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Semua Bab 血と束縛と: Bab 1471 - Bab 1480

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第42話(2)

 困惑する和彦にかまわず、御堂は慣れた様子で大きなカートを押してくると、こちらに手招きをして歩き始める。和彦としてはおとなしくついていくしかない。「昨夜、賢吾にちょっと用があって電話したとき、ポロッと洩らしたんだよ。買い物に出かけると。そうしたら、うちの先生は買い物好きで、いい気晴らしになるかもしれないから同行させていいかと言われたんだ。……普段は抜け目ない男なのに、こっちが何を買いに行くかも聞かずにそんなこと言い出したものだから、おかしくてね。嫌とは言えないよ」「……すみません」「わたしとしては、うちの隊員以外の同行者は嬉しいけど、むしろ、君にとっては退屈な時間になるかもしれない。まあ、覚悟しておいてくれ」「それは大丈夫です。ホームセンターに来ることなんてないので、商品を眺めているだけでも楽しそうで」「わたしは、最近は足が遠ざかっていたんだけど、部屋に一人でいるとなんだか手持ち無沙汰で。それで、また始めてみようと思ったんだ」 軽やかにカートを走らせて向かった先は、出入り口横に設けられた園芸コーナーだった。変わった形のプランターに和彦が気を取られている間にも、御堂はどんどん先を歩いていき、慌てて追いかける。 ようやく足が止まったのは、たくさんの花苗や鉢が並んだ一画だった。「前に住んでいた家に庭がついていたから、暇つぶしと体力作りのつもりであれこれ花を育ててたんだ。今はマンション暮らしになったけど、ベランダが広くて殺風景なのが気になってね。それで――」 そう説明しながら、御堂はじっくりと花苗を眺めている。和彦は、そんな御堂の横顔を眺めていたが、ふと気になって振り返ると、さすがにこんな場所では目立つと考えたらしく、少し離れた場所に護衛が二人だけ立っていた。「ずいぶん物々しいと思ったかもしれないけど、護衛というより、荷物持ちのために連れてきたようなものだよ。苗だけじゃなく、土も肥料も、大きな鉢も買って帰るつもりだからね、今日は」「……花を育てるための準備って大変なんですね。ぼくはせいぜい、人に世話してもらっている鉢に、水をやっているぐらいで」
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-03
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第42話(3)

「問題を起こした南郷に対して、処罰を求めているそうだ。幹部会がその求めに応じると、総和会の中だけじゃなく、総和会に名を連ねるすべての組に対して、回状という形で通知が出されるんだ。与えられる罰は軽くても構わない。ただそのことが、組織中に知らされるわけだ。誰が求め、誰に対して処罰が下されたかを。南郷の起こした〈問題〉が何かまでは知らないが、賢吾は内々の謝罪で済ませるつもりはないんだろう」 賢吾が、総和会本部に顔を出していたことは知っていたが、その理由を聞かされて、和彦は動揺する。もちろん賢吾は、そんなことは一言も言っていなかった。「賢吾がそこまでするとなったら、理由は限られてくると思わないかい?」「……半分、正解です」 残念、と呟いた御堂は、このときにはもう眼差しを和らげ、次の花苗を物色している。和彦は控えめに尋ねた。「それで、どうなるんでしょう?」「どう? ……そうだね。多分、賢吾の要求は通らない。なんとなくだが、長嶺会長は南郷の名に傷をつけたくないんだと思う。回状を出されるぐらいなら、むしろ南郷に指を落とさせるほうを選ぶだろうね」「それで、落とした指をぼくが縫合するんですか……」 口にして、笑えない冗談だなと嘆息する。一方の御堂は、ニヤリと鋭い笑みを浮かべた。「容易なことでは総和会という大樹は揺れない。わたしとしては、いろいろと波乱を期待しているんだが、忌々しいほど長嶺会長の下で組織は盤石だ。わたしというささやかな毒を平然と呑み込む程度には。それでも、足掻きたくなるんだ。わたしも、賢吾も。それ以外の一部の人間も」 ほろ苦さを感じたような口調でそう言った御堂だが、すぐに何事もなかったように、十二月らしい植物ともいえるシクラメンの鉢へと歩み寄る。「気分転換をしてもらうつもりだったのに、物騒な話をして暗い顔をさせてしまったね」「いえ、いいんです。気になっていたことですし。南郷さんのこともですけど、それと同じぐらい憂鬱なことがあって……。これだけは、賢吾さんだけじゃなく、誰にも任せることができないんです。自分のことで
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第42話(4)

