Todos los capítulos de 叶わぬ恋だと分かっていても: Capítulo 81 - Capítulo 90

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24.母との別れと、なおちゃんからのSOS④

「別に大したことじゃないの。ただ……今日この番号からの着信、四回目だなって思って……」 私は番号のみが表示された画面を見せながらたっくんに事情を説明した。 直太朗が「遊んで?」と飛び掛かってくるのを軽くいなしながら、私はスマートフォンの画面を見詰めて吐息を落とす。 着信履歴に表示されたその番号は携帯電話からのもので。 どうやら電話帳に未登録の番号らしく、名前などの表示はされていなかった。 「けど、知らない番号からなの」 いつもなら未登録の番号からの複数回の着信は一旦保留にしてから、Webサイトなどで迷惑電話に指定されている番号ではないかだけ確認して、違うようならこちらから再度掛け直してみることにしている。 でも――。 昨日なおちゃんからの着信を拒否設定にしたばかりの私は、見知らぬ番号からの電話を警戒して何もアクションを起こせずにいたのだ。 とはいえ、こう何度も掛かってくるところを見ると無視し続けるのもどうかなと迷って。 「それは……掛け直した方が良くない? 知り合いの誰かが番号を変えただけかも知れないよ?」 さすがにたっくんもそう思ったみたい。 昨日の事情を知らないたっくんからしたら、どうしてこんなに何度も掛かっているのに掛け直さないのか不思議なんだろうな。 「うん、私もそう思う。……でも」 私は迷った末、たっくんに昨夕なおちゃんから着信があって会いたいと言われたこと、それを断ったのを機になおちゃんの番号を着信拒否したことなどを軽く説明してから、この見知らぬ番号からの着信を警戒しているのだと付け加えた。 「そっか……。そういう事情なら菜乃香が慎重になるのも分かるな。……僕もその話を聞いたら安易に掛け直してみなよって言うの、ちょっと戸惑うし」 たっくんの言葉はもっと
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い①

私のことを〝戸倉菜乃香〟と旧姓で呼んできたところからして、電話口の女性――古田夏美さん――は私が結婚したことを知らないみたいだった。 でも、だからと言ってよく素性の分からない相手に「私、結婚して今は波野菜乃香になっています。戸倉は旧姓です」と説明するのも何だか違う気がして。 私はそこに関しては訂正しないまま黙っておくことにした。 結果、菜乃香だと言う意味では間違っていないと言う意味で「はい、合ってます」とだけ答えたのだけれど。 私の言葉をすぐ横で聞いているたっくんのことだけは気になってしまう。 私がたっくんの立場なら、もしかしたらそこ、ちゃんと訂正して欲しかったかも?と思うと、自分の判断が正しかったのかちょっぴり不安になった。 だけど――。 そんなことを悠長に考えていられないくらいに突然、電話口から『わぁっ』と泣く声が聞えてきて。 私は、余りのことに思わずたっくんと顔を見合わせてしまう。 もちろん、電話が掛かってきてすぐの時から電話口の夏美さんは、何故だか泣いている気配だった。 だけど……私が菜乃香であることの〝何が〟彼女をそこまで感極まらせたのかが分からなくて。 「あ、あの……夏美、さん?」 私が恐る恐る呼び掛けたら、 『菜乃香さん……、に電話っ、ちゃんと繋がった……。なおさんが……もう番号変えてるかも知れな、ぃとか、言うから……。私、私……。こんなことなら……もっと早、くに菜乃香さっ、に電、話し、てたら、良かっ、た』 そこまで一気に言うなり、夏美さんがまた泣き出して、私は戸惑ってしまう。 きっと、彼女が言う〝なおさん〟は〝なおちゃん〟と道義だ。 なおちゃん自身からの電話ではなかったけれど、彼絡みの話であろう
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い②

