Semua Bab 叶わぬ恋だと分かっていても: Bab 91

91 Bab

花を置く場所②

花屋に入ると、空気がふっと変わった。 切り花特有の青い匂いと、ほのかに甘い香り。 店内は静かで、雨のせいか他にお客さんはいなかった。 私はゆっくりと花を見て回る。 白い百合。 淡いピンクのガーベラ。 紫がかったトルコ桔梗。 トルコ桔梗を見た瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。 お母さんが好きだった花。 元気だった頃、よく玄関先に飾っては、 「綺麗でしょう? お母さん、この花が一番好きなの」 そう言って、嬉しそうに笑っていた。 あの頃は、そんな日常がずっと続くものだと、疑いもしなかった。 なおちゃんの顔も浮かぶ。 なおちゃんは、生花よりも、道端に咲いているような名も知らない花を好む人だった。 「菜の花を見るとさ、菜乃香だなって思うんだ」 私が、「でも……私の〝か〟はお花じゃなくて香りだよ?」っていうと、「それもそうか……」って笑ってたっけ。 私は迷った末に、派手ではない、小さな黄色い花を選んだ。 菜の花に少し似た、細かな黄色い花。花屋では〝ソリダコ・ゴールデンロッド〟と書かれていたけれど、私には春の土手を思わせる野の花に見えた。 それだけだとなんだか殺風景に見えたから、お母さんが好きだったトルコ桔梗も一緒に包んでもらうことにした。お母さんが好きなのはブルー系だったけど、「ソリダコと合うのは白ですね」って店員さんが教えてくれたから、それにしてもらった。 「これでお願いします」 店員さんは用途を聞くこともなく、「少しだけ緑も足しますね」とユーカリの葉を添えてくれた。 店員さんのおかげで、とても綺麗な花束が出来上がる。 「ありがとうございます」 可愛らしくラッピングされた花を手に、私は花屋を後にした。 ――これは、お墓に持っていく花じゃない。 なおちゃんは不倫相手だった。 私が彼のお墓やご仏前に手を合わせることはできない。それは奥様や息子さん、そうして彼のお母さまの特権だ。 私の彼への弔いは、私の心の中にだけで処理しなきゃいけない。 花を置く場所は、決めてある。 リビングの片隅のローチェストの上。窓に近いそこは、明るい日差しが差し込む場所。窓の外の空の先に、きっとなおちゃんのお墓がある。そう思える場所だった――。 *** 家に戻って、花を花瓶に移す。 小
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