جميع فصول : الفصل -الفصل 70

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61話

とろり、と甘さを含んだ瞳を向けられ、私は自分の胸がどきり、と脈打つのを感じる。 じり、と小鳥遊さんの瞳に確かな熱が灯ったのを感じて、私は咄嗟にその場に立ち上がった。 「そうだ!小鳥遊さん、別邸の中もご案内いたします!和風庭園も素敵ですが、中も素敵なんです!」 ぱっと小鳥遊さんを振り返り、そう告げた私に、小鳥遊さんはぽかんとしていたけれど、すぐに苦笑いを浮かべて「お願いします」と答えた。 小鳥遊さんの瞳に浮かんでいた熱が、今は消えていてほっとする。 あの目に見つめられてしまうと、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。 戸惑うけど、決して小鳥遊さんの気持ちが迷惑じゃない。嫌でもない──。 嫌だったり、迷惑じゃない事が、信じられない。 そんな気持ちを誤魔化すように、私は小鳥遊さんの腕を手に取り、室内に入った。 和風庭園に合うように、別邸も純日本家屋。 室内に入ると、私たちを広い和室が出迎えてくれた。 「今は誰も使っていないんですね…」 「ええ。お母様が入院してから、お父様はここに来るのがお辛いらしくて…維持のために掃除や庭師が頻繁に来ているくらいです」 「一部屋一部屋、拘って作ったのが分かります。襖一つとってもそれが分かりますし、欄間もとても素晴らしいですね。自然光が入りやすく装飾も工夫されていて、採光の入り方をこの目で見てみたいです」 感心したように話す小鳥遊さんの言葉に、私も頷いた。 小鳥遊さんは興味津々といった様子で、室内を細部まで見て回り、楽しげに私にこの部屋の素晴らしさを説明してくれる。 その様子がとても楽しげで、聞いているこちらまで楽しくなってしまう。 「──それで……っ、失礼しました…さっきから俺ばかり喋っていて…楽しくないですよね?」 途中、自分だけが喋り続けている事に気付いた小鳥遊さんがはっとして口を噤んだ。 けど、謝って欲しくなくて、私は慌てて首を横に振った。 「いえ、とんでもない!小鳥遊さんのお話はとても興味深いですし、勉強になります。私も、もっと建築について学ばないと駄目ですね」 「茉莉花さんの知識は十分だと思いますよ?」 「いえ、まだまだです。先程、小鳥遊さんがお祖父様とお話している内容も、恥ずかしながら半分以上が分からない事でしたから…」 これか
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62話

「和風カフェ、デート…ですか…?」 「ええ。俺とカフェデート。駄目ですか…?」 「えっと…目的、は…勉強ですか?」 私の質問に、小鳥遊さんは笑顔のまま頷く。 小鳥遊さんが提案してくれた、デート。 デートとは名ばかりの、和風カフェの勉強会だ。 私も、仕事に復職するに辺り勉強は必要だと思っていた。 それに、今回の事業は所謂今までとは全く違う、畑違いの新事業。 どうやって、どんな勉強をすればいいのかと悩んでいた私にとって、小鳥遊さんの提案はとても素晴らしいもの。 私は小鳥遊さんの提案がとても有難く、嬉しかった。 思わず目の前の彼の手を取り、返事をする。 「よろしくお願いします!ありがとうございます!」 「──っ、ぜひ、こちらこそっ」 頬を赤らめ、嬉しそうに返事をしてくれる小鳥遊さん。 私は明日のカフェ勉強会が楽しみで、ついつい頬が緩んでしまう。 私が上機嫌でいると、小鳥遊さんが言葉を続けた。 「茉莉花さん、でも俺たちが和風カフェを新たに企画している人間だとバレるのは不味いと思うんです」 「はっ!確かに、そうですね。まだ事業企画が立ち上がったばかりですものね」 「ええ、ですから俺たちが偵察に来ている、と知られるのは不味い……普通に、ごく普通の仲の良いカップルを装いましょう」 「分かりました。カップルに扮して、偵察しましょう!」 「ええ、仲の良いカップルですよ?茉莉花さんできますか?」
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63話

