All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 251 - Chapter 260

273 Chapters

251話

私の足の間から慎重に膝を抜いてくれる苓さん。 だけど、いくら慎重に動いたとしても、多少の接触は発生してしまう──。 「──んっ!」 「す、すみません茉莉花さん……っ」 顔を真っ赤に染めた苓さんが、ようやく私から離れ、落ちていたバスローブを下着姿の私に被せてくれた。 あわあわとした苓さんは、自分が落としてしまった服に躓き、バランスを崩して壁に額をぶつけてしまう。 ガツン!と凄い音がして、私はバスローブを急いで羽織り、苓さんに駆け寄った。 「れ、苓さん!大丈夫ですか!?」 「──〜っ」 「す、すみません……!私が鍵をかけ忘れたせいでこんな事に……っ!」 「いえ、茉莉花さんのせいじゃないです……!俺も、茉莉花さんが脱衣所に居るのを確認しなかったから」 苓さんは壁に強かに打ち付けた額を手で押さえつつ、私に謝罪する。 でも、苓さんが悪い事なんて1つも無い。 元々は、私の不注意だったんだから──。 「だ、大丈夫ですか苓さん?ぶつけてしまったおでこ、冷やした方が……」 「いや、大丈夫です……!その……、茉莉花さんは湯冷めしてしまうので、早く部屋に戻って暖かくしてください」 「で、でも……」 こんな状態の苓さんを置いて私だけあっさり部屋に戻るのは、流石に──。 私が躊躇っているのが分かったのだろう。 苓さんはちらり、と私に視線を向けてくれたけど、またすぐに視線を逸らしてしまう。 「──〜っ、このままだと、茉莉花さんに触れてしまいそうなので、早く俺から離れた方がいいと思います」 「──っ!?」 まさか、そんな事を言われるとは──。 私は驚いて苓さんの顔を見てしまう。 苓さんの顔は、未だに真っ赤のままで。 ふるふると何かに耐えるように、苓さんの体は震えている。 私の視線は、無意識に苓さんの──。 「──ッ!?す、すみませんっ!すぐに出て行きますね!?」 私は顔を真っ赤に染め上げると、慌ててその場に立ち上がり脱衣所から脱兎の勢いで出て行った。 脱衣所から逃げるように出て来た私は、そのまま自分の部屋に駆け込む。 バタン!と扉を閉めて、そのまま扉を背にしたままずるずるとしゃがみ込む。 「──〜っ」 見て、しまった。 見えてしまったのだ。 苓さんが、反応してしまっている所を──。 あんな風に取り乱している苓さんを見たのは
last updateLast Updated : 2026-02-16
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252話

私が部屋で着替えを終え、リビングに移動して来てからどれくらい時間が経っただろう。 コーヒーを用意して飲んでいたのだけど、そのカップの中が空になった頃。 ようやくバスルームから物音が聞こえてきた。 「──っ!」 苓さんがお風呂から上がったのだ。 私は、手にしていたカップをテーブルに置き、リビングのドアを振り返った。 私が振り返るのと同時。 リビングの扉がガチャリ、と言う音と共に開かれ、苓さんが姿を現す。 「れ、苓さ──」 「あ、茉莉花さん……」 苓さんの名前を呼ぼうとした私の声は、最後まで言葉を紡ぐ事なく、途切れてしまう。 苓さんは温かいシャワーで体が温まったのだろう。 ほんのりと肌が赤くなっているけど、私は苓さんの髪の毛にギョッとして言葉を止めてしまったのだ。 私は慌ててソファから立ち上がると、苓さんに駆け寄った。 「れ、苓さん!髪の毛が濡れたままです!乾かさないと風邪をひいてしまいます!」 「──え、……あ。すみません、それどころじゃなくて……」 私が咄嗟に苓さんの手を取ると、苓さんの手のひらはとても熱かった。 どれだけの長い時間、湯船に浸かっていたのだろう、とギョッとしてしまう。 「ちょ、早くソファに座ってください苓さん!髪の毛を乾かしましょう!」 ぐいぐいと苓さんを引っ張り、ソファに座らせると私は急いでキッチンに向かう。 苓さんの分も、と用意しておいて良かった。 私は保温ポットから熱々のお湯でコーヒーを作ると、カップを持って苓さんの所に戻り、手渡した。 「苓さんみたいに美味しくは淹れれませんが……」 「いえ、ありがとうございます茉莉花さん」 私がカップを手渡すと、苓さんはふにゃりと笑う。 そしてコーヒーを飲んでくれているのを確認してから、私は急いで自分の部屋に向かった。 部屋からドライヤーを持ってくると、座っている苓さんの後ろに立つ。 「髪の毛を乾かしますね」 「──すみません、ありがとうございます」 カチ、とドライヤーの電源を入れて、温風を苓さんの髪の毛にあてる。 苓さんの黒くて艶々の髪の毛は、指通りがとても良くてさらさらだ。 丁寧に乾かす事に集中し、時間をかけて髪の毛を乾かす。 すると、ソファに座っている苓さんの体から力が抜けている事に気が付いた私は、ちらりと苓さんを盗み見る。 苓さんの
last updateLast Updated : 2026-02-17
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253話

