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All Chapters of 血と束縛と: Chapter 1731 - Chapter 1740

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第48話(9)

 多少の雨を浴びながら守光についていくと、驚いたことに東屋があった。これでは本当に公園だ。 守光に勧められてイスに腰掛ける。正面には、雪が積もっているのかと錯覚するほど、枝先にたくさんの白く小さな花をつけた低木が並んでいた。鼻先を掠めるのは雨の匂いと、控えめな甘い香りだ。「少なくとも一時は、わしと佐伯は共犯関係だった。代々受け継いだものを否応なく背負わされて、足掻いている二人だからこそ、佐伯はわしを頼ったし、わしは佐伯に使われた。官僚とはいえ当時は権力なんぞまったく持っていない若造のくせに、奴は居丈高だった。わしには、新鮮だったよ」 俊哉から聞かされた守光との関係は、利害でのみ繋がっているドライなもので、友誼めいたものなどなかったように思えたが、守光の語り口からは、仄かな熱情のようなものを感じる。「あなたと父は、本当にそれだけの関係だったのですか? 友人……というのは、父に否定されました」 守光は、雨音に紛れるような密やかな笑い声を洩らした。「……あんたにだから打ち明けよう。大昔、まだ組長だったわしの父親が、佐伯に目をつけた。政治に絡んだ旨みは好きだが、面倒事はとにかく嫌いな男で、後始末はわしの仕事だった。ある政治家から、佐伯の抱えた問題を処理してほしいと頼まれたとき、当然のようにわしが任された。それが佐伯とのつき合いの始まりだったことは、前にあんたに話したと思う。わしの父親は、佐伯の将来性を特別なものだと思ったようだ。極道らしい方法で、佐伯家そのものに接近しようとして、わしは、それは上手い方法ではないと説得したんだが、残念ながら聞き入れる度量のある男ではなかった。ただ、実行に移す前に、死んでしまったのは、幸いだったな。佐伯にとっても、わしにとっても」『追い落とした』と俊哉には語っていたという、守光の父親の死だ。これが事実なら、守光は実の父親から、俊哉を守ったことになる。 和彦がゆっくりと目を見開くと、守光は正面の白い花を見つめたまま薄く笑んだ。雨で冷えたのか、強い寒気がした。「自分で自分に驚いたよ。家のため、組のためという理由以外で、わしが行動を起こせたことに。――ぬるい感情からではない。佐伯俊哉
last updateLast Updated : 2026-09-24
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第48話(10)

「言わぬが花、という言葉を知っているか、先生?」 柔らかく窘められ、さすがにこれ以上踏み込むことはできなかった。続けて守光が洩らした言葉を聞けば、なおさらだ。「ただ一つ言えることは、佐伯俊哉は冷たく美しい男だったということだ。忌々しいことにな」 二人は口を閉じ、雨を眺め続ける。気まぐれな天気らしく雨足はすぐに弱まり始めた。「――さて、昔話はここまでだ。これからの話をしようか」 そう言って守光が始めたのは、事務的な話だった。 和彦と総和会の間で進められていた病院建設について、一旦凍結ということになったというのだ。率直に感想を述べるなら、非常にありがたかった。和彦としては経験も何も足りない人間が、小規模ながらクリニックを一つ任されているだけでも重圧なのだ。そこに、総和会という大組織の意向を受けて形ばかりとはいえ病院運営を任されるなど、分不相応というレベルを超えて無謀だった。「あんたがいない間に、土地の取得についてちょっと面倒が起きて、いっそのことここは手を引いておくかという話になった。あんたが戻ってくるという確信もなかったことだしな」「……ぼくにはまだ早かったということです。ご面倒をおかけしたことは、本当に申し訳ないとは思いますが――」「気にしなくていい。もともとの計画のついでに、あんたを囲い込めればと下心があったうえでのことだ。あんたは無事に長嶺の男に戻ってきたし、規模の大きな計画が頓挫するのは珍しいことでもない。それに当分は、注意しておきたい案件もあるしな。総和会の外で目立つ動きは避けるべきと、忠告された」 誰から、と問いかける前に、異変を感じたように守光が視線を動かし、和彦もつられて同じ方向を見る。透明なビニール傘を差したうえに、二本の傘を持った南郷が歩いてくるところだった。 東屋の前で立ち止まった南郷が、空を見上げてから傘を畳む。「せっかく傘を持ってきたんですが、少し遅かったようですね」 雨の勢いはすでに衰え、霧のような小雨となっている。この程度なら雨宿りも必要なさそうだ。 屋根の下から出た和彦は傘を断り、南郷に倣うように空を見上げて目を丸くする。虹が出ていた。こ
last updateLast Updated : 2026-09-24
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第48話(11)

