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330 Capítulos

ビールの泡と笑顔

行きつけの居酒屋のカウンターに、焼き鳥の煙と提灯の光が揺れていた。俺はビールの泡が弾けるグラスを手に、隣にいる悠斗をチラ見する。 1週間前のカフェでのLINE交換以来、軽いやりとりを続けた。そこから約束をうまいこと取りつけ、落ち着いて対面するのは5年ぶり。学生時代の親友感を思い出す。「悠斗、期末テストで徹夜した夜、覚えてる?」 互いの仕事が終わって、ここに集合。乾杯を終えた最初の話題に、悠斗は得意げな笑みを唇に浮かべた。あの頃、テストの成績の出来で駄菓子屋のスナックを賭けたり、どっちが長男かケンカしたっけ。「覚えてるさ。先に寝落ちしたのは君だろ」 悠斗はツンと返すが、グラスを持つ手が微かに震える。メガネのレンズが提灯の光に反射するせいで瞳が見えず、なにを考えているのかわからない。「えーっ、そーだっけ?」 俺はわざと笑い、悠斗の頬が赤く染まったことに目を留める。「悠斗、酒弱いだろ? もう顔赤いぞ」 「うるさい」 わざと顔を寄せて指摘したら、悠斗は眉間にシワを寄せて口角を引きつらせた。そんなちょっとした挙動がいちいちかわいくて、ニヤつきそうになるのをごまかすべくビールを煽る。「なぁ覚えてる? 駄菓子屋で『兄弟ケンカ』して、店のおばちゃんに笑われたの」 俺の言葉に、悠斗の瞳が一瞬柔らかくなった。きっと、当時のことを思い出したに違いない。「懐かしいな、そんなこともあったっけ」 悠斗がポツリと呟き、メガネの奥の瞳を細めて、嬉しげにほほ笑む。その笑顔に反応するようにビールの泡がグラスに弾け、俺の胸がドキッと跳ねた。「あの頃、毎日楽しかったよな」 軽く言ってみたものの、拒絶と捉えることもできる悠斗の冷たい態度を思い出してしまい、言葉が続かなくなってしまった。彼も同じこと考えたのか、グラスを握る手が膝に置かれた。「陽翔、5年前……急に冷たくして悪かった」 悠斗の声はとても小さく、メガネの奥の瞳がゆらゆら揺れる。このまま泣くんじゃないかと慌てふためき、営業で使ってるサービススマイルを滲ませて、大げさに目を丸くしてみせた。「確かにさ、あのときはマジでビックリした」 俺はグラスを置いてさらに笑い、なんでもないのを示すように肩を竦める。「俺、いろいろあって」 「大変だったんだな。俺は大丈夫だ!」 本当は聞きたかった。高校時代のあのとき、なに
last updateÚltima actualización : 2026-08-23
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雨音と傘の気遣い

あれから悠斗は途中でソフトドリンクを頼み、俺は瓶ビールを3本飲み干した。「誰かさんのご指導で、毎日天気予報を見るようになったからな。傘だって持ってきてる!」 自慢げに言い放つと、悠斗から借りた折りたたみ傘を鞄から取り出し、先に居酒屋を出る。悠斗も手早く傘を差して外に出た。 パラパラ振る小雨は俺たちの傘に当たり、無言でいる間のBGMになる。「悠斗はこのまま帰るのか?」 「そのつもりだ」 「実は俺んチ、この近くなんだ」 LINEのやり取りから一歩進みたい――そう考えた俺は、自宅近くの馴染みの居酒屋を集合場所にした。「陽翔の家……」 いつもより低い声で呟き、俺の顔を見る悠斗の表情が真顔だったので、考えが見透かされたと咄嗟に思った。メガネの奥から鋭い視線が刺さった気がして、冷や汗をかく。「のっ飲んだ勢いで、変なこと思ってねぇよ!」(雨が降ってるのに、傘と一緒に両腕を振って弁解じみたことをする俺、すごくカッコ悪い!)