苓さんに手を引かれ、部屋に入る。 苓さんはバスローブ姿だけど、着替えたりしないのだろうか。 私がそう疑問に思っている愛だに、苓さんは私をベッドまで連れて来ると、そのまま私を抱きしめてきて、一緒にベッドに倒れ込んだ。 「──ひゃっ!」 どさっ、とベッドに倒れ込んだ私たち。 苓さんは私を更に抱き込む。 「れ、苓さん、布団をかけないと風邪をひいちゃいます!」 「──んん」 苓さんはぺしぺしと叩く私に、何とか眠気に抗いながら体を動かし、かけ布団を自分達にかけてくれる。 これでもう大丈夫、とばかりに苓さんは私をぎゅうぎゅうと抱きしめてぐっと体を抱き寄せられる。 「──うぐっ」 少し苦しいけど、苓さんは眠気が限界なのだろう。 私を強く抱き寄せたまま、すやすやと気持ちよさそうな寝息をたて始めてしまっている。 「ね、寝ちゃった……?」 まさか、苓さんがこんなに早く眠りについてしまうなんて──。 「この数日間、凄く疲れていたのかも……」 私はそう呟きながら、何とかもぞもぞと体を動かして腕を自由にすると、苓さんの頬にそっと手を伸ばす。 「ずるい、何でこんなにすべすべなの……?」 お風呂から上がって、お肌のお手入れなんてしていないのに。 苓さんの頬はつるつる、すべすべだ。 私は苓さんが出てくる前にしっかりとお肌のお手入れをした。 毎日のお手入れで、こうして肌荒れなどはしていないけど、苓さんは何もしていないのにこれだけ綺麗なんて──。 「何だか、ずるいわ……」 苓さんは、私のように毎日メイクをしていないけど。それにしたって、お肌が綺麗過ぎる。 何だか本当にずるい──。 そんな事を考えて、私が苓さんの頬を触っていたからだろうか。 擽ったかったのかもしれない。 苓さんの瞼がぴくり、と動き小さく声を漏らした。 「──ん、んん?茉莉花さん……?」 「あっ、ごめんなさい、苓さん……。寝てたのに起こしちゃった……」 「──夢、かぁ……」 普段とは違う、少しふにゃりとした苓さん。 何だかその様子が可愛らしくて。 私はくすくす、と笑ってしまった。 「ふ、ふふ……そうですね。これは夢ですよ」 「ん……」 私が小さく笑いながらそう言うと、夢だと納得したのだろう。 苓さんが小さく呻いてからもぞもぞと動き出した。 「──?」 どうし
last updateLast Updated : 2026-02-17
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254話

