「それだけ……ですか?」 「ええ。それ以上にありますか?」 私の返答に、小鳥遊さんはため息を零し、テーブルに頬杖をついた。 そしてこちらを探るように口を開く。 「あんなに熱い夜を共にしたのに……?」 「──〜っ」 小鳥遊さんの言葉に、私の顔がカッと熱を持つ。 その事は敢えて話題にしていなかったのに……! 「こんな、所で…その話はやめて下さい…」 それに、と私は言葉を続ける。 「あの夜の事は無かった事に。忘れて下さい。私はお酒に酔っていたし…あなたもお酒を飲んでいたでしょう?」 「俺はそこまで酒に酔ってませんよ。魅力的な藤堂さんを前に我慢できなかったのは確かですが…、俺は、俺の意思であなたを抱きました」 「──っ」 直接的な彼の物言いに、益々私は顔に熱が集まる。 こんな所で。 しかも、まだ日が出ている明るい時間に。 彼から醸し出される淫猥な雰囲気に、私は瞬きも忘れ、彼に一瞬見惚れた。 けど、すぐに私ははっとして頭を横に振って気持ちを切り替える。 「小鳥遊さんの気持ちがどうであろうが…、私は小鳥遊さんに特別な気持ちは抱いていません」 私の言葉に、小鳥遊さんは一瞬目を伏せ、悲しそうに笑う。 けど、その表情はすぐに消え去り、見慣れた笑みを浮かべ、私に向き直る。 「そうですか。…今は、それでいいです」 そう言うと、小鳥遊さんは椅子から立ち上がった。 小鳥遊さんもやっと自分の仕事に戻るのだろう。 彼が立ち去る雰囲気に、私はほっと安堵した。 「けど、俺は藤堂さんが好きです、ずっと前から。……俺はあの夜の出来事は忘れられないですし、忘れたくないです」 「……っ」 「今度は仕事で顔を合わせる事になると思います。その時に、また」 「──あっ、小鳥遊さ……」 彼の口から出た、私を「好き」だと言う言葉。 それに、ずっと前から私を知っていたって何で……。 異性にここまで好意を寄せられた事は初めてだ。 いつも、私が御影さんを追いかけていたから。 小鳥遊さんの気持ちは嬉しいけど、私は小鳥遊さんの気持ちに応えられない。 だからそれを言葉にしようとしたけど、小鳥遊さんは私の返事を聞く前にその場から立ち去ってしまった。 立ち去る前に見えた彼の横顔が、悲しそうに
最終更新日 : 2025-10-30 続きを読む