 まだ笑いの余韻を引きずっている御堂が財布を取り出すと、これまで距離を取っていた第一遊撃隊の隊員がさりげなく近づいてきて、購入したものを受け取ろうと待ち構える。一方、和彦についている組員は、棚の陰で携帯電話を耳に当てていた。 定時報告だろうかと眺めていた和彦を、電話を切った組員が見る。その様子から、何かあったと察した。案の定、素早く歩み寄ってきた組員にそっと耳打ちされる。「先生、仕事が入りました」 それを聞いた和彦は、まず御堂を見遣る。組員の声が聞こえたとも思えないが、財布を仕舞った御堂がちらりと笑みをこぼす。「君は、わたしなんかよりよほど忙しいね」「あのっ……」「気にしなくていいから、行っておいで」 そう言って御堂は軽く手を振った。** 慌ただしく和彦が連れて来られたのは、ごくありふれた四階建てのマンションだった。先に到着していた他の組員から、手術衣などを詰め込んだバッグを手渡され、促されるままエレベーターに乗り込む。「……患者の様子は? さすがに、土曜のこんな明るいうちから、普通のマンションで切ったり縫ったりは無理だろ」「それが、よくわからないんです」 困惑気味に組員から返され、和彦も困惑の表情で返す。これまでも、状況が把握できないまま患者の元に連れて来られたことはあるが、それでも素人判断ではあっても容態ぐらいは告げられていた。組員にも緊迫感は漂っており、そこから何かしら感じ取ることはできていたのだ。しかし今は――。「わたしらも、何も教えられてないんです。とにかく先生を連れて行けばいいとだけ」「誰から?」「組長です」 信用できる筋からの依頼ということは間違いないようで、頭の中に疑問符が飛び交いながらも、一応和彦は納得しておく。 エレベーターが最上階である四階に到着し、先に降りた組員が慎重に辺りを見回して頷くのを確認してから、和彦も降りる。エレベーターホールを出て、部屋はどこだろうかと探すまでもなかった。一番奥の部屋の前に、いかつい風貌の男二人が所在なさげに立っていたからだ。
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第42話(5)

 暖房が入った部屋はムッとするほど暑く、空気が乾燥しきっていた。ここで違和感を感じて振り返ると、あとからついてきていると思った組員たちが、開けたままのドアの向こうから、こちらを覗き込んでいる。 早く入ってこいと手招きをしようとした瞬間、部屋の中からくぐもった苦しげな息遣いが聞こえてきた。いや、咳だ。 視線を向けた先にベッドがあり、布団が盛り上がっている。和彦はこの時点でためらいというものをかなぐり捨て、ベッドに近づくと、そっと布団を捲った。 不揃いに伸びた髪を頬に張り付かせて、横向きで男が寝ていた。顔がよく見えないなと、和彦は髪を掻き上げてやろうとする。すると、かろうじて見えていた男の目がうっすらと開く。唸るような声が上がった。「しつこいぞ、てめーらっ……。僕のことは放っておけと、言っただろ。勝手に部屋に入ってきやがって、警察、呼ぶぞ」 組員たちが迂闊に部屋に踏み込めなかったのは、今の台詞のせいなのだろうかと思いながら、和彦はかまわず男の髪を掻き上げる。ずいぶん痩せており、頬がこけているように見えた。さらに目の下にはひどい隈があり、唇は今にもひび割れそうなほど乾いていた。 顔は紅潮しており、睨みつけてくるように見上げてくる目は潤んでいる。息遣いも荒いことから、熱があるなと見当をつけると、床に置いたバッグの中から体温計を取り出し、有無を言わせず男の耳に当てる。「やめ、ろ……」 男が緩く頭を振ったときには測り終え、表示された数字を見た和彦は眉をひそめる。熱が四十度近くあった。「ぼくは医者だ。頼まれてここに来た。――いつから熱が出ているんだ」「……知らない。いいから、早く出て行け」 男が手を振り払った勢いで、体温計が床に落ちる。和彦はため息をつきながら体温計を拾い上げた。「だったら、病院に行こう」「外に、出たくない。出るぐらいなら、このまま死ぬ。舌噛んで、死ぬ……」 男の戯言を聞いてから、ベッドの端に腰掛け、室内を見回す。八畳ほどの室内は、キッチンとは対照的に生活感で溢れ返っていた。溢れすぎ
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第42話(6)

