瑠璃子には着替えの持ち合わせがなく、雇い主である光一もまた、彼女が風邪を引こうなどと気にかける素振りすらない。彼女は樹から渡されたバスタオルをその身に堅く巻き付け、部屋の隅にあるソファに身を沈めて休息を取るほかなかった。実際、長年光一の傍らに仕えてきた彼女にとって、こうした扱いは慣れっこだった。彼に危険が迫れば、真っ先に身を挺して矢面に立つ盾となり、平時は有能かつ妖艶な秘書を演じ、華やかな宴席ではパートナーを務め、ひとたび家に戻れば下働きのような雑務さえこなす。そして夜には、彼の冷えたベッドを温める女としての役割さえも……嵐の日であろうと、生理の重い日であろうと高熱に苦しむ最中であろうと、光一が指差し命じれば、彼女は地獄へさえ赴くだろう。それでも、彼女の心に恨みはない。かつてこの男は彼女を救い、そして最愛の祖母の命をも救ってくれたのだから。彼には恩がある。返さなければならない借りがあるのだ。そしてこの世において、人の情けほど返すのが難しい借金はない。「小山さん」不意に名を呼ばれ、瑠璃子が我に返ると、目の前には湯気を立てるホットミルクが差し出されていた。「少し飲むといい。体が温まりますよ」樹が彼女の前に佇んでいる。グラスを包み込むその長く清潔な指先。彼はまるで慈愛に満ちた兄のような眼差しで、彼女を見つめていた。「ありがとうございます……」瑠璃子はグラスを受け取った。掌から伝わる温もりが、冷え切った全身へとじんわり染み渡っていく。だがその時、鋭利な刃物のような声が、その場の穏やかな空気を切り裂いた。「小山!」瑠璃子の心臓が早鐘を打ち、弾かれたように立ち上がった拍子に、肩からバスタオルが滑り落ちた。視線の先、少し離れた場所に光一が立っている。薄暗い照明の下、左耳のダイヤのピアスが冷たく鋭い輝きを放ち、その漆黒の瞳は氷の霧に覆われたかのように底冷えしていた。美しくも邪悪なその相貌には微かな笑みが浮かんでいるものの、そこには温かみなど微塵も存在しなかった。「来い」光一は両手をポケットに突っ込んだまま、顎をしゃくって彼女を呼びつけた。瑠璃子の体は小刻みに震えたが、足がすくんで動けない。光一の眉間に不穏な影が落ち、口角が冷酷に吊り上がった。「俺に二度、同じことを言わせるな」瑠璃子は長い睫毛
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