眠そうに、とろりとした目の苓さんを見て私はぎょっとする。 まさか、眠くてあまり意識がはっきりしていないの!? 私は慌てて覆い被さる苓さんの胸元に手を置き、ぐいぐいと押すけど、苓さんの体はちっとも動かない。 「──〜っ」 こんなに力の差があるなんて、と私は愕然としてしまう。 良く考えれば当たり前の事なんだけど──いつも苓さんは優しく私に触れてくれるから。 私が必死に苓さんの胸を押しても、ぴくりとも動かない力強さに、改めて男性と女性の力の差をまざまざと感じてしまう。 だけど、このままだとあまり良く無い事になりそうで。 たとえ、1度は苓さんと体を重ねた事があると言っても、2度目は今じゃない。 それに、こんな風に眠くて意識がぼうっとしている苓さんも、こんな風に私を抱きたくはないはず。 だから私は精一杯苓さんを押してみるけど、苓さんの顔がふ、と私に近づいてくる。 「──っ」 私は、咄嗟に目を閉じた。 けど、いくら待っても苓さんの唇が重なる感覚が訪れない。 それ所か、私の胸元に重さを感じた。 「あ、あれ……?」 私はそろそろと目を開けて、確認する。 すると──。 苓さんは、嬉しそうな表情で目を閉じ、私の胸元に顔を寄せていて。 そのまま苓さんは体から力を抜き、私に体重をかけてくる。 「わっ、わわ……っ、重い……!」 このままだと、押し潰されてしまいそう……! 私が必死になって何とか苓さんの下から抜け出そうとしたけど、全然抜け出せなくて。 苓さんの顔は、依然と私の胸元にある。 「うぅ……仕方ないわね……このまま寝よう……」 私は布団を手繰り寄せ、何とか苓さんに被せる。 こんな状態で眠れるかどうか分からないけど、私はすやすやと眠る苓さんの顔を見て、苦笑いを零した。 ◇ 柔らかくて、温かい──。 (──んん?何だろう……この柔らかいの……) 俺は、微睡みながら柔らかい何かを手探りで触れる。 顔の近くにあったそれを手のひらで触れ、掴む。 すると、俺の手のひらの中でふにゃり、と形を変えた。 手触りのいいそれを、無意識に何度も手で触れてしまう。 手のひらにしっとりと吸い付くような肌触りの良い感触に、時折手のひらに力を込めつつ、眠気には逆らえなくて。再び俺は、そのまま眠りについた。 ◇ ぎゅうう、と抱きしめられているよ
last updateLast Updated : 2026-02-18
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255話

目を覚ました私は、真っ暗な部屋の中、目が慣れるまで少し時間を費やした。 その間も、私の胸元は刺激されていて──。 目が覚めて、意識がしっかりとしてきた分、今自分の身に何が起きているのかがはっきりと分かってきて。 (──嘘でしょう!?どうして……!?私、パジャマを着ていたのに……っ) どうして苓さんの手のひらの熱さを、直に感じるのだろうか。 頭の中がパニックになってしまう。 ようやく薄暗さに目が慣れてきて、私は胸元に視線を向けた。 (──やっぱり……っ!) 状況を理解した瞬間、私の体がカッと熱くなる。 苓さんの頭は、昨夜寝る前と同じように私の胸元に。 だけど、苓さんの両腕は私の腰をガッチリと抱きしめていたのに、両腕だったそれは、片腕になっていて。 私のパジャマはいつの間にかボタンが外れ、素肌が顕になってしまっている。 (どうして、下着が──っ) 下着がズレてしまっていて、苓さんの手のひらが直接私の胸を掴んでいるのを見てしまった瞬間、私は真っ赤になればいいのか、真っ青になればいいのか分からずに声にならない悲鳴を上げた。 ◇ 「ん、んん……」 何だか、とても良い夢を見ていた気がする。 軽く伸びをして、俺はぼんやりと目を覚ました。 「──あれ、茉莉花さん……」 昨夜、眠る時に茉莉花さんと一緒にベッドに入っていたはず。 だけど、目を覚ましたそこには茉莉花さんの姿はなかった。 俺はぼんやりとする思考の中、ゆっくりと体を起こす。 ベッドには既に茉莉花さんの姿は、無い。 部屋を見回してみたけど、部屋にも茉莉花さんの姿は、ない。 次第にぼんやりとしていた思考が、はっきりとしてきて。 「──っ」 やばい、寝過ごしただろうか。 俺は慌ててベッドから降りると、茉莉花さんの姿を探すために部屋を出た。 「──茉莉花さん!」 叫びながら部屋の扉を開ける。 すると、ホテルのリビングにようやく探し求めていた茉莉花さんの姿があって、俺はほっとした。 「あっ、れ、苓さんおはようございます。良く眠れましたか?」 茉莉花さんは結構前に起きていたのだろう。 着替えも済ませ、普段のキチッとした印象の茉莉花さんが、そこにいた。 だけど、茉莉花さんは俺の姿を見るなり頬を赤らめた。 やばい、何か変な格好をしているだろうか。 バスローブがだらし
last updateLast Updated : 2026-02-18
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256話