「バカか……」 「あっ、はい。バカみたいだな」 5年振りに大好きだった悠斗と再会して、偶然仕事中にも逢えただけじゃなく、連絡先も交換できた。そこからこうして酒を飲むことが叶い、浮かれないヤツがいるだろうか。「陽翔の家、どこなんだ?」 「へっ?」 自宅を訊ねられるとは思いもよらず、傘を下ろしたまま呆けてしまった。そんな俺に悠斗は自分の傘を差し出し、俺が濡れないように施す。近寄ったことを意識したら、悠斗は息を飲んですぐに目を逸らした。「なにやってるんだ。酒を飲んで体を冷やしてるのに、雨に当たったら風邪を引く」 「悪い、悠斗に家を聞かれるとは思わなくて」 震える手で傘を持ち上げたら、悠斗は大きく一歩引き下がって俺と距離をとる。「外観を見たら帰る。それだけ」 俯いて返事をした悠斗の表情はわからない。だけどいつもより早口な返事は、なにかに動揺している証拠なワケで。「わかった。ここの路地を真っ直ぐ歩いてだな」 学生時代のやり取りを思い起こさせるそれがすごく楽しくて、ムダにはしゃいでしまう。「陽翔、傘をくるくる振り回すな。しずくが飛んでくる。冷たい!」 隣じゃなく、ほんの少しだけ後ろを歩く悠斗は、ギャンギャン喚き散らすが、今の俺にはそれすら嬉しいことだった。「突き当たりを右に曲がって、二本目を左に曲がると俺の住むアパート
last updateÚltima actualización : 2026-08-24
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ソファの距離と髪の温もり

 俺の住んでるアパートは、最寄り駅から徒歩5分くらいの位置にある。ここまですんなり来た悠斗は、玄関で靴を几帳面に揃えた。「礼儀正しいことで」 「うるさい。お邪魔します」 居酒屋帰りの「遊びに来いよ」から数日、LINEでSFアクション映画をしつこく提案した。俺のしつこさに根負けしたのか、渋々来たのが悠斗の表情に現れていた。「まとまりのない部屋だな」 悠斗は苛立ったようにメガネのフレームを押し上げ、趣味で集めてるスニーカーと音楽CDが散らかる部屋を一瞥する。「バス停で永久貸与された悠斗の傘のおかげで、営業先で濡れずに済んでる。サンキューな」 「はっ、今頃礼かよ」 笑ってソファに腰かけたら、悠斗が少し離れて座る。ソファの軋む音が室内に妙に響いた。 ほどなくして映画が始まる。爆音のSFアクション、ブレードランナーっぽい世界。こういう世界観が好みなのを知っていたゆえに、この作品をチョイスした。「怖えシーン来るけど大丈夫か?」 からかいながら肩をぶつけた。ほんのちょっとの接触だったが肩が触れた瞬間、悠斗はビクッと体を震わせる。「子どもみたいなことをするな」 怒った口調で言われたものの、頬と耳が赤く染まっていて、照れているのが明らかだった。 その後、互いに映画に集中。微妙な距離感を保ったまま映画のクライマックス、感動シーンで俺は思わず呟く。「悠斗、昔もこうやって映画見たよな。部活のない、テスト期間前にこっそりと」 あの頃はまだ、俺たちは仲良く並んでいた。今のような距離感がなく、素直に笑い合えたんだ。「覚えてる」 悠斗の声はとても小さく、画面に見入るメガネの奥の瞳が僅かに揺れた。それだけでソファの距離が、急に近く感じる。「悠斗、俺さ――」 告白が喉まで出かかるが、映画の派手なエンディングがかかる中では気まずさが先行して、言葉が宙を舞った。俺に声をかけられた悠斗はこっちを見、訝しげに首を傾げる。 悠斗が着ている、ストライプ柄の入ったお洒落なシャツは、きちんとアイロンがかけられているのがわかるくらいにピシッとしているし、パンツだってシワがひとつもない。目につくのは――。「髪、なんか乱れてんな」 言いかけた告白をごまかそうと、腕を伸ばして悠斗の襟足の髪を撫でたら、目の前の顔全部がぶわっと赤くなった。「バカ、やめろ!」 俺の手首を慌てて掴