 賢吾が言いそうな憎まれ口だと、笑みをこぼしたそのとき、白い花に集っていたハチがふいに和彦に向かって飛んでくる。軽く手で追い払っただけで、あっさりとハチは白い花にまた寄っていく。その様子を見ていた守光が、ふいにこんなことを言った。「――あんたの周りを飛ぶ羽虫がいたと聞いたが、問題ないかね」 一瞬、さきほどのハチのことかと思ったが、冷徹な守光の眼差しを見て、そうではないと気づく。「あの、なんのことか……」「遠い土地からわざわざこっちにやってきて、巣を作り始めているらしい。いつの間にか、な。第一遊撃隊の御堂辺りは把握していたようだが、なぜかわしは、賢吾から聞かされた」 ここまで言われれば、伊勢崎組のことを指しているとわかる。なんと答えるべきかと、和彦は目まぐるしく頭を働かせる。御堂の名が出た以上、迂闊なことを言えば迷惑がかかる。 顔を強張らせて口ごもる和彦に、ふっと守光は微笑みかけてきた。「あんたに聞いても仕方のないことか。――極道の考えることは、極道にしかわからん。たぶんな」 雨に濡れるよりも、このやり取りのほうが体が冷えた。 この後、守光の部屋でお茶を飲み、引き止められるまま昼食まで共にしてから、ようやく本部を辞した。 車の中で和彦は、自分は本当に聞きたいことが聞けたのだろうかと思い返すが、気疲れのせいかすぐに思考は空回りを始めた。漫然と車窓から眺める外の景色には、一時的に降った雨の名残りはすでになく、虹もとっくに消えている。 車は自宅マンションへと向かう。賢吾からは本宅でもマンションでも、好きなほうに戻ればいいと言われており、遠慮なく自宅を選ばせてもらった。一人になりたかったのだ。 ふらふらと部屋にたどり着き、ドアを開けた途端、ふわりと風が吹き抜けた。一瞬覚えた違和感の正体は、すぐに気づいた。窓は施錠しているので、風が室内から吹いてくるはずがない。つまり――。 バタバタと靴を脱いでダイニングに駆け込むと、ちょうどキッチンからカップを手にした賢吾が出てきた。なぜか、寛ぐ気が全身から溢れ出ているスウェットスーツ姿だ。「……何、してるんだ」
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第48話(12)

 前髪から滴り落ちようとしているしずくを指先で弾くと、うなじにそっと唇が押し当てられる。心地よい疼きが緩やかに背筋を這い落ちて、和彦は身じろぐ。 今日はもう仕事はしないと宣言をした賢吾は、鼻歌を歌いながらバスタブに湯を溜め、入浴剤を選び始めた。結果、こうして夕方にもならない時刻から、二人一緒に湯に浸かっていた。 湯の温度はぬるめだが、背で感じる賢吾の体温は高く、なかなかいい塩梅だ。「贅沢だ……。長嶺組長を座椅子代わりにして、入浴するなんて」「お疲れだろうから、労ってやろうという俺の優しさだ。しっかり感謝しろよ」 疲れているのは、昨夜の父子による行為のせいもあるのだが、指摘するのはやめておく。藪蛇になりかねない。「そういえば――」「何?」「今日の昼間、雨が降っただろ。天気雨というやつだ。たまたま外に出ていたから、参ったぞ」 和彦はパッと賢吾を振り返る。「もしかして、見た、のか?」「見たって……、ああ、あれか。虹が出てたな」 賢吾は短く笑い声を洩らすと、和彦の肩先に掬った湯をかけてくれる。「たまには空を見上げてみるもんだな。いいものが見られた。あとになって、写真を撮ってお前に送ってやればよかったと思ったが、そうか、同じものを見たんだな」 白乳色の湯の中で、なんとなく互いの手をまさぐり、指を絡めた。 和彦は、総和会本部での出来事をできるだけ簡潔に説明する。その中には、守光や南郷とのやり取りも含まれているが、さすがに、守光と俊哉の関係については省かせてもらった。「……〈寮〉が完成したというなら、うちから何か、祝いの品でも送らないといけねーな」 賢吾がぽつりと洩らした言葉に、和彦は目を丸くする。南郷が管理する建物ということで、てっきり賢吾は知らん顔をすると思ったのだ。「表向きは、俺は怒りの矛を収めたことになっている。お前がいない間、古参連中がこぞって俺の説得にやってきてな。わかってはいたが、堪えるもんだ。いい歳したおっさん共の泣き落としは。――長嶺組と総和会ってのは、切っても
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第48話(13)

