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Semua Bab 血と束縛と: Bab 1711 - Bab 1720

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第47話(39)

 どちらにしても、和彦の存在は、綾香の心に刃を突き立てる存在にしかなりえない。そう思いながらもこうして向き合うと、やはり自然と出てしまうのだ。『母さん』と。 皮肉でもなんでもなく、和彦は心の底から綾香に同情していた。幼少時からの綾香の自分に対する態度は、すべてを知った今では理解と許容ができる。「何も……、悪くないでしょう。あなたは。家と大人の勝手な都合に巻き込まれただけで――」 ここまで言って綾香が呻き声を洩らした。「そんな環境が、あなたを追い込んでしまった。だから、あんな連中のところに……」 和彦はハッとして顔を強張らせる。綾香の言う『あんな連中』がなんであるか、即座に理解した。「母さん、ぼくは――」 行き場がなくて長嶺の男たちの庇護下にあるわけではない。そう訴えようとしたが、綾香が続けた悲痛な告白に声が出なかった。「あなたを見ていると、どうしても紗香のことを思い出していた。……妹から取り上げてしまったという罪悪感が、ずっと消えなかったの。でも、また子供を持てて嬉しいと思ってしまう自分もいて、英俊にしていたように素直に大事にはしてあげられなかった。そうしているうちに、あんな事件があって、紗香の母親としての執念を見せつけられて……」 和彦が、側にいるのに触れられない存在になってしまったのだと、綾香は続けた。 歯止めを失ったように心情を吐露し続ける綾香に、ただ和彦は気圧される。綾香が語れば語るほど、母親という殻が剥がれ落ち、その下からおぞましいものが姿を見せそうだ。 今の綾香と重なるのは、幼い和彦の前で壊れていった紗香の姿だった。 込み上げてくるものがあり、口元を押さえる。そんな〈息子〉の異変に気づかず、綾香がぎこちなく微笑みかけてきた。「ああ、ごめんなさい、立たせたままで。さあ、早く上がって」 そう言って綾香が手を伸ばしてきたが、腕に触れられる寸前で本能的に和彦は身を引く。愕然としたように綾香が顔を強張らせた。「ごめん、母さん。今日は帰るよ……」
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第47話(40)

**** 久しぶりに髪を切ったせいか、首筋を撫でていく風の感触が新鮮だった。施術中は、バサバサと落ちていく髪を惜しむ気持ちもあったが、美容室の外に出てしまえば現金なものだ。やはり切ってよかったと思える。 和彦はさっぱりとした後ろ髪を一撫でして、歩き出す。背後を振り返るまでもなく、長嶺組の護衛はついているのだが、傍からは同行者だとわからない程度に、距離は空けてもらっている。これは和彦から言い出したことではなく、賢吾の指示によるものだ。 和彦はまた、長嶺の本宅に滞在している。綾香と会って動揺したことで、ほんの少しだけ体調を崩したのだが、それを見逃す長嶺父子ではない。もっともらしい言葉で丸め込まれてしまった。どうせ塞ぎ込むなら、側に人がいたほうが安心だろうと言われては、逆らえるはずもない。 ただ自分でも意外だったのは、和彦が客間に閉じこもっていたのはわずか一日ほどで、その翌日には、気分転換がしたいと外出できたことだ。外出のために服を選び、馴染みの美容室に予約を入れ、あれこれと予定を立てる一方で、これから先の家族との向き合い方や距離感を思索していたが、その最中に自覚したのは、決して自分が苦悩しているわけではないということだ。 実家について多少俯瞰して見られるようになっていた。佐伯家は、自分の人生におけるすべてではないと薄々わかっていながら、俊哉に望まれるままに身を委ねて生きていくつもりだったが、いつの間にかその感覚は希薄になっている。まるで真水に晒されて、毒が抜けたように。それとも、より強い毒によって染められたのか。 無意識に苦々しい表情になっているのに気づき、ほっと息を吐く。答えの出ない自問に疲れたというのもあるが――。 和彦は頭上を見上げて目を細める。今日は春というより初夏めいて陽射しが強く、気温が高い。この陽気で一気に桜は開花するだろう。自分の中にある硬い蕾めいた陰鬱も、花開いたあとに散ってくれないだろうかと益体もないことを思ってしまう。 もっと陽射しを浴びるためにふらふらと散歩したいところだが、次の行き先の予約時間が迫っている。コインパーキングで待機していた車に、護衛についていた組員と共に乗り込むと、さっそく出発す
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第47話(41)