last updateÚltima actualización : 2026-08-25
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夕暮れとあたたかい手

 店内に流れる、穏やかな曲調のクラシックは大変居心地が良く、棚の間から本屋独特の匂いが辺りに漂っていた。俺は適当に抜き出した文庫本をパラパラ捲りながら、傍にいる親友をチラ見する。「悠斗、まだラノベにハマってんの?」 どんな本を読んでいるのか気になり、悠斗が手に持つ本の背表紙を覗く。狭い通路で肩が触れ、悠斗がビクッと体を震わせて横移動した。「ふん、悪くないだろ」 悠斗はいつも通りツンと返すが、メガネの奥の瞳が動揺した感じで揺れる。指先で本の角を撫でる仕草が、妙に心をくすぐった。「5年経っても変わらないんだな」 ニヤニヤしながらわざと近づき、悠斗の耳が赤くなるのを見つめた。「今読んでる本、俺が買ってやろうか? 傘をくれたお礼に」 「自分で買うからいい」 不機嫌そうにそっぽを向くが、目の下と耳を赤く染めたまま、脇に挟んでいた本を棚に戻し、俺の横をすり抜ける瞬間、悠斗の袖が軽く擦れた。まるで、かまってくれと言わんばかりに。 それに気を良くした俺は、悠斗を駅前の公園に誘った。ベンチに並んで座ると、夕暮れの光が木々の間を柔らかく染める。悠斗が本の袋を意味なく握り、ポツリと呟く。「あの頃、急に冷たくして、陽翔に悪いことした」 「居酒屋で謝ったのに、もういいって」 蒸し返された暗い話題を無にしようと、俺は屈託なく笑ったのに、悠斗のかけたメガネの奥が曇る。「親の離婚で余裕がなかった。どうすればいいか、わからなくて」 「そうか。大変だったんだな」 悠斗の声は小さく、ベンチの冷たい感触が背中に刺さる。5年前の冷たい態度が、急に重みを帯びた気がした。「悠斗」 俺は語気を強めて、袋を握る華奢な手に自分の手を重ねた。悠斗が驚いて目を見開き、体を強ばらせるが逃げない。「俺、傷ついたお前を支えたい。ダメか?」 「ほっとけ、バカ」 悠斗は視線を逸らし、赤い耳を隠すように髪をかき上げる。でも重なった悠斗の手から緊張感が抜け、くるりと向きを変えて、やんわりと俺の手を握り返してくれた。「……陽翔と見る夕焼け、嫌いじゃない」 「俺も同じ気持ちだ」 夕暮れの光が、5年間の空白を優しく包む。握った手のぬくもりが、沈む夕日よりも確かにあたたかくて、次はもう離さないと心に決めた。遠くの雲が雨の気配をそっと囁き、悠斗を待ち続けたあの日を思い起こさせる。
last updateÚltima actualización : 2026-08-26
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読めない手紙と雨のキス

次の週末、悠斗の自宅に行くことになり、最寄り駅まで迎えに来てもらったのだが。「降水確率0%を引き上げたのは、どこの誰だろうな。悠斗と逢うときは、なぜか雨が降ることが多いし」 土砂降りじゃなかったのが幸いしたが、それでも悠斗の住むアパートに着く頃には、パーカーがしっとりと濡れてしまった。「文句を言う前に、これで濡れたところを拭け。風邪を引く」 自分だって濡れてるクセに、悠斗は玄関先で俺にタオルを差し出した。それを受け取り、被っていたフードを外して、肩口から拭っていく。「サンキュー。悠斗も風邪引かないようにしろよ」 「わかってる。