All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 261 - Chapter 270

273 Chapters

261話

「──おお、苓か……」 苓さんの姿に、お祖父様は弱々しいけれど、どこか嬉しそうに苓さんの名前を呼ぶ。 私に手を握られていたお祖父様がそっと私の手から離れ、苓さんに伸ばされる。 お祖父様の意識が戻っている事に、苓さんは驚いたようだったけど、すぐに嬉しそうに表情が明るくなり、お祖父様の手を苓さんは握った。 「意識が戻られたんですね……!ご無事で本当に良かった……!」 「ふはは、わしがくたばるのは……まだ、早い……まだまだ生きてやるぞ……」 「ふふっ、それだけ元気でしたら、明日にはもう元気に歩けそうですね」 「もしかしたら、歩けるかもしれんな……歩いてやろう、か……」 苓さんの言葉に、お祖父様は悪戯っぽく笑いながら言葉を返す。 だけど、ふうふう、と少し辛そうに声を漏らすお祖父様に気づいた苓さんがお祖父様の手を優しく握った。 「お祖父様、私と茉莉花さんは少し席を外しますから、ゆっくり休んでください。お辛いのに、無理にお話をしてしまい、すみません」 「ああ……確かに、少し辛い……。そうだな、少しだけ休もう……。茉莉花も、さっきの続きはまた後で、だ……。馨熾が来た時に、改めて話そう……」 お祖父様は辛そうに息を吐き出した後、ゆっくりと目を閉じた。 「茉莉花さん、俺たちは部屋を出ましょうか。病院側が別室を用意してくれましたから、そこで茉莉花さんのお父様が来るのを待ちましょう──。茉莉花さん!?」 苓さんの言葉に、私はぎこちなく頷く。 苓さんはお祖父様に向けていた視線を、私に向けた──。 その時、苓さんの目が驚きに見開かれる。 もしかしたら、顔面蒼白になっているのかもしれない。 そんな私を見て、苓さんはぎょっとしたのだろう。 「だ、大丈夫です……少し、お祖父様からびっくりする事をお聞きして……」 「──……別室に移動できそうですか?」 「……はい、今、立ちます、ね……」 そう告げ、私はその場に立ち上がろうとしたけど。 足ががくがくと震えてしまっていて。 上手く自分の足で立つことが出来ない。 そんな私の様子を見た苓さんは、表情を硬くしたままぐっと屈みつつ口を開いた。 「抱き上げますよ、茉莉花さん。俺に掴まっててください」 「──わっ」 ふわり、と体を襲う浮遊感。 私を抱き上げた苓さんに、咄嗟にぎゅっと抱きつく。 苓さんは
last updateLast Updated : 2026-02-21
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262話

別室に移動した私たち。 苓さんは、私を抱いたまま迷うようにその場に立ち止まっていたけれど、そのままソファに座る。 私は苓さんの膝に抱かれたまま、先程のお祖父様の言葉がぐるぐると頭の中を巡っていて──。 「茉莉花さん、茉莉花さん……?大丈夫ですか?」 苓さんの声にハッとして、苓さんを見上げる。 すると、私を心配そうに見つめる苓さんの瞳とぱちり、と合った。 「苓さん……すみません、こんな風に迷惑をかけて……」 「迷惑なんて思ってませんよ、それより……何が茉莉花さんをここまで辛い気持ちにさせているんですか……?」 苓さんは、そっと私の頬に手を添えて問う。 悲しそうな苓さんの声と表情に、私は荒れ狂う感情を何とか収め、ゆっくりと深呼吸をする。 「──目が覚めたお祖父様に、お聞きしたんです」 「お祖父様に──?」 私の言葉に、一瞬何のことか、とぽかんとした苓さんだったけど。 すぐに思い至ったのだろう。 ハッとしたような顔になり、表情を引き締める。 「もしかして、お祖父様は……覚えているのですか?」 苓さんの言葉に、私はこくりと頷いた。 「──ええ。あれは、事故じゃないと……。綿密に計算された、罠だったとはっきりと仰いました」 「──っ!?」 「だから、お祖父様は警察に話をする前に話しておきたい、と……お祖父様の意識が戻った今。あの日の事を警察が聞きに来ますものね?」 「──ええ、そうですね。そうなると、思います。しかも、あれが故意に起こされた事だったら。……殺人未遂として扱われます。捜査が、始まります」 殺人未遂──。 その言葉が、私の胸に重くのしかかる。 本当に、お祖父様は命を狙われていたのだ。 そして、実際にお祖父様を亡きものにしようと、行動した誰かがいる。 あの日、チャリティー登山に参加した人達の中で。 「──こんな事、到底許される行為ではありません。お祖父様に危害を加えた人には、しっかりと罪を償ってもらわないと」 「ええ。その通りです。……俺にも、力になれる事があると思います。是非、協力させてください」 私の手をぎゅっと強く握り、そう話す苓さん。 苓さんの気持ちが有難くて、そして苓さんが傍についてくれているだけで強く心を保てる。 私も、苓さんの手を握り返して頷いた。 「ええ、是非お願いします。お祖父様をあ
last updateLast Updated : 2026-02-22
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263話