それから。 私と小鳥遊さんは少しの間、その場で会話を続けた。 夕食の時間が近付いた所で、話を切り上げ、私たちは本邸に戻って、夕食を摂った。 小鳥遊さんはお父様やお祖父様とお仕事の話をしつつ、彼らの質問責めにも楽しそうに、少しも嫌な顔を見せずに回答してくれた。 小鳥遊さんは、お父様とお祖父様に晩酌に誘われ、私は一足先に食堂を後にし、入浴を済ませてしまった。 お風呂が終わり、廊下を歩きながら考える。 「小鳥遊さん…お風呂の場所とかちゃんと覚えているかしら…」 別邸を見終わった後、本邸に戻ってきた私と小鳥遊さん。 夕食の時間までの短い間に、本邸の中を軽く案内はしたけど、お酒が入っている小鳥遊さんが果たして無事にお風呂に向かえるか。 それが心配になってしまい、私はまだ晩酌が続いているであろう食堂に向かうため、行先を自分の部屋から食堂に変えた。 食堂に近づくと、食堂は既に灯りが落とされて暗くなっている。 「あれ、もう暗い…。と言う事は、もうお開きになったのね」 じゃあ、小鳥遊さんも部屋に戻れたのかも。 そう思い、私が引き返そうとした時。食堂脇から人が出てくるのが見えた。 黒くて大きな影が、ぬうっと出てくるその光景に、私はびっくりして固まってしまう。 「──ひッ」 「あれ……茉莉花さんだ」 逃げ出そうとした時、良く知った声が私の名前を呼んで、私はびくびくしながら後ろを振り返る。 「た、小鳥遊さん……?」 よくよく見てみれば、ぼんやりとしていた影は小鳥遊さんだった。 ゆっくりと、たどたどしい歩き方でこちらにやってくる小鳥遊さんの様子に、私はほっとして彼に向き直る。 「お父様とお祖父様に沢山飲まされてしまいました?」 「んー、うん……」 眠そうに目を擦りながら歩いてくる小鳥遊さんに、私はついつい苦笑してしまう。 よたよた、と壁伝いに歩いてくる小鳥遊さんの足元が覚束無い様子で、ハラハラと見守っていると、小鳥遊さんが何も無い所で躓いた。 「小鳥遊さん……っ!」 危ない、と思い私は彼に駆け寄って体を支える。 「小鳥遊さん、しっかり歩いてくださいね。……小鳥遊さん?」 いつもはすぐに返事をしてくれるのに、今の彼は私の言葉に無反応。 まさか眠気が限界なのだろうか、と思い私は
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64話

「何で笑ってるんですか、茉莉花さん。俺は怒ってるのに…」 「ふ、ふふ…っ、ごめんなさい。つい癖で小鳥遊さんと呼んでしまいました」 私は彼の手を取り、引っ張っていく。 「ほら、苓さん。これでいいでしょう?早く寝ないと明日のカフェに行けなくなっちゃいますよ?」 「それは大変です。早く寝ましょう茉莉花さん!」 「──へ、え、あ…っ!ちょっと苓さん…!」 私がカフェに行けなくなる、と話した途端、小鳥遊さんははっとして慌て出す。 そして、引っ張られていた手を逆に握り直し、私を引っ張って廊下を歩いて行く。 すたすたと進んで行く小鳥遊さんの後を着いていきながら、私は何とか手を離してもらおうとしたのだけど、酔っているからか、小鳥遊さんの掴む手の力が強く、全然離れる気配がない。 そして、小鳥遊さんの進んで行く方向が自分が案内された客間の方向だと分かり、私はさっと顔色を変えた。 まさか、このまま私を部屋に連れて行くつもりじゃあ──。 私がそう考えていると、その考えは当たったようで。 小鳥遊さんは自分の部屋に向かって歩いて行き、にこにこと上機嫌で私に向かって何かを話しているけれど、私はバクバクと脈打つ自分の心臓の音のせいで小鳥遊さんの言葉がしっかりと聞き取れない。 青くなればいいのか、真っ赤になればいいのか。 そもそも、何で私は彼の手を振り払って逃げ出さないのか──。 何が何だか分からなくて、頭が混乱している。 でも、やっぱり小鳥遊さんのお部屋にお邪魔する訳にもいかない。 私がそう考えた所で、小鳥遊さんの部屋の前に着いてしまった。 私が戸惑っている間に、小鳥遊さんが部屋の扉を開けて中に入って行ってしまう。 今からでも自分の部屋に戻らなくちゃ──。
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65話

