今は健康そのものの千尋だが、幼少期は病弱だったと聞いたことがある。生まれた頃からこの家で生活していた千尋はともかく、稜人の場合は体調だけでなく、ストレスのほうも大丈夫なのだろうかと今から心配になってくる。 ついつい稜人に、幼い頃の自分の境遇を重ねてしまう。余計なお節介で済めばいいが、と和彦はふっとため息を洩らす。 空のグラスを弄びつつ、賢吾は穏やかな眼差しをそんな和彦に向けている。なんとなく気恥ずかしさを覚えて、わざと素っ気なく片手を振る。「早く部屋に戻って休んだらどうだ」「休むにはまだ早いな」 意味ありげな笑みと謎解きのような返事に、和彦は慌ててカップを手に立ち上がろうとする。「そ、そうかっ……。ぼくは部屋で、クリニック関係のあれこれを片付けないといけないから、これで――」「冗談だ。もう少しつき合ってくれ」 目を眇めた賢吾にそう言われ、手首を軽く掴まれる。この手を振り払える勇気は和彦にはない。素直に座り直すと、賢吾はある人物の名を口にした。「宮森に――」「宮森さん?」「今日一緒に飲んでいて、お前への言付けを預かった」 和彦は、長嶺組若頭と長嶺組傘下城東会組長という肩書きを持つ男のことを思い出す。物騒な肩書きに反して、見た目はごくごく普通の顔立ちをしており、佇まいもまっとうな勤め人のよう。話してみればそれとなく極道らしい地金も透けて見えるが、和彦に対しては終始紳士的だった人物だ。 宮森とセットで思い出すのが、彼の甥の存在だった。「もしかして、優也くんのことか……?」「忘れられているんじゃないかと、宮森が心配していたぞ。あいつもなかなか過保護だからな」 声を洩らした和彦は、額に手をやる。最後に優也と電話で話せたのはいつだったかと、記憶を辿る。実家に帰っているときに軽く世間話をしたのだが、まさかあのあと、長らく連絡が取れない状況になるとは想像すらしていなかった。そして本宅に戻ってきてからも、まだメールすら送っていない。「……薄情者だと思われてるな。優也くんに」「向こう
Last Updated : 2026-09-16 Read more