 仕方ないなあと独りごちた和彦は、パジャマの前を留め直すと、青年の体に布団をかける。すぐに頭から布団を被ってしまったので、これ幸いと遠慮なく部屋中を見て回り、ついでに冷蔵庫の中も覗く。食料がぎっしりと詰まっているが、部屋の惨状からして、組員たちが差し入れをしているのかもしれない。 タオル、タオルと声に出しながら、洗面所まで行ってみる。洗濯物が山のように溜まっている光景を目の当たりにして、和彦はがっくりと肩を落とす。 部屋に戻ると、咳き込みながら青年が、布団の隙間からこちらをうかがっていた。「咳で苦しいから、やっぱり病院で診てもらおうかなー、という気には?」「しつ、こい……」 和彦はメモ用紙に必要なことを書き込んでから、外で待機している組員に渡す。「買い物リストだ。ここに書いてあるものを今すぐ買ってきてくれ。ドラッグストアとスーパーで揃うはずだ」 城東会の組員の一人がすぐに走っていき、残った男にも、うんざりしながら指示を出した。「今から、ゴミ袋に洗濯物を詰めてくるから、コインランドリーでまとめて洗ってきてほしい。汗をかくから、いくらでも着替えが必要なんだ」 そう告げて、部屋に引っ込もうとした和彦を、城東会の組員が呼び止める。「あのっ……、ユウヤさんはどういう状態ですか? 診察が終わったら、すぐに報告するよう言われているもので……」「『ユウヤ』が、彼の名前なのか」 そういえば、こちらも自己紹介がまだだったなと、和彦は心の中で反省しておく。患者からいままでにない反応を示されて、やはり少し冷静ではなかったようだ。「彼は、四十度近い熱が出ているし、咳もひどい。喉もかなり腫れている。インフルエンザかもしれないと思ったけど、話を聞いてみると、風邪をこじらせた可能性が高い。まだ肺炎にはなってないみたいだが、正直、すぐに病院に連れて行ったほうがいい」 組員からすがりつくような眼差しを向けられ、和彦は一拍遅れて付け加える。「……外に連れ出すなら、舌を噛んで死ぬと脅された。それが可能かどうかはと
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第42話(7)

「わかりました」「あと、着替えもさせてやってほしい。多分、自分ではやらないはずだから。警察を呼ぶとか威勢のいいこと言ってたけど、今は大声は出せないし、床に転がってたスマホは充電されてなかったから大丈夫だ」 細かい指示を出しながらエレベーターに乗り込み、一階へと降りる。 ふっと緊張が解けた途端、空腹を感じた。それもそのはずで、昼食をとっていなかった。きっと賢吾の予定では、買い物のあとに御堂と食事をさせるつもりだったのだろう。 味付けの濃いものが食べたいなと、あれこれメニューに思いを巡らせているうちに、エレベーターの扉が開く。降りた和彦の視界にまっさきに飛び込んできたのは、穏やかな眼差しをこちらに向ける三田村だった。「三田村っ」「せっかくの休みだったのに、すまなかった、先生」 三田村から発せられた謝罪の言葉に、和彦は戸惑う。すると三田村が、背後に立つ組員に軽く目配せをする。組員はこちらに頭を下げたあと、小走りでマンションを出て行った。 その後ろ姿を見送って、三田村が表情を一層和らげる。「不思議そうな顔をしている」「……突然目の前に現れたあんたから、すまなかったって言われたら、びっくりもするだろう」「城東会の人間として言ったんだ。今日は土曜日だ。先生はゆっくり過ごしていたところだったんだろう?」「それは――」 気にしていないと、ぼそぼそと答えた和彦だが、すぐにあることが気になって、三田村に詰め寄る。「ぼくがさっき診た患者、組長の身内だと言われたんだ。組長っていうのは、城東会の、でいいんだよな?」「そう。俺が補佐を務めている若頭のことだ」 エレベーターの前で立ち話を続けるわけにもいかず、三田村に促されるまま和彦もマンションを出る。駐車場には、城東会の組員たちだけが残っていた。「あれっ?」「今から俺が、先生の護衛を引き継いだ。長嶺組長に言われてのことだから、心配しなくていい」 土曜日の午後を潰してしまったことへの、賢吾なりの気遣いなのだろう。そう受け止めた和彦だが、素直には喜べない。神妙な顔で隣をうかがい見ると、三田村
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第42話(8)