ほら」 そう言って、真新しいTシャツを俺の手に押しつける。「あ、パーカー乾かせてもらっていいか。中に着てるTシャツは大丈夫」 「そうか。だったら濡れたものを早く寄こせ」 「その前に自分を拭けって。メガネだって濡れたままで視界最悪だろ」 渡されたTシャツを戻し、持っていたタオルで悠斗の頭をガシガシ拭ってやった。「ちょっ、待てって」 「アハハ、思い出した。駄菓子屋に行くまでに雨でびちゃびちゃに濡れちゃって、タオルを借りたときも悠斗ってばおばちゃんに『細っこいのに濡れて』って言われて、同じようにされていたな」 悠斗と過ごした、ちょっとしたこと。誰かに大事にされた思い出――それはけして色褪せずに、未だにこうして残ってる。「陽翔、も、大丈夫だから。自分を拭けって」 「はいはい。仰せの通りに!」 俺に髪の毛をぐちゃぐちゃにされた、残念すぎる見た目の悠斗は、不機嫌な様子で部屋の奥に行ってしまった。それすらもかわいいと思いながら、濡れたところを拭って、着ていたパーカーを脱ぐ。 するとそれをひったくるように奪い、手にしたハンガーに素早くかけて、「中に入れよ」といつの間にか身なりを整えた悠斗が促した。 さっきよりも本格的に降り出した雨が窓を叩き、悠斗の住むアパートに柔らかな調べを奏でる。リビングの本棚には悠斗好みのラノベが並び、淹れたてのコーヒーの香りが漂った。「陽翔、ずっと聞きたかったことがある」 ソファに腰かけ、あたたかいコーヒーに口をつけたタイミングで訊ねられた。悠斗はソファには座らず、立ったまま俺を見降ろす。メガネの奥の瞳は揺らめくことなく、真剣そのものだった。「それを聞き出すために、俺をわざわざここに呼んだ
last updateÚltima actualización : 2026-08-27
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読めない手紙と雨のキス2

「陽翔に冷たくしたことで君を傷つけ、そんな俺に愛想を尽かして嫌いになるのを願っていたハズなのに、実際に距離をとられたのが、思ってた以上にショックだった」 「この手紙に書いたことは、それなのか?」 雨水に濡れた、シワシワの手紙を伸ばすべく両手で引っ張り、悠斗の口から聞いた内容を黒い表面から探す。消しゴムが紙を薄く削り、悠斗の迷いを表していた。「ほかにもいろいろ、伝えたいことがたくさんあったのに、文字にしたら恥ずかしくなってしまった」 「5年前のことはもういい。終わったことだからさ」 見えにくい黒い表面から文字を探すのが嫌になり、違うところからアプローチを試みる。「陽翔?」 「大事なのはこれからだと思う。悠斗、おまえの気持ちを聞かせてくれ」 「だから書いてあるって」 「真っ黒で読めない」 「よく見ろよ!」 悠斗は怒って言うなり俺から手紙を奪い、その部分に指を差した。「ほら、ここ!」 「あ゛? こんな隅っこで、ものすごく小さい文字を読めとか、嫌がらせにも程があるだろ」 それは手紙の左隅下で、表面がかろうじて白い部分。見慣れた汚い文字で『陽翔の事がずっと好きだった』と書いてある。「悠斗が書いた『好きだった』って過去形なんだけど、今はどうなんだよ?」 「陽翔だって同じことを言っただろ!」 「悠斗の答え方次第で、それが現在進行形になるとしたら?」 したり笑いを頬に滲ませると、悠斗はメガネの奥の瞳をカッと見開き、持っていた手紙を握り潰した。「アハハ! 時間はたっぷりある。プレゼンがんばれ!」 5年前に待ちぼうけを食らった恨みとも表現できる俺の横暴に、悠斗は怒りにまかせて口を開いた。「バス停で陽翔と逢ったとき!」 「傘を持たずに濡れネズミでいた俺に、悠斗は声をかけて、傘をくれたっけ」 「重なったんだ、桜の木の下で雨に濡れてる陽翔と」 「それで?」 胸の前に腕を組み、考える暇を与えないスピードで訊ねた。「あのときと同じく、スルーすればそれまでだって咄嗟に思ったのに、気づいたら声をかけてた」 「なんで声をかけたんだよ?」 「かっ、かかかか……かっ!」 途端にブワッと顔を赤らめ、壊れた機械みたいに同じ言葉を繰り返す。「口下手どんまい」 呆れ果てながら悠斗が握り潰してる手紙を奪い返し、テーブルに押しつけてシワを伸ばし始めたその