◇ 人通りの少ない裏路地。 そこで、2人の人間が密かに会い、会話をしていた。 「今日の夜の便よ。早く日本を離れてちょうだい」 2人の内、1人。 女が鞄から1枚の航空券を取り出すと、目の前に居た人物に差し出した。 目の前にいる人物は、憔悴しきった顔で女と航空券を交互に見つめ、震える手で航空券を受け取った。 「ほ、本当に大丈夫だろうか──無事に、出国出来るんだろうな?」 「心配しないで。絶対に無事に出してあげる」 「か、家族も後から──」 「心配しないでって言っているでしょう?家族も後からちゃんとそっちに送ってあげるわ。だから早くこの国を出てちょうだい」 「わ、分かった──」 男は、ガタガタと震える手で女から航空券を受け取ると、一目散にその場を離れた。 走り去る男の背中を冷たい目で見送った女──速水 涼子は、自分の鞄から普段使用しているスマホとは別の物を取り出すと、どこかに電話をかけた。 数コール呼出音が鳴り、相手方と繋がる。 電話が繋がったと分かり、涼子は口を開いた。 「今夜の便でそっちの国に行くわ。写真の男を始末してちょうだい」 それだけを口にした涼子は、相手が返事をする前に通話を切る。 そして、冷たい視線で、男が去って行った方向を睨むように見つめた。 ◇ 「お父様、凄くお疲れのようです。体調は大丈夫ですか?」 別室にやって来たお父様を迎えた私と苓さん。 私はお父様にソファに座って頂くようにしつつ、体調が心配になり、問う。 お父様の顔色は悪く、普段のような覇気が無い。 今、会社が相当大変な時なのだろう。 私が向こうにいる間、報道関係の対応は全てお父様に任せっきりになってしまっていた。 私もこちらに戻ってきた以上、お父様の負担を減らすように動かないと。 お父様は軽く額を押さえつつ、私と苓さんに顔を向ける。 「私は大丈夫だ。それより、お祖父様の意識が戻った、と聞いた。それは本当か、茉莉花?」 「──はい。意識もしっかりしておりました。ただ、今は疲れもあり眠って頂いております」 「藤堂会長は、ご自分の身に何が起きたかもしっかりお分かりの様子でした」 私の言葉の後、苓さんが補足するように伝えてくれる。 そして、私は不安を抱えながら。 お祖父様が言っていた言葉を、お父様にも伝える。 「お父様──……、お祖
last updateLast Updated : 2026-02-22
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264話

