All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 21 - Chapter 30

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21話

宅配か何かを頼んでいただろうか。シャワー上がりで、薄着だったため、私は簡単にバスローブを上に羽織り、インターホンを確認しに行く。モニターを確認すると、そこには想像もしていなかった人物の姿があり、私は目をぎょっと見開いた。「ど、どうしよう…このまま居留守を使う…?いえ、駄目よ。下の駐車場に車がある…」これで居留守を使う事は出来ない。モニターには、信じられない事に御影さんが映っていて、彼は応答がない事に苛立っている様子だ。このままだと、彼を怒らせてしまう。そう考えた私は、モニターボタンを押した。「──は、はい」「……やっぱり家に居たか。開けてくれ」「す、すみません、御影さんの前に出れるような格好じゃないんです」こんな、バスローブ姿で御影さんの前に出たら、何と思われるか。きっと御影さんは眉を顰めるだろう。だから、私は御影さんに帰ってもらおうとそう口にしたのだけど、御影さんは一瞬黙ったがすぐに口を開く。「君がどんな格好だろうが、俺は気にしない。話したい事があるから開けてくれ」「……分かり、ました」御影さんがここまで言うのであれば、仕方がない。私は首筋やデコルテについたキスマークを隠すようにしっかり前を合わせ、きつく紐を縛る。首筋は纏めてアップにしていた髪の毛を下ろし、手ぐしで整えて首を隠すように前に持ってくる。「お待たせしました……」「……」鍵を開け、御影さんを出迎えると私の格好を見た御影さんはやっぱり訝しげに眉を顰めた。色仕掛けを疑われても困る。私は御影さんに向かって先に口を開いた。「シャワーを浴びていたので、こんな格好ですみません……」「……構わない。邪魔をする」「どうぞ」御影さんを通し、リビングのソファに座ってもらう。私は紅茶を。御影さんにはコーヒーを用意して、カップを前に置くと、御影さんはお礼を口にしてからコーヒーを一口飲んだ。私は一方的に気まずさを感じていて、御影さんから視線を逸らし、紅茶ばかりを口にしてしまう。だから、御影さんがじっと私を見つめている事にも気づけなかった。カップを静かにテーブルに置いた御影さんが、口を開いた。「昨夜、は……会場に置いて行ってすまなかった」「──え」ちらり、と御影さんから視線を向けられ、謝罪される。私は、御影さんの言葉に驚き
last updateLast Updated : 2025-10-20
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22話

「そうだったのか。俺は急用が入って最後までいられなかったが、田村さんは何も言っていなかったか?挨拶もできず、失礼な事をした……」 ああ、なんだ。 御影さんが、こんな朝早くにわざわざ私の家に来たのも。 昨夜から何度も連絡をくれていたのも。 全部虎おじさまに失礼な事をしてしまい、悪印象がついていないか、知りたかったからなのか、と私は理解した。 あのパーティー会場に残された私を心配しているのではなく、虎おじさまの様子が気になったから。 だから、御影さんは落ち着きない様子でこんなに私の次の言葉を待っているのか。 私は自分の胸がひんやりと冷えていくのを感じる。 どれだけ、心細かったか。 1人になって、相戸さんに声をかけられ。 あの時、あの男性が助けてくれなければ、私は相戸さんに酷い事をされていたかもしれないのに。 御影さんだって、相戸さんと挨拶をしたのに。 あの時だって、相戸さんは御影さんが横にいるというのに不躾な視線を向けていたというのに。 私は小さく息を漏らし、御影さんに顔を向けた。 「昨夜、虎おじさまとはお話する機会がありませんでした。ですので、御影さんがお気になさる事はありませんよ」 「田村さんと話ができていない……?」 「ええ。虎おじさまには直接ご連絡をしておきますね。……御影さんのお話は、それだけでしょうか?」 虎おじさまの事だけ、でしょう? 私はにっこりと笑みを貼り付けたまま、御影さんに問う。 虎おじさまの件だけなら、もう帰って欲しい。 それが、今の私が御影さんに感じている率直な感想だ。 常とは違う私の様子に、御影さんはじっと私の顔を見つめたまま何かを口にしようとしたけれど、結局何か
last updateLast Updated : 2025-10-21
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23話