last updateÚltima actualización : 2026-08-28
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エピローグ 晴れた日の約束

晴れて悠斗と恋人になってからの日々は、まるで夢の続きみたいに甘くて、とても優しい。5年前、卒業式の日に沈んでいた俺に「安心していいんだよ」と教えてやりたくなるくらい、今の俺は幸せだった。けれど――。「ねぇ陽翔」 ベッドに仰向けで寝ている俺の足に自分の足を絡ませ、ピッタリと体をくっつける悠斗が耳元で囁いた。その声は少しくぐもっていて、甘えるようなトーンが混ざっている。(冬ならいい。でも夏場の今は体温がやたら高い悠斗に抱きつかれたままだと、さすがに暑いな) エアコンの温度を下げようか考えていると。「陽翔ってば!」 いきなり耳たぶを抓られて、思わず顔をしかめた。「なんだよ、うるさいな」 「今日泊まってく」 「わかった。おやすみ」 そう言って目を閉じた。悠斗の勤務先が少し遠いせいで、ウチから通うといつもより早起きになるのが少しだけキツい。だから今日も早く寝たい……のに。(今日で連続3日目のお泊まりになるが、疲れてないのかなコイツ) 付き合ってからというもの、互いの自宅を行き来するようになった。特に、俺のアパートに泊まることが多いのだが。「陽翔、聞いてる?」 「んー、ちゃんと聞いてる」 まぶたの奥で、悠斗の声だけが心地よく響いている。「実はさ、有給取っちゃった」 「マジか。俺だけ仕事なの、なんか損した気分……」 文句を言った俺の首に、悠斗は両腕を巻きつける。皮膚に感じる滑らかな布地――色違いのお揃いのパジャマは悠斗が選んだもので、とても着心地が良かった。「俺、してみたかったことがあるんだ」 気だるさに身をまかせて眠りたいが、悠斗の弾んだ口調で渋々目を開ける。「してみたいこと?」 「仕事に行く陽翔に玄関で『行ってらっしゃい』って言って、キスすること」 「お、おう……」 どこで覚えたのか、そんなかわいいことを言い出すなんて信じられない。以前よりもずっと、悠斗はストレートな甘さを見せてくるようになった。ツンとした態度は影を潜め、こんなふうに爆弾みたいな愛情を惜しげもなくぶつけてくる。(口下手なコイツが豪速球で直球を投げつけると、どう対処していいかわかんねぇな)「陽翔、イヤなのか?」 「イヤじゃない、全然」 むしろ、嬉しすぎて困ってる。「ホント? なんかここのところ、俺ばっかり陽翔にしたいことをやって、無理させてない?」
last updateÚltima actualización : 2026-08-29
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君を待つ雨の音番外編 晴れ渡る心の裏側