 ふむ、と声を洩らした賢吾が思案げな顔をする。それでも手は動き続け、和彦は欲望を握られた。緩く扱かれ呼吸が弾む。足をもじつかせた拍子に湯が波立った。「だったら、組から贈るものとは別に、俺とお前の連名で、絵を贈るか。知り合いがやってる画廊がある。現代アート専門だが、若い連中が出入りする施設なら、そっちのほうが見栄えがするだろ」 両足を広げられ、もう片方の手が柔らかな膨らみにかかる。和彦は腰をビクビクと震わせながら、声を上げた。「すでに〈あいつ〉に絆されてるんじゃねーか? 祝いの品と聞いて、すぐに絵がいいと提案してくるんだ。今日はしっかり話し込んだみたいだな」 恐ろしい大蛇がチロチロと舌を出している姿が、脳裏に浮かぶ。話はしたが、絆されてはいないと否定した和彦に、わかっているとばかりに賢吾が薄い笑みを唇に刻む。 大蛇の執着がねっとりと和彦に絡みつき、逃げられないよう締め付けてくる。手荒く柔らかな膨らみを揉みしだかれ、慣れた指先に弱みを捉えられ、弄られる。「あっ、あっ、痛、い……。そこ、嫌、だっ……」「痛いことはしてないだろ。俺はここを痛めつけたことはないはずだ。いつでも優しく、甘やかしてる」 耳に唇が押し当てられ、官能的なバリトンで囁かれる。声で鼓膜を愛撫された和彦は身悶え、下肢への残酷な愛撫も受け入れる。 はあ、はあ、と息を喘がせながら賢吾を振り返り、唇と舌を貪り合う。濃厚な口づけの合間に問われた。「寒くないか?」「へ、きだ……。熱い、ぐらいだ」「のぼせるなよ」 腰が蕩けてしまうと危惧するほど、じっくりと丹念に欲望と柔らかな膨らみを愛されているうちに、悦びの声を抑えきれなくなる。半身を捩って賢吾の腕にすがりつき、肩先に歯を立てたところで、ふっと脱力してずるずると湯に沈み込みそうになり、さすがに慌てた賢吾に引き上げられた。 心配した賢吾にしっかりと抱き締められ、和彦は呼吸が落ち着くのを待ちながら、じっとする。自分の鼓動の音がうるさくて、どれだけ興奮していたのかと密かに恥じ入る。「…&hell
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第48話(14)

「――寮の空き地に何を作ってほしいと言ったんだ?」 唐突な問いかけに和彦はすぐには思考が切り替えられず、硬直する。すると賢吾は噛んで含めるように言い直した。「さっき言っていただろう。寮に空き地があって、お前のために犬でも猫でも飼ってやるとか、温室を作ってもいいとか言われたと。南郷やオヤジに揃って詰め寄られて困ったとも言ってたな」「……詰め寄られたとまでは、言ってない」「似たようなもんだ。あの二人に意見を求められたら。お前がなんと答えたかまでは、教えてもらってない」「苦し紛れに言ったから、あんたの期待に応えられるようなものじゃないぞ。会長はさすがに表には出さなかったけど、南郷さんはなんか微妙そうな顔をしていたし」「あの二人の表情を読み取れるようになったら、大したものだ。――で、もったいぶらずに教えろ」「別にもったいぶってなんか……。野鳥の水飲み場だ」 せっかく答えたというのに、賢吾の反応は、南郷と似たようなものだった。あまり手間も金もかけてほしくなかったため、本当に苦し紛れで出した要望だが、意外に悪くないかもしれないと和彦は心の中で自画自賛していたのだ。「あれだけ緑が多い場所だから、野鳥も棲みついているんじゃないかと思ったんだ。水飲み場といっても、何も池を造ってほしいとかじゃなくて、野鳥が水浴びとかできる大きさの器を置けばいい。できれば、羽を休められる止まり木程度のものをちょっと植えてもらって」「……お前はささやかなものを想像しているかもしれねーが、総和会の面子にかけて、植物園みたいなのを造るかもしれんぞ」「そうなりそうだったら、絶対あんたが止めてくれっ。ぼくはただ、部屋の中から、飛んでくる野鳥を眺められたらいいなと思っただけだ。……何か言わないと、本当にでかい番犬を何頭も飼いそうだったし……」 ぼやく和彦がおかしかったのか、賢吾の笑い声が浴室内に反響する。「そりゃ南郷も微妙な顔になるな。ヤクザの巣窟に、小鳥を呼び込むつもりかと。そんなことを思いついてリクエストするのは、
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第48話(15)