パタン、とドアが閉まる。私は貼り付けていた笑顔をふっと消し、ドアに手を付きながらずるずる、とその場に蹲る。良かった──。何も、バレていない……。この時ばかりは、御影さんが私に全く興味のない人で良かった、と感謝してしまう。きっと、これが速水涼子だったら。涼子が相手だったら御影さんは違和感に気づいただろう。けど、私が相手だから。「──ふっ、皮肉なものね」好かれたいのに。御影さんに私を見て欲しいのに、今回ばかりは好かれていなくて、嫌われていて良かったと、思ってしまう。私は自嘲気味に笑ったあと、その場にようやく立ち上がり部屋に戻っていく。私は御影さんにバレたくない、とばかり考えていた。だから、御影さんが私の態度に訝しがっていた事も、私の部屋を出た御影さんが廊下を進んだところで足を止め、振り返ってじっと玄関を見つめていた事など、知る由もなかった。翌朝。私は虎おじさまのお屋敷に向かっていた。パーティー会場では虎おじさまにご挨拶ができず、帰ってしまった。失礼な事をしてしまったからこそ、すぐにお詫びをしに行かないといけない。虎おじさまのお屋敷は、郊外にある。限られた人間にしか知らされておらず、虎おじさまは国内に戻ってくると、必ずこの郊外のお屋敷で過ごすのだ。私はアクセルを踏み込み、スピードを上げて進んだ。「虎おじさま」「茉莉花ちゃん。良く来たね」「先日のパーティーは、大変失礼しました」虎おじさまのお屋敷の玄関に入るなり、私は頭を下げる。突然の私の行動に、虎おじさまはぎょっとして慌てて私に頭を上げるように言う。「茉莉花ちゃんが頭を下げる必要はないよ。どうしてそんな事を」「せっかく虎おじさまに招待していただいたのに……、私はご挨拶もせずに帰ってしまいました。こんな失礼な事をして……」「そんな事、気にしなくていいんだよ。……パーティー会場で起きた事は、彼に聞いて知っているから」「え……?彼……?」虎おじさまの言葉に驚き、私は顔を上げる。すると、玄関には見慣れない男物の革靴が1つ、きっちりと揃えて並べられていて──。誰か、他のお客様?と私が考えていると、玄関から伸びる廊下がきしり、と音を立てた。音のした方へ、無意識に視線を向ける。そして、視線を向けた先には。「藤堂さん。先日ぶりです」
last updateLast Updated : 2025-10-21
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24話

男性の顔を見た瞬間、あの日の出来事が一瞬で頭の中を駆け巡り、私は言葉を失ってしまう。 そんな私の様子に気づかない虎おじさまは、いつもの朗らかな笑顔を浮かべたまま、話す。 「小鳥遊くんに聞いたけど、あの日は相戸に嫌な目に遭わされたんだって?全く…許せないな。彼の会社とは手を切ろう」 「た、小鳥遊……さん?」 「うん?あの日、小鳥遊くんと意気投合してお酒を飲んだって聞いてるよ。飲ませすぎてしまって、茉莉花ちゃんが寝ちゃったって。それで、挨拶に行けなかった事を気にしてるってさっき小鳥遊くんが教えてくれたんだ」 虎おじさまは、小鳥遊という目の前の男性の言葉を何一つ疑っていなかった。 「その事を気にして、茉莉花ちゃんは今日わざわざ来てくれたんだろう?ちょうど良かった。パーティーで話せなかった分、沢山話そう」 「ぜ、ぜひ。本当に先日は失礼しました、虎おじさま」 「気にしない気にしない。ああ、私は少し片付ける仕事があるから、小鳥遊くんに案内してもらうよ。小鳥遊くん、茉莉花ちゃんを案内して」 「分かりました、田村さん」 じゃあ、後で。 虎おじさまはそう笑顔で言い、仕事を片付けに廊下を戻って行ってしまった。 私は、小鳥遊と呼ばれた男性の腕を掴み、急いで近くの客間に連れていく。 虎おじさまのお屋敷には何度も来ている。 この男性の案内がなくとも、どこにどんな部屋があるか、大体は把握している。 だから私は、比較的人がやってこないであろう客間に彼を入れ、障子を閉めて小鳥遊という男性に向き合う。 「藤堂さん、あの日は無事に帰れましたか?」 「……無かった事にしてください」 客間で2人きりになると、小鳥遊さんが話し出す。 「あの日」の出来事は、忘れて欲しい。 だから私は小鳥遊さんの言葉に、すぐさまそのように返答する。 「──え?」 「あの日あった事は、忘れてください。……お互いお酒に酔っていましたし……小鳥遊さんは、虎おじさまと親しいんですか?」 虎おじさまと面識がある、と知っていれば。 知っていたら、あんな事しなかったのに。 虎おじさまは、このお屋敷に自分の気に入った人しか呼ばない。 浅い付き合いの人を、このお屋敷には絶対に立ち入れさせないのだ。 だから、小鳥遊さんがこのお屋敷にいる
last updateLast Updated : 2025-10-22
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25話