「笠野が知ったら、目を剥きそうだな」 向かいの席についた三田村は、長嶺の本宅の台所を切り盛りする男の名を出しながら、追加で運ばれてきた肉野菜炒めの皿を受け取り、テーブルの中央に置いた。しっかり野菜も食べたと言い訳できると、三田村の提案で頼んだのだ。 店に入る前に笠野に連絡をして、今日の夕飯は外で食べてくると告げておいた。何を食べるのかと聞かれ、露骨に誤魔化してしまったが、どうせ他の組員から耳に入るだろう。よりにもよって三田村が、美味いラーメン店を教えてくれと電話をかけた相手は、笠野の下で働いている組員だったのだ。 若頭補佐は妙なところで要領が悪いなと、小皿に肉野菜炒めを取り分けながら、和彦はこっそりと笑みをこぼす。 さっそくラーメンにのったチャーシューを噛み締めていると、三田村が自分の分のチャーシューを、和彦のどんぶりに入れてくる。「先生は、労働のあとだからな」「……そうやって甘やかすと、ぼくは太っていくからな。それでなくてもジムをさぼり気味なんだ」「もう少し太ってもいいな、先生は」 なんでもない会話だが、急に照れ臭さを覚えた和彦は、聞こえなかったふりをして麺を啜る。慎重に煮玉子を箸で割っていて、ふと思い出したことがあって顔を上げる。三田村は、箸を持ってはいるものの、まだラーメンにも口をつけず、じっとこちらを見ていた。「ラーメンが冷めるぞ、三田村」 ああ、と声を洩らした三田村が、勢いよく麺を啜る。なんだか様子がおかしいなと思いつつ、和彦は切り出した。「なあ、さっきの患者のこと、聞いていいか?」「俺が知っている範囲でなら。……珍しいな。先生が患者のことを聞きたがるなんて」「いや、いかにもな相手なら、ぼくも事情を察するけど、今日の患者はなんというか――」「堅気に見えた」「そう。でも、城東会組長……、えっと、宮森さん、だったよな? その宮森さんの身内なんだろ」 和彦は、三田村が補佐として仕えている男、宮森とは顔を合わせたことがあるし、短くではあるが言葉を交わしたこともある。三田村を
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第42話(9)

「誰よりも繊細だから、組長や俺たちは先生を大事にしようとしているんだ。でも、それだけじゃ足りないと思うことばかりだ。先生の繊細さは、こちらの想像も及ばないときがあるからな」「――……冗談だ。悪かった、試すようなことを言って。ぼくは繊細どころか、図太い人間だと自覚してる」「先生はタフだが、繊細だ。俺にはそう見えている」 どんどん顔が火照ってくるのは、熱いラーメンを食べているせいだと、和彦は自分に言い聞かせた。 食事を終えてラーメン店を出たとき、辺りはすでに薄闇が落ちていた。この瞬間、ふっと寂しさが胸を駆け抜ける。三田村との別れの時間がすぐそこまでやってきているのだ。 物言いたげな和彦の視線に気づいていないのか、三田村が足早に車へと向かい、助手席のドアを開ける。黙って乗り込むしかなかった。 ラーメン店に向かっていたときとは違い、帰りの車中は沈黙に支配されていた。膝に置いたダウンジャケットを撫でながら、和彦は何度か話しかけようとして、そのたびにためらう。 仕事が休みの日に、わざわざ自分の送り迎えのためだけに来てくれた三田村を困らせたくないと思う一方で、もう少し甘えてみたいという衝動が湧き起こるのだ。 そもそも賢吾は、どこまで許してくれるつもりだったのか――。 大蛇の化身のような男の気遣いとは、甘くて優しい反面、残酷だ。和彦が煩悶することを見越していたのかもしれない。 そう思った途端、和彦はようやく言葉を発した。「三田村、コンビニで停めてくれ。お茶を買ってくる」 頷いた三田村は、コンビニの駐車場へと車を滑り込ませる。和彦がシートベルトを外そうとすると、当然のように三田村が提案してくる。「先生、俺が行ってくる」「いいから。すぐに戻る」 三田村の顔を見ることなく言い置いて、和彦は車を出る。すぐに寒さに震え上がり、慌ててコンビニに駆け込んだ。 お茶を二本手に取り、一度はレジに向かいかけたが、少し考えてからカゴを持ってきて、お茶以外にミネラルウォーターのボトルや菓子なども入れる。 精算を終えて駐車場に戻ると、三田村はわざわざ車の外に出て待っていた。
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第42話(10)