** 夕食は、外に食べに行くかという賢吾の誘いを断って、おとなしく過ごすことにした。なんなら賢吾一人で出かけてもらってもよかったのだが、俺がそんなに薄情な男に見えるかと言われては、仲良く二人で過ごすしかない。 材料は最低限は揃っているので、山暮らしでレベルアップした手料理を振る舞おうかと思っているうちに、賢吾はさっさと組員に連絡をして、デパートで花見弁当を買って来させた。「――余裕があれば、去年みたいに一泊して桜見物に出かけられるんだがな」 弁当と一緒に買ってきてもらったインスタントの味噌汁を掻き混ぜながら、渋い顔で賢吾が洩らす。和彦は、自分の前にも置かれた弁当をまじまじと見つめる。春の陽射しの下で見たなら、さぞかし映えるであろう華やかさだ。今のこの状況だと少々わびしさを感じなくもないが、だからといって味が変わるわけではない。 煮物の小芋をまず食べてみたが、ダシの風味がしっかりと効いて美味しい。ご飯は二種類あり、錦糸卵がたっぷりのったちらし寿司に、たけのこご飯だ。たけのこの触感を楽しんでいると、また賢吾がぼやく。「花見会の予定がズレたせいで、どこもかしこもてんやわんやだ。知らん顔したいところだが、どこぞの父子が揉めたせいでこうなったと噂されているせいで、そうもいかん」 その父子の片方が、和彦の目の前にいるというわけだ。「……ささやかな雑用なら手伝えるけど、ぼくができる程度の仕事なら、組員のほうが機転が利いて使いやすいか」「お前はお前の仕事がある。クリニック再開の準備もあるからな。猫の手も借りたくなるほどに忙しくなったら、頼るかもしれん」「素直に、お前の手は必要ないと言ってもらったほうがいいんだが……」 上機嫌で笑った賢吾は、桜の花の形のかまぼこを口に放り込む。「ただまあ、どんなに忙しくても、お前が何をしているかわかる距離にいるのはいい。何かあれば、本宅の奥に匿っちまえばいいからな。当の本人は、嫌がるだろうが」 一人になりたくてマンションに戻ってきた和彦に対する当て擦りなのだろうが、知らないところで奔走してくれた賢吾には言う権利がある
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第48話(16)

**** 総和会内で文書室筆頭という肩書きを持つ藤倉は、久しぶりに顔を合わせた和彦に対して、相変わらず折り目正しいビジネスマンのような物腰だった。 やはり久しぶりである総本部を訪れた和彦は、応接室に通されてすぐに、藤倉に頭を下げつつ手土産を差し出す。「いろいろとご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。これはつまらないものですが――」 藤倉の好物だという佃煮の詰め合わせだ。もちろん情報元は賢吾だ。とりあえず藤倉がニコニコとして受け取ってくれたことにほっとする。「――大変だったようですね」 ソファに腰掛け、お茶が運ばれてきてからさっそく藤倉が口火を切る。和彦は微苦笑を洩らしつつ、どこまで説明すべきかと迷ったが、藤倉は軽く片手をあげてこう言った。「佐伯先生の個人的な事情に立ち入ることになりますから、説明はけっこうです。わたしとしては、長嶺会長が決定されたことに沿って、事務処理をさせていただくだけです」「……ぼくは今日は何をすればいいのでしょうか? とにかく行けばいいとしか言われなかったものですから」 今の和彦は予定などあってないようなものなので、常に長嶺の男たちの都合に振り回される。今日も、朝になって突然賢吾に呼ばれて本宅に出向いたところで、さきほど藤倉に渡した手土産を押し付けられたのだ。「そう構えないでください、佐伯先生。今わたしが言ったように、事務処理の一環です」 言いながら藤倉は、書類ケースから書類の束を取り出す。「これは……」「総和会が主導する病院経営について、前に佐伯先生にご署名いただいたものです。計画が中止となりましたので、これらは廃棄ということになります」 その確認のためにわざわざ呼んだのかと、きょとんとした和彦だが、本題はここからだった。 和彦が不在の間、クリニックは休診となり、当然患者を受け入れていなかったのだが、そこは長嶺組という組織が実質的に切り盛りしているクリニックだ。診ていない患者を診たことになっていたり、処方箋も出ている。さらには新たな機材や備品・薬品も購入
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第48話(17)

