All Chapters of 聖女を信じて悪役令嬢を陥れ続けたら、断罪されたのは私でした: Chapter 91 - Chapter 100

102 Chapters

安定した露店

 私達は商品を仕入れて、宿へ帰ろうとする。 空に明るさは残っているけれども、夜風が冷たくて、少し震えが起こる。「あっ……」 荷車の車輪に血痕《けっこん》があった。 あの荷車も被害に遭ったのかもしれない。 車輪が削れていて、無理に停めようとしたのかな。「……ニコラさん、大丈夫だよね」 ふと、気になってしまう。 私が代理でいるけれど、ずっとという事にならないよね。「”運が悪ければ”という言い方が引っかかりますわね」 歩きながら私達は会話をしていく。「そうだよね」 少しだけ笑みを出して、不安を抑えようとする。「もしも戻らなかったら?」 私はまた誰かの場所を奪《うば》うことになるのかな。 代理のはずなのに、その席に慣れてしまう自分が少し怖かった。「北街道、昨日封鎖時間があったって聞きました」 手伝いのためにロータスもやってきて、仕入れた品物を運んでもらっている。「結構深刻な状況ね」「あたし達も気をつけないと」 そう思いながら気をつけて帰ったからか、この日は何事もなく戻ることが出来た。 でも、危険と隣り合わせなんだろうね。「仕入れたのって凄いですね」「まあね、また手に入れられるか分からないけれど」 苦笑いしながら、ロータスの言葉に返事する。  数日後、仕入れの甲斐《かい》もあって、品切れになることはなく露店を続けられていた。 でも、また仕入れられるかな。 まだ日数はあるけれど。 断られたりしないかな。 それが気がかりだったりする。「どうしたの?」 ほんのちょっとだけ、聞き覚えのある感じで聞こえて、考え事をしていた頭を切り替える。 黄色髪の女性が露店の前にやってきていた。 先日も来ていましたね。
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北街道の盗賊

 一週間が経ち、露店は順調に売り上げていった。 そのために、品物はまた足りなくなっていく。 仕入れないといけないけれども、共同倉は売ってくれるのだろうか。 私は不安になりながら、北街道の共同倉へと向かっていく。「大丈夫なの?」 アプリルが問いかけていた。 前回、「今回だけだ」と言われていたため、余計売ってくれるか心配になる。「分からないの」「断られる可能性があるのね」 呆れながらそう返事をしていた。「あれ?」 倉へと向かっているのに、道が妙《みょう》に静かだった。 荷車の音すら聞こえない。「に、荷車が!?」 近くでは荷車が横倒しになっていた。 積み荷が散乱していて、明らかに何かがあった感がある。 どうしてこんな事が……。 すると、大きな声が聞こえてきた。「やめろ!」 争《あらそ》っている音だ。 そして袋を抱えてこっちに向かって走ってきた。 姿は、明らかに盗賊らしき男性。 目が血走っていて、焦りと苛立ちが混ざっている。 ただの悪党というより、追い詰められた獣のようだった。 彼が言っていた盗賊の一員なのかな。「どけ!」 明らかに私達とぶつかる。「うわわ……」「サフィー!」 避けないと。 こんな急に盗賊と出会うなんて。 でも、震えてしまって動けない。 あの断罪の場で、視線を浴《あ》びたときと同じ感覚。 身体が凍りついて、思考だけが空回りする。 盗賊は短刀を持っていて、避けないと刺されてしまうかもしれない。 なのに……恐怖で動けなかった。(やばいやばい……動けないよ) そのまま刺されてしまうのかなって思ったけれど……。
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守っている露店