 前回の診察時に橘には、実家に里帰りをすることは告げていたため、和彦はそれから何があったのか大まかに説明した。母方の実家にまで出向き、母親の墓の前でフラッシュバックを起こした結果、幼少時に欠落した記憶が戻ったことも。 しばらく人を避け、山奥でひっそり療養していたと告げたとき、橘はなんとも複雑そうな表情となり、ボールペンの尻で頭を掻いていたのが印象的だった。 長い期間記憶を失っていたことがPTSDに起因したものだとしたら、正常に戻った現在は、すでに快癒したといえるのではないかという和彦の質問に、あっさりと橘は首を振った。むしろ、記憶が戻ったことによって新たな症状が起こるかもしれないと指摘され、咄嗟に頭に浮かんだのは、綾香と対面したときの光景だった。〈母親〉という存在に怖さを感じていると吐露していた。思わず出た言葉だったが、口にして和彦は、正直な気持ちであると認めた。ぼんやりとした思慕の一方で抱えてしまった、後ろ暗い気持ちだ。 橘から、フラッシュバックを起こしたときの呼吸法やリラックス方法を教えられた。不安感を和らげる薬はこれまでと同じものを処方して、様子を見るとも言われた。「時間をかけていくしかない。時間薬というやつだが、もし体の異変が現れるというなら、PTSDを専門にしている先生を紹介してやれる」「それはいい。今のところ、たまに不安感のせいで眠れなくなるぐらいだから。それに、橘さんだから、診てもらおうという気になるんだ。他の先生だったら、たぶん病院から足が遠のく」「あのなあ……」 呆れたように呟いた橘が、もう書くことはないとばかりにボールペンをデスクに置いた。「自分を追い込むような状況に身を置くなよ。なんの拍子で精神のバランスが崩れるかわからないし、それに体が耐えきれないということもありうる」「ぼくは楽なほうに流れる性質だから、そこまでマゾじゃないよ」「環境や状況にじわじわと慣れていって、気がついたときには取り返しがつかないことに――なんて、お前がそうならないよう、友人として願ってるよ」 別れる間際、今度来るときは家族のことをもっと話してくれと橘に言われ、和彦は困惑した。詳細な説明まではしな
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第47話(42)

** 帰宅した賢吾は、見るからに機嫌が悪かった。一足先に帰宅した千尋は気色ばんで和彦に駆け寄ってきたので、この辺りの反応の違いは、潜り抜けてきた修羅場の違いによるものかもしれない。 誰かが大蛇の尾を踏んだせいだと、和彦は苦々しく思いながら、ロールケーキを一口食べる。春の期間限定ということで、生地も生クリームもほんのりとピンク色で、桜の風味が口内に広がる。組員の奥さんが差し入れてくれたものだそうで、食後のデザートにと笠野が勧めてくれたのだ。紅茶との組み合わせは最適だったと、自分の飲み物の選択に満足していた最中だった。 和彦が寛いでいるように見えたのだろう。ダイニングにやってきた賢吾はほんのわずかに目元を和らげた。「――美味いか?」「ご飯も喉を通らないという状態じゃなくて申し訳ないが、美味しい」「お前にやつれられると、あちこちから俺が責められるからな。それでいい」 そう言って賢吾の手が、さりげなく髪を撫でてくる。「よく似合ってる」 礼を言うのも照れ臭くて、いつもと同じ髪型だともごもごと応じていると、ちょうど風呂から上がってきた千尋もダイニングにやってくる。ふらふらと和彦に近づいてくると、背後から抱きついてきて甘えるように肩に額をすり寄せる。 いきなり長嶺の男二人に絡まれて、和彦としては苦笑するしかない。とりあえず、心配されていたことはよく伝わってくる。 賢吾はあごに手をやり、何か考える素振りを見せたあと、こう宣言した。「よし、一時間後に俺の部屋で家族会議を開くぞ」「家族会議って……」「もちろん、お前も同席しろ。今日のことで話を聞きたい」 風呂の前に野暮用を片付けると言って、ジャケットを脱いで組員に預けた賢吾がどっかとイスに腰掛ける。心得たもので組員が、手帳を開いて仕事の打ち合わせを始める。この様子だと、いろいろと用事を放り出して帰宅したようだ。和彦を心配して――。 千尋は、髪を乾かしてくると言い置いて自分の部屋に戻り、和彦としては、この状況で優雅にデザートを味わうのは気をつかう。せっかくのロールケーキを気忙しく紅茶で流し込むと、
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第47話(43)