「いつもより開催が遅くなったせいで、大変なことに、とかですか……?」「それはまったく関係ありません。花見会などの大きな行事のときは、総本部はこういう感じなんですよ。必要なものをここから運び出したりもしますから、普段は出入りできない組の若い子らも、物見遊山で手伝いに来ています。別の階では今頃、当日会場に入る者に、立ち居振る舞いについてレクチャーも行われているはずですよ」「そうなんですか。ぼくは滅多に総本部には足を運ばないものですから、事情がよくわからなくて」「文書室は、挨拶状などの手配で早い時期に慌ただしくなりますが、今はご覧の通りです。一方で、警備部や遊撃隊の方たちは大忙しですね。当日だけではなく、何日も前から会場に入って警備の準備をしますから。南郷隊長は何か言ってませんでしたか?」 思いがけず出た南郷の名に、内心で激しく動揺する。なぜ自分に南郷のことを問うのかと戸惑ったが、なんのことはない。南郷は、総和会での和彦の後見人だからだ。数日前に本人から念を押されたばかりではないかと、和彦は自分に呆れる。いまいちまだ、ピンときていないのだ。「……花見会のことについては、特に……」「あの人も、普段は総本部には寄り付かない人なんですが、最近はよく見かけますよ。第二遊撃隊が格上げされるという話もありますから、いろいろと準備があるのかもしれませんね」 隊の格上げの話は初耳だが、まっさきに和彦が気にしたのは、御堂が隊長を務める第一遊撃隊の存在だ。今でも微妙な立場なようだが、第二との明確な差をつけられることで、どんな変化が起こるのか。守光が何も考えずに決断を下すはずがない。 化け狐の尾に頬を撫でられたような怖気に襲われ、大きく身震いをする。藤倉が首を傾げた。「どうかしましたか?」「寒暖差にやられたのか、少し寒気がして……。大したことじゃないです」 今日の用事は済んだからと、真剣に心配してくれた藤倉に促され、和彦は応接室を出る。エレベーターホールまで見送ってくれた藤倉と別れて、一人でエレベーターに乗り込む。 総本部のロビーは二階
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第48話(18)

 加藤は表情をぴくりとも動かさなかったが、一方の小野寺はわずかな不快感を目元に漂わせた。「五十音順じゃないんですか」 何かと思えば、名を呼んだ順番のことらしい。そこにこだわるのかと、和彦が苦笑を洩らした隣で、組員は剣呑とした視線を小野寺に向けている。 南郷率いる第二遊撃隊の隊員である加藤と小野寺を、もちろん和彦は覚えている。南郷自ら紹介してきたということもあるが、加藤は特に印象深い。野暮ったいスーツのせいで、精悍な体つきも黒々とした影のような左腕のタトゥーも隠れてはいるものの、加藤の個性を損なうには至っていない。切れ長の目と高い位置にある頬骨の、人によっては惹きつけられそうな顔立ちは、以前会ったときに比べてさらに大人びてきている。荒んだ雰囲気が落ち着いたようにも見え、少なくとも隊員となったあとも南郷の下でひどい扱いは受けていないようだ。 加藤と再会してどうしても脳裏を過るのは、中嶋の顔だ。いまだ関係は続いているのだろうかと余計なことを考え、慌てて思考の外に追い払い、視線を加藤の隣に移す。 小野寺は、華のある甘い顔立ちも、美容室で手入れしていそうなおしゃれな若者らしい髪型も変わっていないが、前に会ったときにはなかった銀色のアクセサリーを右耳にしている。一瞬ピアスかと思ったが、凝った彫金が施されたイヤーカフだ。遊び慣れた学生のような風情だが、それでも軽んじる気持ちを抱かせないのは、油断ならない目つきのせいだ。計算高さと冷静さが同居している。「……それで、挨拶って?」 和彦から水を向けると、加藤と小野寺が互いに軽く目配せし合う。口を開いたのは小野寺だった。「佐伯先生の護衛を任されることになりました」「はあっ?」 声を上げたのは、隣の組員だ。一拍遅れて和彦も、えっ、と小さく声を洩らす。「そんな話、聞いてないんだけど……」「南郷さんは、前に佐伯先生に話してあると言ってましたけど」 やけに小野寺の言葉は刺々しい。どうやら嫌われているようだと薄々感じながら、和彦は頭の中で、過去の南郷との会話を思い返し、口元に手をやっていた。二人を南郷から紹介されたとき、護衛云々とさ
last updateLast Updated : 2026-09-26
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