あえて〝なおちゃん〟と言わずに〝緒川さん〟と呼んで、彼との関係に線引きをした上でそう切り出した。 さすがにイヤって言われちゃうかな? そう懸念した私に、夏美さんが案外アッサリ『……構い、ません』と返してくれてホッとしたのだけれど――。 『その、方、が……菜乃香さ、とお会いしやすく、なると思、……ので』 と続いて、どういう意味?となってしまった。 *** 『なおさんが……緒川直行さんが……今朝、亡くなりました。菜乃香さんは……そのことをご存、知です、か?』 声を震わせながら、嗚咽混じりに古田夏美と名乗った見知らぬ女性が、そんな意味不明のことを言ってくる。 「え……?」 私、昨夕なおちゃんと話したばかりだよ……? なのに亡くなっただなんて何の冗談? 「嘘、ですよね……? いきなり電話してきてバカなこと言わないで下さい。……だって私、昨日彼からの電話を受けて……それで……」 ――頼むから俺を助けると思って顔見せてくれよ。 ――俺、菜乃香がいないと駄目なんだ。 ――会いたい。 そう言ってきたなおちゃんを、私はもう結婚したから……という理由で突き放した。 「私、私……」 混乱してうまく言葉が紡げない。 どうしよう。 お願いだから嘘だと言って? 余りの衝撃に呼吸が上手く出来なくなってしまった私を、たっくんが無言で抱きしめてくれた。 「菜乃香、しっかりしろ」 そうして、痛いくらいに腕に力を込められる。 私はたっくんを虚ろな目で見詰めてポロリと涙を落とした。 「あの……突然割り込んですみません。菜乃香の夫です。夏美さん、でしたっけ? ……えっと、今の話は……本当なんですか?」 オロオロと視線の定まらない私に変わって、たっくんがスピーカー通話を解除して電話を耳に当てた。 「はい、はい。ああ、それで……。ええ、今夜が通夜で葬儀は明日の――」 ねぇたっくん。今話しているのは誰のお通夜で、誰の葬儀のことなの? 分かっているけれど、その言葉はまるで真実味を伴わないままに私の上を通り過ぎていく。 ややして通話を終えたたっくんが、私を抱きしめたまま言った。
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い③

なっちゃんは黒のワンボックスカーに乗ってくると言っていた。大きめの、ファミリーカーもかくやという車に乗ってくることで、彼女が独り身ではないことを何となく察してしまう。私は赤色の軽自動車で行くと伝えて電話を切ったのは、ついさっきのこと。オロオロと心配そうにするたっくんに、喪服に着替えた私は「大丈夫だよ。行ってくるね」と微笑んで、単身ここへ来た。ここまでの道すがら、雨がポツポツとフロントガラスを濡らし始めて……。気が付けば、今では結構な雨量。外で話すのはもちろんのこと、葬祭会館の中で話すのもおかしいよねということで、なっちゃんの車の中で話をすることにした。初めまして、というありきたりなあいさつの後、ショートボブに髪の毛を切りそろえた細身のなっちゃんが、私に恐る恐る切り出した。「私も……なおさんとお付き合いさせて頂いていました」私は小さくて少しぷにっとした印象のセミロングで、可愛い系だとよく言われる。対してなっちゃんは、スレンダーでシャープな印象のキャリアウーマンタイプ。全然雰囲気の違う私たちに、どうしてなおちゃんは手を出したんだろう?なっちゃんとなおちゃんの出会いは、なっちゃんがなおちゃんの勤めるごみ処理場第一工場へ嘱託職員として配属されたことが切っ掛けらしい。私より四つ年下のなっちゃんは、十八歳の時に結婚をして、二人の男の子にも恵まれていると言う。子供の年齢こそ十以上離れているとはいえ、なおちゃんも二人の男の子の父親ということで、最初は子育てなんかの相談に乗ってもらっていたらしい。それが男女の関係に発展したのは、どうやら私のお母さんが病気になって、なおちゃんと会える機会がガクッと減った辺りか
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い④