 危機感が足りないと言いたげに賢吾が微苦笑を浮かべる。和彦は慌てて言い募った。「心配してくれているのはわかってるんだ。でも、決定的なことが起こったわけじゃない。見られてただけで――」「お前がいくら色男でも、あとをつけるような奴はまともじゃねーんだ。お前も薄々、相手の種類は察してるんだろ」 賢吾に示され、和彦はやっと正面に腰を下ろす。いつの間にか部屋の外で待機していたらしく、一声かけて笠野が障子を開ける。和彦の前にお茶の入ったカップを置くと、すぐに部屋を出て行く。 数秒待ってから和彦は口を開いた。「たぶん、今日の男たちは堅気じゃなかった」「それで?」「意地が悪いな。ぼくにわかるのは、それぐらいだ」 軽く鼻を鳴らした賢吾は、たけのこの和え物を口に運ぶ、小気味いい咀嚼音を聞きながら、和彦は座卓の隅に置かれたタブレット端末に気づく。「――舐めたまねをしやがる」 ふいに地を這うような低い声がした。ゾクリと身震いをして反射的に賢吾を見る。忌々しいほど魅力的なバリトンの本来の使い方を、唐突に教えられた。この男の声は、物騒な武器でもあるのだ。 硬直する和彦に対して、賢吾は安心させるようにふっと笑いかけてくる。「おっとりしたお前はともかく、周囲がどれだけ警戒しているか、探りたかったのかもな。しばらく行方をくらませていた人間が、突然またふらふらし始めたら、まあ、気になる連中はいるだろう」 ここで障子が開き、今度は千尋がするりと部屋に入り込んでくる。手には缶ビールを持っており、何食わぬ顔で当然のように和彦の隣に座った。 一旦会話が止まったのをきっかけに、三人はそれぞれ飲み物に口をつける。笠野が淹れてくれたのはほうじ茶で、香ばしい香りにほっと息が洩れる。賢吾のグラスは焼酎のお湯割りだそうだ。飲むかと問われたが、遠慮しておいた。「……しばらく、ぼくは本宅に近づかないほうがいいかもしれない」 ぽつりと和彦が呟くと、千尋が大仰に目を剥く。「何言ってんのっ」「いや、いままではぼくが一番弱い立場だったから、当然のようにここで庇護されてたわけだけど、近いう
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第47話(44)

「そういう心配するの、和彦ぐらいだよ、きっと。うちなんて厄介事の巣窟みたいなところなのに」「お前……、実家だろ。そういう言い方……」「実家だからよくわかるんだって。だから、和彦が心配しなくていいよ。多少のことなら、ここにいる大蛇がぱくっと呑み込むから」 もっとも、と賢吾が言葉を引き継ぎ、両目に剣呑とした光を宿す。「それらしい理由をつけて、お前が俺たちから距離を置きたいというなら、話は別だがな」「……だったら最初から、戻ってこない」 和彦がじっと見つめ返すと、賢吾はすぐに降参した。「悪かったな。お前がいじらしいから、つい意地悪を言っちまったな」「意地が悪い中年男は嫌われるからな」 千尋の発言に対して、賢吾は澄まし顔でグラスに口をつける。 家族会議と言いながら、こんなことを話していていいのだろうかと疑問に感じたところで、賢吾がふいにタブレット端末を取り上げ操作してから、和彦に差し出してきた。「秋慈が送ってきた画像データだ。お前も見たほうが手っ取り早い」 意外な名が出て和彦は目を丸くする。御堂秋慈の灰色がかった髪と秀麗な顔立ちが鮮明に脳裏に浮かび上がった。 最後に御堂と会ったのは昨年末の総和会の本部だったが、知らず知らずのうちに顔が熱くなってくる。御堂は元オンナとして、傷ついて脆くなっていた和彦を抱き締めて、慰めてくれたのだ。そのとき一度だけ唇を重ねた。二人だけの秘密で、賢吾にも言ってはいけないという御堂の忠告を、和彦はしっかりと守っていた。「あいつも食えない奴だからな。クラゲのような細くて長い毒を持つ触手を、いろんなところに伸ばしている。これぞという餌や敵に刺して毒を流し込むんだ。俺は一応身内だと判定されているようだから今は平気だが、そうじゃない相手には――。あいつが優しいのは、オンナに対してだけだろうな」 そう言う賢吾の口ぶりと眼差しから、薄々とながら和彦と御堂の間に何かあったことを察しているようではあるが、嫉妬や怒りといったものを感じない。賢吾にとっても御堂は、大蛇が牙を向けない身内に含まれているよう
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第47話(45)