 次の日、私は普通に露店を営業させていた。 お客さんはいつも通り来ていたけれど、通りは警備であろう傭兵が行き来していた。 剣の柄に手を添えたまま、周囲を見渡している。 笑ってはいないが、怯《おび》えてもいない。 街は、昨日より少しだけ構えている。 盗賊の対策のためかな。 北街道の倉だけじゃなくて、この露店街にも来るかもしれないから。 完全に安全じゃないとは思うけれど。「昨日、盗賊に襲われそうになったって聞いたけれど、大丈夫だったの?」 常連になっている主婦がそう訊いてきた。「はいっ、何とか」 私は笑みを見せながら、返事をする。 昨日のこと、知っているんだ。「無事で良かった」 主婦は私に優しく言葉を。 でも翌日なのもあって、怖かった記憶ははっきりと残っている。 手は震えていないけれど。 だけど、短刀の光だけは、まだ脳裏に残っている。「じゃあ、干し葡萄《ぶどう》を買っていくわね」「ありがとうございます!」 そしていつものように買っていった。 嬉しい気持ちになってくる。「昨日の件、聞いたぞ」 続いてやってきたのは、旅人。 話ってすぐに聞こえてくるんですね。「まあ、ただ出会っただけですけれども」 私は苦笑いして返事をしていく。 この旅人は干し肉を買っていった。 それから露店の前では少しだけ、雰囲気が良さそうに感じた。 私に話をしたり、マッサージや商品を買っていったり。 お昼になると、干し肉や香草袋などが売れていく。 マッサージをしていくお客さんも並んでいて、露店は賑わっていた。「肩もみ、お願いできる?」 そんな時に黄色髪の女性がやってきていた。「勿論ですよ」 私は彼女へマッサージを。「それにしても、凄い瞬発力ですね」「まあね。ずっと鍛えてきたから」
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二コラの帰還

 順調に露店は営業していった。 売上げも在庫も安定していて、順調にこの街で過ごしていた。 昼下がり、人通りが落ち着いてお客さんも少ないタイミング。 少し考える余裕が出てきた。「もう二週間かぁ」 短いけれども、ニコラさんの言われていた期間はもう来てしまった。 あとはニコラさんが戻ってくるのを待つばかり。 そうなると、お店は返さないといけないけれども。「久しぶりだな」 男性の声がした。「いらっしゃいませ」 お客さんだと思って、いつものように返事をしていた。 もう慣れちゃったな。「いや、客じゃない」「え?」 そう言われたため、私は一瞬狼狽えてしまった。 ギルドの人かなと思ったけれども、様子が違っている。 少し服が汚れている感じで、包帯を巻いている場所も。「悪いな、戻るのが遅れた」 申し訳なさそうにしながら、私を見つめていた。 その声は軽く言っているようで、どこか掠《かす》れていた。 長く歩いてきた人の声だった。「ニコラさん?」 もう一度見てみると、二週間前に会った男性の姿だった。 確かに雰囲気が少しだけ違っているかもしれないけれども、完璧にそうだった。「店、守ってくれてありがとうな」「生きていて良かった……」 安堵感《あんどかん》が私の胸に広がっていく。 ついにやりとげたような感じが。 店を守れた、というより。 約束を守れた気がした。「運が良かっただけだ。色々とあったがな」「盗賊に……?」 ニコラさんの持ち物は袋を持っているだけで、それ以外には無さそうだった。「ああ。しつこかった」 疲れたような表情を見せていた。 それでも露店を見ながら感心しているようだった。 商品の並び、袋詰め、看板。
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二コラからの選択肢

 夕方になり、店仕舞いをしていった。 私は戻ってきたアプリルとロータスと共に売上げを確認していく。「思ったより回っているな」 帳簿と売上げ、在庫を見ながら、ニコラさんは感心していた。 思った以上だったのかな。「はい、何とか」 少しだけ微笑みながら返事をしていく。「何とかじゃねえよ。ちゃんとやってる奴の数字だ」 ニコラさんも笑みを見せながら、私が行ったことを褒めてくれた。 私は嬉しくなる。「で、どうする?」 しばらく見ていたニコラさんがそう問いかけた。「え?」 突然のことだったから、きょとんとしてしまった。 それを見たのか、ニコラさんは言葉を続けてきた。「このまま返すのか、それともーー続けるか」 二択を提示してくれた。 どちらも間違っていないともいえるような。「……続けても、いいんですか?」 聞き返して確認する。 このまま、私がお店をやってもいいんだ。「俺は構わねえ」 そうニコラさんは言ってくれた。「……うん」 私がサフィー・プラハになって初めて守れた場所。 自分の居場所になりつつある。 ここだったら、”普通に生きられる”。 元の世界に戻らないならば、この場所も良いかもしれない。「ここ、好きかも」 私は誰に言うわけでもなく、小さく呟いた。 それをアプリルは聞いたのか、一度だけ頷いた。「サフィー」 彼女は優しく語りかけるように話しかけた。「アプリル……」「残りたいのなら、残ればいいですわ」 笑みを見せながら私に話していく。「アプリルもそう思うんだ」「でも、それは”ここで終わる”ということでもあ
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露店の決断