「嘘だろう?どうして、こんな早く新聞に……!」 でかでかと見開き一面に載っている、登山中の事故。 昨夜、テレビのニュースで取り上げられたばかりなのに、もう翌朝の新聞に記事が載っている。 これは、いくらなんでも動きが早すぎる。 記事の文章だって、いくら何でも早すぎるだろう。 まるで、予めこの事故が起きる事が分かっていた、とでも言うようにその記事は完璧に書かれていた。 「……これは、やっぱり仕組まれて」 ならば、速水 涼子だろうか。 速水 涼子の母親まで加担しているとすれば、このように大それた事を仕組むのも容易い。 だが、昔に茉莉花さんのお父様──馨熾さんに自分が振られたとは言え、ここまで憎悪し、藤堂家をめちゃくちゃにするだろうか、と考える。 自分を選んでくれなかった馨熾さんに悔しさを抱くのは、まだ分かる。 だけど、馨熾さんの奥さん──茉莉花さんのお母様まで狙い、そしてお祖父様まで狙い、藤堂グループの印象を。株価を下げる程の恨みを持つ、だろうか? ただ、お父様に振られた、という理由だけで? 「何だか……それ以外にも理由がありそうだな」 俺は、一先ず新聞から視線を外し、顔を洗う。 早く身支度を整えて、茉莉花さんにこの新聞を見てもらわないと。 俺は、顔を洗い手早く着替えを済ますと洗面所を後にした。 ◇ ど、どうしよう──。 苓さんの顔がまともに見れなくて、変な態度を取ってしまった。 苓さんは、私を良く見てくれている。 だからこそ、私の変な態度に絶対に気付いているはず。 それなのに、苓さんは私に理由を聞かず普段通りに接してくれた。 「も、もう〜っ」 私は、ぱしぱしと自分の両頬を叩いて、気持ちを入れ替える。 苓さんは眠っていて、覚えていないんだから。 気にしていても、仕方ない。 ふわり、とコーヒーの良い香りが漂い、私の荒ぶっている感情が少し落ち着いてきた。 ふう、と息を整えてコーヒーを用意していると、身支度を終えた苓さんが洗面所から出て来たのが、音で分かった。 ちょうど用意していたコーヒーも、準備が終わった所。 私は、2つのマグカップを持って苓さんに振り向いた。 「苓さん、コーヒーが出来ましたよ」 「ありがとうございます、茉莉花さん」 私が笑顔で苓さんに振り向くと、苓さんはとても真剣な表情をしていて。 「茉
last updateLast Updated : 2026-02-19
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257話

「苓さん……悪い知らせって……?」 「茉莉花さん、これを」 私の問いかけに、苓さんが眉間を寄せ、難しい顔をしたまま新聞を差し出してくる。 その新聞に視線を落とした私は、苓さんの態度に納得がいった。 軽くひと目見ただけで、分かる。 新聞には「チャリティー登山」「事故」「T財閥主催」と単語がいくつも書かれているのが見えた。 「──もう、新聞に……?」 「ええ、早すぎます」 苓さんから新聞を受け取り、中を確認する。 確かに、苓さんの言う通り、新聞に載るのが早すぎる。 記事だって、完璧に出来すぎている。 内容を見た私は、新聞を閉じて息を吐き出した。 目を閉じて、動揺する心を落ち着かすように何度か深呼吸をした。 「……まるで、事故が起きるのが分かっていたように、完璧な記事ですね」 「ええ、俺も……そう感じました」 苓さんも、そう思ったんだ。 それなら──。 「涼子……いえ、速水家は、随分前から計画していたのかもしれませんね」 藤堂家は、数年に1度このチャリティー登山を開催しているから。 だから、今回の開催に合わせて涼子が参加し、お祖父様をこんな目に遭わせたのだろうか。 だけど、最早そうとしか考えられない。 もし、本当に涼子が──速水家が、お祖父様や……いいえ、お祖父様だけじゃない。証拠は無いけど、お母様まで手にかけたと言うのであれば。 「──絶対に、許せません」 私は、新聞をぐしゃりと握り潰してしまうほど、強く握った。 ◇ 「お父様……」 〈こちらは、大丈夫だ。私1人でも何とかなる。だか、お祖父様には今、茉莉花や小鳥遊くんだけしかいない。こっちの事は気にするな。お祖父様を頼む〉 「分かりました。お祖父様の事は私たちに任せてください。……だけど、お父様も無理だけはしないでくださいね。そちらに戻る日が分かったら、すぐに連絡します」 〈ああ、頼んだぞ〉 お父様との電話で。 お父様の周囲はざわざわと騒がしく、慌ただしい雰囲気が電話からでも伝わってきた。 今回の事故を会社から発表される前に、リークされてしまったのだ。 しかも、今までこんな事故は1度も起きなかったと言うのに。 世間の反応は、様々だった。 同情的な反応もあれば、非難する反応もある。 だけど、今回事故に遭ってしまったのは、チャリティー登山を主催した、藤
last updateLast Updated : 2026-02-19
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258話