ねぇ、なっちゃん。そんなに泣かれてたら「ふーん、そうなんだ」って思えないよ? 私は初めましてをした時からずっと、なっちゃんが泣き続けているからか、彼女と会ってからは嘘みたいに涙が枯れてしまっていた。 なおちゃんが死んでしまったという話を、心の奥底ではまだ信じられないままなのもあるからかも知れない。 「そっか。私は……なおちゃんと結婚したいって思うようになってしまったから……愛人としては失格だなって思ったの。母が病気になって以前みたいに会えなくなった時になっちゃんの影を感じるようになったのが決定打になってね。なおちゃんを独り占め出来ないことに我慢出来なくなって……彼に別れを告げたの」 「はい、なおさんが凄く落ち込んで『菜乃香が俺から離れた。今度こそ取り戻せそうにない』って話してくれたのでその辺の経緯は何となく知っています。実はその頃からなんです……。なおさんが自殺未遂を繰り返すようになったの……」 「えっ?」 一瞬、私はなっちゃんが何を言っているのか理解出来なかった。 だってそれってまるで――。 「ごめんなさい。菜乃香さんを責めているわけじゃないんです。ただ……」 なっちゃんはなおちゃんに、『そんなにしんどいんなら私が菜乃香さんに連絡してあげるよ?』と話したらしい。 なおちゃんの手首に刃物の傷が増えるたび、なっちゃんは何度も私に連絡しようと思ったんだとか。 でもその度に『菜乃香にだけは知られたくない』『せっかく俺から離れられた菜乃香に負担は掛けたくない』となおちゃんに言われて二の足を踏んでいたと言う。 それでももう一度同じことが起こったら今度こそ私に連絡しようと思って……。 なっちゃんは私の電話番号をこっそりなおちゃんの携帯から盗み見てメモしていたらしい。 なおちゃんの携帯のロック番号は、変わっていなければ0912の四桁。私の話をことある毎にしていたというな
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い⑤

「菜乃香さんのお名前もお話も……なおさんから本当にしょっちゅう聞かされていたから、彼の電話帳のなかからあなたの連絡先を探し出すの、結構簡単でした」 そう言って涙目で微笑んだなっちゃんに、私は何と答えたらいいか分からなくて。 結局何も言えないままにうつむくことしか出来なかった。 *** 「なおさん……古い家の方で首を吊って亡くなったんだそうです。第一発見者は彼の上の息子さんで……死亡推定時刻は午前七時頃だとか」 なおちゃんとなっちゃんの職場は同じごみ処理場第一工場。 その朝礼で、皆が集められて工場長からそんな話を聞かされたらしい。 (古いお家で……) なおちゃんが、わざわざ自分が生まれ育った生家での最期を選んだ理由は何だったんだろう。 私も、なおちゃんが数年前に生まれ育った家を出て、新しく別の土地に家を新築したのは知っていた。 私は彼が家の建て替えに備えて色々住宅展示場などを巡るのに付き合わされていたから。 自分が住むわけでもない家を『奥様』と呼ばれながら見るのは何だか切なくて悲しくて。 なおちゃんはそういう残酷なところが時折垣間見える人だった。 きっと彼自身には悪気なんてなくて……必要だから一緒に行く。 行けば菜乃香も楽しめるよね?ぐらいの感覚だったんだと思う。 私は愚かにも、もしかしたら彼が私との結婚を視野に入れて家の建て替えを検討してくれているのかも?とか馬鹿な期待をして。 そうじゃないと思い知らされて、死ぬほど辛くなったのだ。 なおちゃんの古い家は昔ながらの日本家屋で……天井には大きな梁があって、子供の頃なんか囲炉裏の火をかき回したら、煙に当てられたのか上から大きなアオダイショウが降ってきて驚かされたんだという逸話などを聞かされたこと
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い⑥

