混乱の中、雫がよろめく。すぐに隣の男の腕が腰に回されて、支えられた。「気をつけて」雫は胸を押さえて、ほっとしたように蒼真を見上げる。柔らかな声で。「大丈夫よ……ありがとう、蒼真さん」その光景を目にして、彩葉はもう何も気にならなくなった。今すぐ、蒼真の視界から消えたい。でも亜里沙は逃がしてくれない。行く手を塞いで、怒鳴りつける。「何やってるの、彩葉!こんな失態犯して、このまま逃げるつもり!?」彩葉の瞳が冷たく光る。声も氷のよう。「あなたが引っ張らなければ、こんなことにならなかった」亜里沙が激昂する。「まだ人のせいにするの!?」「責任転嫁なんてしない。でも、私に落ち度があるなら認めるわ」彩葉は一歩も引かないし、恐れもしない。周囲がざわめく──この小娘、どこの誰だ?社長の前でこんな態度!蒼真は全身に棘をまとったような彩葉を見つめる。切れ長の瞳に鋭い光が走った。亜里沙が必死に禿げた夫に目配せする。「林さんの服を汚したんだから、早く謝りなさいよ!」「そうだ、どう見てもお前が悪い。大勢が見てたんだぞ、言い訳は通じない」小林がすぐさま続ける。「ちゃんと林さんに謝罪しろ。林さんは寛大だから、これくらいで怒ったりしないだろう。でなければ、お前みたいな無礼な社員、厳正に処分するぞ」夫婦揃って、実に見事な連携プレイ。それでも、彩葉は黙ったまま。ただじっと、無表情の蒼真を見つめている。雫が軽く咳払いをして、優しげな表情を作る。「社長、この方もわざとじゃないと思います。もう……いいんじゃないでしょうか」「小林マネージャー、君は今、彼女が謝らなければ厳正に処分すると言ったね?」蒼真が視線を戻す。どこか気だるげで、傲慢な響き。「具体的にどうするつもりか、聞かせてもらおうか」「解雇まではしませんが、今後林さんが研究開発部で指導される際、こんな反抗的で管理に従わない社員は置いておけません」小林が「覚えてろよ」という目つきで彩葉を睨む。「研究開発部から異動させて、一旦人事のところに戻します。配属先は改めて選考で決めさせましょう!」亜里沙は内心でほくそ笑む。選考と言っても、実質クビ同然。社長の大切な林さんを怒らせて、どこが受け入れるって?「そうだな、小林マネージャーの提案通りにしよう」蒼真が淡々と告げ
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