びくり、と肩が跳ねる。 顔を上げた私の視界に、小鳥遊さんの綺麗な顔が映る。 かなり近くに来ていた小鳥遊さんに、私は殆ど無意識に後ずさりをした。 とん、と踵が壁に触れ、私の目の前には小鳥遊さん。 背後には壁、と言う状況に、私ははくはくと口を動かしてしまう。 私がじっと小鳥遊さんの顔を見つめていると、小鳥遊さんはふと自分の腕を上げて、私の首元に結ばれていたスカーフに指を差し込み、解いてしまう。 「あの夜、あんなに情熱的だったのに。あの出来事を忘れるなんて……俺にはできません」 「──ぁっ」 小鳥遊さんの長く、筋張った指先が首筋をなぞる。 おそらく、なぞったこそには小鳥遊さんが付けたキスマークが色濃く残っているのだろう。 小鳥遊さんはあの夜のようにとろり、と瞳を蕩けさせて何度も何度もその痕を指先でなぞる。 「ゃ、やめて…ください…」 その指先の動きが、なんだかいやらしくて。 ぞくぞくとした感覚が、お腹に集まってくる。 私はやめて欲しくて声を出したのだけど、その声は驚くほどか細い。 私の声を聞いた小鳥遊さんは、ゆるりと口元に笑みを浮かべた。 そして、あろう事か、私の首筋に唇を寄せてきた。 「ちょっ」 彼の行動を悟り、慌てて彼の胸に手を置いて押し戻そうとしたけど、簡単に両手を掴まれて制止されてしまう。 そして、首筋に彼の唇が触れたと思った瞬間、ちくりと痛みを感じた。 し、信じられない…! こんな所で。虎おじさまのお屋敷でこんな事を…! 「何を、考えてるんですか…!!」 「何をって…あの夜の事…?」 「そこで喋らないで下さい…っ」 くすくす、と楽しげな声が首元から聞こえてきて、私は思わず首を竦めてしまう。 低くて、甘ったるい声が直接脳内に響いているようで全身が痺れるような感覚に襲われる。 彼──小鳥遊さんを押し戻そうとしようとしても、私の両手は彼の手にまとめられてしまっていて、押し戻せない。 そして小鳥遊さんは、離れる所か、更に体を寄せてくる。 何が彼のスイッチを押してしまったのか。 私が焦りで頭を真っ白にしていると、遠くから私の名前を呼ぶ虎おじさまの声が聞こえてきて、はっとする。 虎おじさまの声は、小鳥遊さんも聞こえていたのだろう。 首元に埋めて
last updateLast Updated : 2025-10-22
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26話

小鳥遊 苓。 彼のフルネームを聞いた瞬間、私は小鳥遊財閥の三男の事を思い出した。 小鳥遊財閥の三男は、確か私の1つ年下で今年24歳。 高校を卒業後、海外に留学し、博士号を得た。 そして海外で経営などの専門分野を学び終えた今年、国内に戻ってきた、と聞いている。 でも──。 「今後も、顔を合わせるって……もう、あなたと顔を合わせる事はないと思います」 「そんな悲しい事を言わないでください。藤堂さんのお父上の会社と、うちの会社。協賛する事になったの、知りませんか?」 「……知りませんでした。私は今、家から離れていますので」 私の言葉に、藤堂さんはきょとんと目を瞬いた。 「え……離れているっていったい──」 「茉莉花ちゃんも、小鳥遊くんもここにいたのか!お茶の準備ができたよ。さあさあ、こっちの部屋においで」 「はい、虎おじさま!」 虎おじさまに話しかけられた事で、小鳥遊さんの手が緩む。 私は掴まれていた手を、小鳥遊さんから離し、そのまま急ぎ足で虎おじさまの方へ向かった。 虎おじさまの前では、小鳥遊さんも流石にさっきのような不埒な真似はしないだろう。 そう考えたけど、私は虎おじさまに間に入ってもらい、小鳥遊さんとはできるだけ距離を取った。 夕方。 虎おじさまとの会話が楽しく、時間はあっという間に過ぎてしまった。 そろそろ帰らなくてはならない時間だ。 名残惜しいけど、虎おじさまにその事を伝えると、寂しそうにしつつ頷いてくれた。 「そうだね。茉莉花ちゃんをあまり長く引き止めるのも悪い……。まだ国内には滞在しているから、いつでも遊びにおいで」 「はい。ぜひまたお
last updateLast Updated : 2025-10-23
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27話

