FAZER LOGIN*
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パジャマに着替えた和彦が、タオルで髪を拭きながら部屋に入ると、イスに腰掛けた三田村が優しい声で問いかけてきた。
「しっかりと温まったか、先生?」「気になるなら、一緒に入ればよかったんだ」 和彦の返答に、三田村は少し照れた表情で応じた。「……俺たちが一緒に入ると、慌ただしくなって、温まる間もないだろう」 三田村の言わんとしていることを察し、思わず視線が泳ぐ。「それに、先に報告の電話を済ませておきたかったんだ」 テーブルに置かれた三田村の手元には、携帯電話がある。連絡した先はおそらく一件ではないだろう。さて、と洩らした三田村が立ち上がる。「俺も入ってくる」「しっかり温まってくるんだぞ」 三田村は曖昧に笑うだけで返事をしなかった。 部屋に一人となった和彦は、さっそく自分の携帯電話を取り出し、賢吾宛てに簡単な報告のメールを打つ。簡単とはいってもけっこうな文字数となったため、電話で済ませたほうが本ようやく唇が離されて息を喘がせていると、なぜか賢吾は決まり悪そうな顔をしていた。どことなく悪ガキ味も感じ、目を丸くしてまじまじと見入っていると、手荒く前髪を掻き乱される。「――……正直に言うと、この部屋は、俺の遅い反抗期の証だ」 思いがけない言葉が賢吾の口から出て、和彦は聞き間違いだろうかと首を傾げていた。するとまた前髪を掻き乱される。聞き間違いではなかったようだ。「本宅で生きてきた俺が、毎週一日、二日過ごすだけとはいえ外に住処を持つってのは、けっこう大変だったんだぜ。それでもこの部屋で暮らすのにこだわったのは、意地だ。組所有だったものを買い取って、俺のものにした」「それが、反抗期?」「何もかもあんたの思い通りにはさせないと、オヤジへの当てこすりだな。今に至って言いたいことが言えるようになったのは、それがきっかけだろうな」 話しながら賢吾が身じろぎ、片足を抱えられてすぐに、ひくついている内奥の入り口に欲望を押し当てられる。止める間もなく一息に奥深くまで貫かれて、和彦は逞しい体の下でのたうつ。不意打ちもいいところだが、体への刺激と、会話の内容が気になり、結局受け入れるしかない。「うっ、うぅっ……」 ぐっと腰を突き上げて、賢吾が目を細める。思い出したように白のニットを脱ぎ捨てたが、途端に和彦は、むせるような雄の匂いに当てられる。無意識に喉を鳴らすと、ボタンを引き千切る勢いでシャツの前を開かれ、荒々しく胸をまさぐられる。「あっ……ん、んっ、んあっ」 首筋に唇を這わされ、べろりと舐め上げられる。ゾクゾクするような愉悦を覚えながら和彦は、内奥で蠢く熱い肉を締め付けていた。 少しの間、二人は夢中で行為に耽る。和彦は賢吾の背に両腕を回してすがりつき、賢吾のほうも和彦の頭をしっかり引き寄せる。逞しい腰に両足を絡めると、力強い律動が繰り返される。突き上げられるたびに大きく腰が弾み、肉同士が擦れ合う湿った音が室内に響く。 中からの刺激ですっかり反り返った和彦のものが、もどかしく賢吾の下腹部に擦り上げられる。一旦動きを止めた賢吾が、和彦のものを掴んで扱く。
ぐうっと内奥を押し広げてくる熱の塊に、感じた痛みが焼かれていく。魔が差したようにふっと脳裏を過ったのは、賢吾はこの部屋で、元妻を抱いている姿だ。あくまで想像でしかないが、それでも生々しさを伴っており、口腔に指を突っ込まれた余韻もあって和彦はまたえずいてしまった。「……苦しいか?」 強引な行為に及んでいる最中でありながら、賢吾がそう気遣ってくる。だが、やめるつもりはないようで、容赦なく内奥の奥深くに押し入ってくる。色っぽいやり取りがあったわけでもないのに、賢吾のものは興奮しきっており、力強く脈打っていた。 間欠的に声を上げてから身じろぐと、和彦が逃げようとしていると思ったのか、腰を掴む指に力が加わる。賢吾のものを根本まで受け入れさせられ、腹の中を掻き回す勢いで動かれる。腰を揺さぶられるたびに鈍い痛みが下腹部に広がるが、悲鳴を上げるほどではない。和彦はただ眉をひそめて耐えていた。すぐに自分の体に訪れる変化を知っているからだ。 ゆっくりと痛みが溶けていくのを感じた。新たに生まれたのは、ゾクリと身震いしたくなるような疼きだ。上擦った声が鼻から洩れると、賢吾は丹念に内奥を擦り上げるように動きを変える。 おそらく、と和彦は考える。この部屋で、行為に及ぶことが賢吾にとっては大事なのだ。ふいに後頭部を手荒く撫でられた。「――余裕だな。