** パジャマに着替えた和彦が、タオルで髪を拭きながら部屋に入ると、イスに腰掛けた三田村が優しい声で問いかけてきた。「しっかりと温まったか、先生?」「気になるなら、一緒に入ればよかったんだ」 和彦の返答に、三田村は少し照れた表情で応じた。「……俺たちが一緒に入ると、慌ただしくなって、温まる間もないだろう」 三田村の言わんとしていることを察し、思わず視線が泳ぐ。「それに、先に報告の電話を済ませておきたかったんだ」 テーブルに置かれた三田村の手元には、携帯電話がある。連絡した先はおそらく一件ではないだろう。さて、と洩らした三田村が立ち上がる。「俺も入ってくる」「しっかり温まってくるんだぞ」 三田村は曖昧に笑うだけで返事をしなかった。 部屋に一人となった和彦は、さっそく自分の携帯電話を取り出し、賢吾宛てに簡単な報告のメールを打つ。簡単とはいってもけっこうな文字数となったため、電話で済ませたほうが本当は楽なのだが、この部屋にいて、賢吾の声を聞くのは気が咎めた。賢吾と三田村に対して。 自分は性質の悪いオンナだと、つい自嘲気味な気分になりながらも、文章を打ち込む指は止まらない。早く済ませてしまわないと、三田村が戻ってくる。 メールを送信し終わって、ほっと安堵の息をついた和彦は、携帯電話の電源を切ることなく、ベッド側のイスの上に置いておく。今夜に限っては、優也の体調についていつ連絡が入るかわからないためだ。 それなのに今夜、あえて三田村と共に過ごすことを選んだ。 十二月に入ってから、どこにいても、誰の側にいても、ざわざわとして気持ちが落ち着かない。心のどこかで、年末年始を実家で過ごしたあと、自分はこの場所や人間関係を失ってしまうかもしれないと、危惧しているせいだ。そんなことにはならないと自分に言い聞かせては、次の瞬間には不安に襲われる。その繰り返しだ。 この瞬間も、三田村との思い出を積み重ねようとしているだけではないかと考え、ゾッとした。 慌ててキッチンで冷たい水を飲んでいると、バスルームの扉を開閉する音がする。和
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第42話(11)

 肌を掠める三田村の手の感触と体温が、違和感なく和彦の体に溶け込んでくる。信頼しているからこそ、もっと触れてほしい。もっと奥まで暴いてほしいと、浅ましく願うのだ。 和彦が自分から三田村の唇に吸いつき、口腔に舌を差し込むと、三田村の目の色が変わる。背に彫られた虎のように、今にも咆哮しそうな激しさを孕み、激しく和彦を求め始めた。 肩を押されてベッドに仰向けで倒れ込むと、余裕ない手つきでボタンを外されて胸元を開かれる。「あっ……ん」 興奮のためすでに硬く凝っていた胸の突起を、いきなり口腔に含まれる。熱い舌先で転がされたかと思うと、次の瞬間にはきつく吸われたうえに、軽く歯を立てられる。和彦の背筋にゾクゾクとした疼きが何度も走り、喉が鳴る。三田村の背にすがりつこうとして、脱げかけたパジャマの上着に動きを阻まれていた。 癇癪を起こした子供のように呻き声を洩らすと、突起を吸い上げながら三田村が上目遣いにこちらを見る。こちらからせがむまでもなく、一度身を起こした三田村にすべて脱がしてもらった。 ベッドに横たわった全裸の和彦を、三田村がじっと見下ろしてくる。眼差しの熱さに肌を焼かれてしまいそうだ。「……いまさらそんなに見なくても、もう珍しくないだろ。それどころか、見飽きたんじゃないか?」 軽口を叩いてみたが、三田村は乗ってこない。ひたすら見つめられ、体が愛撫を欲していると嫌でも自覚させられる。 知らず知らずのうちに足が動き、ゆっくりと左右に開く。胸を反らし、熟した二つの突起を見せつける。唇を開き、濡れた舌を覗かせる。三田村が大きく息を吐き出した。「見飽きるどころか、ずっと眺めて、目に焼き付けておきたいぐらいだ」 媚態を示してはみたものの、三田村から返ってきた言葉に和彦のほうがうろたえてしまい、上体を捩って熱い眼差しから逃れようとする。そんな和彦の体を易々と押さえつけて、三田村が本格的な愛撫を施し始める。 首筋を舐め上げられ、耳朶を甘噛みされる。和彦が声を上げて首を竦めると、耳の穴にぬるりと舌が入り込んできた。ピチャッと濡れた音に鼓膜が震え、気も遠くなるような高揚感に襲われる。
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