(く~っ、陽翔の唇ってば、ムダに柔らかすぎるだろ!) 玄関のドアに背中を預け、ドキドキする胸を押さえながらその場に立ち尽くす。さっき俺から、陽翔の頬にいってらっしゃいのキスした。本当は唇にしたかったけど、朝から刺激的なのはどうかと思って気を遣い、一応自重したんだ。 そしたら陽翔ってば「そんなんじゃ足りない」って言って、俺をぎゅっと抱きすくめて、濃厚なキスをぶちかました。あまりに刺激的すぎて、感触が頭から離れない。 ふらついた足取りでリビングに移動。朝陽が窓越しに差し込み、陽翔のアパートの床を淡く染める。 さっきの陽翔の「じゃ、行ってくるな」という声とニヤリとした笑顔が、俺の心をぐちゃぐちゃにかき乱す。 「いって……らっしゃい」と呟いた俺の声、情けないくらいに震えてた。陽翔は気づかなかったみたいだけど、朝っぱらから濃厚なキスをされたせいで、俺の頭ん中が大爆発した。 陽翔の唇、なんでこんな柔らかいんだろ。熱がまだ残ってるみたいで、指で唇に触ったら燃えそうなくらいに火照ってる。この幸せ、俺なんかがもらっていいのかな。陽翔、いつか飽きがくるかもしれない? スーツ姿の陽翔が曲がったネクタイを直す仕草、玄関を出る前のその一瞬が、頭に焼き付いてる。それだけじゃなく、昨日ベッドで抱きついたときの香水と陽翔の体臭が混ざった匂い。毎日嗅ぎたいなんて思う俺、頭がおかしいかな。 陽翔がドアを閉める前に振り返った笑顔、晴れそのものだった。俺の心が陽翔のその顔で、毎日真夏みたいに熱くなる。 こんなに幸せだけど、実際は怖い。5年前、卒業式の桜の木の下で俺は陽翔を待たせた。冷たく突き放したバカな俺。読めない手紙をしまい込んでいた俺の弱さが、今も胸をチクチク刺す。 親の離婚で誰も信じられなかったあの頃、陽翔だけは違ったのに。陽翔に嫌われたら俺、間違いなく終わりだ。さっきのキスも、一緒に過ごした夜も、いってらっしゃいと見送ることができた朝全部が、夢だったらどうしよう。 「悠斗、近いな」 さっきのキス直後に響いた一言が、頭でリピートされる。陽翔のSっ気たっぷりのニヤリは反則だ。俺、顔真っ赤で「うるさい」って返すのが精一杯だったけど、頭ん中じゃ「近いって、もっと近くてもいいよな? ずっとくっついてたい」って叫んでた。 陽翔の目、キレイすぎて直視できない。あの目に
last updateÚltima actualización : 2026-08-30
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晴れ渡る心の裏側2

行きつけのカフェに到着したら、陽翔は仕事相手と親密そうに話し合いをしてる最中だった。 その様子を見渡せそうな窓際のソファに腰かけ、ぼんやりと彼を見つめたら陽翔が俺に気づき、ウインクなんてことをしやがった。(気づいてくれたのは、すごく嬉しいけどさ――) 途端に顔が熱くなる。慌てて俯くだけで、なんのリアクションも返せない俺。本当は両腕を大きく振って、来たことをアピールしたいくらいなのに、恥ずかしさが先行してなにもできない俺を、陽翔は嫌いにならないかな。「いらっしゃいませ。いつものコーヒーでよろしいでしょうか?」 いつの間にか傍らにマスターが立っていて、テーブルにお冷を置き、俺の顔色を窺った。30代前半と思しき顔立ちの整ったマスターが返事を促すようにほほ笑みを唇に湛えたが、俺はそこまで愛想はよろしくない。「いつもので」 真顔で淡々と答えたというのに、俺の返事と自分の考えが合致したからか、瞳を細めながら嬉しそうに俺に笑いかけて、深くお辞儀をする。「かしこまりました」 3年も通っていると、ムダな会話をせずに済むのがいい。マスターが丁寧に落としたコーヒーは絶品で、仕事に余裕があれば、毎日通いたいくらいに大好きだった。 恭しくお辞儀をして去って行ったマスターの気配が消えてから、駅前の本屋で購入したラノベを鞄から取り出し、栞を挟んでいるページを開く。本を読んでるフリをしつつ、陽翔の仕事ぶりをチェックした。 