この状況で考え事か」 揶揄するような口調に煽られたりはしない。和彦は荒く息を吐き出してから、顔を動かし、なんとか視線だけを背後に向けた。賢吾の顔を捉えることはできなかったが、目の動きは伝わったはずだ。「この部屋は、あんたにとって特別な場所、なんだな……」「さっきも言ったが、一家団欒の――」 そういうことではないと、和彦は緩く首を横に振る。賢吾は一旦動きを止めてから、何か思案している気配を漂わせる。そっちこそ余裕ではないかと思ったが、口から出たのは違う言葉だ。「あんたは、そんな男じゃないだろ」「……聞きようによっては、俺にケンカを売ってるような言葉だな」「そんなつもりはない……。特別
ゾクリと背筋に駆け抜けるものがあり、和彦は手足をばたつかせてもがくが、反対に賢吾は指の根本まで呑み込ませようとしてくる。さきほどの比ではない激しさでえずき、息を詰まらせる。涙目で睨みつけた先で、明らかに賢吾は興奮していた。「あんた、こんな嗜好があったのかっ……」 ようやく指が引き抜かれて、咳き込んだあとに和彦が非難の声を上げると、悪びれる様子もなく、ぬけぬけと賢吾が言い放った。「いままではなかったから、きっとお前のせいだな」「人のせいにっ――」「それとも、この部屋のせいか」 再び口腔に指を押し込まれて、抗議の声は消える。代わって、和彦のくぐもった呻き声と嗚咽が部屋に響く。口から溢れ出る唾液で顔の下半分がドロドロになっても、それでも賢吾はやめない。 生理的な反応から涙まで出てきたが、その頃には困惑を上回る怒りから、賢吾を睨みつける。今の賢吾から感じるのは、明確な支配欲だった。それが嫉妬によって誘発されたものにせよ、甘受できるものではない。込み上げてきたものでいよいよ窒息しかけたところで、ようやく解放されると、和彦はカーペットに顔を伏せて激しく咳き込む。今この瞬間の賢吾なら、力加減を間違えて自分を殺しかねないと、本能的な危機感を抱いていた。 和彦は肘をつき這うようにして離れようとしたが、易々と腰を掴まれ引き戻され、ついでとばかりにベルトを緩められる。「賢吾っ」 有無を言わせずパンツと下着を引き下ろされ、奪い取られてから、荒々しく尻の肉を掴まれる。いつになく乱暴な行動に、往生際悪く足をばたつかせて抵抗を試みていた和彦だが、背にどっかりと乗りかかられて息が止まりそうになる。あとはもう、悔しいがなし崩しだ。「うくっ」 尻の間に指が這わされたかと思うと、内奥に指がねじ込まれる。唾液で湿らせる程度の配慮はあるようだが、雑に蠢かされてすぐに指の数が増やされる。指の腹で強く襞と粘膜を擦り上げられて、痛みに声を洩らす。 好き勝手に動く指に肉を押し広げられ、解される。自分ではどうしようもできない反応として、内奥がひくつき、賢吾の指を締め付ける。その感触を楽しむように、指が出し入れされると、たまらず和
賢吾が室内を軽く見回す。「今でこそ殺風景だが、前はそれなりに温かみのある部屋だったんだぜ。一応、家族団らんの場所だったからな」「……聞きたくない」「千尋は本宅で暮らしていたから、俺がここに連れて来ることになっていたが、ときどき、俺だけが来て――」「聞きたくないっ」「聞かなくても察することはできるだろう。なんといっても夫婦だったんだ。生活は歪だったが、関係はそう悪くはなかった。それでも別れたのは、相手が求めるものに、俺は応えられないと確信できたからだ。……けっこうきついものだぞ。ひたすら求められ続けるのは」 自分だけのものでいてほしい。誰も求めないでほしい。一生傍らにいてほしい。 賢吾の元妻は、どんなことをせがんだのだろうかと考えずにはいられない。賢吾と夫婦であったからこそ遠慮もてらいもなく口にできたはずだ。それに対して賢吾は、どんな眼差しを向け、どんな口調で応えていたのか――。 和彦の記憶にある、賢吾のもっとも穏やかな眼差しと、甘い声音が蘇り、一気に全身の血が逆流するようだった。 これは、自分にとっての〈地雷〉なのだと、本能で確信した。ここまで賢吾が、和彦以外の誰かと親密な仲にあると、もしくはあったと語ってこなかったからこそ、この〈地雷〉は心の柔い部分を直撃してきた。 あごにかかった賢吾の手を咄嗟に振り払い、和彦は顔を横に向ける。ぐっと込み上げてくるものがあり、片手で口元を覆っていた。最初は冷静に見下ろしていた賢吾だが、和彦が苦しげにえずき始めると、引っ張り起され、手荒く背をさすられる。「水を持ってくるか?」 そう問われて首を横に振る。お茶が、と言いながら折り畳みテーブルに目を向けると、コップが倒れてお茶はこぼれ出ていた。もったいないと惜しんだところで再びえずく。かろうじて食べたものは吐かなかったが、口から溢れ出た唾液を手の甲で拭っていると、いつの間にか間近から賢吾に顔を覗き込まれた。無遠慮な好奇心剥き出しの眼差しは、どことなく千尋を思わせる。「……なんだ」 掠れ声で和彦が問いかけると、賢吾はふっと口元を緩めた