「──えっ、と……」 私の声が、静かな部屋にぽつりと落ちる。 小鳥遊さんが幸せそうに寝息を立てる音が静かな部屋に響いていて──。 「──ッ!?」 私は、彼の寝顔を見て一瞬で顔を真っ赤に染めた。 羞恥心で自分の顔を両手で覆う。 馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい!! 私は間違いなく馬鹿だわ!いやらしい!破廉恥な!! 「一緒に寝ようって…本当に、ただ寝るだけ……っ」 あの夜の事を思い出し、意識してしまっていたのは私だけだったのだ。 小鳥遊さんは、ただ純粋に眠いから一緒に寝ようと言っていただけなのに──! 「いっ、いえ…っ、でも、大人の男性が一緒に寝よう、なんて言ったら勘違いするわよ…!ああ、でも小鳥遊さんは酔っていたんだわ…!」 お酒が入っていない彼に誘われたら。 「そう言う意味」があったのかもしれない。 だけど、彼はお父様とお祖父様に晩酌に誘われて、きっと沢山お酒を進められたのだろう。 「……お父様も、お祖父様も酒豪だもの」 あの2人に付き合っていたら、普通の人は泥酔してしまう。 でも、と私は思い出す。 小鳥遊さんは普段よりその…甘えるような様子が見えたけど、気を失うとか、気分が悪くなるとか、そんな様子はなく、自分の足でしっかりと歩いていた。 「ああ…もう……」 そもそも、私がこんな勘違いをした事が1番恥ずかしい。 私は、こっそりとベッドから降りて部屋を出ようと動き出す。 「──ん?んん…」 だけど、私の動きに反応したのだろうか。 小鳥遊さんが眉を顰め、小さく呻いた。 次の瞬間、ぐっと腕を引かれてしまう。 「…んぐっ」 「茉莉花さん、もう寝ましょう…ごそごそ、うるさい…」 「う、うるさいって…!」 彼の言葉にむっとして顔を上げようとしたけど、私の体は更に彼に引き寄せられてしまう。 力強い腕が背中と腰に回り、私の顔が小鳥遊さんの胸にこつりと当たる。 「──っ」 お酒のせいで、少し高くなった小鳥遊さんの体温。 細いけど、しっかりと筋肉のついた体。 腰に回るがっしりとした腕──。 私は、あの夜の事を思い出してしまい、顔を真っ赤に染める。 どうして今、このタイミングで思い出してしまうの。 小鳥遊さんの腕から逃れたいけど、これ以上動
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66話

◇ 温かくて、柔らかくて、ふわふわする──。 微睡みの中で、俺は目の前の柔らかな物に擦り寄った。 いつまでも触っていたくなるような、そんな感触。 何かが邪魔をしていて、俺は無意識のうちに手を動かした。 手のひらに吸い付くようなしっとりとした手触りが気持ちよくて、力を込めてしまう。 瞬間。 「──んぅ」 「……っ!?」 頭上から甘い吐息が聞こえ、俺は一瞬で目が覚めた。 ばちっと目を開けて、目に飛び込んで来た光景に硬直する。 「ま、茉莉花さん…!?何でっ」 俺が顔を埋めていたのは、とんでもない事に茉莉花さんの胸。 そして、自分の手が何をしているのかを認識した瞬間、すぐに茉莉花さんの服から手を引き抜いた。 真っ赤になったまま、考える。 何でここに茉莉花さんが。 俺は昨夜何をして、と考えた瞬間全て思い出す。 そうだ、俺は茉莉花さんのお父様とお祖父様に誘われて酒の席に。 そして、2人の酒豪っぷりに驚き、勧められるままに酒を飲み続けて──。 「──くそっ」 そして、俺は廊下で茉莉花さんと会って酔った状態のまま彼女を部屋に連れ込んだんだった。 酒に酔い、彼女に甘え、みっともない姿を晒していた。 いくら酔っても記憶が曖昧にならない自分の体質を、今だけは呪う。 こんな醜態を晒すくらいなら、全て忘れてしまいたかった。 好きな女性に子供のように駄々を捏ね、絶対に彼女を困らせた。 しかも、こんな風に彼女を部屋に引き込み、ベッドに連れ込んだなんて──。 嫌われていたらどうしよう、と頭を抱
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67話