さっきのマスターと引けを取らない、もてなし顔――営業マンらしい笑顔を振りまき、客に媚びている様子を目の当たりにして、内心ケッと毒づく。仕事だから笑顔で接するのは、いた仕方ない。 でもあの笑顔を独り占めしたいって思うのは、俺のワガママなのかな。笑顔も苦しそうな顔も、色っぽい顔も全部、俺だけのものにしたいのに――。「気持ちよすぎて、変になりそ……悠斗はどうなんだよ」 昨夜ベッドに膝をつき、腰を高く上げて枕に顔を埋め、感じてる顔を見せないようにしてる俺に、陽翔はわざわざ訊ねた。普段耳にしない掠れ気味の声で、陽翔が感じているのがわかる。「そんなっ…ことをっ、聞くな!」 俺の感じるトコロがわかるのだろう。陽翔の大きいのが、なぞるように何度もそこを擦りつけるせいで、頭がおかしくなりそうだった。「悠斗とこんなに相性がいいとは思わなかった。学生時代にわかって
last updateÚltima actualización : 2026-08-31
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晴れ渡る心の裏側3

「陽翔、ランチタイムの時間だぞ。なに食べるんだ?」 話題を変えたかった俺はメニュー表を目の前に突きつけ、早く選ぶように急かした。陽翔はそれを見ながら、気だるげに口を開く。「悠斗はここの常連なんだろ? オススメはなんだ?」 「ランチタイム限定のセットメニュー」 しかも日替わりランチメニューなので、毎回なにが出てくるのか楽しみだったりする。「お待たせいたしました。コーヒーです」 タイミングよくマスターがコーヒーを持ってきてくれたので、ランチメニューを注文しようと顔を上げたら、マスターの視線は陽翔に釘付けだった。見つめられる陽翔は、怪訝な顔で視線を受け続ける。「あの……ふたりは知り合いなのか?」 俺の問いかけに陽翔は無言で首を横に振り、マスターはハッとしていつもの笑みを浮かべた。「お客様は石上様と、前回もお見えになってましたよね?」 「クライアントの石上さんがここの常連で、話をするなら美味いコーヒーを飲みながらしたいってお願いされたんです」 いつもなら誰にでも愛想よく振る舞う陽翔が、終始真顔で対応することに違和感を覚えた。「そうだったんですね」 マスターは視線を俺に移した。たぶん、俺たちの関係を気にしていると咄嗟に思い、口を開きかけた刹那、陽翔がつっけんどんな物言いをする。「俺の悠斗が足繫くここに通ってるみたいで、お世話になってます」 「ぶっ!」 俺の悠斗発言にぎょっとし、目を白黒させて吹き出してしまった。「ばっ、なにを言ってるんだ陽翔!」 そんな問題発言をされると、ここに通いにくくなるじゃないか。「コイツとは、ずっこんばっこんヤってる深い仲なので、覚えておいてくださいね」 「ちょ、おまっ……なんてことを言って。マスターすみません。このバカの言ったことは忘れてください」 顔が熱い上に、冷や汗が流れているのがわかる。 恥ずかしくて慌てふためく俺と、偉そうにソファにふんぞり返ってる陽翔を見つめるマスターの表情は、ずっと穏やかにほほ笑むだけで、逆にそれが怖かった。「おふたりが大変、仲がよろしいことがわかりました」 「わかっていただけたところで、ランチタイム限定のセットメニューをふたつお願いします」 冷淡に喋る陽翔と営業スマイルを崩さないマスターの間に入る、俺の気持ちを悟ってほしい。「あのですね、AセットとBセットをひとつずつ
last updateÚltima actualización : 2026-09-01
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