「提案?何だ、小鳥遊くん」 苓さんの言葉に、お父様は不思議そうに言葉を返す。 すると、苓さんは真っ直ぐお父様を見つめたまま、口を開いて続きを口にした。 「谷島 隼人(やじま はやと)と言う友人がいます。彼は、警視庁刑事一課に所属している人物ですので、色々と助けになってくれると思います」 「谷島──谷島って、まさか警察官僚一家か!?」 苓さんの言葉を聞いた瞬間、お父様は目を見開き驚いた声を上げた。 そんなお父様に、苓さんは落ち着いた様子のまま頷く。 「ええ。きっと、彼の家族も手助けをしてくれると思います。……今回の会長の事件は、警視庁が捜査本部を置きますよね……?谷島に連絡を入れておきますので、彼らに事情を説明してください」 「──まさかあの一家と小鳥遊くんが繋がりがあるとは……。驚いたよ……」 「はは……あまり警察関係者の知り合いが居る、と話した事がないんです。家族──身内くらいにしか話せません」 「その気持ちは分かる。……だが、そんな大事な事を我々に教えてくれてありがとう、小鳥遊くん」 「いえ。俺で少しでも力になれる事があれば……」 苓さんが以前言っていた、警察関係者の友人、とは谷島さんの事だったのだろう。 まさか、警視庁の方だとは思わなかったし、私でも知っているくらい有名な谷島家の方と友人だったなんて……。とても驚いたけど、それで納得した。 苓さんは、谷島家のご友人が居るからこそお母様の事故の事を調べる事が出来たのだ。 そうじゃないと、事故当時から時間が経っていると言うのにあの事件の事を調べる事なんて出来ない。 私がそんな事を考えていると、苓さんと話を進めていたお父様は「よし」と声を上げてソファから立ち上がった。 「茉莉花。私は少し連絡をしてくる。お祖父様の体調が安定してから3人で一緒に病室に行こう。少し待っていてくれ」 「分かりました、お父様」 軽く手を上げ、足早に部屋を出て行くお父様の背を見送る。 お父様が出て行って、私と苓さんだけが残った部屋で。 苓さんは、申し訳なさそうに私に顔を向けた。 「すみません、茉莉花さん。警察官僚の知り合いが居るって事を……」 「大丈夫です、苓さん。苓さんがそう言った方のお知り合いが居る事を伏せる気持ちはとても分かります」 警察の知り合いが居る、という事を周囲に知られる危険性は
last updateLast Updated : 2026-02-23
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265話

私の言葉を聞いた苓さんは、安心したように表情を緩めた。 「ええ、茉莉花さん。警察に、絶対に犯人を捕まえてもらいましょう」 苓さんの言葉に私は頷き、私たちはお互いの手を握った。 ◇ それから、お祖父様に病室に呼ばれたのは1時間程経ってからだった。 その頃には、お父様も電話が終わり、別室で私たちと待機していた。 看護師からお祖父様が呼んでいる、と聞いた私たち3人は、急いでお祖父様の病室へ向かった。 「お祖父様……!」 「──父さん」 病室に入った私とお父様が、同時に声をかける。 ベッドに上半身を起こした状態で、私たちが部屋に入ってくるのを見ていたお祖父様は優しく目を細めて手招いた。 「茉莉花、馨熾。心配をかけたな」 こっちへ来なさい、と言うお祖父様の元に、私もお父様も歩いて行く。 私たち2人から少し離れた場所に立っていた苓さん。 そんな苓さんに気づいたお祖父様は、ふはっと笑いつつ、苓さんに向かって声をかけた。 「苓もこっちへ。苓は、茉莉花の婿だ。わしの可愛い孫の婿なんだから、苓もわしの孫だ」 嬉しそうに笑うお祖父様にそう言葉をかけられ、苓さんの目が嬉しそうに煌めくのが見えた。 苓さんはお祖父様に手を伸ばされ、その手を優しく取った。 「ありがとうございます。ご無事で、良かった──」 ぐっとお祖父様の手を強く握る苓さん。 私たちは一頻りお祖父様の無事を喜び合い、暫ししてベッドの横にある椅子に腰を落ち着けた。 椅子に座って、早速ではあるけどお父様が口を開く。 「目が覚めたばかりで悪いが、父さん。茉莉花から話を聞いた。……誰かに突き落とされた、と」 開口一番。 前置きも何もなく、そう尋ねるお父様。 お父様の言葉を聞いて、お祖父様の顔が真剣な物に変わった。 お祖父様はこくりと頷くと、答える。 「──ああ、間違いない。子供が滑落しそうになっていてな……。それを助けに向かったんだ。そうしたら、わしの背中を誰かが押した。……一瞬の事でしっかりと顔は確認出来なかったが……あれは男だった」 「男、ですか……。あの時間帯に我々の近くにいたグループはいくつかありますね。……その中で子供連れがいたグループは……」 お父様とお祖父様が話をする中、お祖父様の病室がノックされた。 「──!?」 こんな時間に、お祖父様の病室にいったい、誰
last updateLast Updated : 2026-02-23
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266話

