なおちゃんに、自分のことを好きだと言ってくれたタツ兄とのことを前向きに検討したいって話したのは嘘じゃなかったから。 「私、緒川さんとは別れる……。その後でタツ兄とちゃんと向き合うつもり。でも……私がもしタツ兄と付き合ったりしたら、お母さんは……」 ――お母さんは頑張ろうって思える張り合いを失ったりしない? 喉の奥まで出かかった言葉をグッと飲み込んだら、お母さんが点滴の刺さったままの手を私の方へそっと伸ばしてきた。 私は慌ててお母さんに近付いて――。 「建興くんとならなのちゃんの花嫁衣装、お母さんも見られるかなぁー。あー、でもね……お母さん、すっごく欲張りだから。それが見られたら……今度は可愛い孫の顔を見たいな?ってなると思うの」 そこでお母さんの手が、私の手の上にそっと載せられる。 「だからお母さん、なのちゃんが建興くんと幸せになったとしても……やっぱりとうぶん死ねないな?ってなるわね」 温かいお母さんの手――。 私はお母さんの手を上からギュッと包み込むと、「ホント? 約束してくれる?」と問いかけた。 *** お母さんが「当たり前よ」と答えてくれたのを聞いた瞬間、私の中で何かがカチッと音を立てて切り替わったのが分かった。 「――お母さん、私、ちょっとお父さんを呼びに行ってくるね」 お母さんに声を掛けると、私は携帯をギュッと握りしめて病室を後にする。 頬が涙で濡れてひんやり感じられたけれど、そんなのは気にしない。グズグズな顔をしてたって構わないの。 今は。――今だけは……。ちゃんと顔を上げて、前を向いて歩か
Last Updated : 2025-11-29 Read more