので、今の内に元気をチャージします!」 「なるほど、そう言う……」 私が苓さんと繋いだ手を顔の横に持ち上げ、もう片方の腕で力こぶを作って見せると、苓さんは何だか何とも言えない顔で、力が抜けたように笑う。 「そうですね。俺も茉莉花さんとこうしているだけで、力が湧いてくる気がします。……だけど、もう少しだけ一緒にいてもいいですか?」 「もう、少し?はい、全然大丈夫ですよ!」 まだ、深夜帯では無い。 私は苓さんの提案が、時間の事だと思っていた。 明日も、お祖父様の病院にお見舞いに行く予定と、少しだけ仕事をしようと思っているだけだ。 普段に比べると、就寝時間には余裕がある。 だから、私が頷くと。苓さんはとんでもない事を口にした──。 「──良かった。それなら、今日は茉莉
last updateLast Updated : 2026-02-14
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248話

だ、抱きしめて眠りたいって事は。別々の部屋で眠らないって事で──。 私があわあわとしていると、苓さんは慌てて言葉を続けた。 「だ、大丈夫です!変な事はしません!た、ただ、本当に茉莉花さんを抱きしめて眠れたら、俺も嬉しいなって……」 「そ、そうなんですね……、その、緊張はしちゃいますけど……」 だけど、夜も苓さんと一緒に過ごす事が出来るのは、凄く嬉しい。 しかも、起きたら苓さんが目の前に居てくれるって事でしょう? どうしよう、それはすっごく嬉しい。 「分かりました!一緒に寝ましょう、苓さん!」 私が苓さんの手を握ったまま、笑顔でそう告げると苓さんも嬉しそうに笑い返してくれた。 ◇ 夜──。 私と苓さんは、別々の部屋に別れて少しだけ仕事をした。 本来、何事も無ければ今頃は関東に戻っていて、会社で仕事をしていただろう。 数日不在にするくらいなら大丈夫、とお父様には言われていたけど、やっぱり多少なりとも進めなくちゃいけない仕事はある。 私は、戦略チームの皆とオンライン会議を終えた所で、カメラをオフにするとぐっと背を伸ばした。 部屋を出て、リビングに顔を出したけど苓さんはまだ部屋でお仕事中みたい。 誰もリビングにはおらず、私は今のうちにお風呂に入ってしまおう、と必要な物を用意してシャワールームに入った。 急いでシャワーを浴びて出ないと、と慌てていた私は、脱衣所の鍵をかけ忘れているなんて気が付かず、私はそのままお風呂の扉を開けて、中に入った。 ◇ 茉莉花がシャワーを浴びに行った、同時刻。 苓は自分の部屋で、茉莉花と同じくオンライン会議をしていた。 耳にイヤホンをしているため、茉莉花が部屋を出て行った音も、リビングを歩いていた音も、苓の耳には届いていなかった──。 「──ああ、ああ。そのように進めてくれ」 【かしこまりました、部長】 「じゃあ、頼んだ」 【はい。今週末のお戻りをお待ちしております】 「あー……、その事なんだが……」 【どうしましたか?】 「週末は、会社には戻らない。急ぎの仕事があれば、メールを送っておいてくれ」 【そ、そうなのですか……?かしこまりました】 「ああ。それじゃあ、よろしく頼む」 【はい、お疲れ様でした】 オンライン会議が終わり、俺はカメラをオフにするとぐっと伸びをする。 すると、骨
last updateLast Updated : 2026-02-15
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249話