きっとなっちゃんは『どうしてそのことを知りながら、この時期になおさんのそばにいてくれなかったのですか? どうして彼の手を放せたんですか?』とでも言いたかったのかな。 私には、なおちゃんが亡くなる前日、なおちゃん自身から掛かってきた電話で、彼からのSOSを蹴ったという引け目がある。 だから、もし仮になっちゃんからそう責められていたとしても、きっと言い返したりは出来なかったと思う。 「ごめんなさい……」 私を責めることが出来ず、黙り込んでハラハラと涙をこぼすなっちゃんに、私は謝ることしか出来なかった。 その謝罪がなおちゃんのそばにいられなかったことに対してなのか、なおちゃんの自殺を止められなかったことに対してなのか、はたまたなっちゃんに辛いことを全て背負わせて、自分だけ蚊帳の外で幸せを噛み締めてしまっていたことに対してなのか、自分でも分からなくて。 「……それは……何に対する謝罪ですか?」 なっちゃんにポツンと問い掛けられたけれど私はうまく答えることが出来なくて、聞こえなかったふりをした。 *** なっちゃんとともにお通夜に参列して……変わり果てたなおちゃんの顔を見た。 縊死、というともっと顔が浮腫んだり苦しそうに歪んでいたりするのかなと覚悟して彼の顔を見たのだけれど。 なおちゃんは思いのほか穏やかな顔をして棺に横たわっていた。 きっと鬱血痕の残っているであろう首の辺りも、棺の小窓から覗いたのでは見えないように工夫が施されていて。 その顔が、顔色が悪いということ以外あまりにもいつも通りに見えたから。 私はまたしても彼の死を明確に受け入れることが出来なくて、そこでもやっぱり涙が出てこなかった。 ポロポロと涙をこぼして棺の中の彼を見つめるなっちゃんを支えるようにして……私はぼんやりと(どうして私、こんな
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25.あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い⑦

私はこんな優しい人を差し置いて……あのとき私がなおちゃんの求めに応じていたら或いは彼は死なないでいられたの?とか。 あてもなくなおちゃんとの思い出が詰まった場所を転々と彷徨うように車を走らせながら、このままどこかへ突っ込んで、なおちゃんの後を追ってしまおうか、とか。 ご飯を食べずにいたら何日くらいで死ねるんだろう?とか。 そんな不毛な想いに捕らわれ続けている自分のことも、許せなかった。 *** なおちゃんの葬儀には結局たっくんも列席してくれた。 一人で出向いてなっちゃんとまた鉢合わせになったら怖いと思っていた私は、たっくんが「僕も行くよ」と言ってくれた時、心底ホッとして。 それと同時。 妻の不倫相手のお葬式に出るだなんて、たっくんはどんな気持ちだろう、とも思った。 そんな私にたっくんが言ったのは、「今の菜乃香を一人には出来ないから」というもので。 私はたっくんが何故そんなことを言うのかその時には分からなかったのだけれど――。 なおちゃんの葬儀から数日。 日ごとになおちゃんはもうこの世にはいないんだという実感が強くなっていった私は、彼を自殺へ追いやってしまったのは自分だと信じ込むようになっていって。 なおちゃんのために何もしなかった私なんて、生きている価値がないとすら思うようになっていた。 心の片隅で、こんなことをしてはいけないと思いながらも、死んでなおちゃんにお詫びを言いに行かなくては、という相反する気持ちが日増しに強くなって。 たっくんはきっと、私よりもずっと私の中にあるそういうダメージを見抜いていたんだと、その時になってようやく気付かされた。 だからと言ってどうにもならないのが心なんだと思い知らされるみたいに、表面に出ている私はご飯を食べるのを拒否して、自傷
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Epilogue~叶わぬ恋だと分かっていても~

