◇ 足取り荒く、御影は駐車場に戻ってきていた。 車に乗り込み、戸惑う運転手に「出せ」と命ずる。 ゆっくりと車が動き出した所で、御影はようやくハッとしてパーティー会場を振り返る。 パーティー会場である、ホテルの外観がゆっくりと遠ざかって行くのを見つつ、両膝に手をついて額を覆う。 (──しまった。涼子の見合い話に気が動転して、茉莉花お嬢さんを置いてきてしまった…どうする?今から引き返すか?いや、だがその間に涼子の見合いが始まってしまう) 腕時計に目をやり、時間を確認する。 涼子が、親に命じられてしたくもない見合いに行かなくてはならなくなった。 涼子から「助けて」というメールをもらった瞬間、御影は形振り構わずパーティー会場を後にしてしまった。 (俺の第一優先は、涼子だ。茉莉花お嬢さんなら、1人でも大丈夫だろう) 茉莉花は、藤堂家の娘だ。 財閥の家に生まれ、パーティーへの参加など慣れたものだろう。 御影は自分にそう言い聞かせる。 だが、パーティー会場で見た光景をふと思い出す。 茉莉花の全身を舐め回すように、下卑た視線で見下ろしていた相戸。 もし、自分が茉莉花の横にいなければ、あの相戸と言う男は茉莉花の体に触れていた可能性が高い。 婚約者が隣にいるにも関わらず、茉莉花に色目を使っている男も中にはいた。 ふ、と御影の胸中に不安が満ちた。 (もし、もし…俺が隣からいなくなったせいで、危険な目に遭ったら…寝覚めが悪い…) 御影は、自分の私用スマホを取り出して連絡先一覧を確認する。 もし、自分の知り合いであのパーティーに招待されていそうな人物がいれば、それとなく茉莉花を見ていて欲しい、と頼もうとした。 だが、御影はふとそこで指を止める。 (なぜ、俺がそこまで茉莉花お嬢さんを気にかけなければならない…。茉莉花お嬢さんだって、十代の子供じゃない。大人だ。しかも、あのパーティーは田村さんが主催しているパーティー…。危険な目になど、遭う訳がない…) そう考え直した御影は、スマホをしまい直して車の座席に背を預ける。 (馬鹿馬鹿しい…。今は涼子の事だけを考えよう) ◇ 涼子から連絡のあった、料亭。 和風庭園を足早に抜け、御影は急かされるように先を急いでいた。 先程メールが届いていた
Last Updated : 2025-10-15 Read more