◇ 苓さんの仕事が終わる前に、早くシャワーを浴びて手でしまわないと。 そう考えた私は、普段家で入っているより急いでお風呂を済ませた。 バスルームの扉を開けて、バスタオルで軽く体の水分と髪の毛の水分を拭い、下着を着ける。 下着を着けている時。 静かだった廊下に、歩く足音が聞こえて来た。 「あ……。苓さん、お仕事が終わったんだ」 その足音は、苓さん以外にいない。 バスルームの鍵は閉めてあるけど、なるべく早く着替えを済ませて脱衣所から出なきゃ。 そう考えて、私がバスローブに手を伸ばした所で──。 ──ガラッ 開くはずのない、脱衣所の扉が開いてしまった。 「──え…………っ」 「苓さん!?」 扉を開けたのは、勿論苓さんで。 苓さんも、シャワーを浴びようとしていたのだろう。 着替えを手に、扉を開けた苓さんは、私が中に居るとは思わなかったのだろう。 私の姿を見た瞬間、苓さんの目はみるみるうちに見開かれて行く。 そして、それに比例するように苓さんの顔が真っ赤になって──。 ──ばさり、と苓さんが持っていた着替えの服が下に落ちた。 その、落下した音に苓さんははっとして。 慌てて私から視線を逸らす。 「──っ、す、すみません茉莉花さん!!す、すぐに出て行きます!」 「えっ、あっ!危ないです苓さん!!」 慌ててこの脱衣所から出ようとした苓さんは、足元に落としてしまった自分の服に気が付いていない。 私が声を上げるのと、苓さんが自分の落とした衣服に足を取られるのは同時だった──。 「──ッ!?」 ずるっ、と苓さんの足が、自分の服を踏んで滑る。 私は、咄嗟に苓さんを支えようと両腕を伸ばした。 そのため、体を隠していたバスローブは投げ出してしまっている。 バランスを崩した苓さんが転倒して、頭を打ったら危ない──。 苓さんの体が傾き、苓さんの目が見開かれるのがスローモーションのようにとても良く見える。 私が苓さんの体を支えるように抱きついたけど、苓さんは身長が高い。 そのため、体格も良い男性だ。 私1人だけで苓さんを支える事なんて到底無理で──。 「茉莉花さん、危ない……っ!」 「──きゃあっ!」 私は、苓さんを支える所か、苓さんと一緒に縺れながらその場に転倒してしまった。
last updateLast Updated : 2026-02-15
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250話

ドサドサ!と、私たちが脱衣所に倒れる派手な音が聞こえる。 広い脱衣所だから、私たち2人が床に倒れ込んでも十分なスペースがあったみたいで。 私も、苓さんもあちこちに体をぶつける事は無かった。 だけど、絶対に頭を打ってしまうだろう、と覚悟していた私に、いつまで経ってもそんな痛みは訪れなくって。 それに、何だか私の体が温かい──。 私は、無意識に瞑ってしまっていた目をそろそろと開ける。 すると、思った通り、苓さんがあんな状況でも、私を庇うように抱きしめてくれていたみたいで──。 私が後頭部を打たないように、苓さんの大きな手のひらが後頭部に回り、引き寄せてくれていた。 だけど、私を押し倒すように倒れ込んでいた苓さんの体が、少し重い──。 「れ、苓さ──」 「茉莉花さん!大丈夫ですか!?怪我は!?」 私が声を出した瞬間、私の上に倒れ込んでいた苓さんがはっとしてがばり、と勢い良く起き上がる。 苓さんが勢い良く動いた瞬間、私の体に確かな快感が走った。 「──ぁっ」 「──ッ!?」 私の口からは、この場では場違いな甘い声が漏れてしまって──。 私の声を聞いた瞬間、苓さんの顔は真っ赤に染まった。 ちょ、ちょっと待って! 何で、今こんな風に──! 私は、自分の口元を慌てて手のひらで覆い、さっきの感覚は何なのか、咄嗟に下半身を見た──。 そして、下半身を確認してしまった事を後悔する。 私の足の間には、苓さんの長い足が入り込んでいて──。 苓さんが勢い良く体を起こした時に、刺激されてしまったのだろう。 しかも、今の私の格好はバスローブを羽織る前だったから、殆ど裸に近い格好だ。 下着だけを身につけた状態で、苓さんの目の前に私の体が今、晒されている──。 「すっ、すみません茉莉花さん!今すぐ退きます!!」 「あっ!ちょっ、苓さん、慌てて動かないで──っひゃっ!」 苓さんが慌てて立ち上がろうとした。 そのせいで、私の足の間に入り込んでいた苓さんの膝に力が入り、ぐいっと私の体が僅かに持ち上げられる。 その際に、苓さんの膝がまた私の下半身を刺激して──。 今度こそ、私はあられもない声を大きく上げてしまった。 その瞬間、苓さんの顔は先程よりも更に真っ赤に染まってしまう。 もう、恥ずかしくて恥ずかしくて。 私は、私の後頭部を未だに支え
last updateLast Updated : 2026-02-16
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