――私は、大切な人を自死で亡くしたことがあります。 ――自殺って止められたんじゃないかと言う思いが常に心の奥底にあって……彼を死なせてしまったことを、今でもずっと自分のせいだと責め続けています。 そういう想いが消せないのだと、たっくんには言えない気持ちをネットでこっそり吐き出すと、当たり障りのない柔らかな言葉に紛れ込むように、辛辣なコメントが書き込まれることがあった。 ――生きたくても病気で生きられない人が沢山いるのに、自殺する人は自分勝手で最低な人間です。そんな人のために貴女が自分を責めたりする必要なんてありません。 きっとそれは、うじうじと思い悩んでいた私への、その方からの心の底からの叱咤激励なんだろう。 でも――。 母を病気で亡くし、最愛だった人を自殺で亡くした私が思うのは、どちらもきっと、本人の力ではどうしようもない〝死に至る病〟なんだということで。 お母さんは癌に身体を蝕まれて生きることが出来なかった。 そうしてなおちゃんもまた、鬱という病いに心をズタズタにされて生きることが出来なかったのだ。 どちらが正しくてどちらが間違っている死だなんて、きっと誰にも決められない……。 生きている私たちがそう言うことを軽々しく口にしてはいけないんじゃないかなって……そんな風に思う。 実際救いを求めるように色々読み耽った、『大切な人を自死で亡くした人たちが思いを綴っているサイト』では、私と同じように、亡くなった大切な人を周りから〝命を粗末にした悪者〟だと決めつけられた人たちからの、悲痛な思いが書き連ねられていた。 良かれと思って遺された人を励ますために投げかけた言葉が、更に手負いの人を傷つける。 死因が何だったとしても、遺された人間には〝大
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【完結後の短編】花を置く場所①

 朝、目を覚ました瞬間に、雨の匂いがした。 カーテン越しの光は淡く、外では細かな雨音が途切れることなく続いている。梅雨にはまだ少し早いはずなのに、空気は湿り気を含んでいて、胸の奥までじっとりと染み込んでくるみたいだった。 私は仰向けのまま、そっとお腹に手を当てる。 まだ大きくはないけれど、確かにそこにある重み。  私ひとりの体温とは違う、もう一つのぬくもり。 目を閉じたまま、ゆっくりと息を吐く。 ――今日で、一年。 なおちゃんが亡くなってから、ちょうど一年。 声に出してしまえば、また何かが溢れてきそうで、私はその言葉を胸の奥に押し込めた。でも、押し込めたところで消えてくれるわけでもなくて、こうして雨の匂いや静かな朝の気配に混じって、ひょっこり顔を出してくる。 ベッドを抜け出してリビングに向かうと、たっくんはもう起きていた。 キッチンに立つ背中は少しだけ丸くなっていて、鍋の中を覗き込みながら何かを温めている。私の足音に気付いたのか、振り返って柔らかく笑った。「おはよう、菜乃香」「おはよう」 テーブルの上にはマグカップが二つ並んでいる。  そこへ、たっくんが湯気の立つ飲み物を注いでくれる。香ばしいこの香りはコーヒーだ。妊娠してから避けるようになっているカフェイン。たっくんもそれは知っているはずなのに。 そう思いながら、戸惑いに揺れる瞳で彼を見上げたら、にっこり笑われた。「大丈夫。これは妊婦さんでも飲めるデカフェだから。菜乃香、コーヒー好きなのに飲めなくなって、寂しがってただろ?」  言葉にして伝えたつもりはなかったけれど、顔に出ていたのかもしれない。  たっくんの言葉に、私は正直驚いた。  それと同時に、彼の気遣いがとても嬉しくて心がほんわりと暖かくなった。「私たちのためにありがとう」 椅子に腰を下ろすと、たっくんは当たり前みたいに私の前にカップを置いた。「当たり前だろ。僕にはこのぐらいしかできないんだから」 妊娠が分かってから、たっくんは本当にさりげなく色々なことを変えてくれる。今日、コーヒーをデカフェにしてくれたことも、重い物を私が触る前に持ってくれることも、全部「特別」じゃない顔で……さも当たり前みたいに。「飲んでみて? 先に味見してみたけど……普通に美味かったから」
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