◇ 「うわあああっ!!」 「──へっ!?」 ドターン!と派手な音がして、私は一気に目が覚めて目を開け、飛び起きた。 すぐ近くで男性の──小鳥遊さんの叫び声がしたと思ったけど、目を開けた私の視界に、小鳥遊さんの姿は無い。 あれ?と思い、ベッド下に視線を向けると、そこには──。 「た、小鳥遊さん!?大丈夫ですか!?」 そこには、真っ赤な顔でぺたりとお尻を床に着けた小鳥遊さんがいた。 先程の大きな音は、小鳥遊さんがベッドから堕ちてしまった音なのだろう。 だけど、どうしてベッドから落ちてしまったのか。 以前、ベッドを共にした時は彼の寝相はこんなに悪くなかったのに──。 私は寝乱れてしまった寝巻きの裾を直しつつ、小鳥遊さんに声をかける。 「た、小鳥遊さん?大丈夫ですか?」 私の声にはっとした小鳥遊さんは、真っ赤な顔のまま私から顔を逸らし、蚊の鳴くような声で呟いた。 「すみません、本当にすみません茉莉花さん…」 「え、ええ?私は大丈夫ですよ。お尻を打ってしまっていませんか?怪我は大丈夫ですか?」 そっとベッドから足を下ろし、蹲っている小鳥遊さんに手を伸ばす。 私の手を取り、よろよろと立ち上がった小鳥遊さんは何故か気まずそうに顔を逸らしたままお礼を口にした。 ◇ 私と小鳥遊さんは朝食を摂ったあと、約束していた和風カフェに向かっていた。 カフェに向かう車の中、小鳥遊さんは今日、これから向かうカフェの事を話してくれる。 「今日行くカフェは、実は前々から行きたかったところだったんです」 「そうなんですか?」 「ええ。オープンしたのは昨年で、こうしたカフェには珍しく小さな庭園もあって、テラス席がとても人気らしいですよ」 「だから、都心部から少し離れた場所にお店を構えているんですね。都心部だと土地が狭く、庭園はとても造れませんものね」 「そうなんです。庭園を手がけたのが、宮大工から建築士になった越谷氏で…彼の造形美はとても素晴らしいので、実際この目で見たかったんです」 けど、と小鳥遊さんは続ける。 「最近国内に戻ってきたばかりで、色々学ぶ事が多すぎて…中々時間を作る事が出来なかったのですが、今日こうして茉莉花さんと一緒に行く事ができて嬉しいです」 「私も、小鳥遊さ……苓さんと
last updateآخر تحديث : 2025-11-12
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68話

「──凄い!素敵なカフェですね、苓さん!」 「ええ、写真で見ていたよりも素敵ですね」 近くのコインパーキングに車を停めて、私たちは少し歩いた所にあるカフェにやってきた。 和風カフェ、と銘打つだけはある。 外観も純和風で、内装もとてもこだわり抜いているようだ。 早くカフェに行きたくて、私が歩き出そうとしたところを、小鳥遊さん──苓さんに「待って」と声をかけられる。 「茉莉花さん、俺たちは今日だけ恋人同士ですから」 「──え、あっ」 「こうやって手を繋いで行きましょう?」 にっこりと嬉しそうな笑みで、苓さんの大きな手のひらが私の手を包み込む。 そして、ゆっくり指を1本1本絡められた。 「さあ、行きましょう」 「あっ、ちょっと待ってください苓さん…っ」 楽しげに前を歩いていく苓さんに、私は繋がれた手を見て顔を赤らめる。 所謂、巷では「恋人繋ぎ」という、この手の繋ぎ方に、慣れていない私はドキドキと自分の心臓が脈打つのを感じてしまう。 彼に手を引かれ、店内に入る。 私たちの入店に気付いた店員がすぐに案内にやって来た。 「2名様ですか?」 「はい」 「こちらへどうぞ、ご案内いたします」 店内に入り、ソファー席に座る。 苓さんがさり気なく私の鞄やコートを受け取り、荷物入れに入れてくれた。 「ありがとうございます」 「いえ。茉莉花さんは何を頼みますか?」 「そうですね…今日は寒いので暖かいカフェオレにします。苓さんは?」 「俺はホットコーヒーにします。じゃあ、一先ず注文しますね」
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69話