** 伊勢崎父子のことを聞かされてからずっと、不自然な鼓動の乱れ治まらなかった。父子、と言いながら、やはり強く思ってしまうのは、玲のことだ。 大学受験が上手くいったのなら、もうとっくに新たな生活の準備は整えているだろう。一緒に行動したのはほんの数日のことだったが、彼はいろいろなことを話してくれた。大学生活を送るにあたり、父親から離れて一人暮らしをしたいのだと語っていたが、果たして希望は叶ったのだろうか。 龍造が、〈こちら〉で商売を始めようとしていることは、御堂や賢吾がちらりと話していたので知っている。龍造本人が出向いてくるなら、玲が安穏とした大学生活を送れる光景は残念ながら思い浮かばないが、他人である和彦が心配するのはおこがましいだろう。 夜も更け、本宅は詰め所を除いてひっそりと静まり返っている。入浴を終えた和彦はいつもなら客間で一人寛いでいる時間だが、今夜はなんとなく落ち着かなくて、こうして中庭に下りていた。 庭園灯のぼんやりとした明かりが、白く小さな花をつけた庭木を照らしている。賢吾も千尋も中庭の植物になど興味がなさそうなのに、気がつけば種類が入れ替わっていたりして、こまめに手入れが行われている。なんの花なのか、組員に聞いてみようかと思っていると、ふいに背後でぞろりと何かが蠢く気配がした。 総毛立ったのは一瞬で、すぐに肩から力を抜く。「――身が燃えるか」 揶揄するように話しかけられ、和彦は短く息を吐き出した。「意地の悪い中年男は嫌われると千尋が言ってたぞ」「どのあたりが意地悪なんだ」「……そういうところ」 隣に賢吾が立ち、和彦の肩に羽織をかけてくる。雨が近いのか、今夜は風が生ぬるくて暖かいぐらいなのだが、厚意はありがたく受け取っておく。「秋慈はまだ何か隠しているぞ。伊勢崎組……というより、伊勢崎龍造に関して」「気づいてて、聞かなかったのか?」「聞いたが、まだ探っている最中だと、すげなくあしらわれた。大事な一人息子を骨抜きにした相手が気になって、とんでもない行動に出るなんて、どこぞの誰かとよく似てるじゃない
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第47話(46)

「お前が傷つけられるような事態になっていたら、俺は伊勢崎龍造を許さなかった。……護衛についてた奴から聞いたが、一人で突っ走ったそうだな。もし相手が待ちかまえていて、拉致されたらどうするつもりだったんだ。肝が冷えたぞ、俺は」「さすがに組員が助けてくれるだろ。それに、少しぐらいならぼくも抵抗して――」 心底呆れたように賢吾がため息をつき、唇に軽く噛みつかれた。「暴力に慣れた奴相手に、自分でなんとかしようとするな。かえって怪我をする」「……何度でも言うが、一応、護身術程度のことは教わったんだが」「〈あいつ〉の名前を今この瞬間に出さなかったのは、賢明だな。今日はもう、伊勢崎父子の名前だけで腹いっぱいだ」 賢吾は鷹津を強く意識していると、次の発言でさらに思い知る。「俺は、お前を大事に大事にしてるんだぜ? サソリの毒が抜けないうちにお前を抱こうとして、拒まれるのを恐れるぐらいには、臆病にもなってる。今日だって、何もするつもりはなかった」 唇を啄みながら賢吾に囁かれ、和彦はただ聞き入る。「だが、あれはいけねーな。あれで、俺は我慢できなくなった」「な、に……? なんのことを、言って……」「伊勢崎の息子の名前を出した途端、お前が艶めいた顔をした。――俺を目の前にして、他の男のことを考えて発情しただろ」「してないっ」「千尋も気づいたぞ。お前に関してはおそろしく鼻が利くからな、あいつも」 ぞっとするほど優しい手つきで賢吾に頬を触れられ、そこから首へとてのひらが移動する。縊り殺されるのではないかと和彦は本能的に怯えたが、同時に、身震いしたくなるような興奮が湧き起こる。「お前は、俺のオンナだ」「……ああ」「去年の末に、総和会本部でお前が俺に言ったことは覚えてるか?」 喉仏に指がかかり、微かに喘いで和彦は頷く。「今も気持ちは変わってないな?」 たった一つの返事しか求めていない問いかけだった。和彦は、賢吾の目を見つめ
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第47話(47)

