夜は、静かだった。静かすぎるほどに、音も気配も、世界の縁から削ぎ落とされたように、何も聞こえない。琉苑は寝台に横たわっていた。目を閉じてはいたが、意識は冴えたまま。(……眠れない……)だって、眠るには、少しだけ、この場所の夜は音がなさすぎた。風は吹かず、草は揺れず、虫も鳴かず──夜が夜として在るだけで、何ひと響かない。こんな夜に、ひとりで眠るという行為は、やけに心細かった。(……いや、別に怖いわけじゃない、けどさ……)誰がいるわけでもないのに、言い訳する思考が、ゆっくりと脳内に浮かんでは消える。そのとき、不意に、部屋の空気が少しだけ変わった。扉も足音もなかったが、それでもわかる。空間そのものが呼吸を変えるように、シュアがそこに入ってきたのだと、わかった。「眠れないのか」静かな問いが届く。振り返らずとも、すぐ隣にいるのがわかった。「……まあ、静かすぎてな。眠れるようで眠れないって、あるもんなんだな」そう返すと、わずかに布が揺れて、シュアの身体が寝台の上に沈む気配がした。「人間が眠るには、何が要る?」「……さあ。人によるけど……ぬくもりとか、安心感とか……あとはまあ、疲れてると勝手に寝る」「今のお前には、何が足りていない?」問いながら、シュアの手が伸びてくる。琉苑は一瞬、身をこわばらせたが、それはただの反応であって、拒絶ではなかった。だから、自分からもそっと、手を探していた。それがシュアの手に触れ、絡み合ったとき──どちらからでもなく、自然と力が籠もる。「こうしてれば、少しはましだ」そう呟いた声は、面映くて小さくなった。それをどう受け取ったのか、シュアは何も言わず、ただその手を離さずにいた。やがて、シュアの顔が近づく。琉苑は目を開けた。暗がりの中でも、あの紅の瞳は濁らずに、ただまっすぐこちらを見ていた。「……何?」声にする前に、熱が触れる。鎖骨の少し上、あの結晶が触れているすぐそばの、皮膚が薄く神経の通り道のような場所。そこをシュアの唇が撫でていく。「っ……お、い……」声を上げたが離れることはなく、もう一度、同じ箇所を戻るように唇が触れる。今度は、先ほどよりも深く、濡れて、長い。琉苑の呼吸がわずかに乱れる。「……お前、そういうこと、を……」「拒まなかった」シュアの声が、耳の近くで低く響く。「
Last Updated : 2025-11-21 Read more