苓さんと2人、並んで先生の説明を受ける。 「容態が安定したので、いつでも転院出来ます。ただ、藤堂さんはご高齢なのもありまして、長期間の車移動より、ドクターヘリで新しい病院に移動する方が、体にも負担がかかりません。ただし、ドクターヘリに同乗出来るご家族は、1人だけなのですが──」 先生は、申し訳なさそうにちらり、と苓さんを見る。 先生の話を聞いていた苓さんは、私の手を握った。 そして、優しく話してくれる。 「茉莉花さん、それでは俺は、別ルートで向かいますね。茉莉花さんはお祖父様の傍に着いていてあげて下さい」 「れ、苓さん──」 「関東からそんなに距離も離れていませんし、少し時間は掛かってしまいますが、俺も向こうに着いたらすぐに病院に向かいます」 「せっかく一緒に残って下さっていたのに……」 それなのに、苓さんだけ一緒に移動できないなんて──。 私が俯きそうになった時。 苓さんが私の両頬をそっと持ち上げた。 「俺の事は気にしないで。茉莉花さんは、お祖父様の事だけを考えてください」 「苓さん──……ありがとうございます、お祖父様の傍にいます」 「ええ、そうしてあげてください」 私たちの話が纏まるのを待っていてくれたのだろう。 先生は、転院の手続きや転院先の事を説明してくれた。 「ドクターヘリが到着するまで、あと1時間程です。それまでにご準備をお願いいたします」 「分かりました、よろしくお願いします、先生」 「では、失礼しますね」 私たちに説明をしてくれた先生は、頭を下げた後病室を後にした。 お祖父様の病室に、私たちだけが残る。 これからお祖父様の転院準備をしなくちゃ──。 私がそう考えて、顔を上げた時。 苓さんは私の手をそっと握った。 「茉莉花さん。俺が一緒に残っていても、邪魔になるかもしれません。これから、バタバタすると思うので……」 「そんな事……!」 「いいえ。移動の邪魔はしたくないので、俺は一足先にあちらに戻りますね。病室の前にいるボディーガード達は、茉莉花さんがドクターヘリに無事乗り込むのを見届けさせます」 「ありがとうございます、苓さん……っ」 「気にしないでください。俺が向こうに着くのは少し遅くなると思いますが……病院に着いたら1度メールでも何でもいいので、連絡をください」 「──分かりました。
last updateLast Updated : 2026-02-20
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259話