何か考え事をしているのなら、ちょうどいい。 私は素早く車に乗り込み、窓を下げて小鳥遊さんに挨拶をする。 「……それでは、今日はありがとうございました」 「──!はい。また、お会いしましょう」 小鳥遊さんの言葉に、私は曖昧に笑って否定も肯定も返さない。 エンジンをかけ、私は彼に一礼してから車を発進させた。 車が走り去る中、小鳥遊は茉莉花の車が見えなくなるまでずっと見つめていた。 「藤堂さんが、会社に勤めていない…?それに、家を離れているってどう言う事だ…。まさか」 あの噂は本当だったのか?と小鳥遊の頭に浮かぶ。 「噂の真偽を確かめるのが先だな…。藤堂会長に会うか…?いや、いきなりは無理だ。田村さんにそらとなく確認しよう」 小鳥遊はそう呟くと、そのまま背を向けて田村の屋敷に戻って行った。 ◇ 車を運転しながら、私はさっきの出来事を思い出してしまい、赤信号に変わった瞬間、ハンドルに額を預け、突っ伏してしまう。 いきなり、キスなんて──。 「それに、またキスマークをつけるなんて…!」 せっかく、痕が薄くなったと思ったのに。 また今日の小鳥遊さんの行動で、色が濃くなってしまったかもしれない。 暫く、御影さんの会社にはいかないでおこう。 そして、御影さんとも会ってしまわないように、慎重に行動しなくてはいけない。 「そもそも…小鳥遊さんは何でまたあんな事を。…あの日の事は、忘れてくれればいいのに」 お互い、お酒が入っていたのだから。 酔ってしまい、過ちを犯した。 そう、対処してくれたほうが小鳥遊さんとしてもいいはずなのに。 「それなのに…相戸さんの事も虎おじさまに話したって言っていたわね…」 もう会いたくないけど。 どうしてか、小鳥遊さんとは今後も頻繁に顔を合わせてしまうような、そんな予感がして私はハンドルを強く握りしめた。 翌日。 その日も、私はゆっくりと起床した。 今までだったら、御影さんのお弁当を作るためにもっと早く起きて準備をして、御影さんの会社に向かっていた。 けど、今日から暫くは。 今朝、起きて確認してみたけれど、首筋の鬱血痕はまだくっきりと残っている。 襟のある服を着てしまえば上手く隠せるかもしれないけど、万が一誰かに見られてしまったら。
last updateLast Updated : 2025-10-23
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28話

「何?通知…?」 スマホを開き、通知を確認する。 すると、その通知はニュースサイトの通知だった。 何気なくそれをタップして、内容を確認した私は、驚きで目を見開いた。 「なに、これ……!?」 画面に映し出されたのは、とある熱愛スクープ。 そこには、某大企業の専務取締役N・Mと、H商事の娘R・Hの熱愛が映し出されていた。 場所は、どこかの料亭だろう。 顔にはモザイク処理がされているけど、そんなのは意味がないほどはっきりと分かる。 間違いなく、御影さんと涼子だ。 その2人が、料亭の個室で熱く抱擁している写真と、その後の行動が文章と共に写真も添えられて記事にされていた。 御影さんと涼子は、料亭から場所を移し、近くのホテルに移動したらしい。 2人で一緒にホテルに入り、そして朝まで2人はホテルから出てこなかった、と書かれている。 「これ…御影さんのこの服…虎おじさまのパーティーの日ね」 涼子がお見合いをする、と聞き慌てて御影さんが涼子のもとへ駆け付けた日だろう。 御影さんは私に何度も連絡をしてきていたけど、結局ずっと涼子と一緒にいたのだ。 「けど…私も、御影さんの事をとやかく言う資格はないわ…」 私も、御影さんと同じような事をしてしまったのだ。 婚約者がいながら、お互い他の人と夜を共にしている。 けど。 これは、さすがに不味い事になった。 「お祖父様にこの事が知られたら……」 きっと、お祖父様はカンカンになる。 私と御影さんの婚約だって、破談になるかもしれない。 だけど。
last updateLast Updated : 2025-10-24
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29話

