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第640話

鈴木真知子
病室から救命室の前まで、二百メートルもない。

しかし彩葉の体はもう限界だった。疲労と緊張が重なり、廊下の途中でつまずき、激しく転倒して、膝を赤く擦りむいた。

流産、拉致、暴行――何年もの間、彼女の体はあまりにも無残に、その身を削られ続けてきた。今の彼女には、もうひとつの衝撃を撥ね除けるだけの余力など残っていなかった。

蒼真がすぐ後を追ってきた。転んだ彼女を見た瞬間、駆け寄って手を伸ばす。

「触るな、聞こえなかったの!?」

彩葉は腕を振り上げて払いのけた。まるで汚いものにでも触れられたかのように。

「いい加減にしてくれ!」蒼真が怒りを押し殺して怒鳴った。

「今の自分の姿を見ろ。ボロボロじゃないか。なぜそんなに強がる、なぜそうやって自分を追い込むんだ!」

「私が自分をこんな目に遭わせたの?私をこうした人間が、あなたじゃないの?」

蒼真の動きが止まった。伸ばしかけた両手が、空中で固まる。

「雫のところに行けばいい。ここで白々しい振る舞いはやめて……私には必要ない」

そう言い捨て、彩葉は床から這い上がり、救命室へと駆けていった。

蒼真はその後ろ姿を見つめた。胸の奥に、こ
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