◇ 苓さんと別れてから、時間は驚く程あっという間に過ぎた。 お祖父様と一緒にドクターヘリに乗り込んだ私を、外でボディーガードの方が見送ってくれる。 彼らにお礼を告げて、私とお祖父様の乗ったドクターヘリはその地を後にした。 転院先の病院に着いた時。 ヘリポートには転院先の病院長や、数名の医師、看護師が待機していて。 その後方に、新しいボディーガード2名の姿を見つけた私は驚きに目を見開いた。 「もしかして、もう苓さんが手配してくれたの……!?」 対応の早さにびっくりする。 2名のボディーガードは、やっぱり苓さんが手配してくれていた人達で。 お祖父様の病室を見張る方は別に手配済らしい。 ドクターヘリからお祖父様を下ろし、病室に運び入れてほっと息をつく。 お祖父様は、色々な検索があるため今は検査中で、病室には私1人だけだ。 だけど、部屋の外にはボディーガードが待機してくれているので、何の不安も無い。 「あ──っ!苓さんに病院に着いたって連絡しないと……!」 私は、急いでバッグからスマホを取り出し、苓さんへ連絡を入れる。 すぐに苓さんから返信があって。 苓さんは、まだ新幹線で移動中だからあと数時間はかかるだろう、と言う事だった。 私はスマホを取り出したついでに、ニュースを確認する。 バタバタしていて、国内ニュースや政治・経済を確認する余裕が無かった。 黙々とそれらを確認していく。 やはり、想像していた通り藤堂グループの株価は下がってしまっている。 だけど、もっと酷い下がりを予想していたけどそれ程の下落はしていないようで、ほっとした。 そして、次に今回の登山事故に対して調べると、今朝の新聞の件もあってか、事故についてとても大きく騒がれていた。 「──こういうコメントは、見ない方がいいわね」 大体は、批判的なコメントだ。 真っ当な批判なら、見る価値がある。 だけど、こういうニュースに対してつくコメントは、圧倒的に誹謗中傷的なコメントの方が多い。 先程、ぱっと見た限りだけでも誹謗中傷のコメントが多かった。 何の為にもならないコメントは、見る価値が無い。 「……まともな批判コメントは、後日人に頼んで書き出してもらおう」 私はニュース記事のコメント欄を閉じた。 お祖父様の検索が終わって、戻ってくるまで、あと少し時間があ
last updateLast Updated : 2026-02-20
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260話

「お祖父様!?」 まさか、お祖父様の意識が戻っているなんて──! 私は、驚きのあまり言葉を失ってしまい、自分の口元を両手で覆った。 そんな私を、病室のベッドに移動させられたお祖父様は、苦しそうに小さく呻きながら手招いた。 「茉莉花、顔を見せてくれ……」 「──っ!はい、お祖父様!」 途切れ途切れに言葉を紡ぐお祖父様。 お祖父様の手が、小刻みに震えながら持ち上げられる。 私はお祖父様の両手を、自分の両手でしっかりと握った。 私がお祖父様の手を握ると、お祖父様は嬉しそうに目を細めた。 「すまないな……わしのせいで、迷惑をかけただろう……」 「そんな!迷惑なんてかけられていません!お祖父様がご無事で、本当に良かった──」 お祖父様は、優しく目を細めて見つめたあと。 周囲に視線を巡らせる。 「馨熾は……?」 お父様の名前を呼んだお祖父様に、私は零れ落ちる涙を拭いつつ、答えた。 「お父様は今、会社に……。お祖父様が目覚められたと知ったら、飛んで来ますよ」 「そうか……会社……。わしのせいで、会社も大変な事になっているだろう……」 「そんな……」 そんな事は、気にしないで欲しい──。 私がお祖父様にそう言葉をかけようとしたけど、それより前にお祖父様が先に言葉を続けた。 「茉莉花……、苓は……?」 苓さんの姿が無い事も、疑問を抱いたのだろう。 私はお祖父様の手を握り、答える。 「ドクターヘリには、私1人しか同乗出来なかったので、苓さんは新幹線で移動してくれているんです。あと少しでこっちに着くと思いますよ」 私の言葉に、お祖父様は「そうか……」と呟いたあと、ゆっくり私に目を合わせた。 「……茉莉花。恐らくわしが目覚めた事で、警察が来るだろう?今回の事故について……話を聞きたいはず、だ……」 「──ええ、お祖父様」 目覚めたばかりのお祖父様に、無理に話して欲しくはなかった。 だけど、お祖父様は何かに急かされるように言葉を紡ぐ。 「あれ、は……事故なんかじゃない……」 「──えっ!?」 「綿密に仕組まれた、罠だったよ……。わしも、年を取ったものだ……子供の愛らしさに誤魔化され、目が曇っておった……」 「ど、どう言う事ですか!?それじゃあ、お祖父様はやっぱり──」 「……ああ。わしは、誰かに……突き落とされた」 お
last updateLast Updated : 2026-02-21
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