「大変な所、このように時間を取っていただき申し訳ございません」 谷島さんは、病室に居る私たちをくるりと見回し、苓さんと目が合った時に鋭かった視線が和らいだ。 苓さんは、谷島さんが友人と言っていた。 苓さんと言う友人がこの場にいて、谷島さんの雰囲気を和らげたのだ。 些細な変化だけど。 だけど、苓さんと谷島さんが仲の良い友人同士なのだ、と何となく分かった。 苓さんと軽く頷き合った谷島さんは、病室に入ると部下の方を伴い、お祖父様にお見舞いの言葉を告げてくれる。 「藤堂さん。ご無事で良かったです。お体の調子は如何ですか?」 「はははっ。今回ばかりは本当に駄目かと思いましたが、こうして目覚める事が出来ました。今はまだ本調子ではありませんが、話くらいは出来ます」 「それは良かったです。長い間お時間を取らないようにいたしますね」 谷島さんはお祖父様にも、そして私たちにも配慮してくれる。 懐からさっとペンを取り出すと、谷島さんは今回の事故についておさらいをした。 チャリティー登山の開催で、普段とは違う業者が入っていないか。違和感を感じた事はないか。当日になって急に業者が変わったりしていないか。 当日の参加者に怪しい人物はいなかったか、など確認していたが、チャリティー登山には会社の社員。それと、提携会社の社員や家族などが参加していて、規模は軽く100人以上だ。 その中から、不審な人物を割り出す事は不可能に近い。 「そう……ですね……。一般参加の方達はリストで管理していますから、そこから一人一人確認していかないとなんとも……」 流石にお祖父様も苦笑い混じりでそう答える。 谷島さんも同じ考えだったのだろう。苦笑を浮かべつつ「そうですよね」と答えた。 「もしよろしければ、御社で管理している参加者のリストを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?捜査させて頂くにあたり、参考にさせていただきます」 「ええ、それは勿論。息子──藤堂 馨熾がそれらのリストは管理しておりますので、用意させます」 「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」 にこり、と笑った谷島さんはそれまでのにこやかな雰囲気を変え、真面目な表情になる。 「それで……藤堂さん。今回の一件が、事故ではなく故意だと思われたのは、何故ですか?」 谷島さんの低く、真面目な声が病室に
last updateLast Updated : 2026-02-24
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267話

お祖父様の言葉に、谷島さんが驚いたように目を見開く。 そして、真剣な眼差しのまま頷いた。 「──そうですか。その証言だけで、殺人未遂として捜査を開始できます。……まだお体の調子が良くない中、お辛い事をお話くださりありがとうございます」 そして、谷島さんははっとしたように表情を変え、お祖父様に向き直る。 「──子供を使い、と仰いましたね……?と言う事は、容疑者は家族連れかもしれません。そして、子供を利用して事に及び、当日の救助隊を別件で足止めしていたとするならば、計画的犯行の可能性が高いですね。国外逃亡の恐れがあるため、チャリティー登山に参加した参加者全員の渡航を止めますね」 谷島さんはそう言うと、部下の方に指示を出した。 部下の方は、谷島さんからいくつかの指示を出され、急いで病室を後にする。 指示を出し終えた谷島さんは、お祖父様に視線を戻して続ける。 「それでは、捜査を開始いたします。捜査に進展がありましたらまたご連絡をさせていただきます。ご連絡は──」 「ああ、私ではなく息子の馨熾にしていただいてもいいですか?私は今この状況ですし、満足にご対応が出来ないかもしれませんので」 「かしこまりました。それでは、後ほどご家族の連絡先を教えてください」 谷島さんは話を終えると「では」と告げて病室を後にした。 病室を出る直前、谷島さんは苓さんに目配せをしていて。 その行動に気がついた苓さんは、私たちに向かって口を開く。 「──すみません、少し彼と話をして来ますね。すぐに戻ります」 「ええ、分かりました苓さん」 すみません、と軽く頭を下げてから苓さんは谷島さんを追うように病室を出て行った。 病室に残された私たちは、重苦しい緊張感がなくなった事で、小さく息をつく。 谷島さんは、警視庁捜査一課の人だ。 だからだろうか。 彼が部屋にいるだけで緊張してしまう。 他の人を圧倒するような雰囲気を持った人だった。 お父様が苓さんと谷島さんが出て行った扉を見つめて呟く。 「だが、警視庁の知り合いがいるのはとても心強い。小鳥遊くんには助けられてばかりだな」 お父様の感慨深い声が聞こえ、私は頷いて返す。 「ええ、本当に。お父様が一足先にこちらに戻った後も、苓さんのお陰でパニックにならず、落ち着いて対応出来ました。苓さんがいなかったら、と思うとぞ
last updateLast Updated : 2026-02-24
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268話