何を言うかと思ったら、と私はキョトンとしてしまう。 「ふっ、ふふ…っ」 「茉莉花さん?どうして笑ってるんですか?」 むっとして聞いてくる苓さんに、私は笑い続けてしまう。 「そんな事を気にしなくても……」 「そんな事じゃないですよ、茉莉花さん。茉莉花さんが減っちゃう」 「ふふっ、私が減っちゃうって…減りませんよ」 くすくすと笑う私に、苓さんも最初はむっとした表情をしていたけど、すぐに耐えきれなくなったようで、私につられて微笑んだ。 ◇ カフェ・店内 茉莉花と苓が笑い合っている様子を、周囲にいた客はちらちらと見ていた。 「ねぇ…あそこのカップル、凄く美男美女じゃない?」 「そうね。男の人格好いいから声かけようと思ったけど、彼女があんなに綺麗なら無理だわ。勝ち目ないもの」 「いいなぁ…男の人のあの顔を見てよ、彼女しか見えてないわよあれ」 「いいわよねぇ…あんな風に見つめられたいわ」 すぐ近くの女性客がヒソヒソと話していると思えば、その反対側にいたカップルの女性側が怒ったような表情で自分の彼氏の足を蹴飛ばす。 「ちょっと!だらしない顔して他の女を見てるんじゃないわよ!」 「だって…しょうがないだろあんな美人…」 彼氏の方はそこまで口にすると、目の前の自分の彼女を見て残念そうに溜息をついた。 「俺の目の前にはお前かよ…あんな美人な彼女が俺に笑いかけてくれればなぁ…」 「ふっざけんじゃないわよ!そこでずっと呆けてなさいよ!」 カップルの女性は、自分の彼氏にグラスに入った水をぶちまけ、怒ったまま店を後にした。 また別の男性客だけのグループは、グラスを持ち上げたまま惚けたように茉莉花を見つめていた。 「ずっげぇ、美人…」 「マジかよ…あんな綺麗な人見た事ねぇぞ…」 「いいな…あんな美人と付き合いてぇよ」 男性客はお互い顔を見合わせ、はああーと長い溜息をついて茉莉花と笑い合う苓を羨ましそうに、恨めしそうに見つめていた。 ◇ どれくらいの間、苓さんと話していただろう。 頼んだ飲み物をほとんど飲み終わった頃、その事に気付いた苓さんがふと私に提案をした。 「茉莉花さん。このカフェの目玉である庭園を散策してみませんか?」 「見て回れるんですか!?」 「はい。この
last updateآخر تحديث : 2025-11-13
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70話

「茉莉花さん、段差があるから気をつけてください」 「ありがとうございます苓さん」 苓さんに手を差し出され、私はその手を有難く借りた。 そしてそのまま苓さんは私の手を握り、指を絡める。 こっそりと「恋人同士だからいいですよね」と耳打ちした苓さんに、私は笑みを浮かべつつ頷いた。 店員に案内され、段差を越えて出た庭園は、素晴らしい景色だった。 よく見てみると、小さな桟橋も掛かっており、小川が流れている。 苓さんと一緒に歩きながら桟橋の方へ向かった。 「凄いな…決して大きな庭園じゃないのに、こんなに小さな空間にぎゅっと和が詰まっていて…俺もこんな空間を作りたいって思います」 「苓さんがお好きなのは、確か…越谷さんでしたよね?」 「そうなんです。彼は小さなお社から有名な神社まで幅広く手掛けている、凄く尊敬している建築士なんです!」 キラキラとした目で私にそう語ってくれる苓さん。 本当に大好きなんだな、とそう思う。 「こうして、彼の手掛けた物を自分の目で見れた事が嬉しいです。茉莉花さん、今日は一緒に来てくれてありがとうございます」 「ふふ、お礼を言うのは私の方です。私こそ、今日は誘ってくれてありがとうございます、苓さん」 2人で手を繋ぎ、庭園の入口に戻る。 戻りながら庭園を眺めていると、ふと足元に照明が設置されている事に気がついた。 「苓さん。このカフェって日が落ちるとライトアップされるんですね」 「あ、本当ですね。今度夜にも来てみましょうか?また違った見え方をすると思うので」 「いいですね!」 そこでいったん言葉を切った私は、ちらりと周囲を見回してから苓さんに近寄る。 近くに店員や他のお客はいないから聞かれ
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