*** 夏風邪も数日ですっかり良くなり、いつもの時間に漁協に顔を出してみんなにお礼を言ってから、バイトに精を出した。人のあたたかさに感謝しながら、小さいことでも一生懸命に頑張る。 それは自己満足かもしれないけれど、こんな自分でも誰かの役に立てられるのがとても嬉しい。「あっ、ちーちゃん。井上さんが帰ってきたから、あがっていいよ。お疲れ!」「ありがとうございます。お先に失礼します」 一緒に働いていたおばちゃんたちに頭を下げるなり、倉庫に入ってきた穂高さんに向かって駆け寄った。「お帰りなさい、穂高さん。今日は遅かったですね」「ただいま千秋。最近、船のエンジンの調子がおかしくてね。叩きながら帰ってきたんだよ」(エンジンって、叩いたら直るものだっけ?)「その関係で、船長に頼まれ事をされてしまって。先に帰っててくれないか」「分かりました。あ、鍵は持ってきてるから大丈夫です」 短パンのポケットから合鍵を取り出して、これこれと見せつけてあげた。 島に来てから千秋用だよと手渡されたその鍵には、可愛いネコのキーホルダーがつけられていた。「ねぇ、どうしてネコのキーホルダーをつけたの?」 しかも光の加減で、アヤシくネコの目が光ったりするんだ。これを選んだ、穂高さんのセンスって一体……。「さぁ、どうしてだろうね」 何度訊ねてもこの答えばかり。やっぱり前にした、ネコの鳴き真似をバカにした件について、根にもっていたりするのかな。「気をつけて帰るんだよ、千秋」「はーい。朝ご飯作って待ってますね」「楽しみにしてる!」 そんなやり取りを経てから、ゆっくりとした足取りで家路に向かった。「あれ、康弘くんだ」 朝早くから元気いっぱいな様子で、こちらに向かって走ってきた。その勢いに、砂埃が舞っている。「おっはよー! 千秋兄ちゃんっ」 出会い頭、わーいといった感じで抱きついてきた。その頭をなで撫でして、並んで歩き出す。「おはよう、康弘くん」「千秋兄ちゃん、顔色がいいね。元気になってよかった。今日遊べる?」「あ~……。休んでた分の勉強があるから、午後からでいいかな?」 寝込んだ次の日には熱もすっかり下がり、体調もほとんど良くなっていたのに、穂高さんが3日は寝ていないとダメだとなぜか日付指定をして、ベッドに張りつけにした。 あまりにも暇なのでベッドの上で勉
最終更新日 : 2025-11-03 続きを読む