光一の背筋が、芯まで凍りついた。怒りで煮えたぎっていたはずの熱情が、張り詰めた血管の中で、凍りつくように急速に冷え切っていく。瑠璃子も、完全に息が止まった。奥歯を強く噛みしめた瞬間、これまでの人生で一度も経験したことのない恐怖が、黒い波のように胸を突き上げてきた。これよりも凄惨で危険な死地なら、今までいくらでも経験してきた。死への恐れなど、とうの昔に忘れていたはずだった。でも今は、違う。絶対に守らなければならないものができた。自分のお腹の中に、愛おしくも致命的な「弱点」が宿っている。血に濡れた手が、自分でも気づかぬうちに、お腹へと伸びていた。指の関節が白く浮き上がるほど、その場所をきつく、きつく押さえていた。その切実な小さなしぐさを、澪ははっきりと見ていた。その瞳の奥底に、一瞬だけ、底知れぬ暗い光がよぎった。瑠璃子は長い睫毛を震わせ、すがるように光一の横顔を見た。しかし光一は、彼女の方を一切見ようとはしなかった。「たかがボディガードの女一人で、そんなに深く迷うっすか、佐久間社長」晟が狂気に目を剥き、鋭い針先を澪の柔らかい肌にさらに深く押し込んだ。澪が悲鳴を上げ、恐怖に顔を引き攣らせて頭を振り続ける。「この中身を一本でも打ち込んでやれば、このお嬢さんは一生、これなしでは生きていけない体になっちまうんっすよ」「やめて……お願いだから、やめてください……!」決断を下さない光一の姿を見て、澪はさらに激しく、絶望したように泣き崩れた。「お兄ちゃん!助けて……怖いよぉ!」「――わかった。お前の条件を約束する」光一が激しい葛藤に苛まれたのは、ほんの一瞬のことだった。光一はそれ以上、わずかな迷いすら見せなかった。「俺の妹を返せ」瑠璃子の体が、冷水に浸かったようにふるっと震えた。顔から、すべての血の気が引いていく。その場に石のように立ち尽くしたまま、指一本動かすことができなかった。肺に入ってくる冷たい空気が、鋭い刃のように彼女の内臓をズタズタに切り刻む。自分の内側が、がらんどうの空洞になっていく感覚があった。魂が足元から崩落していくようだった。理屈では痛いほどわかっている。光一がそういう決断を下すのは、経営者として、兄として至極当然のことだ。彼女はしょせん、金で雇われたボディガードにすぎないのだから。
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