「ええ、そうですね。……苓さんにもお伝えします。きっと苓さんもそれで大丈夫だと言ってくれると思います」 ただの事故だったら──。 こんな風に大事になっていなかったら。 両家の顔合わせはもっと早くに出来ていただろう。 だけど、これからきっと慌ただしくなる。 そんな中で、慌てて顔合わせをしたくはない。 苓さんのご家族とは、これから長いお付き合いになるのだから。 ちゃんと、落ち着いてゆっくりとお話したい。 私の言葉に、お父様は頷いてくれた。 「そうだな。私もそう思うよ。苓くんが戻って来たら、我々は一旦家に戻ろう。お祖父様もゆっくり体を休めた方がいい」 「ええ、そうですねお父様」 ◇ そして、私たちは苓さんが戻ってくるとお祖父様にご挨拶をして病室を後にした。 何だか凄く久しぶりに感じる我が家。 苓さんも今日は私たちの家に泊まり、これからの事を相談するつもりだ。 「苓くん。今日は出前をとるが、アレルギーなどは無いかな?」 「特にありません。嫌いな物もありませんので、何でも大丈夫ですよ」 「分かった。茉莉花、彼に客室を案内してあげてくれ」 「分かりました、お父様」 お父様が食事の手配をしてくれている間、私は苓さんと一緒に廊下を歩く。 苓さんは何度か家に泊まっているからか、使用人の皆とも顔見知りになっていた。 使用人の皆からはもう既に私の結婚相手だと認識されていて、和やかに会話をする苓さん。 苓さんに泊まってもらう部屋までやって来た私たち。 私は、苓さんに振り向いて口を開いた。 「何か必要な物があれば、使用人に声をかけてください。夕食後に届くように手配しますね」 「ありがとうございます、茉莉花さん。……今、茉莉花さんのお父様はきっと忙しい、ですよね?」 「ええ、お父様は暫く忙しいと思います……。会社の事もあるし……」 「そうですか……それなら、茉莉花さんと少しお話したいです。……お時間大丈夫ですか?」 苓さんの畏まった態度に、私も背筋を伸ばす。 「大丈夫です。場所は、どうしますか?苓さんのお部屋……?それとも私の部屋に移動しますか?」 「そうですね……このまま俺の部屋で。……谷島と話した事を、茉莉花さんにも共有しておきたいです」 「──っ!分かりました
last updateLast Updated : 2026-02-25
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269話