 私はニコラさんに頼んで、次の日も露店を営業させてもらった。 ニコラさんは少し身体を癒《いや》す必要があるから。 商品を準備して、看板を露店の前へ。 これでお店の準備は完了。「……今日も、やるんだよね」 軽く息を吸いながら、お店を開いていった。「やれるんだよね、ここで」 もしも、選択すればずっとお店を続けられる。 でも、それが正しいのかな。「おはよう、今日もやっているのね」 常連のお客さんがやってきた。 にっこりとしながら、私を見つめている。「はい!」 私はそれを見たら、嬉しくなってくる。 元気よく返事をしていた。「最近ここ、安心するのよ」 干し肉などを買っていって、帰っていった。「ありがとうございます」 はっきりとした居場所。 確かに、居たくなってくる。「肩、お願いできる?」 しばらくしたら、マッサージのお客さんがやってきた。「もちろんです」 私は笑顔を見せながら、マッサージを行っていく。 結構硬いけれども、ほぐしていく。 敦賀佐奈の時よりも上手くなっていると思う。「ありがとう、気持ちよかったよ」 お客さんの女性は微笑みを見せながら、香草袋もおまけで買っていった。 嬉しくなってくる。 露店で商品とマッサージをしている女の子が定着しようとしていた。「本当、ここで生きているかも」 ここで骨を埋めても、悪くないよね。 乙女ゲームのヒロインだったとしても、破滅しちゃったのだから。 残されたささやかな幸せのままに、生きていくのも悪くない。 誰かを断罪するためじゃなく、誰かに必要とされながら、生きている。 それからお客さんが増えていって忙しくなっていく。 でも、そんな気持ちを考えさせられるタイミングが。「このお店、いつからや
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露店の最終日

 数日後。 私は、最後の露店を開くことに。 お店を返す決断をしたものの、ニコラさんの怪我が治るまで、私はここにいた。 だから今日が正真正銘の最終日。 もう慣れてしまった店の準備。 商品を並べていって、看板を出していく。 ああ、これでしなくなるんだ。 手に覚えてしまった動きだからこそ、終わる実感があった。「よし、今日も頑張ろう」 軽く頷きながら、お店を始めていった。「おはよう、今日も元気そうね」 少ししたら、常連の主婦がやってきた。 いつもの声で私に話しかけてくれる。「はい!」 笑顔で返事を。「ここの干し葡萄《ぶどう》、癖になっちゃったわ」「ありがとうございます!」 そう言ってくれて嬉しかった。 干し葡萄を買っていって、お店を離れていった。 ほんのちょっとだけ、寂しさがあったけれども。「肩、お願いしてもいい?」 今度はマッサージのお客さん。「もちろんです」 笑みを見せながらお客さんの肩を揉んでいく。 硬くなった肩を、少しずつほぐしていく。 力加減に気をつけながら。「あなた、前よりも上手くなったわね」「えへへ、ありがとうございます」 マッサージを終えたタイミング、お客さんからそう言われた。 私ははにかみながら答えた。 お客さんは嬉しそうな表情をしながら帰っていく。「板についてきたなぁ」 お客さんが落ち着いたタイミングで、隣の露店主がそう私に話しかけてきた。「えへへ……」 またはにかんじゃう。「最初は潰れると思っていたんだが」「ひどい!」 彼の冗談に頬を膨らませながらそう答えるけれども、内心では笑っていた。 ニコラさんはお店を返すまで手伝っていない。 近くのカフェで紅茶を飲んで見ているよう
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次の行き先

