**** 夜からコーディネーターと打ち合わせをして、ファミレスで適当に食事を取ってから部屋に戻ってきたとき、和彦はもう、何もする気力が残っていなかった。ただ、汗をかいた不快さが我慢できず、三田村に頼んでバスタブに湯を溜めてもらう。 こんな生活に入る前までなら、何があっても自分一人ですべてこなさなければならなかったのだから、そういう意味では、ずいぶん優雅になったものだ。 ソファに転がって、夜のニュース番組を眺める。世間で起きていることに、すっかり興味が持てなくなっているが、それでもテレビをつけるのは習慣だ。 「――先生、湯が溜まった」 三田村に声をかけられ、体を起こす。よほど億劫そうに見えたのか、三田村は無表情のまま、それでいて声には気遣いを滲ませながら言った。 「今夜はゆっくり休めばいい。明日は予定が何も入ってないから」 「本当に、予定通りになればいいけどな。犬っころが、目を輝かせて転がり込んできそうな気がする」 三田村にもその可能性が否定できなかったらしく、黙り込まれてしまった。 和彦はちらりと笑って立ち上がると、その場でTシャツを脱ぎ捨てる。上半身裸のまま三田村の横を通り過ぎるとき、互いに緊張したことを感じ取る。 意識して、緊張しながら、何事もなかったように装うのが、二人の間では当たり前のようになっていた。何を意識しているのか、本当は和彦はよくわかっていない。いや、わかっていないふりをしているのだ。 現実から目を背けた、麻薬のように心地よく、何もかもを与えられる生活を送りながら、いまさらわからないものが一つ増えたところで、和彦は困りはしない。引きずり込まれた世界は、いまだに和彦にとってわからないことだらけなのだ。 手早く体を洗って湯に浸かると、クリーム色の天井を見上げる。 そのまま危うく眠りそうになっていた。目が覚めたのは、浴室の扉の向こうから呼びかけられたからだ。 「先生ー、プリン買ってきたから食べようよ。せ・ん・せ・い、聞いてるー?」 パシャッと水音を立てて、和彦は湯の中に完全に沈みかけた体を起こす。もう少しで顔まで湯に浸けるところ
最終更新日 : 2025-11-02 続きを読む