スマホの画面には【御影直寛】の文字が表示されて、私は一瞬固まってしまった。 どうして、こんな朝早くに。 まさか、もう熱愛記事に気がついたのだろうか。 それとも、他の事だろうか──。 私が動揺している間に、御影さんからの電話は切れた。 電話が切れてしまった事に、私はほっとしてしまう。 けど、それも束の間。 「──ひっ」 再び、私のスマホに御影さんから着信が入る。 なんで、どうして──。 今まで、こんな事は1度だってなかった。 そもそも、御影さんから私に連絡がくるなんて事も、ほぼなかったのだ。 私から御影さんに連絡ばかりして、時折返ってくる御影さんからの連絡に一喜一憂して…。 御影さんから連絡がきただけで、その日一日とても幸せに過ごせていた。 裏で、御影さんが何をしていても。 私と婚約を結びながら、裏で涼子と夜を過ごしていたとも知らず、私は御影さんの返信1つだけで馬鹿みたいに喜んで。 私は、鳴り続けるスマホをぎゅっと握り締める事しかできない。 もう、御影さんの電話1つで喜ぶ事はできなくなってしまった。 私がいつまでも電話に出ない事で、御影さんもやっと諦めてくれたのだろう。 ようやく電話が鳴り止み、私はほっとしてリビングのテーブルにスマホを置いた。 次の瞬間、自宅のインターフォンが鳴った。 「──っ!?」 嫌な事を思い出す。 先日も、御影さんが家にやってきたのは記憶に新しい。 「でも…前回は虎おじさまのパーティーの件があったから、私の家に来たけど…今回は特に何も用はない、わよね…?」 熱愛の記事が出たのは、今さっきだ。 それを見たとて、御影さんがわざわざ私に釈明をしにくるはずがない。 そう考えつつ、私はインターフォンのモニターを確認する。 すると、そこには。 「御影さん……」 またもやいるはずのない人物がそこに立っていて、私はその場で硬直してしまう。 その間にも、立て続けにインターフォンが鳴り、私ははっとして辺りを確認する。 こんな、首元が広がっている服を着ていたら、痕が見えてしまう。 きょろきょろと周囲を確認し、私は羽織る物を手にしてからインターフォンに対応した。 「今日は随分遅い起床だったのか…?」 「そう、ですね」 「体
last updateLast Updated : 2025-10-24
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30話

「それで…御影さん、今日はどんな御用で?」 「……」 私からいきなり本題を切り出されるとは思わなかったのだろう。 それもそのはず。 以前の私だったら、御影さんが訪ねてきてくれた事が嬉しくて、彼に沢山話を振っていたから。 幼少の頃の話だったり、仕事についてだったり、彼の趣味についてだったり──。 けど、御影さんは私の話をいつも煩わしそうに表情を歪め、何一つ答えてくれなかった。 だからこそ、私が御影さんにとって無駄話をせずに本題に入ったのはとても不自然な事だったのだろう。 ちらり、と御影さんから視線を向けられるけど、私は御影さんから顔を逸らしたままカップに口をつけた。 「……今朝、記事が出ただろう」 「記事、ですか」 まさか、御影さんがあの記事をもう知っているとは思わず、私は驚いてしまう。 けど、私の驚きが、記事の事を知らないからだと判断したのだろう。 御影さんはスマホを取り出して数秒操作をして、画面を私に差し出した。 「そこに書いてある記事は、事実だ。俺と茉莉花お嬢さんの婚約は、形だけだった。俺が愛しているのは昔から変わらず涼子だけだ」 「──…」 「形だけの婚約だったとしても、俺と茉莉花お嬢さんは婚約を結んでいた。けど、こうして涼子との記事が出てしまった以上、俺は涼子を守りたい。…きっと、これから記者たちに追い回されて、怖い思いをするはずだから」 御影さんはそこまで言うと、真っ直ぐ私を見つめたままきっぱりと言い放つ。 「茉莉花お嬢さんとの婚約は、いわば形だけだった。祖父には悪いが、正式に茉莉花お嬢さんとの婚約は解消して、涼子を婚約者だと世間に好評する」 「…私たちの婚約は、世間に知られていませんでしたものね」 「ああ。茉莉花お嬢
last updateLast Updated : 2025-10-25
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