苓さんの部屋に入り、少しして。 使用人が飲み物を持ってきてくれる。 使用人が出て行き、飲み物の入ったグラスを受け取った苓さんは、テーブルに置いた後私が座っている隣に腰を下ろした。 「……さっき、谷島と話したんですが」 「──!はい」 苓さんは、谷島さんと話した内容を、簡単に掻い摘んで説明してくれた。 お祖父様の発言により、今回の一件は計画的犯行の可能性が非常に高い事。 そして、非公開のまま捜査をする予定だったが、世間ではもう既にこの事故の事が大きく報道されていて、隠すのは悪手になり得る事から、公開捜査になる事。 そして、怨恨による犯行の場合──。 「事件は、まだ終わらない可能性が高い、と言っていました。……第二、第三の事故が発生する可能性があるから、身辺には十分に注意した方がいいかも、とあいつは言っていました。……まだ、不確定要素が強いので、被害者家族に伝えるのは早いかも、と谷島は言っていましたが……」 「──速水家の仕業だとするならば、怨恨ですものね。知らせて下さってありがとうございます。後でお父様にもお伝えして、身辺には注意を払っていただきますね」 私の言葉に、苓さんは頷く。 だけど心配そうに私を見つめた後、私の両手をそっと優しく握った。 「俺は、茉莉花さんにも十分気をつけて欲しいです。……速水家が犯人なら。長い時間をかけて……労力も、金も、人も使って計画していたなら、これからが始まりのような……そんな、不安が拭えないんです」 「──苓さん」 「お祖父様も、お父様もとても大切です。お祖父様があんな風にお怪我をして、俺もとても辛かった。……だけど、茉莉花さんが事故に遭ったりしたら、俺は耐えられません。だから……十分過ぎる程、周囲には気を付けてください」 苓さんの切実な言葉。 それだけ、苓さんは私の身を案じてくれている。 私は、苓さんの手をぎゅっと握り返しながら安心してもらえるように笑って頷いた。 「はい、分かりました。苓さんに心配をかけないように気をつけますね」 私の言葉に、苓さんはほっとしたように表情を緩める。 そうだ──。 今の速水家は、何をしでかすか分からない。 十分気をつけるに越したことはない。 私は、ぐっと自分の手に力を入れて自分自身に言い聞かせる。 苓さんを悲しませたくない。 絶対に周囲には気をつ
last updateLast Updated : 2026-02-25
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270話

それから、私は苓さんと色々な事を話した。 お父様に言われていた両家の顔合わせについて。 これから、どんな事に気をつけて生活するか、そんな事を苓さんからアドバイスをもらう。 それに、刑事の方に私も当日の事故について色々と聞かれるだろう、と言う事も苓さんから教えてもらう。 「茉莉花さんや、お父様、お祖父様の対応は谷島にお願いしていますが、彼の手が空いてなくて別の人間になる場合もあります。その際は必ず警察手帳の掲示と、名刺をもらうようにしてくれ、と言っていました」 「そう、なんですね。もしかしたら警察の振りをして接触する可能性もあるんですか?」 「詐欺集団なんかは、警察の振りをするらしいです。今回は違うので、一概に接触があるかもとは言えないそうですが……気をつけるに越したことはないので」 不安そうに私にそう告げる苓さん。 私は安心してもらえるように笑顔で頷いた。 「分かりました。谷島さんじゃない場合は、十分に気をつけますね」 「ええ、そうしてください。俺も十分に気をつけます」 私と苓さんがそんな話をしていると、お父様が私たちを呼んでいるらしい、と使用人から声をかけられた。 ◇ 食堂に移動した私たちを、お父様は出迎えてくれる。 既に夕ご飯の手配をしてくれていたため、テーブルの上には出前で頼んだご飯が沢山並べられていた。 沢山の出前を頼んだお父様は、申し訳なさそうに後頭部をかきながら口を開く。 「すまないね、苓くんがどれだけ食べるか分からなくて……沢山頼んでしまったけど、無理はしないでくれ」 「ありがとうございます。とてもお腹が空いていたので嬉しいです」 席に座って、とお父様に促され、私と苓さんは席に着く。 すると、お父様が口を開いた。 「先程、谷島さんから連絡があったよ。リストの中に記載されている人物が、今日の夜の便で海外に飛ぶ予定だったらしい」 「──えっ!?」 「勿論谷島さんはその人物の海外渡航を阻止して、今は拘束しているその人物の身柄を引き取りに空港へ向かったらしい」 「うちの会社の人だったんですか?」 私の質問に、お父様は首を横に振って答える。 「いや、一般参加者だ。系列会社に務めている人の知り合いの一家らしい」 「──なら、私たちとは全く面識のない人なんですね」 「ああ。そんな人がどうして我々を狙ったのか…
last updateLast Updated : 2026-02-26
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