それは、夢かどうかも定かではない。けれど、見た記憶は確かにある。大地が焼け、空が割れ、金色の眼が、彼を真下から見上げていた。名を呼ぶ声が、耳ではなく、身体の芯から響いてくる。それは警告のようでもあり、祈りのようでもあった。目覚めた瞬間、布団の中は蒸し風呂のように熱く、額や背中には汗がべったりと張りついていた。寝具はいつの間にか乱れ、掛け布の片端が床まで垂れている。ふと、喉の奥が乾いていることに気づいて身を起こしたとき、首筋がぴりり、と疼いた。「……くそっ」手探りで首に触れると、その下から、かすかな熱の波が指先に伝わってくる。それは皮膚の表層ではなく、もっと奥――肉の内側、いや、血の源から湧き上がってくるような、じくじくとした火照りだった。昨夜までは、痛みではなかった。ただの違和感だった。けれど今は違う。熱い。疼く。明らかに、何かが――動いている。琉苑はそのままの姿でふらりと立ち上がった。部屋にはまだ朝の光が射し込んでおらず、格子窓の向こうの空はほのかに白み始めている程度だった。足を引きずるように歩きながら、低い位置にある鏡台の前に膝をつく。顔は……やつれていた。ただ、それ以上に気にかかるのは、首筋に現れた痕――。その紋が、ほんのわずかにだが、光っていた。「……なんなんだ、これは……」琉苑は息を止め、鏡の中の自分に目を凝らす。まさか、と思って何度も瞬きをするが、錯覚ではなかった。肌の上、紋の一部が淡く――灯火にも似た光を、絶え間なく放っていた。それは、あまりに微細で、見逃してしまうような光だった。だが、彼の目はそこに釘付けになる。この光を――彼は、知っていた。かつて、夢の中で竜の瞳に照らされたとき、身体の奥に灯ったあの光。それが今、外へと滲み出し始めている。琉苑はそっと、紋に手を当てる。「なんだ……これは、何を意味する」指先がかすかに痺れていた。熱は、今や皮膚の下だけではない。脊椎を通じて全身に広がり、思考すらも熱に焼かれ始めている。そのとき――不意に、空気が、揺れた。音はない。風もない。けれど、確かに何かが部屋の中に入り込んだ。目を閉じたまま、琉苑は息を呑んだ。気配、だ。誰かの――いや、“何か”の。それは人ではなかった。背中から、右肩のあたりに向かって、冷たい視線のようなものが這ってくる
Last Updated : 2025-11-11 Read more