 宿へ戻って、荷物を片付けていく。「終わったね」 大きく息を吐いて、肩の力を抜いていった。「ええ。最後まで、ちゃんと」 アプリルが優しく微笑んでいた。「で、これからどうする」 下の食堂へ行って、椅子に座りながらニコラさんが私達に問いかけた。 テーブルにはスープやパンなどが置かれている。「お店は完全にお返しします」「分かった」 ニコラさんは頷いた。 これで、もう戻れない。 少し寂しいのに、不思議と後悔はなかった。 そして彼は地図を取り出した。「この街は、ここだな」 廃都の砂漠に近い場所を指さす。「で、この国の首都はここから北にある」 道を辿《たど》るように、とある場所に指を置く。 二重丸がある場所。「首都ならここよりも仕事はある」 そう落ち着きながら説明していった。「人も多いし、流れも速い」 私はそれに耳を傾けていく。「露店、給仕、倉庫、何でもな」 思ったより、色々ありそう。 良さそうに思えてくる。「首都……」 その響き、この世界でも変わらない。「大きい場所、だよね」 東京やソウルみたいな場所なのかな。 いや、世界が違うから雰囲気も同じじゃないけれど。 不安もあるけれども、期待も浮かんでいた。 今度こそ、普通に生きられるかもしれない。「ですが、この街に留まるよりは安全ですわ」 アプリルはそう呟いた。 私を見つめながら。「安全?」 ここでも安全はあるかもしれないけれど。「探られている以上、固定される方が危険ですから」 あの人物。 それ以外にもいるかもしれないけれど。 もし、この街にあの聖女様がやってきたら、それこそ大変。「ま
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この街の教会

 荷物を整えて二週間以上過ごしていた宿を後にする。 ここから首都へ向かうことになる。 ニコラさんに頼んで旅路《たびじ》に必要な食べ物は、分けて貰った。 私のお金で買ったものもあるから。「サフィー、教会に行って良いかしら?」「は、はい」 アプリルがそう頼んできた。 確かに行ってみるのも悪くないかも。 聖女様の加護はないとしても、神頼みくらいはしても良いよね。「アプリルさん、本日出られるのですね」「ええ。お世話になりましたわ」 アプリルはカーテシーをしながら、教会のシスターに挨拶をしていた。「お祈りをしても?」 私はシスターに問いかける。「勿論」 この世界の教会における作法で、女神像に祈りを捧げる。 ふと目に入ったのは、聖女らしき肖像画が見えていた。 綺麗に描かれていて、描かれてから日数は経っていないみたい。 光が差していて、女神像よりも心なしか豪華だった。 まるで、祈りの中心が入れ替わっているみたいだった。「お美しいですね」 私はふと呟いていた。「はい、女神様は私達に見えませんが聖女様は度々現れます」「そうなんですね」 確かに、あの聖女様もいるのだから。 だからこそ、私は少し怖くなった。「我が国にもいらっしゃいますが、隣国の王国では有名な聖女様がいらっしゃるとか」「……グルナ・フスト様でしょうか」 私は絞り出すようにしながら問いかけた。 すると、シスターは驚いていた表情をしている。「よくご存じですね!」 知っているんだ。 となれば、このまま居続けても良くなかったかもしれない。「グルナ様は様々な奇跡を起こせるとか」「奇跡……」 確かにあった気がする。 不安になっていた人を安心させていたから。
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グルナに届いた報告

【グルナ視点】 わたしは学院にある聖堂の高窓から、光を見上げていた。 優しい光がわたしを包んでくれて、気持ちが落ち着く。 大丈夫、あの二人の動向は分かっていない。 おそらく、廃都かどこかで果てている。 何も報告が来ないのが証拠かもしれない。 動向があれば、来るのだから。 特に廃都で果てているなら、報告する人間なんているわけ無い。『心配しているのですよ、グルナ』 優しい声が頭に響く。「大丈夫」『余裕みたいですが、そうなのかしら』 すると、聖女様の声が聞こえてくる。 わたしだけに聞こえる、導きの声。「えっ?」 まるでわたしの考えが間違っているかのように。『廃都は抜けようと思えば抜けられる。一人だけでは不可能ですが、アプリルの存在があれば……』「そんなこと」 少し俯きながら、聖女様の言葉を聞いていた。『どうでしょうね』 わたしを厳しい言葉で言い放った。 それから、少しして学院の侍女がわたしのところへ。「グルナ様、隣国の廃都に近い街において、マッサージで有名な露店があるようです」 マッサージで有名? どういうことなんだろう。「あの、どうしてその話題を?」「何日か前から金髪の少女が店主不在の間、行っているらしく、人気らしいです」 その言葉を聞いて、身体が震えた。 もしかして、サフィー・プラハなの? 彼女はマッサージが上手だった。 容姿が一致している。『だから言ったではありませんか。あなたが緩めたから、闇が息を吹き返そうとしているのです』 聖女様はわたしを糾弾した。 まるで犯罪者を逃がしたかのように。「でも、そこで終わる可能性だって」 小さな街で生きているだけ。 それならば、影響は大きくないはず。『いいえ。放置すれば、
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