 浴衣の裾をたくし上げられ、乱暴に下着を剥ぎ取られる。両足を抱え上げられたうえに、大きく左右に広げた格好を取らされた。和彦に見せつけるように舐めて唾液で濡らした指を、賢吾は内奥の入り口へと這わせてきた。「うっ、う……」 こじ開けるようにして、一本の指が付け根まで挿入される。疼きと異物感に和彦は声を洩らしながら、きつく指を締め付ける。すぐに指の数は増やされ、内側から解されていく。 襞と粘膜をじっくりと擦り上げられ、掻き回される。賢吾の見ている前で、瞬く間に和彦の欲望は身を起こし、切なく震える。「いやらしいオンナだ」 うっすらと笑みを浮かべて呟いた賢吾に欲望を軽く指で弾かれ、和彦は息を詰めた。 内奥にたっぷりの唾液が施され、入り口が綻び始めた頃、一度体を離した賢吾がようやく帯を解き、浴衣を脱ぎ捨てる。目の前で露わになった体に、和彦は圧倒される。興奮による猛りが一目でわかる張り詰めた筋肉と、全身から匂い立つ雄の匂い。すでに汗が伝い落ちている肌の艶めかしさと、本当に背に棲みついているかのような生々しい大蛇の姿。 和彦はのろのろと体を起こすと、ほぼまとわりついているだけとなっている自分の浴衣を脱ぎ落す。すかさず賢吾に引き寄せられ、両足の間に手を突っ込まれた。「あぁっ、あっ、んうっ」 手荒く柔らかな膨らみを揉みしだかれて腰が震える。無意識に舌を差し出すと、きつく吸い上げられてから、激しく絡め合う。和彦は夢中で賢吾を味わいながら、両手を背の大蛇に這わせていた。賢吾が身じろぐたびに大蛇が蠢く姿を想像して、胸の奥で妖しい衝動がうねる。「……そんなに〈こいつ〉が可愛いなら、お前も同じものを彫るか? 背中だと見ることも触れることもできないから、この辺りに、同じ図柄で小さなものを――」 内腿を撫でながら、苦笑交じりで賢吾が言う。和彦は、賢吾の大蛇にそっと爪を立てた。「あんたの体にあるから、いいんだ。撫でて、爪を立てて、舐めて、可愛がってやりたくなる」「俺をまだ、骨抜きにしたいのか、お前……」 大蛇が、肉に飢えた獣に変わる。 
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第47話(48)

「お前一人で気持ちよくなるな」 耳元で意地悪く賢吾に囁かれる。その声にすら反応してしまい、和彦は小さく嬌声を上げる。 内奥深くを抉るように重々しく突かれる。もう痛みはなく、静かな波のような快感が腰から這い上がってきた。和彦は全身を戦慄かせながら、肉の悦びに鳴く。賢吾が緩やかな律動を刻み始めた。「い、ぃ――……。賢吾、それ、いい……」 賢吾の逞しい腰には両足を絡めて、はしたなく腰を揺する。賢吾が低く笑い声を洩らした。「もう箍が外れたのか、和彦」「うる、さっ……」 和彦を焦らすように、ふいに賢吾が動きを止め、内奥からゆっくりと欲望を引き抜いていく。勝手に体が反応し、内奥が激しく収縮して欲望を締め付ける。 賢吾に片手を取られて下肢へと導かれる。何を求められているのか察した和彦は、興奮と羞恥で全身を熱くしながら、自ら内奥の入り口に指を這わせ、わずかに呑み込んでいる賢吾の欲望の形もなぞる。こんなものが自分の中に収まっていたのかといまさらながら戦く。「どうしてほしいんだ。撫でてるだけじゃ、お前は気持ちよくならねーだろ」「……本当に、意地が悪いな」「そんな男に惚れてるんだろ。趣味がいいな」 自分で言うなと、つい噴き出した和彦だが、賢吾と唇を触れ合わせてから小声でせがんだ。「あんたに気持ちよくされたいんだ。もっと……」 すぐさま深々と内奥を刺し貫かれる。短く悲鳴を上げたときには、快感の波にさらわれていた。全身を駆け抜ける快美さに呼吸も忘れ、閉じた瞼の裏で舞う極彩色の光に酔う。そんな和彦をさらに極めさせようと、賢吾が動く。「うあっ、あっ、あうぅっ――」 重々しい律動に合わせて、反り返って震える和彦の欲望が精を吐き出す。「おい、俺を置いていくな」 柔らかな声で窘められ、ゆっくりと目を開く。再び胸が重なり、和彦は両腕でしっかりと賢吾にしがみつく。 張り詰めた逞しい欲望が、限界が近いことを知らせてくる。緩やかな動きで内奥を
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