まるで毒のように注ぎ込まれた言葉がじわじわと神経に浸み込んでいく。自分が激しく動揺しているのだとわかった。だが、賢吾の離婚歴など当然把握していながら、いまさら動揺する理由を、和彦は自分の中で探す。「オヤジととことん気が合わない女でな、結婚生活はこの部屋で送っていたんだ。おかげで俺は、ここと本宅を行き来する生活だった」「……結婚、生活……」「愛の巣、ってやつだ」 皮肉げな口調から、かつては甘い生活を送っていたという素振りはうかがえないが、それでも、和彦の胸を苦しくする威力は十分あった。 基本的に和彦は、賢吾の女性関係は特に詮索してこなかった。口出しできる権利はないと思っているからだ。性質のよくない好奇心を持っていると自認している和彦だが、無意識のうちにその好奇心をシャットアウトできていたようだ。何かあっても見て見ぬふりを貫くつもりではあったが、賢吾のほうも気をつかっているのか、深い仲の女性と鉢合わせだとか、痕跡を匂わせられるという状況にはなっていない。だから、意識せずに済んでいたというのもある。 賢吾の立場を考えれば、和彦以外の誰かと肉体関係を持たないというのは無理があるのだ。しかも本人は、いまだ男盛りと言っても過言ではない容色と体躯の持ち主で、まとう危険な香りすら魅力的に感じる女性はいるはずだ。 どうして、と和彦は心の中で自問を繰り返していた。賢吾ともっとも深い仲であったはずの女性の存在を、今この瞬間まで意識してこなかったのか。千尋の口から〈母親〉として語られたことはあったが、そのときも心に留め置くこともなかった。あまりに本宅に微塵も気配が残っていなかったからだ。「どうして――」 とうとう声に出して呟いてしまうが、実のところ和彦には、自分が何を言おうとしているのかわかっていなかった。賢吾は勝手に解釈したのか、和彦の喉元に手をかけたまま続ける。「離婚したあとも、しばらくは住まわせていた。千尋がまだ母親を恋しがる歳だったしな。本宅から近いここは、使い勝手がよかった」 強張ったままの和彦の顔を見下ろし、何を思ったか賢吾は一気に話し始めた。「お前には、俺の結婚と離婚につ
「――厄介なものだな。怒りのままにお前を怒鳴りつけて、なんなら頬を二、三発張るぐらいしたいと思うのに、こうしてお前が目の前にいると、一気にそんな気が萎える。〈これ〉は、大事に可愛がるものだと、頭じゃ俺もわかっているんだ」 突然語り始めた賢吾に、和彦は目を丸くしたものの黙って聞き入る。「お前の淫奔な性質ごと受け止めているし、それを利用もしている俺にも、地雷……というべきか、喉に刺さった魚の骨のような存在があることに気づいた。南郷は気に食わない男だが、それでも同業だ。オヤジの側で息をして、オヤジのために尽くしている。どうしたって通じるものがあるんだ」 気に食わない男だが、と念入りに再度賢吾が付け加える。和彦は、南郷が賢吾に対して抱えた、思慕というにはあまりに屈折してドロドロとした感情を思わずにはいられなかった。賢吾がこんなふうに言っていたと知れば、南郷は喜ぶだろうか。「だがな、伊勢崎玲はダメだ。お前と関係を持つ他の男たちとは、匂いが違う。いや、違うな。お前と匂いが近いんだ」「匂い……」「堅気としてまっとうできれいな精神を持ち合わせてるが、周りをヤクザに囲まれてる。そういう特殊な環境で生きてる人間特有の匂い。――俺が逆立ちしても持ち得ないものだ」 忌々しげに軽く鼻を鳴らして、賢吾は自分が入れたお茶を一口啜る。つられて和彦も口を湿らせる。緊張で口腔に強い乾きがあった。「お前が最初に伊勢崎玲と関係を持ったことは、遊びとしてやり過ごすことができた。秋滋が側にいて、煽られたせいもあるだろうしな。それが、向こうは上京した途端に、お前の周りをちょろちょろし始めた。高校を出たばかりにしては度胸がありすぎる。それとも、父親がお膳立てをしてやってるのか? ……と、あれこれ思索する自分にムカつく。たった一人の、高校出たてのガキに煩わされているということだ」 わざとなのかずいぶん言葉が明け透けだ。「……ぼくは、玲くんとは――」「ああ、やめろ、やめろ。お前の気持ちは聞きたくない。俺が、ダメだと言ってるんだ」 賢吾の語気が荒くなる。テーブル







