◇ パタン、と玄関のドアが背後で閉まる。 御影は背中を向けたまま、ちらりと背後を振り返った。 「……見送りもなし、か」 だが、それもそうか。と御影は鼻で笑いつつ、御影は足取り軽く廊下を戻って行く。 これでもう。 こそこそと隠れて涼子と会う必要はなくなる。 藤堂家に恩があり、断れなくて仕方なく受け入れた婚約。 だが、それも今夜で全部が終わる。 ようやく表立って涼子を自分のパートナーだと、婚約者だと紹介できるようになった。 まさか、あの日の写真を撮られているとは思わなかった。 だが、遅かれ早かれ婚約は解消していた。 それが少し早まっただけだ。 「……あの写真を撮ったのは誰か知らないが、褒めてやりたい気分だな」 御影は、鼻歌でも歌ってしまいそうなほど上機嫌で自宅へと戻った。 ◇ [夜 藤堂本家] 私が本家の駐車場に車を停めると、しばらくして御影さんの車が本家にやってきた。 私の車は「家族専用駐車場」に、御影さんの車は「来客専用駐車場」に通されるのを横目で見て、お父様も既に記事の事をご存知なのだと知る。 今までは、御影さんの車に私が乗ってくるか、例え別々であっても、御影さんの車は「家族専用駐車場」に案内されていた。 けれど、藤堂の家はもう御影さんを身内とは判断しておらず、線引きしたと言う事。 私は藤堂本家の対応に、ほっと安堵した。 良かった、私はお祖父様にも、お父様にも見捨てられていない──。 そう考えていると、使用人が車の扉横にやってきて、私に話しかけた。 「お帰りなさいませ、茉莉花お嬢様。旦那様と大旦那様がお待ちです」 「分かったわ。今行く」 こくり、と頷いて私は車から降りる。 遠くに車から降りた御影さんの姿が見えたけど、私は彼に声をかける事なく玄関に向かった。 私の姿を見るなり、すぐに鍵が解錠されて中に入る。 私は長い廊下を歩きながら、先程使用人から言われた言葉をふと思い出す。 「お帰りなさい、か……」 確かに、家に戻るのもいいかもしれない。 あのマンションに居続ける理由は、もうない。 それなら、家に戻り、家のためにまた会社に戻る事もいいかも。 けど、私が仕事に戻る事をお父様とお祖父様がすんなり認めてくれるかは、分からない。
Terakhir Diperbarui : 2025-10-25 Baca selengkapnya